骨髄異形成症候群に対する新規治療法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
200200745A
報告書区分
総括
研究課題名
骨髄異形成症候群に対する新規治療法の開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
平井 久丸(東京大学)
研究分担者(所属機関)
  • 大屋敷一馬(東京医科大学)
  • 内山 卓(京都大学)
  • 寺村正尚(東京女子医科大学)
  • 直江知樹(名古屋大学)
  • 間野博行(自治医科大学)
  • 三谷絹子(獨協医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
35,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
骨髄異形成症候群(MDS)は造血細胞の分化の障害と前白血病状態を特徴とするヘテロな疾患群である。その発症については、多くの病態の関与が報告されているが、その本体はなお不明な点が多い。一方、本症の根治的治療手段としては副作用の極めて強い造血幹細胞移植が知られているのみで、生理的で副作用の少ない新規治療法の開発が急務である。そこで本研究では、MDSの治癒率向上を目的として、これらの多様な病態を一元的に説明しうるメカニズムの解明とそれにかかわる分子の同定を行うことにより、副作用の少ない新規分子標的療法・分子免疫療法の開発を目指す。平成13年度の成果を踏まえ、平成14年度の研究では、まず、ゲノムレベルからのアプローチとして、(1)MDSに高頻度に認められる予後不良染色体異常、である-7/7q-のゲノム解析、(2)癌抑制遺伝子FHITのプロモーターメチル化による不活化の検討、および(3)ブロテオミクス技術・マイクロアレイ技術を用いたMDSにおける遺伝子発現異常の網羅的解析、を行った。また、転写因子異常の観点からは、(4)転写因子TELのMDSにおけるアイソフォームの検討、ならびに(5)転写因子AML1およびEvi-1の遺伝子改変マウスの解析を行うとともに、(6)Vitamin(Vit) K2およびD3による血球分化・アポトーシスに関する研究を行った。さらに、MDSの病態に関与する免疫学的機序の検討とより効率的な免疫抑制療法の開発に関する研究では、(7)シクロスポリンを用いた低リスクMDSの免疫抑制療法に関する臨床試験ならびに対象症例におけるTCRレパトア解析を含む分子免疫学的検討を行った。
研究方法
(1)7q-の標的遺伝子についてメチル化による不活化という観点から探索を行った。7qの塩基配列からメチル化の標的となりうる130個のCpGアイランドを抽出し、bisulfite法により網羅的にメチル化の有無を検討した。また、(2)MDSにおける癌抑制遺伝子FHITのメチル化による不活化を、メチル化特異的PCR法、bisulfite法および定量PCR法により検討した。(3)MDSにおける網羅的遺伝子発現解析に関しては、MDS由来好中球およぴ正常好中球を可溶化し、両者を二次元電気泳動展開した後、特異的に出現ないし消失するスポットの同定を試みた。また、従来のマイクロアレイを用いた解析では、MDS由来のAMLとde Nove AMLの遺伝子発現プロファイルの解析を行い、病型・治療反応性との相関を解析した。さらに病期の異なる31例のMDS症例のマイクロアレイ解析によりMDSで病期特異的に発現する遺伝子群の同定を試みた。造血に関与する転写因子の異常からのアプローチでは、(4)MDSに発現する種々のTELアイソフォームをRT-PCR法を用いて同定し、各アイソフォームの機能をその転写抑制能と分化誘導能の両面から解析した。また、(5)平成13年度に作成したCre-LoxPシステムによる条件的AML1欠失マウスおよびGATA-1プロモーターを用いたEvi-1過剰発現マウスについて、成体造血系における異常を解析した。さらに、(6)MDSに対するVit K2およびD3の作用機序に関して、HL60およびU937細胞の分化とアポトーシスに対する両剤の効果を検討した。(7)低リスクMDSに対するシクロスポリンの有効性の分子免疫学的解析では、昨年度に基盤整備の完了した「低リスクMDSに対するシクロスポリンによる免疫抑制療法」に関する臨床試験を実施し、登録症例について、HLA遺伝子型、T細胞受容体(TCR)レパトア解析、ならびにHUMARA法によるクロナリティーの解析等によりシクロスポリンの作用機序と治療効果予測因子の解析を行った。
