半導体などナノ粒子によるDDS

文献情報

文献番号
200200755A
報告書区分
総括
研究課題名
半導体などナノ粒子によるDDS
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
山本 健二(国立国際医療センター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 湯尾明(国立国際医療センター研究所)
  • 切替照雄(国立国際医療センター研究所)
  • 狩野繁之(国立国際医療センター研究所)
  • 石坂幸人(国立国際医療センター研究所)
  • 名取泰博(国立国際医療センター研究所)
  • 大河内仁志(国立国際医療センター研究所)
  • 尾又一実(国立国際医療センター研究所)
  • 鈴木和男(国立感染症研究所)
  • 太田敏夫(東京薬科大学)
  • 斯波真理子(国立循環器病センター研究所)
  • 片岡一則(東京大学大学院工学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 萌芽的先端医療技術推進研究(ナノメディシン分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
101,750,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ナノテクノロジーは、従来のエンジニアリングとは、かなり異なる。10μm以上の粒子については、重力が主要な力であり、ナビエストークスの方程式でその運動が記述できる。反対に粒子サイズが10nm以下なら、分子動力学で記述でき、分子量が小さければ比較的正確に計算できうる。ところが10nm以上10μm以下の粒子について分子動力学では、巨大であり、分子数も超多数である。また、ナビエストークスの方程式では、粒子サイズが小さすぎ近似ができず、記述する事ができない。この空間には、表面張力や、静電気力をはじめ、分子間力、重力などが存在し、有効に記述できる力学方程式がいまだ示されていない。
本研究の目的は、ナノ粒子を合成、表面加工、表面修飾を行ない生物・医療に有効な応用を行ない薬剤伝達システムの開発を行なうことである。
1) Cd/Seの半導体ナノ粒子を用いた研究:開発米国におけるナノテクノロジー研究の最重点課題の一つとされている量子サイズ効果理論に基づき、半導体が長時間蛍光を保持し、サイズにより蛍光色が異なるという極めて特異的な性質を利用して、生体に安全でかつ様々な機能を果たす半導体ナノ粒子の開発を行なう。また、開発したナノ粒子に薬物を結合させた物質の細胞(血球細胞、血管内皮細胞等)、組織、生体における薬物動態を解析することにより、そのメカニズムを解明し、有効な薬物伝達システム(DDS)の開発を目指している
2)ブロック共重合体を用いた研究開発:合成高分子であるブロック共重合体の分子設計を通して、生体内異物認識系による排除、ベクター自体の毒性、搭載可能なDNA分子量に関する制約などの問題点を解決する新しい遺伝子ベクターシステムを構築し、その遺伝子治療における有用性を明らかとすることにある。本年度は、合成手法が確立されているポリエチレングリコール・ポリカチンブロック共重合体に関して、そのin vivo有用性を確認した。さらに、より優れた高分子ミセル型ベクターを構築するために新しい合成手法を確立するとともに、蛍光顕微鏡を用いた細胞内動態評価手法を確立した。
研究方法
半導体ナノ粒子開発においては、米国におけるナノテクノロジー研究の最重点課題の一つとされている量子サイズ効果理論に基づき、半導体が長時間蛍光を保持し、サイズにより蛍光色が異なるという極めて特異的な性質を利用して、生体に安全でかつ様々な機能を果たす半導体ナノ粒子の開発を行なう。また、開発したナノ粒子に薬物を結合させた物質の細胞、組織、生体における薬物動態を解析することにより、そのメカニズムを解明し、有効な薬物伝達システムの開発を目指している。
また超機能高分子ミセルは、ウイルスと同等という微小なサイズでありながら、分子認識能や環境応答などのマルチ機能搭載可能な超機能高分子ミセルであり、表面を生体適合化することも可能であるため、遺伝子等を内核に搭載した超機能分子ミセルを用い、肺高血圧症、高脂血症、虚血性冠動脈疾患の再狭窄予防などの開発を行なっている。
結果と考察
本年度は以下の成果が得られた。1)半導体ナノ粒子の生物・医療応用班
(1) ナノテクノロジーにより蛍光を発する超微粒子(~5nm)の国内における製造技術、表面加工,表面修飾法を新しく開発する。さらに生物・医療分野に安全に利用できるように開発し、さらにタンパク、核酸など生体分子や薬物に結合(Tagging)したり、細胞に標識するなどして、細胞や生体内動態を解析し、疾病の解明や、安全な薬物伝達システムの開発に利用することを目的にしている。本年度は、その準備段階として、既に合成手法が確立されている5nmのCd/Seの半導体ナノ粒子(量子ドット)を利用し、蛍光顕微鏡を用いそのプローブの細胞内動態評価手法確立し、そのin vitroの有用性を確認した。
(2) cAMP応答エレメント結合蛋白CREBに対するアンチセンスオリゴデオキシリボヌクレオチドは複数のヒト血液細胞株に対してアンチセンス特異的に増殖抑制と細胞死を誘導した。我々が用いたアンチセンスオリゴと同様の配列を有し、しかもCREBそのものではない遺伝子の存在を検索したところ、CREB遺伝子のエクソン3からAlu配列へとつながるmRNAがESTクローンから見出せた。このような実験系を用いて、アンチセンスオリゴの細胞内デリバリーの評価が可能であると考えられた。
