ナノレベルイメージングによる分子の機能および構造解析(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200751A
報告書区分
総括
研究課題名
ナノレベルイメージングによる分子の機能および構造解析(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
盛 英三(国立循環器病センター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 望月直樹国立循環器病センター研究所)
  • 中村 俊(国立精神・神経センター神経研究所)
  • 土屋利江(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 萌芽的先端医療技術推進研究(ナノメディシン分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
185,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
循環器疾患、脳神経疾患等の制圧のためにナノテクノロジーを駆使して、病態の理解、早期診断法の開発、そして治療法の開発を推進することを目的として、
(1)イメージングにより細胞内・組織での分子の機能を理解しようと試みる。
(2)分子の構造決定による構造生物学的アプローチにより創薬を目指す。
(3)上記のナノテクノロジーに基づいて臨床画像診断技術の開発、新規医用材料の開発への道筋をつける。
研究方法
(1)循環器系細胞の分子イメージングでは、いつ、どこで、どのように細胞が制御されているかを理解できるようにFRET (Fluorescent Resonance Energy Transfer)技術を基本原理とした細胞内分子イメージング法を開発する。具体的にはRasスーパーファミリー分子の活性化を手始めに検討している。プローブはRasファミリー分子のRas, Rap1, RhoファミリーのRac, Rhoを作製した。ミオシンファミリーのなかで野生型II, V, VIの蛋白質と構造変化を起こすときに重要と考えられている部位に変異を起こしたII,V,VI蛋白質をバキュロウイルスー昆虫細胞で精製した。これらのミオシンによるアクチン可動性についての検討を開始した。神経細胞に対する外的刺激の細胞内への伝達過程の制御の障害が神経変性疾患の病因として極めて重要であると考え、当該年度を通じてその制御機構の解明に取りくむ。
(2)分子構造決定の基本研究計画は世界三大放射光施設であるSpring-8との共同研究体制により、循環器疾患の創薬につながる分子構造決定を行うことである。当面の目標とする分子は受容体・イオン交換輸送体・細胞内情報伝達分子・プロスタグランジン関連タンパク・心筋収縮調節タンパクである。Na+/H+交換輸送体(NHE)は形質膜に普遍的に発現するトランスポータであり、細胞内pH、Na+濃度、細胞容積調節に重要な役割を持つ。NHEとその制御因子の結晶構造を解明し、創薬を通じて心疾患やガンの治療を目指す。トロポニン(Tn)、トロポミオシン(Tm)は心筋および骨格筋収縮調節の要となる分子である。Tn/Tmの分子構造を解明し、心不全治療薬としての創薬に繋がる知見を目指す。プロスタグランジン(PG)産生系に関しては、膜結合型PGE合成酵素(mPGES)、アラキドン酸を基質にしてロイコトリエン産生に関わる蛋白質である5-リポキシゲナーゼ活性化蛋白質(FLAP)の大量発現を目指す。
原子間力顕微鏡(AFM)等による分子構造解析については、アルリカツメガエル卵母細胞の表面観察などを試みた。P2X2プラスミドよりインビトロ合成したRNAを卵母細胞に注入し、18℃でインキュベートした後AFM観察を行った。
(3)上記(1)および(2)の成果をもとに臨床応用への道筋を検討する。
結果と考察
(1)H14年度の研究で、Rasファミリー分子のプローブを細胞内で発現させることに成功した。Ras, Racについては、血管内皮細胞を種々の増殖因子で刺激したときの時間的・空間的活性化部位の違いを明らかにすることができた。また、FRETを利用してミオシン分子の構造変化をとらえることに成功した。光学的画像解析法を用いて、神経細胞制御機構の鍵となる分子の細胞内動態を解析した。
(2)H14年度はヒト心筋のトロポニン複合体の調節ドメインについて2.6オングストローム分解能での結晶構造解析に成功した。また、Na+/H+Exchanger制御因子の大量発現と精製に成功した。プロスタグランジン(PG)産生系に関しては、大腸菌での発現系の構築を終了し、その発現を確認した。結晶構造解析に向け、大量発現系、大量精製系、結晶化条件の検討などを実施中である。タンパク質構造解析へ向けた原子間力顕微鏡や走査型トンネル顕微鏡の分子構造決定への応用として、タンパク質試料の作製、観察条件の検討を行った。
(3)ミクログリアの活性化因子として細胞外ATPを同定し、その受容体がGi共役型ATP受容体(P2Y12)であることを明らかにした。解析によって得られた知見を疾患の早期診断法の開発につなげるための実験系の確立に取り組んだ。
結論
(1)イメージングにより細胞内・組織での分子の機能の理解に一定の成果を挙げた。
(2)構造生物学的アプローチにより分子の構造決定を行い、創薬を目指すという道筋を示した。
(3)上記のナノテクノロジーに基づいて臨床画像診断技術の開発、新規医用材料の開発へ向けた一歩を踏み出した。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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