微細鉗子・カテーテルとその操作技術の開発(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200753A
報告書区分
総括
研究課題名
微細鉗子・カテーテルとその操作技術の開発(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
垣添 忠生(国立がんセンター)
研究分担者(所属機関)
  • 小林寿光(国立がんセンター)
  • 荒井賢一(東北大学)
  • 植田裕久(ペンタックス株式会社)
  • 佐竹光夫(国立がんセンター)
  • 角美奈子(国立がんセンター)
  • 玉川克紀(株式会社玉川製作所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 萌芽的先端医療技術推進研究(ナノメディシン分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
117,380,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
低侵襲で正確な診断・治療法は医療における理想であるが、要求される技術難度の高さから標準化が阻害されていると共に、普及を急げば効果と安全性が犠牲とされる。そこで非接触で動力を与えることのできる磁気を応用し、更に微細加工技術やナノテクノロジーも導入して、新たな医療技術開発も念頭に置いてこれらの問題を解決する。特に本年度は、磁気医療の早期具現化と、高度な医療技術のための基礎的な研究開発を行う。
胃がんの手術にかわる治療法として内視鏡的粘膜切除(endoscopic mucosal resection: EMR)があるが、一本の内視鏡のみの切除では切除面の展開ができないために技術難度が高いと共に、出血、穿孔の危険が高いため普及が制限されている。そこで磁気応用医療の早期具現化として、胃がんのEMR時に病変を把持、固定、牽引して切除を補助する、磁気誘導微細鉗子(磁気アンカー)及びその駆動装置を開発してその有効性を検証する。
発展性のある開発としてカテーテル等に挿入可能な微細内視鏡の開発を行うが、既存の医療技術に内視鏡検査を追加することで上乗せ効果を期待するものである。
更に将来の高度な医療技術の開発をめざし、目的の部位に対するルートの検索、誘導、目的の医療行為を自動で行う、磁気を応用した自動誘導の開発を開始する。
以上のように、磁気医療の明確な形での早期具現化、発展性のある技術開発および医療の将来のあり方を考えたより高度な研究開発を行い、低侵襲かつ効果的な医療の標準化をはかる。
研究方法
1.磁気アンカー
既存の内視鏡室にそのまま導入できる大きさから、これまでに開発された外径350mmのポータブル型盤状磁気誘導装置を基本として、体表からの距離を考えて1kOe/10cm以上を目標磁気強度とする。この磁力で10×6mmの純鉄を使用すればEMRで必要と考えられる60gの物体の挙上が可能であるが、同時に微細鉗子のみでは病変の挙上は不可能であることも示した。そこで磁気アンカーをウェイトと微細鉗子、及び連結部から構成するものとした。
ウェイトは内視鏡の処置チャンネル内に挿入することはできず、内視鏡の先端に装着して胃の内腔まで誘導するとして、その外径は内視鏡のそれを考え1cmとした。形状は最大の磁性体体積と磁気トルクによる回転力、胃壁との接触を考え円柱に近い円錐形とした。微細鉗子は実験系における不確定要素を減らすため、既存の止血クリップを基本とした。連結には微細鉗子の挿入方法及び操作性、磁気発生装置までの距離を考えて糸を使用した。
磁気アンカーの駆動装置は、患者体表直上で任意の方向に磁気アンカーを牽引するため、患者周囲に配した二重ベルト上に磁気発生装置とカウンターウェイトを固定し、重量バランスを保ち走行させる構造とした。また動物実験用には床上に設置した支持機構上に駆動装置を固定して、内部に内視鏡検査台を収容可能とした。
有効性検証のための動物実験には45kgのブタを使用し、静脈麻酔により自発呼吸を維持して検査台上に左側臥位とした。内視鏡は通常の消化器用電子内視鏡を使用して、磁気アンカーの胃内への挿入、病変への装着、牽引、切除補助を行った。
2.微細内視鏡
カテーテルなどの内腔に内視鏡挿入するためには、超微細化の他、カテーテル内壁との固着の防止、新たな強靱な内視鏡構造の開発が必要である。超微細化には、まず磁気誘導を代用とすることで内視鏡先端の屈曲機構を省略して、処置チャンネルはカテーテル等の内壁との間隙を利用するとした。
微細内視鏡の初期試作機の外径は、5Fr.のカテーテルへの挿入を考えて0.8mmとして、イメージファイバーは微細領域の画素数を考え、石英ファイバーを使用することで3000本として、レンズはセルフォックスレンズを使用することとした。