結果と考察
染色体異常のゲノム解析ではMDSにお
ける最も重要な予後不良染色体転座の一つである-7/7q-の標的遺伝子について、プロモーターのメチル化による不活化という観点から、7qにおけるCpGアイランドのメチル化をbisulfite法により網羅的に解析し、7qで腫瘍特異的にメチル化をうける25個の遺伝子群を同定した。また同様の観点から、癌抑制遺伝子FHITのメチル化がMDS病期の進行に伴って増強することを明らかにした。MDSにおける遺伝子発現異常のプロテオミクス解析では、至適な解析条件の検討を行い、これを用いてMDS好中球で特異的に発現ないし消失する複数の蛋白を同定した。現在質量分析法によりこれらの分子の同定を試みている。一方、従来のマイクロアレイを用いたMDSの遺伝子発現解析では、純化AC133細胞バンクの検体を用いて、MDSの病期特異的に発現する遺伝子のcDNAアレイ解析を行い、MDSの進展に関与する一群の遺伝子を同定した。このうちMDSで発現が消失するPIASyについては、血球アポトーシスの誘導に関与することを明らかにした。さらに、従来形態診断に頼っていたMDS由来急性骨髄性白血病(AML)とde novo AMLの診断に関して、両者の遺伝子発現プロファイルの解析により、両者の鑑別に有用となる特異的遺伝子群を明らかにするとともに、ビンクリスチン感受性を規定する遺伝子群の同定に成功した。転写因子異常の観点からは、MDSにおいて転写因子TELのアイソフォームの異常が観察されること、またこれらの異常アイソフォームがdominant negativeに正常TELの機能を抑制することを明らかにする一方、MDSの転写因子異常の個体レベルでの検討では、AML1およびEvi-1の遺伝子改変マウスの解析により、これらがMDS類似の病態を呈すること、従ってこれらのマウスが各転写因子の異常を有するMDSのモデル動物となりうることを明らかにした。新規分子標的治療・免疫抑制療法の開発については、一部のMDSで血球減少改善効果が報告されているVit K2およびD3の作用機序に関して、両者の併用により白血病細胞株の分化促進とアポトーシス抑制が観察されること、またこの作用の一部はp21の発現の誘導によることを明らかにすると同時に、これらの薬剤を用いたMDSの分化誘導療法に関する臨床試験の基盤整備を行った。また、MDSにおける免疫異常の解析と免疫抑制療法の開発に関する研究では、「低リスクMDSに対するシクロスポリンによる免疫抑制療法」に関する第二相臨床試験を開始した。本年度9例の登録が行われ、うち3例については治療反応性を規定しうる分子免疫学的パラメータの解析を終了した。平成15年度には予定症例数の登録を完了し最終的な解析を行う。
結論
MDSの発症機序とそれに関与する遺伝子(群)の同定に関する研究を行い、MDSの発症・進展のメカニズムの解明とこれに関与する可能性のある遺伝子群の同定を行った。これらの遺伝子群は、いずれも分子標的治療の対象となり得るものである。とくにMDSで特異的にメチル化をうける遺伝子群については、近年再び注目を集めている脱メチル化剤のMDSに対する作用機序を解明し、よりMDSに対して特異性のある脱メチル化剤を開発する上での遺伝子標的として重要となる可能性が高いと考えられる。一方、MDSの病型や治療反応性に関わる遺伝子群の同定により、今後MDSのアレイ診断や治療反応予測に基づくテーラーメイド治療の開発が可能になるものと期待される。MDSモデルマウスが特定の転写因子遺伝子の改変によって確立されたことは、転写因子異常のMDS発症への関与を明確にするとともに、今後個体レベルでのMDSの発症機構の解明ならびにこれらの転写因子の異常を有するMDSの治療法を開発する上で有用である。また本年度にその作用機序に関する検討を行ったビタミンK2およびD3、およびシクロスポリンによる免疫抑制を用いたMDSの治療の有効性の検討についても、研究最終年度にむけて着実な進捗が認められた。

公開日・更新日

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