アミロイド沈着による病的要素の検索に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200740A
報告書区分
総括
研究課題名
アミロイド沈着による病的要素の検索に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
石原 得博(山口大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 東海林幹夫(岡山大学大学院医歯学総合研究科)
  • 前田秀一郎(山梨医科大学)
  • 樋口京一(信州大学医学部加齢適応研究センター)
  • 池田修一(信州大学医学部)
  • 松井高峯(帯広畜産大学獣医学部)
  • 河野道生(山口大学大学院医学研究科)
  • 横田忠明(社会保険小倉記念病院)
  • 加藤昭夫(山口大学農学部)
  • 内木宏延(福井医科大学)
  • 久保正法(つくば動物衛生研究所)
  • 田平武(国立療養所中部病院長寿医療研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アミロイドーシスは、いわゆる原発性や骨髄腫に伴うALアミロイドーシス、RAや結核に続発するAAアミロイドーシス、家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)、アルツハイマー病などの脳アミロイドーシス、老人性アミロイドーシスなど多くの病型がある。しかし、その有効な治療法はなく、唯一注目されているのは、ドミノ移植でも知られているFAPで行われている肝移植である。さらに近年、その発症病理において注目されているのは、外来性の異常蛋白(線維)による発症促進効果である。樋口は、マウス老化アミロイドにおいて、経口伝播の可能性を示した。さらに、異種アミロイド蛋白や異動物種のアミロイドの静注あるいは腹腔内投与、経口摂取でもアミロイドーシス発症促進の可能性を示し、続発性のAAにおいてもアミロイドの経口摂取による同様の可能性を示した。本研究班では、新しい動物モデルの開発と、核依存性重合反応によるアミロイド線維形成機序の解明の為の共通の因子の検討、核依存性重合反応における阻害反応の誘導(治療)の可能性をモデル動物あるいは各種変異動物において検討する。また治療法では、Aβによる免疫療法等を検討する。ALアミロイドーシスについては、アミロイド産生ヒト骨髄腫細胞株を使って、ALアミロイドーシス発症モデル動物を作製する。さらに、アミロイド線維核による伝播発症機構ついては、マウス老化アミロイドーシスモデルや実験的AAアミロイドーシスでも、アミロイド線維の摂取による発症促進効果の可能性が示されているので、アミロイド線維形成を促進する因子(危険因子)としての、①アミロイド線維やプリオンの様にアミロイド線維の鋳型(seed)になる物質、②AEF(Amyloid Enhancing Factor)、③遺伝的要因、の解明を行う。これらの結果を統合し解析することによってアミロイドーシス共通の発症機序の解明と治療法の開発ができると考えられる。アミロイド線維核の移行に関する研究は、家族性アミロイドポリニューロパチー患者肝臓のドミノ肝移植の可否にも関係し、その重要性は高く、アミロイドーシスと狂牛病等のプリオン病との共通性を指摘し、発症の予防法や危険因子の解析法を開発する点で、厚生行政上の意義は大きく、国内外の研究に先んずる研究課題である。
研究方法
1.ALアミロイドーシスを惹起する骨髄腫細胞の増殖を抑制することがALアミロイドーシスの治療として極めて重要で、骨髄腫の発症が高齢者に多いことから、河野らは加齢とともに低下する副腎皮質ホルモンDHEA (dehydro-epiandrosterone)に注目して、その骨髄腫細胞の増殖に及ぼす作用について、ALアミロイドーシス患者やその骨髄腫培養細胞株等で、DHEAとInterleukin-6 (IL-6)活性について検討した。2.実験的マウスAAアミロイドーシスにおいて、抗IL-6抗体を投与する事によって、アミロイドーシスの発症抑制効果を得る事ができるか否かを検討した。3. Aβアミロイドーシス:内木らはAβアミロイド線維(fAβ)形成過程を、チオフラビンTを用いた分光蛍光定量法を用い、系外からAβ蛋白が供給され続ける開放反応系で構築し、fAβの形成過程を解析した。田平らは、アデノウイルスベクターにAβcDNAを組み込み、このリコンビナントアデノウイルスをマウスに経口投与し、A