カテーテルの内壁との固着の防止にはシリコンチューブを使用すると共に、その表面にポリパラキシリレンを厚さ750nmで蒸着したチューブを試作して外皮とした。なおシリコンチューブ自体では形状を確保できないため、内径φ0.35、外径φ0.7mmのコイルシースを用いてシリコンチューブを被覆した。
3.自動誘導
磁気による自動誘導が基本的に可能であるかをまず検証するため、本年度は可能な限り条件を簡易化して実験系を構成した。計測/制御用コンピュータ系では、画像的位置計測アルゴリズムとその計測結果と誘導の経路情報を照合し、その時々で必要な磁界発生装置に指令するアルゴリズムの開発とコンピュータ系の構築を行った。
撮像系は被曝の問題から可視光を使用したが、撮像系と画像処理はX線系と基本的に同じである。
被誘導物として強磁性体片(2.5×2.5×5.0mm、円筒形炭素鋼片、S40C)を使用し、誘導経路として可視光透過性の2次元気管支樹模型を製作した。自動誘導そのものの可能性を検討するために、誘導経路に振幅0.5mm、周波数80Hzで加振を行い摩擦抵抗を減じた。
磁気誘導装置はこれまでに開発された4極磁気誘導装置の1/2モデルを使用し、磁極を水平方向として二次元的な誘導を行った。
結果と考察
1.磁気アンカー
内視鏡先端に磁気アンカーを固定して胃内に挿入したが、オーバーチューブの有無にかかわらず問題はなかった。胃内腔でのウェイトの遊離や微細鉗子の操作に問題はなかった。駆動装置の磁力を徐々に増加させると、ウェイトが挙上しその直後に充分な牽引力が発生して病変は挙上された。
磁気発生装置をブタの上部に設置して偏位させるのみで、体位変換や腹部圧迫と併せて磁気アンカーを側方に牽引することが可能で、磁気装置を側方または下方に移動することなしに病変の適切な牽引が可能であった。
胃内の代表的な胃角部前壁、体部小弯側、胃角部後壁、体部大弯の粘膜切除を行ったが、磁気アンカーはいずれの切除においても操作を適切に補助、促進すると共に、血管を確認した後の出血防止や出血時の止血操作も素早く適切に行うことができた。磁気アンカーを使用した切除への術者の適応も容易で、技術に大きく左右されずに高度な切除が短時間に可能であった。
ひとたび磁気アンカーを使用したEMRを経験した術者は、通常のEMRに不満を覚えるようになり、この点で磁気アンカーはEMRに必須の器具となり、現在適応が制限されて施設の限られているEMRを、胃がんの標準的治療たらしめると考えられる。
磁気アンカーを普及させるにおいてその駆動装置の規模が問題であるが、今回の実験では切除に必要な電力は常時50A以下であり、0.6kOe/10cmあれば充分と考えられる。また磁気発生装置を患者上方に設置するのみで有効な牽引が可能であり、以上から磁気発生装置を小型化して支持機構も大幅に簡略化して、早期に臨床の現場に導入可能な磁気アンカー駆動装置の開発を目指す。
2.微細内視鏡
前述の仕様をもとに試作した微細内視鏡は、挿入部外径:φ0.8mm、挿入部有効長:1170mm、全長:1500mm、視野角:42~46°、観察深度:1~30mmである。
2種類の内視鏡を5Fr.のアーガイル社製 Angiographic Catheterとメディキット社製 Introducer Setに挿入したが、ストレスなく挿入可能であり、抜去の際の固着もなかった。
今後、他のカテーテルとの固着の有無を更に検証すると共に、強靱な構造と充分な照明を可能とする導光ファイバーを一体成形にして製作する。また充分な視野角を可能とするレンズの開発を行う。
3.自動誘導
強磁性体片は、気管入口から目的の末梢気管支まで、平均4.5±1.9mm/sで誘導された。磁界発生に用いた電流は単極あたり0~18A(磁極中心部で0~2.5×10-2T、被誘導物への駆動力0~2×10-4N程度)であった。システムの画像計測系から計測制御系の誘導距離誤差は、自動追尾の方法として閾値学習法で1.1±0.5 mm、フレーム間差分法で1.2±0.7 mmであった。計測制御系の現時点での最大誘導可能速度は、追尾法に閾値学習法を使用した場合に約10mm/sであった。
磁気誘導による磁性体片の自動誘導が可能であることが検証されたが現状では制約が大きく、今後は徐々にその制限要素を自動化すると共に高速化していく。
結論
EMRへの磁気アンカーの導入は、低侵襲の治療法の標準化と磁気医療の具現化をもたらすと考えられる。また臨床の現場に導入された磁気アンカー駆動装置は、その他の磁気応用医療器具の誘導にも使用可能であり、磁気誘導医療の発展、拡大を促進すると考えられる。更に将来の自動診断・治療法の開発にも繋がるなど、低侵襲の診断・治療技術の開発、標準化において重要な研究であると考えられる。

公開日・更新日

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