ライソゾーム病の病態の解明及び治療法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
200200750A
報告書区分
総括
研究課題名
ライソゾーム病の病態の解明及び治療法の開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
衛藤 義勝(東京慈恵会医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 井田博幸(東京慈恵会医科大学)
  • 大橋十也(東京慈恵会医科大学DNA医学研究所)
  • 鈴木義之(国際医療福祉大学)
  • 芳野信(久留米大学)
  • 田中あけみ(大阪市立大学)
  • 島田隆(日本医科大学)
  • 乾幸治(大阪大学)
  • 高田五郎(秋田大学)
  • 高柳正樹(千葉こども病院)
  • 大野耕策(鳥取大学)
  • 大和田操(日本大学)
  • 辻省次(東京大学大学院医学系研究科)
  • 辻野精一(国立精神神経センター)
  • 難波栄二(鳥取大学)
  • 鈴木康之(岐阜大学)
  • 桜庭均(東京都臨床医学総合研究所)
  • 北川照男(東京都予防医学協会)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
23,580,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本年度の本研究班の目的は昨年度に引き続き(1)ライソゾーム病の本邦における実態調査(2)ライソゾーム病患者の生活調査(3)ライソゾーム病の診断指針の作成(4)ライソゾーム病のスクリーニング法の開発(5)ライソゾーム病の酵素補充療法の検討(6)ライソゾーム病の新しい治療法の開発(7)ライソゾーム病の病態の解明である。それぞれの分担研究者によりテーマにそった研究が行われた。
研究方法
(1) ライソゾーム病の本邦における実態調査:
一次調査で回答のあった施設に対し2次調査を施行した。大和田らは1996年に施行した全国調査で明かになった39例の男性患者を対象として追跡調査を行った。
(2) ライソゾーム病患者の生活調査:
ライソゾーム病患者のADLをFIM 、WeeFIM,を用い評価した。また独自のスコアリングシステムにても評価した。
(3) ライソゾーム病の診断指針の作成:
班員全員で現在の診断指針を検討しその問題点を明らかにした。
(4) ライソゾーム病のスクリーニング法の開発:
ELISA法にて尿中α-galactosidase Aを測定することによりファブリー病がスクリーニング可能かどうかを検討した。またファブリー病の蓄積物質であるglobotriaosylceramide(GL3)の尿中排泄量を測定することによりスクリーニングが可能かどうかを検討した。
(5)ライソゾーム病の酵素補充療法の検討:
酵素補充療法中のゴーシェ病I型患者を対象に種々サイトカインと既知の治療マーカーを継時的に測定した。
(6)ライソゾーム病の新しい治療法の開発:
(ア) ファブリー病の欠損酵素である、α-galactosidase Aを発現するAAVベクターを作成し、それぞれのモデルマウスに筋肉内投与した。投与後、様々な治療効果を検討した。GM1ガングリオシドーシスの欠損酵素であるβ-galactosidaseを発現するアデノウイルスベクターを作成した。それを経静脈的に生後1?2日のモデルマウスに投与し、生化学的、組織学的に治療効果を検討した。
(イ) ケミカルシャペロンとなりうる新しい物質N-octyl-4epi-β-valienamine(NOEV)をβ-galactosidase欠損症の患者より得た培養皮膚線維芽細胞に加え酵素復元効果のスクリーニングを行った。またやはり、様々なglucose類似体をゴーシェ病の細胞に添加し変異酵素の活性を上昇させる物質をスクリーニングした。
(7)ライソゾーム病の病態の解明:
(ア) ライソゾーム病の骨密度の検討を行った。骨密度はDEXA法で評価した。また各患者において血液および尿中骨マーカーを調べた。骨吸収マーカーとしてICTP、尿中デオキシピリノジン、尿中NTx、骨形成マーカーとして骨型ALP、オステオカルシンを調べた。
(イ) Schindler/Kanzaki病は欠損酵素が同じでも臨床症状に大きな差がある。両疾患で知られている変異酵素の3次元モデリングにより構造学的検討を加えた。また排泄されるオリゴ糖にも異なるため細胞内蓄積物質を免疫組織学的に検討した。
(ウ) 日本人ポンペ病症例、成人発症のKrabbe病の臨床的検討と遺伝子変異の検討を行った。
(エ) 高サイトカイン血症を呈する疾患におけるにおける、スフィンゴミエリナーゼの分泌亢進が、その病態に及ぼす影響を検討する目的で高サイトカイン血症を呈する疾患における血漿中スフィンゴミエリナーゼ活性を測定した。
(オ) ニーマンピック病C型患者剖検脳で、神経原繊維性変化を示す例のApoEの遺伝子型を検索した。
