ナノメディスンの実用化基盤データベース開発及び評価に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200754A
報告書区分
総括
研究課題名
ナノメディスンの実用化基盤データベース開発及び評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
長谷川 慧重((財)医療機器センター)
研究分担者(所属機関)
  • 櫻井靖久(東京女子医科大学名誉教授)
  • 古幡博(東京慈恵会医科大学総合医科学研究センターME研究室教授)
  • 大森豊緑(国立循環器病センター運営部政策医療企画課長20020930まで)
  • 依田紀彦(国立循環器病センター運営部政策医療企画課長2002101から)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 萌芽的先端医療技術推進研究(ナノメディシン分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
41,625,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我国がナノメディシン分野において世界をリードするためには、世界のナノテク情報を掌握し、これをもとに我国の研究に対する自己評価を促し、客観的評価を行わせしめ、萌芽的技術段階から臨床応用に至らせる効率的な実用化戦略が必要である。その戦略構築のために、我国の英知を集めた個々の研究に加え、豊富な世界のシーズと臨床ニーズに関する医療ナノテク情報バンクを第一に整備する必要がある。21世紀における革新的医療の展開のため、この萌芽期に世界に先駆けて、情報機能を強化し、既存分野を越えた分野横断的情報を一元化した開発のためのナノメディシンデータベースを構え、研究開発とその実用化基盤データベースの整備及び研究評価を行うことにより、我国におけるナノメディシン研究の効果的・効率的推進を図らねばならない。具体的には、医療に関連し得る世界のナノテク情報としてナノサイエンス情報をシーズとして収集し、その活用先である臨床ニーズをアンケートやヒアリングで収集・蓄積し、またそれらの詳細情報を有する人材情報も同バンクの核として、これを元にフォーラム等を企画し実用化の効率的シナリオ形成に資するものとする。したがって平成14年度は ①システムの構築 及び ②初期的ニーズ・シーズ・人材の情報収集を試行することにした。
研究方法
ナノメディシン実用化データベース (NM-DB) の構築と各評価は研究委員会を組織し、その下で遂行した。同研究委員会において次の課題を討議した。(1) データベースの全体構造 (2) 以下の3つを主要なるsub DBとした。① シーズ情報、② ニーズ情報 、③ 人材情報 (3) 実用化対策としてフォーラムなどのインターネット上の討議を検討することとした。 (4) 医療ニーズを喚起するためにナノサイズレベルの人体情報、すなわち「人体ナノアナトミー」の情報収集も行うこととした。本年度は特に以下を実施した。(1)NM-DBの基本システム設計及び試作を行った。(2)シーズ情報の構成と初期データ収集の試行を行った。(3)ニーズ情報のアンケート収集 (対象;全国特定機能病院 臨床教授・部長) を行った。(4)人材情報の内容について検討すると共に、参考的に収集を試みた。(5)ナノアナトミーのデータ収集をインターネット、図書などを中心に試行した。また、一部の調査及びデータベースの試作は (株) 三菱総合研究所へ委託した。なお、多くの情報は著作権や個人のプライバシーに係わるものであるので、一般公開は本年度は行わない方針とした。
結果と考察
1)ナノメディシンの定義を次のように定めた。「ナノテクノロジー及びその周辺技術を応用して、疾病の予防・診断・治療・リハビリテーションなどに資する医療技術」2)データベースの概要:知識集積型及び知識生産型データベースとするために、データベースシステムとしての構築をまず行った。すなわち、知識集積型としてはシーズ情報データベース、ニーズ情報データベース、人材情報データベースのデータ構造を決めた。そこには文字情報、画像情報を入力可能とした。また、知識生産型データベースとしてはフォーラムを中心とした集団参加型の討議を司会者の下で実行し得る方式を採用した。そのフォーラムでは蓄積された知識も活用できる形態とした。3)システムの試動試験の結果:構築したシステムを実験的に稼動し、内部で試験活用を行った。それによって、デー
