バイオナノ粒子による治療用生体高分子デリバリーシステムの開発(総括研究報告書) 

文献情報

文献番号
200200756A
報告書区分
総括
研究課題名
バイオナノ粒子による治療用生体高分子デリバリーシステムの開発(総括研究報告書) 
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
小谷 均(アンジェス エムジー株式会社)
研究分担者(所属機関)
  • 中島俊洋(アンジェス エムジー株式会社)
  • 福村正之(アンジェス エムジー株式会社)
  • 長澤鉄二(アンジェス エムジー株式会社)
  • 河野博和(アンジェス エムジー株式会社)
  • 矢野高広(アンジェス エムジー株式会社)
  • 天満昭子(アンジェス エムジー株式会社)
  • 宮地和恵(アンジェス エムジー株式会社)
  • 鈴木七保(アンジェス エムジー株式会社)
  • 金森俊英(アンジェス エムジー株式会社)
  • 金田安史(大阪大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 萌芽的先端医療技術推進研究(ナノメディシン分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
70,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在、他の先進国と同様に日本においても高齢化に伴う医療費の増加が社会問題となりつつある。特に成人病に対しては、有効性の高い治療薬が少ないことから、それらの予防と治療を有効に行うための画期的な治療技術や医薬品の開発が切望されている。一方、ゲノムプロジェクトによるヒト遺伝子配列の完全解読に続くゲノミクス解析やプロテオミクス解析により、成人病の発症と進行に関与する遺伝子、治療に有効な遺伝子や蛋白質が明らかにされつつある。そのようなアプローチにより得られた遺伝子や蛋白質の情報を利用して、新規医薬品を開発する戦略としては従来のように同定された標的分子に作用する医薬品を低分子化合物ライブラリーからスクリーニングする方法と、病因に関与する遺伝子や蛋白質などの生体高分子を細胞内に直接投与して細胞の機能制御を行う方法がある。後者の方法では、従来主流となっている低分子有機化合物に依存した創薬とは異なる医薬品(生体高分子を成分とする医薬品)開発法となるため、まったく新しいタイプの医薬品が産み出される可能性がある。また、そのような新規先端医薬品を従来型の医薬品と組み合わせることにより、より有効性の高い治療法が開発できると期待される。現在開発されつつある新規先端医薬品には遺伝子医薬、核酸医薬、蛋白製剤のように高分子量の生体高分子を成分とするものが多く、標的細胞への取り込みの効率が低いことが問題となっている。実際、現在製品化されている抗体医薬の標的分子は、細胞外蛋白質である。しかし、シグナル伝達因子や転写因子など細胞の機能を制御する蛋白質の多くは細胞内に局在している事、遺伝子機能に関してもすべて細胞内で制御されていることから、細胞機能を制御する生体高分子を直接細胞内へ導入できるシステムが開発できれば、疾患の治療に非常に有用であると考えられる。そのためには、治療用生体高分子を安全かつ高効率に目的の生体臓デリバリーシステムためのベクターシステム(物質を運ぶためのデリバリーシステム)の開発が必要である。本プロジェクトで研究開発を行うバイオナノ粒子(HVJ-E非ウイルスベクターシステム)は、直径100ナノメートルから300ナノメートルの膜融合活性を持つ微小粒子であり、内部に封入された高分子(遺伝子医薬)を直接標的細胞内に導入する性能を持つ。従来の合成リポソーム等と同様に、このバイオナノ粒子は非ウイルス系のベクターシステムであるが、生体高分子を高効率に生体臓器や細胞へ導入することが出来る事が明らかとなっている。そこで、本研究では大阪大学とアンジェス MGが産学共同で、純国産技術であるバイオナノ粒子を、世界に通用する汎用性が高い医用材料として実用化するための開発研究を行う。最終的には、医薬品としての安全性や製剤としての安定性を確認した上で、ヒトへの臨床応用を行うことを目標とする。
研究方法
開発中のバイオナノ粒子の臨床応用を開始するためには、医薬品としての安全性や、製剤としての安定性を確保するための研究開発に先立って、品質の安定したバイオナノ粒子を製造するための生産方法開発、抗体蛋白質などの生体高分子をバイオナノ粒子へ封入するための技
