ナノテク集積型埋め込み式心室補助装置(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200758A
報告書区分
総括
研究課題名
ナノテク集積型埋め込み式心室補助装置(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
山家 智之(東北大学)
研究分担者(所属機関)
  • 仁田新一(東北大学)
  • 江刺正喜(東北大学)
  • 芳賀洋一(東北大学)
  • 吉澤誠(東北大学)
  • 田中明(東北大学)
  • 岡本英治(北海道東海大学)
  • 圓山重直(東北大学)
  • 松木英敏(東北大学)
  • 福田寛(東北大学)
  • 田林晄一(東北大学)
  • 西條芳文(東北大学)
  • 南家俊介(東北大学)
  • 大坂元久(日本医科大学)
  • 久保豊(東京女子医科大学)
  • 早瀬敏幸(東北大学)
  • 飯島俊彦(秋田大学)
  • 梅津光生(早稲田大学)
  • 山田誠(東北電子産業)
  • 山内清(NECトーキン)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 萌芽的先端医療技術推進研究(ナノメディシン分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
42,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
不可避的に到来する高齢化社会においては心不全などのハンディキャップを持つ高齢者の社会復帰も強く望まれることになる。特に重症心不全では人工心臓か心臓移植しか救命の方法論はありえないが、移植臓器の不足は深刻で人工心臓への期待は大きくなりつつある。しかしながら、現在欧米で開発されているシステムは日本人に埋め込むには大きすぎることは定説になっている。原点に返って考察してみれば、循環を補助するのに心臓を丸ごと摘出したりポンプを埋め込む必要は必ずしもない。救急における心臓マッサージの原理を考察すれば、心臓は外から圧縮することにより比較的容易に拍出を維持できうることは広く知られた事実である。開胸心マッサージにおいては、心臓を手で握ることにより、十分な血圧と血液循環が得られている。本研究の目的は、心臓を押すことにより心拍出を維持する全く新しい心室補助装置の開発である。東北大で開発中のナノセンサを駆使して心筋の機能と血行動態を探知し、マイクロ制御チップで補助循環の必要性を計算するインテリジェント制御機構を持つ超小型の埋込型心室補助装置を開発し、心不全に苦しむ患者に、簡単にアプリケーションが可能な超小型デバイスをナノテクを応用して開発する。
開発される心室補助装置は、人工心臓のように常に拍動していなければ血栓形成の危険のあるポンプシステムではなく、必要なときに必要なだけアシストするデバイスであるので耐久性も大きく期待される。ここで開発される制御メカニズムは人工心臓だけでなく様々な人工臓器へ応用が可能であり、また内外で開発中の人工心臓にも新しいアプリケーションとして応用できる汎用性の高いものである。
研究方法
開発される制御メカニズムは人工心臓だけでなく様々な人工臓器へ応用が可能であり、また内外で開発中の人工心臓にも新しいアプリケーションとして応用できる。
本研究で開発する心室補助装置は超小型アクチュエータで心筋の拍動を補助するシステムであり、心臓の外面に縫着されるので従来の人工心臓のように血栓の危険もなく、人工弁の耐久性の問題もない。必要がない時は自己心の収縮に任せるので耐久性の向上も期待されメカニズムがシンプルなので小型軽量化も可能である。アクチュエータとしては、比較的軽症の患者のためには現在、特許申請中の形状記憶合金・形状記憶樹脂を用いたマイクロマシン化が可能なペルチェ運動素子と(特願平11292727)、より重症の左心不全患者のためにはモータ駆動型も開発の視野に入れる。心室補助装置自体のナノマシン化も最終的には目標とする。
結果と考察
