携帯使用が可能な超小型心肺補助システムの臨床応用と製品化のための研究

文献情報

文献番号
200200762A
報告書区分
総括
研究課題名
携帯使用が可能な超小型心肺補助システムの臨床応用と製品化のための研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
高野 久輝(国立循環器病センター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 巽 英介(国立循環器病センター研究所)
  • 西中知博(国立循環器病センター研究所)
  • 妙中義之(国立循環器病センター研究所)
  • 酒井一成(大日本インキ化学工業株式会社)
  • 佐藤正喜(東洋紡績株式会社)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 萌芽的先端医療技術推進研究(ナノメディシン分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
33,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年我が国では心および呼吸器疾患による死亡率は増加の一途をたどっており、それぞれ死因の第2位および第4位を占め、これらの疾患に対する治療体系の確立は医療戦略上の重要な課題となっている。一刻を争う重症心不全症例に対しては静-動脈バイパスの一種であるPCPSが、また従来の呼吸管理では救命不可能な重症呼吸不全患者に対してはECMOが唯一の救命手段となる。しかしながらPCPSやECMOのハードウェアの整備は大きく立ち後れており、現行システムは抗血栓性や耐久性に乏しくサイズも過大であり、使用環境や使用期間は大きく制限されており成績も不良である。本研究の目的は、これらの問題点を解決した全く新しい次世代型の心肺補助システムを開発することである。
研究方法
1)一体型心肺補助装置モジュールの開発改良と評価:最終年度である本年度終了までに、前臨床モデルである四-2次試作装置までの製作・改良の過程を完了した。四-2次試作装置の外寸は56mm×φ135mmの円筒形で、膜面積は1.48m2、充填液量は165ml、重量は550gである。試作過程では、まず昨年度製作した四-1次試作装置の組立て工程における中空糸損傷による初期リークの改善を試み、さらに四-2次試作装置の設計試作を行った。四-2次試作装置に対して、駆出性能、ガス交換性能、圧損失、耐溶血性能について評価を行った。2)ヘパリン化抗血栓性処理法の開発・改良と評価:本研究で開発した特殊ポリオレフィン膜製人工肺および選定した高耐久性遠心ポンプを用いたPCPS/ECMOシステムを作製し、全血液接触面に昨年度新たに開発した新規のヘパリン化処理方法、T-NCVCコーティングを施した。この回路を用いて、成山羊(体重41~65kg、17頭)に対して大静脈脱血、頚動脈送血のV-AバイパスPCPS/ECMOを施行し、ヘパリンなど抗凝血薬の投与を一切行なわずに連続灌流し、抗血栓性および長期耐久性について検討した。さらに、実験終了後の人工肺を回収・分解し、血栓の付着状況およびヘパリン活性の残存量について検討した。(倫理面への配慮)以上の研究計画において、動物実験の実施にあたっては当施設実験動物福祉小委員会の規程を遵守した上で施行した。
結果と考察
1)四-2次試作装置の評価:四-1次試作装置でみられた中空糸損傷による初期リークの改善に関してはこれを完全に防止することは困難で、リーク発生個所は内筒周辺部だけではなく外筒内接部にも見られた。四-2次試作装置は6個試作したうちまったくリークの無いものが2個完成したが、他4個は内筒周辺部および外筒内接部にリークが発生した。四-2次試作の駆出性能に関しては、体外循環循環の動物実験評価で回転数3,270 rpmにおいて300mmHgの揚程に対して5L/minの流量を、回転数4000 rpmで揚程390 mmHgにおいては8.6 L/minの流量を示した。また、ガス交換性能については、血流量5L/min、ガス流量5L/minにて酸素添加量は258ml/min、炭酸ガス排出量は179ml/minを示した。血流量4L/minでの酸素移動量は221 mL/min、炭酸ガス移動量は148 mL/minであった。圧損失に関しては、装置全体で血流量1L/minで2.5mmHg、6 L/minに対して52 mmHgと極めて低い値であった。耐溶血性能に関しても、0.026g /100Lと長期連続使用が可能なレベルを示した。2)ヘパリン化抗血栓性処理法の評価:T-NCVC処理回路を用いたPCPS/ECMOの慢性動物実験において、抗凝血療法を施行することなく連続灌流した17例の実験期間は34~150日間で、全例実験期間中を
