文献情報
文献番号
200200759A
報告書区分
総括
研究課題名
糖鎖担持カルボシランデンドリマー製剤の設計技術に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
照沼 大陽(埼玉大学)
研究分担者(所属機関)
- 松岡浩司
- 幡野健(埼玉大学)
- 名取泰博
- 西川喜代孝(国立国際医療センター)
- 宮澤淳夫(理化学研究所)
- 平野弘之((株)GSプラッツ)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 萌芽的先端医療技術推進研究(ナノメディシン分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
29,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
Vero毒素産生性大腸菌が産生するベロ毒素(VT)は、毒性を発揮するAサブユニットと細胞に接着する5つのBサブユニットから構成されるAB5型の毒素であり、大きく二種類のVTsに分けられる。さらに、糖鎖結合部位は、Bサブユニット1個あたり3箇所存在するため、全体で15箇所存在することも知られている。この多価の結合部位を有するVTsは、まずBサブユニットが、宿主細胞表層に存在するグロボトリオシルセラミド(Gb3)を特異的に認識し、結合した後に、エンドサイトーシスによりAサブユニットがその細胞に侵入し、細胞の蛋白質合成を阻害する。すなわち、この感染初期段階となる毒素と宿主細胞との結合を、阻害あるいは中和することが可能となれば、感染やさらなる伝染の進行を未然に防ぐことができると考えられる。これまでに我々は、この過程を効果的に阻害する化合物群の合成を目的として、多価型のカルボシランデンドリマーの合成と、それらの活性評価に関する基礎的研究を行い、多価型化合物の有効性を確認してきた。その化合物群は、毒素に多数存在する糖鎖認識部位に積極的に結合させるために、合成世代により分子量と表層官能基数が厳密に制御できるカルボシランデンドリマーをコアとし、その表層をGb3の糖鎖部分であるグロボ3糖構造(Galα1-4Galβ1-4Glcβ1-)で被覆したユニークな糖鎖クラスターである。さらに、これらは2種類のベロ毒素双方に対して、化合物群の合成世代や形状に応じて活性に影響を与える興味深い現象を見出してきた。本研究では、さらにこの糖鎖担持カルボシランデンドリマー化合物群を展開させ、糖鎖の種類、個数、デンドリマー骨格の世代や形状等を系統的に合成し、より効果的なベロ毒素中和剤あるいはベロ毒素治療薬としての可能性を探索することとした。
研究方法
VTsのBサブユニットが認識するグロボ3糖構造の構築は、多段階の合成)ステップを必要とするため、今後、製薬としての実用化を視野に入れた場合、合成経路の簡略化が重要課題である。そこで、今年度は、グロボ3糖の非還元末端二糖に相当するガラビオース(Galα1-4Galβ1)を標的化合物として選定した。この二糖はVTsによる認識を受けることが知られており、グロボ三糖に比べてグルコース(Glc)残基が1個少ないため、合成的に簡略化できる点から見ても興味深い。具体的には、一段階のグリコシル化反応によりガラビオース骨格を効率良く構築した。更に、カルボシランデンドリマーへ導入するため、アグリコン部分の官能基化(チオアセチル基:SAc)を行った。
一方、カルボシランデンドリマー骨格は、これまで行ってきた個体レベルの試験において最も高い活性を示したDumbbell(1)6をリード化合物として、その類縁骨格群の系統的構築を行った。その中の3種類のデンドリマー骨格に対して、ガラビオース誘導体の導入反応を行い、規則的にガラビオースを導入したカルボシランデンドリマー群を合成した。最後にデンドリマー上糖鎖の保護基を除去することにより、水溶性の糖鎖担持デンドリマーの調製を行った。
活性評価は、i) ベロ細胞とVTsとの結合を阻害する活性、ii) VTsがベロ細胞に与える障害を中和する活性の2種類について検討した。
さらに、X線結晶構造解析を行うため、ベロ毒素のBサブユニットと糖鎖担持デンドリマーとの共結晶化を行った。