術開発、医薬品としての開発に必要な精製方法の開発、バイオナノ粒子の修飾による標的化技術の開発が必要である。そこで本年度はそれらの研究を中心として開発を行った。以下に具体的な研究方法を示す。(1)ウイルスフリーのバイオナノ粒子生産技術の開発 現在のバイオナノ粒子の製造では、培養細胞にウイルス(HVJ)を感染させて培養液中に産生されるウイルス粒子を原料としている。しかし、生産用細胞にウイルスの構成タンパクを組換えタンパクとして発現させることで、高効率にバイオナノ粒子を得ることが出来れば、従来法と比較して安全性の向上と製造工程の簡略化が出来ることが期待できる。そこで、HVJを構成する膜蛋白質であるF蛋白質、M蛋白質、HN蛋白質の遺伝子クローニングを行ない、塩基配列確認後に、蛋白質発現用ベクターへの組み込みを行った。また、クローニングしたウイルス遺伝子が機能を持つことを確認するため、作製した発現ベクターを用いて遺伝子発現と蛋白質発現を、無細胞の転写・翻訳系と、培養細胞への導入のそれぞれで確認を行った。(2)生体高分子封入技術の開発 抗体医薬やサイトカイン製剤など蛋白質を成分とする医薬品が先端医薬品として開発されているが、それらの医薬品の標的分子は受容体など細胞外分子に限定されている。抗体医薬やドミナントネガティブ変異体蛋白質を細胞内へ直接投与することが出来るようになれば、病因に関与する細胞内蛋白質の機能を制御することが出来るため、新規治療用生体高分子の開発を通じて難治性疾患の治療に繋がると考えられる。そこで、本研究では治療用生体高分子である抗体蛋白質をバイオナノ粒子へ封入するために、封入に用いる界面活性剤の濃度、封入時間、封入温度の条件検討を行うことで、抗体など構造や活性が失われやすい生体高分子の封入条件をスクリーニングした。また、ヒト癌細胞株を用いて封入した抗体分子を直接細胞内へ導入することが出来るかについても検討した。更に、低分子医薬品である抗癌剤と、標的細胞に対して同時に導入できるかについても検討を行った。(3)バイオナノ粒子精製技術の開発 バイオナノ粒子を医用材料として臨床応用するためには、安全性が確保される品質レベルまで、不純物の除去と精製を行う必要がある。従来型のウイルスベクター粒子と比較して、空粒子であるバイオナノ粒子の精製には、よりマイルドな条件の精製法の確立が必要であると考えられる。そこで、本研究では変異型センダイウイルスより産生されるバイオナノ粒子を材料として、シュークロース密度勾配遠心法、平膜型限外濾過膜法、精製用樹脂による方法のそれぞれについて、バイオナノ粒子の濃縮・精製方法として適しているかについて検討を行った。また、それぞれの精製方法が、今後臨床応用に向けて実製造する際に、工業レベルまでスケールアップが可能であるかと、医薬品製造での使用実績があるかについての検討も行った。更に、最終的に精製されたバイオナノ粒子の性状について、粒度分布計による解析と電子顕微鏡撮影により検討した。(4)バイオナノ粒子の修飾による標的化技術の開発 血中への投与で目的の臓器や細胞へ特異的に物質を導入することが出来れば、ベクターの簡便性、安全性を高めることが出来る。そこで本研究では、バイオナノ粒子の化学的修飾や、バイオナノ粒子のタンパクを変化させることで、特定の臓器や細胞への標的化技術の確立を行う。本年度の研究ではHVJエンベロープベクターを様々なポリマーで修飾することによりマウス尾静脈から注入したときにどのような臓器に遺伝子導入が可能かについて、各臓器でのルシフェラーゼ遺伝子発現と蛍光標識したオリゴヌクレオチドの取り込みを指標に評価した。また局所投与したときの遺伝子発現の増強効果についても検討した。
結果と考察
生産法の検討では、本年度の研究で大阪大学由来のセンダイウイルスZ株より目的とするウイルス構成蛋白質(F蛋白質、HN蛋白質、M蛋白質)をコードする遺伝子断片のクローニングを行い、医薬品製造用にも使用実績のあるヒト培養細胞株で、実際に目的のウイルス蛋白質を発現出来ることを明ら
かにした。また、ウイルス遺伝子の発現ベクターを改良する事により、細胞に対して毒性が現れることが示唆されているウイルス蛋白質でも、目的のヒト細胞株で産生することが出来ることが明らかとなった。今後は、目的とするバイオナノ粒子の産生量と性能を高めるために、ベクター産生用に使用する遺伝子のスクリーニングや他のウイルス構成蛋白質と組み合わせた発現についても検討する必要がある。生体高分子の封入に関しては、本年度の研究により抗体医薬等が封入できることが明らかになっただけでなく、抗癌剤などの低分子医薬との組み合わせも出来ることが明らかとなった。今後は、動物の疾患モデルを使用して、バイオナノ粒子による治療用生体高分子の導入の有効性を検討する必要がある。精製技術に関しては、医薬品製造での実績がある上、将来臨床応用を行う場合に必要となるスケールアップにも対応出来る精製法を確立したが、本年の研究ではニワトリ胚を用いて材料となる粒子を調製したため、今後ヒト培養細胞で産生したバイオナノ粒子を使用して、濃縮法、精製法の再検討を行う必要があると考えられる。標的化に関しては、本年度の研究により表面電荷の修飾やポリマー等による修飾によりpassive targetingが出来ることが明らかとなったが、今後は表面蛋白に抗体やペプチドリガンドなどを結合させることで、目的の臓器への標的化を可能にするactive targetingについても検討を試みる必要があると考えられる。
結論
本年度の研究により、バイオナノ粒子(HVJ-E非ウイルスベクター)の臨床での実用化に必要であるウイルスフリーの粒子生産法、生体高分子封入法、精製技術、標的化技術に関する基礎的な知見を得た。今後は、安全性・安定性など臨床研究を開始するために必要となる試験のための基礎データの取得を行うために必要な研究・開発を行い、数年以内に臨床応用を開始することを目指す。

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