通じて極めて良好な全身状態を維持した。灌流後の人工肺の観察では流入出ポート周辺の血流鬱滞部に軽度な血栓形成を認めたが、何れの例でも中空糸束には血栓を全く認めず、極めて優れた抗血栓性が確認された。また、人工肺からの血漿漏出は認めず、ガス交換性能は良好に維持された。残存ヘパリン活性に関しては、いずれの例でも十分なヘパリン活性の残存を確認した。T-NCVCコーティングを施した人工肺は単体で製品化を完了した。この製品は、従来ならば到底救命不可能であった肺出血を合併した重症呼吸不全患者2例(ともにARDS)に対してヘパリン投与を全く施行しないECMOとして適用され(5日間および9日間の連続使用)、両者とも救命し得た。3)考察:中空糸損傷による初期リークに関しては、製作過程で中空糸がハウジングに強く押し付けられたことによるものと推測されるが、本研究における試作はすべて手作りによって行ったため安定した品質が得られなかった可能性が高い。量産化の際は、自動化技術の導入および遠心封止条件の最適化を行うことで安定した品質が得られるものと考えられる。四-2次試作の駆出性能に関しては、PCPS/ECMOシステムとして十分な駆出性能を有するものと考えられた。一方、ガス交換性能に関しても1.5m2以下の膜面積にもかかわらず2m2クラスの既製人工肺に匹敵する性能を有しており、PCPS/ECMOシステムとしては十分な能力であると思われる。圧損失に関しては、四-1次試作装置と比較して60%(流量1L/min)から20%(流量6L/min)軽減させることができた。今回試作した四-2次試作装置の圧力損失は、人工肺部分では四-1次試作装置より増加したが、装置入口からポンプ出口では大幅に軽減され、装置全体で見ると大きな低減となった。この圧力損失の低減に伴って耐溶血性能も顕著な改善を示し、溶血係数は二次試作装置の0.177g /100Lから0.026g /100Lへと著明に低下し、十分に長期連続使用が可能なレベルにまで改善した。T-NCVC処理回路を用いたPCPS/ECMOの慢性動物実験では34~150日間の安定した連続灌流に成功した。従来のPCPS/ECMOシステムが通常は数日間、長くても1週間以内の連続使用が限界であったことを考えると、本研究で得られた結果は極めて革新的なものであるといえる。開発目標装置については、装置のスペック、駆出性能、ガス交換性能、耐溶血性能、装置内流れ状態に関してほぼ目標レベルを達成することができたが、その一方で血液ポンプ部分の耐久性が今後の課題として残された。しかしながら遠心ポンプを単体で用いたPCPS/ECMOシステムにおいては上述の通り最長5ヶ月間の単一ポンプの連続駆動に成功しており、今後早急に一体型装置への組込みを進める予定である。また、開発過程の派生技術として確立した種々の要素技術は、これらを導入した先進的人工肺を順次製品化するとともに、革新的抗血栓性処理方法を確立して抗凝血療法非施行下で月単位の連続灌流可能なECMO装置の基本開発を完了し、臨床例においても実際の患者救命に用いられてその有用性を確認した。
結論
臨床的要求に応え得る次世代型心肺補助システムの開発に関して継続的に研究を遂行し、臨床応用と製品化を目指して各要素技術の洗練を図った。前臨床モデルである四-2次試作装置を開発し、良好な駆出性能、ガス交換性能、溶血性能を確認した。また、開発した新規ヘパリン化技術を適用したPCPS/ECMOシステムは最長5ヶ月間の抗凝血療法非施行下の連続使用が可能で、臨床例においても有用性を確認した。本研究の開発目標装置自体の最終的な製品化までには至らなかったが、要素技術を反映した先駆的人工肺の製品化には成功し、十分な成果をあげることができた。今後も研究を継続することにより、開発目標装置の早期実用化を目指す方針である。

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