心不全で補助しなければならない部位はどこかを考えれば、それは心臓の収縮自体であろう。心臓マッサージの原理を考えれば、心室を押すことにより心拍出量は確保できることは容易に想像できる。そこでマッサージのように心室を押すシステムを縫い付ければ、心臓の拍動を補助できることになる。東北大学では以前から「人工心筋」の開発研究を進めてきた。空気圧駆動型人工心筋では既に慢性実験に成功し三ヶ月を超える生存実験で心補助効果を確認している。更にQOLに優れた埋め込み方人工心筋を開発するべく、開発プロジェクトに着手し、最先端医工学の集学的連携により飛躍的進展を目指すべく開発研究を開始した。開発のキーテクノロジーになるのは、人工心筋アクチュエータ、ナノセンサ、制御ナノチップコンピュータ、経皮エネルギー伝送システム、そしてこれらを統合して制御をなりたたせるための生理的カオス制御アルゴリズムなどである。現在、生体情報センシング用のナノセンサを開発中であり、ダイアモンドライクカーボンに数十個の金属分子をトッピングすることにより開発が具現化している。分子レベル、ナノレベルの機構により構成されたナノ金属クラスターセンサにより、鋭敏なサーモセンサなどは既に具体化して動物実験の段階にある。人工心筋は、人工心臓のように常にフルストロークで駆動されていないと血栓形成の危険性が高いデバイスとは異なり、必要なときだけ稼動すればいいので、耐久性は期待できるが、センシングが必須となり、この分野での進歩が必要である。ナノセンサとしてはプレッシャーセンシングが700ナノメータというレベルの膜圧のオプティカルファイバで具現化しており、耐久性を検討する途上にある。小型化可能な人工心筋アクチュエータ候補として幾つかのデバイスが研究された。一つはボールスクリューモータである。これはスペースシャトルにも使われる耐久性に優れたものである。本年度に行われた動物実験の結果、右心室の補助人工心筋としての有効性が観察され、血行動態記録において心補助効果が確認された。このために心筋カバー用のポリカーボパックを新しく開発し、心臓を覆うことで心補助効果を得ている。しかしながら、残念ながら現存のボールスクリューアクチュエータでは右心補助効果はあるものの左心室補助効果を確認できるほどのストロークと推力が得られず、現在、設計を改造している。ユタ大学や、国立循環器病センターで開発している人工心臓はアクチュエータを外におく油圧システムに設計されているが、必ずしもアクチュエータは一体化する必要はない。そこで油圧方式のアクチュエータ開発も試みた。直接縫い付ける方式に比較すればアクチュエータをデバイスとして分ける方式は動物実験としては極めて装着が容易であった。人工心筋逢着部を解剖学的構造によらず自由に設定できるので、心筋梗塞などで梗塞部位の収縮力だけをサポートするためには非常に有効性が高いものであるものと判断された。動物実験による血行動態記録の結果、エレクトロハイドローリック人工心筋の心補助効果は抜群であり、著明な心拍出量の増大、動脈圧の上昇などの有効な左心補助効果の他、右心系の循環においてもサポート効果が確認され、臨床的に有効性が高いものと大いに期待される。心停止させた状態においてまでも、作動によりある程度の動脈圧と心拍出量が得られた。現在の構造では心停止させてし
まうとややストロークが短いが、ここは両心補助や人工心筋のパッチにより向上が期待され、設計変更を行いつつある。人工心筋アクチュエータの制御システムには生体を模した人工動脈圧反射システムが具現化しており、現在動物実験で安定した制御を目指しており、マイクロチップ化する計画である。経皮エネルギー伝送システムはアクチュエータを確立してから最適化する予定なので、現在、基本設定を検討中である。更に、現在臨床例における三次元収縮動態を解析中であり近日中に流れシミュレーションが具現化する予定である。これが具現化すれば、臨床例において個々の収縮を如何にサポートするか解析可能になり、オーダーメイド人工心筋が具現化する。
結論
現在、各パートで精力的に研究を進めており、三年後には臨床前試験に供給できるナノテク集積人工心筋の具現化が可能と期待される。

公開日・更新日

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