結果と考察
研究結果=(1)ライソゾーム病の全国調査では診断は91.2%の症例で酵素診断が施行されており遺伝子検査は遺伝子が判明している疾患のうち42.2%の症例で行われていた。ADLの評価はKuriharaのスコアリングシステムで行った。評価項目は精神発達、移動、排泄、着替え、食事について行った。ADLが不良な疾患はゴーシェ病II型、Krabbe病、NCLなどであった。大和田が行った39例のファブリー病患者の追跡調査(5年後)では本症の特徴である四肢の疼痛は20歳以下で初発し30~40歳代に達しても持続していることが多いこと、透析を要する腎不全に進行するのは早くて30歳代後半、多くは40歳代前半であること、40歳代では心不全症状が進行することが示された。
(2)FIMによるADLの評価は非常に有用であった。
(3)ライソゾーム病の診断指針の作成はファブリー病、Acid maltase欠損症の診断基準に問題点が指摘され訂正を加えた。
(4)ライソゾーム病のスクリーニングではファブリー病を対象として行った。まず尿中のα-galactosidase AのCutt-off値を酵素蛋白量として3.0ng/mlとしたところ敏感度100%、特異度96.3%であった。また尿のGL3の測定も健常人(2例)に比してファブリー病患者(5例)では高値を示しスクリーングに有効であると思われた。
(5)ゴーシェ病における酵素補充療法におけるサイトカインの動態に関する検討では治療開始直後にM-CSF, TNF-αが高値を示し治療経過と伴に低下した。病勢の推移の非特異的指標になると思われた。
(6)AAVを用いての遺伝子治療の検討ではファブリー病を対象としてモデルマウスを用いての検討を行った。ベクターを筋肉内投与後、血清中の酵素活性は上昇し32週まで活性の上昇を維持した。治療群ではGL3の臓器への蓄積は認められなかった。心エコーによる検討でも心肥大は治療群では著名に抑制された。GM1ガングリオシドーシスにおけるアデノウイルスベクターを用いた検討では治療マウスにおいてβ-ガラクトシダーゼ活性は脳組織を含め各臓器で上昇し、組織のX-Gal染色パターンと一致して活性が上昇していた。脳の組織染色においてもβ-ガラクトシダーゼ活性を持つ細胞が散見され、また、脂質分析でもGM1ガングリオシドの蓄積抑止が認められた。一方ケミカルシャペロン法の検討ではN-octyl-4epi-β-valienamine(NOEV)を様々な変異をもつ細胞株に加えたところ日本人GM1ガングリオシドーシスの代表的な変異であるR201C遺伝子異常をもつ細胞で、残存酵素活性の有意な上昇が確認できガングリオシドを低下させることが判明した。またGlcX(新しい化合物)でもF213I変異をもつゴーシェ病細胞で活性の上昇を認めた。さらに変異蛋白の量がライソゾームで増加することが判明した。
(7)ライソゾーム病の病態の研究は下記のとうの結果であった。まづライソゾーム患者の骨病変の検討では骨密度に関してはGaucher病で軽度の低下、Farber病で高度の低下を認めた。骨代謝マーカーに関しては、正常値も幅があり、一定の傾向は明らかには認めなかった。
Schindler/Kanzaki病について両者の変異酵素、および蓄積物質の違いにつき検討した。Kanzaki病でみられるR329Q/Wによる??NAGAの3次元構造変化は、Schindler病でみられるE325Kによる変化よりも大きく、構造学的解析結果は生化学的解析結果とよく対応した。後者でみられる重度の神経障害は、??NAGA活性低下以外の因子による可能性が考えらえた。また、Kanzaki病患者由来の培養皮膚繊維芽細胞内に蓄積する主な物質は、??NAGAの基質であった。成人クラッベ病のの遺伝子型と表現型の関係を明らかにしまた、日本人ポンペ病の新しい変異を発見した。高サイトカイン血症を呈する疾患ではスフィンゴミエリナーゼの細胞外分泌が亢進していることを明らかにした。ニイマンピック病C型の研究でアルツハイマー病と同様の神経原繊維性変化がアポEの遺伝子型がε4のhomozygousな場合にみられることを明かにした。
結論
ライソゾーム病の全国調査の2次調査を行い、ある程度本邦におけるライソゾーム病患者のQOL,ADLの実態が明らかとなった。QOL,ADLの評価ではFIMは有効であると思われた。大和田らが行った追跡調査は自然歴を知る上で非常に重要と思われた。診断指針に関しては改訂を行った。スクリーニング法は今回の研究である程度有効な方法も開発された。酵素補充療法に関してゴーシェ病で新しい治療マーカーを発見した。新しい治療法の開発ではそれぞれ遺伝子治療法、ケミカルシャペロン法と有効な治療法がマウスレベル、細胞レベルで証明された。ヒトへの応用に向けて積極的に研究を展開する予定である。最後に病態に関する様々な検討が行われ、様々な疾患の遺伝子レベル、蛋白レベル、細胞レベルでの異常が明らかとなった。

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