タ保存、データ検索、データ更新などの諸機能が有効であることを確認した。なお、フォーラムシステムの試作及び動作確認により、①参加しやすいユーザーフレンドリーなシステムであること、②コーディネーターの役割が重要であることに留意すべきであることも明らかになった。4)知識集積型データベースの初期データ収集及び搭載:a) シーズ情報データベース:諸外国のナノテク関連の情報を予備的に収集した。シーズ情報データの構造を再確認すると共に、次年度からの本格的情報収集の足がかりを得るもので、約40件の情報を搭載した。とりわけ、既存のデータベースから「ナノマテリアル及び合成技術」、「ナノマテリアル集積体及び構築技術」、「計測・評価技術」及び「製品・システム化技術」の4技術を対象に、日米欧の特許分析、論文分析を行った。また、米国・欧州の主要機関を訪問し、ヒアリングを行った。b) ニーズ情報データベース:搭載するニーズを臨床家から直接アンケート調査で回収した。特に次の4つのナノテクノロジー関連技術領域(① 生体適合性材料、② ドラッグデリバリーシステム、③ 微小医療機器、④ マイクロイメージング)を取り上げ、アンケート調査を行った。特定機能病院等の臨床医及びナノテクに関心のある約1700名に行い、回収率は15%を越えた。その分析を実施中で、次年度に搭載することとした。臨床医からの回答は少なく、医工学関連学会の回答者が目立っていた。ナノテクノロジーの医療応用がまだ萌芽期であることが顕在化された。c) 人材情報データベース:約50名の研究者情報をデータベースに搭載した。特に各省庁のナノメディシン関連の研究テーマ担当者、医工学関連学会の有力者、欧米の主要研究に係わる研究者を調査した。なお、これら a), b), c) の内容は個人のプライバシーや著作権に関するものが多く、データベースの公表前に個々の了承を得る必要が生じた。5)ナノアナトミー情報収集結果:ニーズを喚起するため、マクロ解剖からミクロ、ナノレベルへの微細化画像情報を収集した。本年度は、東京慈恵会医科大学DNA研究所の協力の下、ナノレベル人体解剖図を文献・インターネットから収集し、特に、腎・肝・肺などの体系を整える準備が行われた。(考察)データベースを通じて、ナノメディシンを発展させようとする場合に、単に、データベースを構築すればよいというものではない。ナノテクノロジーを専門に研究している、いわゆる「技術シーズ」側の研究者や技術者は、必ずしも医療現場のニーズを把握している訳ではない。一方、臨床家や医療関係従事者などの「ニーズ」側はナノテクノロジーとして何が使えるのかが分っていない。このため、シーズ情報とニーズ情報を併せて、両者のマッチング機能が重要となる。本データベースは、シーズとニーズの出会いの情報プラザとしての性格を持たせるべく、フォーラム機能を充実させた。そして、両者を出会わせる情報プラザとしてのデータベースの基本的システムは完成した。しかし、使用者・利用者の側に立った、よりユーザーフレンドリーな画面構成などについては、工夫と評価検討が不充分で、より多数のユーザーによる評価が必要になるものと考えられた。次いで格納される情報として、シーズ情報、ニーズ情報、人材情報はいわばシステムの機能評価の初期データとして搭載を試みたものである。それ故、情報の内容・レベルについてはより詳細な参考資料が必要になると考えられた。情報のソースとその現状について最新情報をどのように収集し、分析・整理するか、今後の重大課題と考える。その意味で、多量のナノテクノロジー、ナノサイエンス関連の情報の中から、より効率的にナノメディシン関連の情報かを評価・判定する手法が求められることが予想された。今日のデータ・マイニング技術が、データ集約に有効なものとなるかどうか、検討することが必要である。ニーズ情報の顕在化をアンケート調査で行ったが、これを早期に分析し、データベース内に搭載する必要に迫られている。しかし、臨床家の意見が少ないので、ヒアリングを通して、シーズ情報を提示しながらニーズを喚起
することが重要と考えられる。正にそのような形のフォーラムを本データベースは指向するものであるが、多忙な臨床家をこのデータベースへ参加させる工夫として、ある程度の具体的なヒアリングも有効ではないかと考えられた。国内外の情報収集を現地で研究者から直接引き出すことが必要であるので、研究者間の連携を結びつけるような集団化、組織化を検討することが必要と考えられた。なお、収集した情報は、現在情報提供者への著作権問題や個人情報に関するプライバシー問題について充分な対策を行っていない。情報公開に先立ち、倫理面での対策が必要と考えられる。これは次年度の重要課題にならざるを得ないと考えている。
結論
ナノメディシン実用化データベースを完成させるには、諸外国を含めたナノテクノロジーの最新情報の掌握を確実に行うことが、競争力のあるナノメディシン技術開発に必要である。本年度は基礎となるデータベースのシステムを構築した。また、基礎となる初期情報を収集した。すなわち、初期の目的に対する一歩を築いた。そして、現状でもその内容の高さ、重視すべき技術の幾つかをおさえていることなど、我国のナノメディシン研究に与えるインパクトは少なくない。しかし、最新情報の充実、情報公開のための倫理的問題の解決など、取り組むべき課題も明瞭となった。次年度からの次の課題で解決したい。①真のニーズ情報抽出方法の検討と実施、②諸外国の現地情報の積極的収集、③著作権等の調整、④フォーラムを開催し、実用化技術へのブレイクスルーの試み、以上、3年計画の初年度として、ナノメディシンの臨床実現に向けた実用化データベースの基礎を築き得たものと考える。

公開日・更新日

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