難治性皮膚疾患に対する自己培養皮膚移植法の開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200744A
報告書区分
総括
研究課題名
難治性皮膚疾患に対する自己培養皮膚移植法の開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
橋本 公二(愛媛大学)
研究分担者(所属機関)
  • 大河内仁志(国立国際医療センター)
  • 玉井克人(弘前大学)
  • 岡野栄之(慶應義塾大学)
  • 白方裕司(愛媛大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
32,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は糖尿病性潰瘍、褥創、難治性下腿潰瘍、栄養障害型先天性表皮水疱症などの難治性皮膚疾患に対する自己培養皮膚移植法の確立であり、さらに、栄養障害型先天性表皮水疱症に対しては遺伝子治療法の開発を行う。①完全無血清培養法による培養皮膚の作製:牛由来材料を使用しない培養法を確立したので、この方法を用いた培養皮膚の作製を行う。これにより、社会的に認可される培養皮膚の作製が可能となり、国民の医療の向上に貢献できると考える。②栄養障害型表皮水疱症に対する遺伝子治療:表皮水疱症に対しては、現在自己培養表皮移植の有用性が明らかとなっている。しかし、欠損遺伝子を補充する遺伝子治療法が開発されればさらに優れた効果が得られることが期待される。そこで、Ⅶ型コラーゲンを高効率かつ安定的に発現させるための発現ベクター開発と、培養皮膚を作製する。本研究は、他の遺伝性皮膚疾患にも新たな遺伝子治療法を提供しうる。③ヒトⅦ型コラーゲンに対する免疫寛容誘導法の開発:栄養障害型表皮水疱症患者への遺伝子治療を行う際に、患者が抗体を産生することが予想され、その結果として治療効果の減少が予想される。そこで、Ⅶ型コラーゲンの免疫寛容誘導法の開発を行う。免疫寛容誘導法が確立されれば、他の遺伝子治療にも応用できることが期待される。④皮膚構成細胞のstem cellの研究:皮膚構成細胞のstem cellの研究が培養皮膚開発に必須であることは当然であるが、表皮、毛嚢、汗腺、血管などの幹細胞を個々に同定し、その特徴を明らかにする必要である。ES細胞も含めて皮膚構成細胞のstem cellに関して臨床応用の視点より、検討する。以上の如く、自己培養皮膚移植の開発は、社会的に取り残されている難治性皮膚疾患患者にとって、多大な福音となることが期待される。
研究方法
①無血清三次元培養皮膚作成法の確立:角化細胞の完全無血清培養法は平成13年度に確立したので、この方法を発展させ完全無血清三次元培養皮膚の作製法を確立する。②三次元培養皮膚よる栄養障害型表皮水疱症の治療:三次元培養皮膚を用いたex vivo遺伝子治療の有用性の検討のために、まず遺伝子導入なされていない三次元培養皮膚の有用性を確認する必要がある。そこで、栄養障害型表皮水疱症患者2例に対し自己三次元培養皮膚移植を行いその有用性、安全性について検討した。③ヒトⅦ型コラーゲンに対する免疫寛容誘導法の開発:超音波・マイクロバブル法(ショットガン法)を用いてマウス胎仔皮膚にGFP発現プラスミドDNAを導入した。その後出産を待って、naked DNA 法により新生マウス皮膚にGFP発現プラスミドを導入した後、血清を採取して抗GFP抗体産生の有無をELISA法にて検討した。④皮膚構成細胞のstem cellの研究:マウスES細胞をPA6のfeeder layer上で培養し、BMP4を培地中に濃度を変えて添加し、経時的に試料を回収し、ケラチン14の発現を検討した。抗体を使用しないstem cellの回収法として、ヘキスト33342を用いたside populationの分離法を確立した。
結果と考察
劣性栄養障害型表皮水疱症患者2例に対し自己三次元培養皮膚を施行し、その有効性を示した。26歳、男性、四肢を中心に水疱、びらんが認められ、軽微な外傷により容易に水疱を形成した。水疱を繰り返し形成する部位を選択し、機械的刺激を加え水疱を形成させた後、自己三次元培養皮膚により置き換えた。一週間後には上皮化がみられた。置き換えた部位は以前と比較すると水疱の形成が抑制された。22歳、女性、体幹・四肢に広範囲にびらん、潰瘍が多発し、指間の癒着と屈曲拘縮を認めた。外
