超極限分子プローブによる組織障害の再生・治癒機構の解析と高精度局所診断技術の開発

文献情報

文献番号
200200757A
報告書区分
総括
研究課題名
超極限分子プローブによる組織障害の再生・治癒機構の解析と高精度局所診断技術の開発
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
南谷 晴之(慶応義塾大学大学院理工学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木和男(国立感染症研究所)
  • 関塚永一(国立埼玉病院)
  • 川西徹(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 霜田幸雄(東京女子医科大学総合研究所)
  • 新井孝夫(東京理科大学理工学部)
  • 村松知成(国立がんセンター研究所)
  • 眞島利和(産業技術総合研究所光技術研究部門)
  • 船津高志(早稲田大学理工学部)
  • 田之倉優(東京大学大学院生命科学研究科)
  • 山本健二(国立国際医療センター)
  • 松村英夫(産業技術総合研究所・光技術研究部門)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 萌芽的先端医療技術推進研究(ナノメディシン分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
86,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
蛍光・燐光発光分子、磁気微粒子、蛍光抗体などの物理的・生化学的作用に基づく分子認識機構を有する超極限分子プローブを用いて、生体内で起こる血管炎や微小循環障害によって誘発される種々の組織傷害や細胞傷害のメカニズムを分子・細胞レベルで解析・診断する超高感度イメージング技術を開発するとともに、その障害の発現メカニズムと障害からの再生・治癒過程に関する分子機序を局所的に解析し、診断治療への応用展開を目的として研究を遂行した。その項目は、1)超極限分子を骨格とするナノ粒子プローブの開発と応用、2)超高感度バイオイメージング技術の開発と応用、3)分子生理機能の時空間的計測・解析技術の開発と応用、4)糖尿病性細小血管障害・脳血栓・腎炎に伴う血管障害などのイメージングと薬理効果の解析・診断治療への応用である。リポソーム誘導型蛍光標識モノクローナル抗体、GFP変異体、磁気ナノ粒子を包含するリポソーム粒子、量子ドット、高効率蛍光・燐光プローブなどナノプローブの新規開発を行うとともに、複数の異なるナノプローブの発光現象を利用したマルチカラーイメージングや1分子蛍光イメージング、高感度高速度イメージング、軟X線顕微鏡イメージングなど、新たな生体情報を提供するイメージング技術の開発を行う。これらの要素技術を駆使して自己免疫疾患に伴う難治性血管炎、糖尿病性最小血管障害、血管閉塞・血栓形成に関わる組織・細胞内の分子機能をイメージング解析し、病態発現と再生・治癒機構の解明を試みた。
研究方法
実質臓器や組織の微小循環レベルにおける血流障害を可視化解析するために、FITC-dextranを用いた血漿流動の可視化による全血血流動態の定量化、FITC標識赤血球の流動可視化による赤血球速度の計測を、高感度高速度CCDビデオイメージングシステムと画像相関法を用いて行った。FITC標識赤血球の流速計測と同時に光励起したPdポルフィリンからの燐光寿命より酸素分圧を計測する技術(蛍光・燐光ナノプローブを用いた光・イメージング解析法による臓器微小血管内の血流速度・酸素分圧同時計測法)を開発し利用した。これらはラットやマウスのin-vivo実験系でなされたが、一方、血管障害や血栓形成に関わる内皮細胞と血小板・白血球の相互作用を検討するために、培養細胞を用いたin-vitro系において各種蛍光プローブを用いて細胞骨格形態の動的変化・細胞内分子機能変化の可視化解析および活性酸素種の同定と定量化を蛍光生体顕微鏡やリアルタイム共焦点走査型レーザー顕微鏡を用いて行った。これらに加えて新規開発のマルチカラーイメージングシステムや密着型フラッシュ軟X線顕微鏡、並びにエバネッセント蛍光顕微鏡や原子間力顕微鏡を用いて、各種ナノプローブの発光に基づく細胞やオルガネラ機能の可視化を行い、心筋細胞・肝細胞・内皮細胞・神経細胞・血球細胞内の分子機能を解析した。取得した動画像と静止画像はコンピュータで解析し、定量的評価を行った。また、Apoptosisを含む細胞機能や分子機能の分析にフローサイトメータ、ウェスタンブロット法、LC/MS、NMRなどの分析機器も利用した。ラット・マウスを対象にした微小循環障害・血栓形成モデルの構築にはポルフィリン系光感受性物質とレーザーを含む特定波長励起光の相互作用に基づく光化学反応を利用し、活性酸素産生、サイトカイン産生、酵素作用を解析し、糖尿病ラットやノックアウトマウスなどの病態解析と薬理効果の評価に利用した。
