多発性硬化症に対するインターフェロン療法の効果の発現及びその持続性に関する要因等の解析に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200748A
報告書区分
総括
研究課題名
多発性硬化症に対するインターフェロン療法の効果の発現及びその持続性に関する要因等の解析に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
山村 隆(国立精神・神経センター神経研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 川井 充(国立精神・神経センター武藏病院神経内科)
  • 佐藤 準一(国立精神・神経センター神経研究所)
  • 三宅 幸子(国立精神・神経センター神経研究所)
  • 菊地 誠志(北海道大学医学部神経内科)
  • 横山 和正(順天堂大学医学部脳神経内科)
  • 野村 恭一(埼玉医科大学神経内科)
  • 太田 宏平(東京理科大学理学部教授)
  • 神田 隆(東京医科歯科大学神経内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
26,250,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
多発性硬化症(MS)のインターフェロン療法に関して、治療反応群(レスポンダー)と非反応群(ノンレスポンダー)の存在することや、初期増悪の起こる症例のあることが問題になっている。本研究班では、レスポンダーとノンレスポンダーを区別するシステムを開発し、きめ細かいインターフェロン療法を普及させることを目的にして研究を進めた。
研究方法
症例の選択:Poserの診断基準に合致する再発・寛解型のMS患者さんに、インフォームドコンセントの上で採血に御協力いただいた。インターフェロン治療群60例、非治療群20例がエントリーしたが、本年度の解析はインターフェロン治療を受けた13例について行った。サンプル調製:班員は800 MIUのIFN_による治療開始前、開始3か月後、および6か月後に採血した。血液はすみやかに宅急便、バイク便などで国立精神・神経センター神経研究所免疫研究部に届けられ、到着後担当者はただちに血液末梢血単核球を分離した。さらに抗CD3抗体に反応させ、磁気分離装置(オートマックス)によって、T細胞と非T細胞分画に分けた。RNeasy Mini Kitにより、トータルRNAを分離し、5 microgramの精製RNAをPhilipsとEberwineの方法で増幅し、増幅されたアンチセンスRNA (aRNA)をcDNAマイクロアレイ解析に用いた。cDNAマイクロアレイ解析:本解析には、日立ライフサイエンスで開発したアレイを用いた。本アレイには、さまざまな機能を持つ1263種類の遺伝子が貼付けてある。患者由来のサンプルはCy3でラベルし、健常者に由来する対照サンプル(universal reference)はCy5でラベルし、62度で10時間、競合的にハイブリダイズさせた。その後、Scan Array 5000でスキャンし、QuantArrayソフトウェアで解析した。遺伝子発現レベル(GEL)は、患者サンプルのsignal intensity/universal referenceのsignal intensity で表した。臨床経過観察:各班員はエントリーされた患者さんの外来診療、および再発時の入院加療を担当し、臨床経過の記録を行った。また、副作用情報、インターフェロン療法の導入のクリテイカルパスの作成には、川井班員、太田班員が当たった。
結果と考察
インターフェロン治療群13症例から分離された末梢血T細胞、非T細胞の遺伝子発現をDNAマイクロアレイで検討した。その結果、治療前に比較して、治療後3か月、6か月のサンプルについて、アレイ上の1263遺伝子のうち21遺伝子(IRF7, ISG15, IFI56, IFI6-16, IFI60, IFI30, IFI27, IFI17, TAP1, TNFAIP6, TSC22, ATF3, TLR5, SULT1C1, RPC39, RAB11A, MIG, SLC7A1, IL-3, AKAP4, GNA13) で、有意な発現の変化が確認された。そのうち、9遺伝子はインターフェロン反応性プロモーターエレメントを持つ遺伝子で、方法論の信頼性を支持するものと考えられた。インターフェロン療法によりT細胞免疫応答がTh2 に偏倚するという通説があるが、今回の解析では確認されず、むしろTh1に関連する遺伝子発現の亢進傾向またはTh2遺伝子の発現低下が見られた。それとは別に、インターフェロンの治療効果を説明するような、興味深い変化が多数観察された。たとえば治療群の非T細胞では、TSG-6という炎症性サイトカインによって誘導される遺伝子発現の亢進が見られた。この糖蛋白はセリンプロテアーゼ
インヒビターの活性を高めることによって、マトリックスプロテアーゼ(MMP)の活性化を抑制する。MSでは血清、髄液中のMMP-2やMMP-9が上昇しており、脳血液関門の破綻を引き起こしている。インターフェロン療法ではMMPが低下し、その結果脳血液関門の透過性が低下することが治療効果として示唆されているが、MMP低下の背景にTSG-6活性の上昇が絡んでいることを示した結果と考えられる。その他、細胞増殖を制御するIFI17遺伝子の亢進、iNOSの発現を抑制するCAT-1の発現亢進、炎症性脱髄を増強するIL-3発現低下、細胞運動に関与するAKAP4やGNA13の発現低下が確認された。また、以上の遺伝子のほかにも、機能未知の遺伝子において発現の亢進が見られた。レスポンダー、ノンレスポンダーを決定する鍵となる遺伝子は、これら21遺伝子に含まれている可能性が高い。この21遺伝子については、治療効果判定用マイクロアレイに貼付ける遺伝子として利用することを予定しており(特許出願中)、各遺伝子のプロモーター部分のSNPsの決定などの予備検討が済めば実用化する。なおTSG-6の発現上昇については、インターフェロンの誘導する多面的な生物作用の中から、MS治療に望ましい効果だけを発揮させるような物質が同定されたものと解釈される。インターフェロンの下流に位置し、インターフェロン治療によって強く誘導される蛋白については、TSG-6および、それ以外のものも含めて、それぞれの自己免疫病モデルに対する治療効果を検討する必要がある。良い治療効果が得られれば治療薬として開発することが可能になろう。班員はMSインターフェロン療法について臨床経験を積み、インターフェロン療法の普及に有用な情報を集積することができた。副作用、クリテイカルパスなどの情報は、班員により医学雑誌などで、一般医家に提供する予定である。
結論

公開日・更新日

公開日
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更新日
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