一方、カルボシランデンドリマー骨格は、これまで行ってきた個体レベルの試験において最も高い活性を示したDumbbell(1)6をリード化合物として、その類縁骨格群の系統的構築を行った。その中の3種類のデンドリマー骨格に対して、ガラビオース誘導体の導入反応を行い、規則的にガラビオースを導入したカルボシランデンドリマー群を合成した。最後にデンドリマー上糖鎖の保護基を除去することにより、水溶性の糖鎖担持デンドリマーの調製を行った。
活性評価は、i) ベロ細胞とVTsとの結合を阻害する活性、ii) VTsがベロ細胞に与える障害を中和する活性の2種類について検討した。
さらに、X線結晶構造解析を行うため、ベロ毒素のBサブユニットと糖鎖担持デンドリマーとの共結晶化を行った。
結果と考察
多価の糖鎖結合部位を持つVTsに対して、より効果的に接着するグロボ三糖担持カルボシランデンドリマーを探索するため、これまで個体レベルにおいて最も活性の高かったDumbbell(1)6をリード化合物とした新規なカルボシランデンドリマー骨格を設計し、系統的な合成を行った。この系統的な合成は大きく3種類のグループに分類した。グループ1はカルボシランデンドリマーの分岐数を調整し、担持糖鎖数の異なる糖鎖カルボシランデンドリマー群とした。グループ2は、カルボシランデンドリマー骨格の中央に位置する鎖長の調整、また、グループ3は、分岐ケイ素と糖鎖間の鎖長を伸長した構造のカルボシランデンドリマー群とし、それらデンドリマー骨格の系統的合成を達成した。さらに、これらのデンドリマー骨格にグロボ3糖を順次導入することにより、グロボ3糖担持カルボシランデンドリマー群を合成し、担持糖鎖数、中央部鎖長、および末端部鎖長がベロ毒素中和活性能に与える影響についての検討を開始した。
ガラビオース担持カルボシランデンドリマー群の合成は実験項に記載してあるアグリコン部の末端がチオアセチル基としたガラビオース誘導体と末端がハロゲン化アルキル型のカルボシランデンドリマーとを塩基の存在下、縮合反応を行った。反応中一部のアセチル基が脱離していることが確認されたため、再びアセチル化を行い、完全保護体として収率良く単離した。最後に、保護基のエステル基を定量的に除去し、水溶性のガラビオース担持カルボシランデンドリマーの調製を完了した。これらの化合物群は、グロボ3糖担持デンドリマー類と比較して糖鎖部分が2糖骨格であることから、合成にかかる労力は低減できた。また、ガラビオースは、酵素を用いた反応によりガラクトースより容易に、かつ大量に合成可能な糖鎖であることから、この2糖を原料としたガラビオース担持カルボシランデンドリマーの調製法にも展開ができると期待できる。
次ぎに、合成を行った3種類のガラビオース担持デンドリマー群の生理活性について、構造活性相関を検討した。用いた3種類のガラビオース担持デンドリマー群は、何れも結合阻害活性を示すことが明らかとなったが、それらの化合物間での明確な構造活性相関は認められなかった。また、IC50の値から、これらの化合物群の活性ポテンシャルは、これまで用いてきたグロボ3糖含有カルボシランデンドリマーと比較して低いと見積もられた。一方、細胞障害中和活性の検討においても、用いた3種類の化合物間において若干の活性の変化はあるものの、大きな活性の違いは認められなかった。これまで他のグループによって報告されてきているガラビオース由来の誘導体は、確かに活性が低いとされてきているが、クラスター化によりその活性が向上することを期待したが、今回合成した化合物群からは、活性の高い誘導体は見出されなかった。現在のところ、ガラビオース誘導体による高い活性を保持した化合物は発見できてはいないが、本研究において確立した容易な合成ルートを考えると、ガラビオース担持カルボシランデンドリマーは極めて魅力的である。今後、世代、形状や糖鎖の個数を変化させることによって、より高い活性を保持した化合物を見出すことを期待している。
さらに、これまでに合成した糖鎖担持カルボシランデンドリマーとVTsとの結晶構造解析を行うため、精製したVT2のBサブユニットペンタマー(VT2B)と糖鎖担持カルボシランデンドリマーとを種々の条件下において、共結晶化を試みたところ、数種類のバッファーを用いた系において結晶が観察された。しかしながら、X線を利用した詳細な結晶構造解析による分析には、結晶の大きさや形状が適切でなかったため、現在のところ至っていない。一方、共結晶の同定を行うため、質量分析法によって共結晶の分子量測定を行ったところ、特定のバッファー条件を適用した結晶のみがVT2Bとガラビオース担持カルボシランデンドリマーの両ピークを与えたことから、共結晶化が成功していることが示唆された。今後、このバッファー条件によりX線結晶構造解析に用いることが可能な共結晶を得たいと考えている。