科的に手掌の拘縮を解除し、人工真皮を移植した部位に自己三次元培養皮膚を移植したところ、合計3回の移植で上皮化した。手指の機能は大幅に改善した。両者とも副作用は認めなかった。三次元培養皮膚への遺伝子導入法としてアデノウィルスベクターの有用性について検討した。ヌードマウスへ移植された三次元培養皮膚は生着し、移植後2日目では、移植された三次元培養皮膚の基底層に導入遺伝子の強い発現が観察できた。10日後の組織では、導入遺伝子の発現は主に表皮の上層に認められが、基底層の一部にも導入遺伝子の発現が持続していた。生体への遺伝子導入法として、超音波を利用した生体皮膚への遺伝子導入方法を確立した。ケミカルピーリングと超音波を組み合わせることにより皮膚に遺伝子導入が可能となることが明らかになった。50%グリコール酸による角層処理単独、あるいは超音波処理単独では、いずれも皮膚に導入されたルシフェラーゼ遺伝子の発現量は極めて少なかった(数十-百RLU/mg )。これに対し、両者を組み合わせた結果、約百倍の遺伝子導入高率増強効果が得られた。免疫反応回避方法の開発では、マウス胎仔皮膚にGFP発現プラスミドを導入することにより、GFPに対する免疫寛容を誘導し得た。day18胎仔マウス皮膚にGFP発現プラスミドDNAを導入した群の約40%において、生後に導入したGFP発現プラスミド産物に対する抗体産生が抑制された。胎仔皮膚に遺伝子導入しなかった群では、生後導入した遺伝子産物に対する抗体は100%検出された。ES細胞から角化細胞の誘導について検討した。マウスES細胞をPA6のfeeder layer上で培養し、ケラチン14の発現を検討したところ、BMP4の濃度は1-10ng/mlでケラチン14陽性細胞が12-14日の培養で出現した。マウス表皮角化細胞におけるside population(SP)を検討した。マウス角化細胞においてもSP 細胞の存在を証明した。SP細胞の割合は、全細胞数の0.1-5%の範囲であった。さらに、cell sorterを用いた分離法の条件を決定した。三次元培養皮膚は角層を有し、最も皮膚に近いものである。作製には高度の技術を要するが、治療効果は表皮シートに比べると大きいと思われる。今回の研究では患者が最も負担となっている手指の癒着に対して三次元培養皮膚を移植した。過去の報告で、手指の棍棒状癒着に対する外科的治療の有効性が示されているが、これまでは皮膚移植を用いており一過性には有効であるが、数年のうちに拘縮は再発してくる。培養皮膚の特徴として一度の採皮で繰り返し培養皮膚の作製が可能である点からすると、三次元培養皮膚による指間の治療が従来の皮膚移植と同等であれば、培養皮膚のほうが有用であると思われる。また、今回の研究で、再発部位に対する三次元培養皮膚による“張り替え"を試みた。観察期間が短いものの、“張り替え"部位には水疱の形成が減少した。従来の難治性潰瘍に対する培養皮膚移植ではなく、張り替えという使用法も新たな治療として可能性が得られたと思われる。張り替えだけでもある程度の効果が得られたので、遺伝子導入自己三次元培養皮膚移植が可能になればさらに治療効果は向上することが期待される。三次元培養皮膚を用いたex vivo遺伝子治療法を開発する目的のためには、三次元培養皮膚への遺伝子導入法の確立が必要である。そこで、三次元培養皮膚へのアデノウィルスベクターを用いた遺伝子導入について検討を行ったところ、遺伝子導入された三次元培養皮膚はヌードマウス移植においてもin vivoで遺伝子発現していることが確認できた。通常アデノウィルスベクターによる遺伝子導入は一過性であり、増殖とともに減少していくことが明かとなっている。今回の検討でも10日目にはGFPは表皮上層に認められた。しかし、一部ではあるが基底層にGFPの発現がみられたことは、おそらく表皮幹細胞に遺伝子が導入されたため、持続的に遺伝子が発現していたのではないかと推測できる。VII型コラーゲンが欠損した重症栄養障害型表皮水疱症患者では、VIIコラーゲンに対する免疫寛容が破綻していると予想され、治療用遺伝子産物に対して免疫反応が誘導される可能性がある。胎児皮膚
への遺伝子導入を利用した免疫寛容誘導法は、胎児診断と組み合わせることにより、より有効な遺伝子治療法となると思われる。免疫応答の可能性が低い遺伝子治療方法論の開発と併せて、今後さらに検討を進めていく予定である。従来のES 細胞から角化細胞を誘導する系を開発した。我々の確立した培養系は2週間で角化細胞が出現し、in vivoの発生過程に近づいたといえる。まだ角化細胞への分化が100%ではないので、分化効率を高める必要がある。幹細胞の分離法としてSide population細胞の存在を明らかにしたことは、今後の表皮幹細胞を用いた皮膚の再生に大きな伸展をもたらすことが期待される。
結論
自己三次元培養皮膚移植を確立し、三次元培養皮膚へのアデノウィルスベクターを用いた遺伝子導入法を確立した。胎児皮膚への遺伝子導入を利用した免疫寛容誘導法の基礎的研究を終了した。幹細胞に関しては、SP細胞を用いた表皮幹細胞の分離法の確立と、ES細胞から角化細胞の誘導の可能性を示した。

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