(3) ナノ粒子カンタムドットの感染症学研究及び感染症診断への応用を目的とした基礎研究を実施した。生菌及び死菌をpH7、pH9、pH5の条件でカンタムドットと接触させ、細菌がカンタムドットと結合するがどうか蛍光顕微鏡を用いて観察した。
(4) 熱帯熱マラリア原虫の解糖系の酵素であるエノラーゼを標的とした薬剤の開発研究ならびに、同酵素をターゲットとした選択的なDDSの開発を、同分子の機能と構造をナノスケールで詳細に検討することで行う。この酵素をターゲットとした薬物の生体内細胞内動態を量子ドットを用いてを解析することにより有効なDDS開発への基盤が構築された。
(5) ペプチドを用いた標的治療を行うため、レセプター型チロシンキナーゼRETに結合するペプチド(以下RBP-1; RET binding peptide)に磁性体を付加し、MRIによる診断法の確立に向けたパイロット実験を行った。このRBP-1/DMを用いてNMRにより、RET遺伝子を高発現している細胞を検出することが可能であった。今後細胞内動態をより詳しく調べるために量子ドットを用いる基盤ができた。(6)糸球体に指向性を有するDDS製剤・塩基性脂質TRX-20添加ポリエチレングリコール修飾リポソームにステロイド剤を内封させた薬剤が半月体性糸球体腎炎の動物モデルにおいて有効であることを示した。
(7)再生医療においてステム細胞を培養するにあったってその培養支持体が有効であるか否かを評価することが重要である。今年度の研究においてその評価基盤を目指しその足場の検討を行ないPGA含有コラーゲンが有効であることが判明した。今後量子ドットによるトレーシングにより更に詳しく解析する。
(8)ウイルスの感染効率に着目して、ウイルスの表面抗原からなるタンパク質中空ナノ粒子を、遺伝子や薬剤をピンポイントで効率よく導入するナノサイズカプセルとして利用することを試みた。具体的には、ヒト肝臓に特異的なB型肝炎ウイルス(HBV)の表面抗原であるLタンパク質(pre-S1ペプチド+pre-S2ペプチド+Sタンパク質)を酵母細胞に発現させて得られるナノ粒子を用い、ヒト肝臓に特異的に遺伝子導入できることを明らかにした。
(9)DDSによる血管炎の治療をめざした新たなナノメディシンの技術を開発し、併せてその発症機構を明らかにすることを目的とした。本年度は、真菌C.andida由来の分子CADS/CAWSによって誘導した血管炎モデルを用いて、新たなイメージング技術としてin vivoイメージング法をほぼ確立した。
(10)親水性有機化合物で表面被覆したCdSe/ZnSコアシェル型ナノ粒子(QD: Lot. SZU020521A)、およびこのサンプル中に混在するTrioctylphosphine oxide (TOPO)、硫化亜鉛(ZnS)について、細胞毒性ならびにDNA損傷性の有無を検索した。試験にはヒト培養細胞であるWTK-1細胞を用いて4時間処理を行い、生存率の測定とコメットアッセイによるDNA損傷性を調べた。親水加工CdSe/ZnSナノ粒子の懸濁液では500 _g/ml未満の濃度で細胞毒性を示さず、250 _g/ml未満の濃度でDNA損傷性が認められなかった。
1) 超機能高分子ミセルによる遺伝子導入システム開発班
(1)ポリイオンコンプレックスミセル型遺伝子治療用ベクターの開発を行っている。ポリLリジン(PLL)とポリエチレングリコール(PEG)との共重合体は、DNAと会合し粒径100nm以下のナノ微粒子を形成する。我々はこのナノ微粒子がマウス血流中で安定に存在する条件を見出し、遺伝子導入ベクターとしてin vitroおよびin vivoで有用であることを示した。
(2)合成高分子であるブロック共重合体の分子設計を通して、生体内異物認識系による排除、ベクター自体の毒性、搭載可能なDNA分子量に関する制約などの問題点を解決する新しい遺伝子ベクターシステムを構築し、その遺伝子治療における有用性を明らかとすることにある。本年度は、合成手法が確立されているポリエチレングリコールーポリカチンブロック共重合体に関して、そのin vivo有用性を確認した。さらに、より優れた高分子ミセル型ベクターを構築するために新しい合成手法を確立するとともに、蛍光顕微鏡を用いた細胞内動態評価手法を確立した。
結論
本年度研究を通じて、半導体ナノ粒子がタンパク質やその他の生体分子に結合させその細胞内動態を観察するのに充分な特性を有する事がしめせた。更に、in vitro, in vivoのみならずEX-vivoおよび生体内動態について広範な動態解析する事も可能と成るという極めて特徴的な性質を有するため、生物・医療において今後の展開に向けての素地が築かれたと言える。細胞内動態解析のために必要な表面加工法を開発するとともに、実際開発された方法を利用して、細胞内分布や生体分布についてに実際応用し今後新しいナノプローブの性能を評価する予定である。近年多くの新規機能材料が設計・製造され使用され廃棄されている。また今後増々加速度的に新しい製造方法とともに世に出てくるだろうと考える。まず設計段階では、技術、ニーズなどのレベルでは異分野の交流が必要となる。また製造段階、使用段階、廃棄を通じて安全性について十分検討する必要性がある。それらの全ての過程それらの全ての過程をについて技術者の養成が必要である。

公開日・更新日

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