結果と考察
微小循環障害・血栓形成に基づく血流停止・血管閉塞あるいは虚血応答をラットの腸間膜・肝臓・脳表層微小血管を対象に可視化解析した。とくに糖尿病性最小血管障害に関して光化学反応による急性血栓モデルを作成し、赤血球速度、血小板粘着開始時間、血管閉塞(血流遮断)時間、接着白血球数などを計測し、健常状態と比較検討した。活性酸素産生に基づく活性化白血球・血小板及び内皮細胞の相互作用により内皮傷害、血小板膜破壊・脱顆粒・作用物質放出が促進され、カスケード的に血小板粘着能の亢進、凝固系の促進、血栓成長、血管閉塞に至る過程
が確認された。とくに糖尿病群において顕著な速さで血小板粘着開始、血流遮断が起こり、糖尿病における易血栓性が明らかとなった。糖尿病では赤血球の変形能の低下や赤血球膜の硬化が認められ、血管内皮傷害に関与する。また、腫瘍内微小血管の光化学反応による血流遮断効果を検討したところ、腫瘍血管内ではずり速度の低下、早期の血小板粘着開始と血流遮断が認められ、光化学治療の有効性が確かめられた。関連して培養in-vitro系を用いた内皮・血球細胞の相互作用を検討したところ、細胞骨格F-アクチンの重合、タイトジャンクションの喪失、内皮下の露出が認められ、CD18、ICAM-1、CD11a、VLA-2、vWFの活性化が認められた。apoptosis誘導経路におけるCaspase系列の活性化やCa応答,ミトコンドリア活性のイメージング解析が不可欠である。
カンジダ菌成分(CADS/CAWS)及び好中球自己抗体(anti-mMPO)によって誘導される腎臓血管炎の血管傷害を生体内で観測したところ、好中球数の増加と活性化が起こり、活性化によって細胞膜表面へ移行したmyeloperoxidase(MPO)とanti-mMPOが複合体を形成し、さらなる好中球の活性化・血管内皮細胞への接着・活性酸素の産生を引き起こし,血管傷害に至る過程がマウスのin-vivoイメージングで明らかとなった。このとき、腎表面及び糸球体で血流速度の低下、血流停止、逆流を認め、血管内皮への白血球接着の有意な増加が観測された。また、IL-1βやTNF-α誘導の血管傷害における内皮細胞のapoptosisシグナル伝達を担うp38-MAPKの顕著な上昇が認められた。一方、CD69分子を欠損したノックアウトマウスでは、血流停止・血管閉塞が遅延したことから、CD69の血管閉塞抑制因子の働きが確認された。これら傷害発生に関わる白血球標識及び特異的な発現分子のmRNAをイメージングするナノプローブの利用とその機構解明が急務である。上記の結果に付随して心筋・肝細胞・神経細胞などの細胞死に関わるシグナルトランスダクションに関係する活性因子、細胞内・pH・NO産生を同時に可視化し、細胞傷害との関係を解析したが、研究分担者が開発する可視化用ナノプローブとイメージング技術は今後の研究展開に大いに活用できる。
結論
本研究では、血管炎や微小循環障害によって誘発される種々の組織傷害や細胞傷害のメカニズムを分子・細胞レベルで解析・診断するために各種蛍光・燐光標識ナノプローブと超高感度イメージング技術を開発し,これらを用いて傷害の発現メカニズムと傷害からの再生・治癒過程に関する分子機序を局所的に解析した。腸間膜・肝臓・腎臓・脳を対象に微小血管内の血流動態を可視化解析し、赤血球速度・変形能、血小板粘着・血栓形成過程、白血球粘着能などの動的変化を明らかにするとともに、糖尿病微小循環障害や腎血管炎、脳虚血などの病態把握と治療効果の評価を行った。また、培養細胞系を用いて各種細胞内の分子機能をイメージング解析し新しい知見を得るとともに、開発過程のナノプローブやイメージング技術の有効性を検証した。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-