ガラビオース担持カルボシランデンドリマー群の合成は実験項に記載してあるアグリコン部の末端がチオアセチル基としたガラビオース誘導体と末端がハロゲン化アルキル型のカルボシランデンドリマーとを塩基の存在下、縮合反応を行った。反応中一部のアセチル基が脱離していることが確認されたため、再びアセチル化を行い、完全保護体として収率良く単離した。最後に、保護基のエステル基を定量的に除去し、水溶性のガラビオース担持カルボシランデンドリマーの調製を完了した。これらの化合物群は、グロボ3糖担持デンドリマー類と比較して糖鎖部分が2糖骨格であることから、合成にかかる労力は低減できた。また、ガラビオースは、酵素を用いた反応によりガラクトースより容易に、かつ大量に合成可能な糖鎖であることから、この2糖を原料としたガラビオース担持カルボシランデンドリマーの調製法にも展開ができると期待できる。
次ぎに、合成を行った3種類のガラビオース担持デンドリマー群の生理活性について、構造活性相関を検討した。用いた3種類のガラビオース担持デンドリマー群は、何れも結合阻害活性を示すことが明らかとなったが、それらの化合物間での明確な構造活性相関は認められなかった。また、IC50の値から、これらの化合物群の活性ポテンシャルは、これまで用いてきたグロボ3糖含有カルボシランデンドリマーと比較して低いと見積もられた。一方、細胞障害中和活性の検討においても、用いた3種類の化合物間において若干の活性の変化はあるものの、大きな活性の違いは認められなかった。これまで他のグループによって報告されてきているガラビオース由来の誘導体は、確かに活性が低いとされてきているが、クラスター化によりその活性が向上することを期待したが、今回合成した化合物群からは、活性の高い誘導体は見出されなかった。現在のところ、ガラビオース誘導体による高い活性を保持した化合物は発見できてはいないが、本研究において確立した容易な合成ルートを考えると、ガラビオース担持カルボシランデンドリマーは極めて魅力的である。今後、世代、形状や糖鎖の個数を変化させることによって、より高い活性を保持した化合物を見出すことを期待している。
さらに、これまでに合成した糖鎖担持カルボシランデンドリマーとVTsとの結晶構造解析を行うため、精製したVT2のBサブユニットペンタマー(VT2B)と糖鎖担持カルボシランデンドリマーとを種々の条件下において、共結晶化を試みたところ、数種類のバッファーを用いた系において結晶が観察された。しかしながら、X線を利用した詳細な結晶構造解析による分析には、結晶の大きさや形状が適切でなかったため、現在のところ至っていない。一方、共結晶の同定を行うため、質量分析法によって共結晶の分子量測定を行ったところ、特定のバッファー条件を適用した結晶のみがVT2Bとガラビオース担持カルボシランデンドリマーの両ピークを与えたことから、共結晶化が成功していることが示唆された。今後、このバッファー条件によりX線結晶構造解析に用いることが可能な共結晶を得たいと考えている。
結論
ガラビオース誘導体の合成とカルボシランデンドリマー骨格群の合成を行い、系統的なデンドリマー群の構築基盤が完成した。一部のカルボシランデンドリマーを用いて、ガラビオース担持デンドリマー群の合成を行った。得られたガラビオース担持デンドリマー群は、何れも生物学的な活性を示すことが明らかとなったが、用いた化合物間での明確な構造活性相関は認められなかった。また、IC50の値から、これらの化合物群の活性ポテンシャルは、これまで用いてきたグロボ3糖含有カルボシランデンドリマーと比較して低いと見積もられた。しかしながら、本研究において確立した合成ルートを考えると、合成上のメリットは捨て難く、ガラビオース誘導体による高い活性を保持した化合物は、極めて魅力的であると考える。今後、世代、形状や糖鎖の個数を変化させることによって、より高い活性を保持した化合物を見出すことを期待している。さらに、VT2と特定のガラビオース担持デンドリマーとの共結晶化に成功した。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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