β抗原を腸管細胞に発現させ、どの様な免疫反応が惹起されるか検索した。4.アミロイドーシスにおける共存蛋白関連:マウスAAアミロイドの吸収期におけるAP及びApo Eとアミロイドの関連を検討する目的で免疫組織化学的検索を行った。トランスサイレチン(TTR)やSAPが、Aβアミロイドの沈着にどう関与するかも明らかでない。そこで、Hsiao博士が作製した遺伝性アルツハイマー病のトランスジェニックマウスモデルと分担研究者の前田らが作製した無TTRマウス及び無SAPマウスを用いて検討した。加藤らは酵母で、分子シャペロン欠損によるアミロイド変異体の分泌について検討した。5.その他の動物アミロイドーシス:松井らは牛のアミロイドーシスについて、最近10年間における北海道での発生状況、年令分布等を調査し、また過去の症例の組織切片を用いてアミロイドの沈着部位を検索した。研究協力者の宇根は飼育チーター(Acinonyx jubatus )に多発するアミロイドーシスの病理発生を検討し、絶滅危惧種であるチーターの種の保存と関連し、ヒトのAAアミロイド症のモデル動物としての可能性も検討した。6.アミロイド促進(Amyloid enhancing factor, AEF)効果:詳細は未だ不明であるが、アミロイド線維自体にもAEF活性が存在することが報告され、Fibril-AEF(F-AEF)と呼ばれている。また、アミロイド線維を介してアミロイドーシスの発症が促進される可能性を示唆する報告もある。そこで、ヒトアミロイド線維にいくつかの処理を行うことによって、マウスに対するヒトF-AEF活性の抑制方法について検討した。7.マウスAApoAIIアミロイドーシス発症促進物質の伝播機構:樋口らは既にマウスAApoAIIアミロイドーシスにおいて発症促進物質の伝播がアミロイドーシス発症に重要な役割を担っている可能性を1)実験的伝播、2)水平伝播、3)垂直伝播 等の事実より示唆してきた。今回、アミロイドーシスにおける伝播機構を明らかにするために、1)飼育室内水平伝播、2)母子間垂直伝播をより詳細に検討し、さらに3)伝播に必要なAApoAIIアミロイド線維量について検討した。8.FAP家系における表現促進現象の検討:家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)家系では、下の世代ほどその発症年齢が若年化するという現象が認められ、またこの表現促進現象は母から子への母系遺伝の際に顕著である。近年、実験動物では個体間での発症促進現象が存在することが報告され、このような現象の発現機序としては、アミロイド線維形成の重合核が個体間で伝達される可能性が示唆されている。今回は、FAPの表現促進現象がヒトにおける母子間でのアミロイドーシス発症促進因子の伝播に相当する可能性があるのかどうかを検討した。
結果と考察
1. ALアミロイド-シス患者では、骨髄中のDHEA-Sは極端に低く、IL-6は上昇していた。上昇しているIL-6を抑制するものが治療戦略の一つとして有力である可能性を示唆した。2.AAアミロイドーシスでは、IL-6抗体療法が、実験的AAアミロイドーシス発症において抑制効果がある事がわかった。3.Aβアミロイドーシス:内木らの開発した開放反応系は、種々の生体分子および有機化合物が線維形成に及ぼす影響を定量的に解析し、そのメカニズムを解明する上で極めて有用である。東海林らは、可溶性Aβオリゴマ-やAD患者脳Aβオリゴマ-の病原性検討を主眼とし、これまでに血液中からのマウス脳内、特に老人斑への移行をMRI画像にて検証する為のprobeを作成している。腸管細胞にAβ抗原を強制発現させた場合、抗体産生は誘導されたが、細胞性免疫は惹起されなかった。4.アミロイドーシスにおける共存蛋白では、Amyloid P component (AP)およびapolipoprotein E (Apo E)はアミロイド線維蛋白と共存し線維形成において何らかの役割を果たしている。Double mutationのマウスの実験では、遺伝性アルツハイマー病でのAβアミロイドの沈着におけるTTRやSAPの関与について検討し、SAPは脳内Aβアミロイド沈着の初期の段階を遅らせることを示唆した。ヒトシスタチンCの類似タンパク質として、酵母発現系でヒト型ホモログであるニワトリシスタチンを用いて、アミロイド型変異体を作成することがで
きた。5.その他の動物アミロイドーシス:最近10年間における北海道での牛のアミロイドーシス発生状況、年令分布等を報告した。牛アミロイドは比較的めずらしい病気で、病期途中の状態では発見されづらいと思われた。久保らはアミロイド症の発生頻度と病理像を明らかにするために、茨城県、千葉県でBSEの検査を行った牛のホルマリン固定した腎臓の組織標本を作製し、アミロイドは、2/150例の腎臓で見つかり、9歳と13歳の高齢であった。飼育下チーターには、AAアミロイドが高率に沈着し、これが死因として最も重要であることが明らかになった。6.アミロイド促進(Amyloid enhancing factor, AEF)効果について:アミロイド線維へのオートクレーブ処理によりF-AEF活性は抑制された。塩酸グアニジン処理をしたアミロイド線維の皮下投与による免疫により、強いF-AEF抑制が認められた。7.マウスAApoAIIアミロイドーシス発症促進物質の伝播機構の解析:AApoAII好発系で、アミロイドーシスの同一飼育室内での水平伝播が示唆され、嫌発系であるSAMR1では観察されなかった。出生後の母子間垂直伝播が示唆されたが、伝播経路についてはまだ不明である。またAApoAIIアミロイド線維は極微量(<10-7μg)でも伝播が可能であることが判明した。8. FAP患者家系では、アミロイド線維あるいはアミロイド原性蛋白質が臍帯血あるいは母乳を介して母子間で伝播する可能性があり、そのことはFAP家系で認められる表現促進現象の原因となる可能性がある事がわかった。
結論
各種アミロイド病型に関して、アミロイド伝播に関する事、治療法、動物モデル等の研究の集積がされつつあり、次年度以降の研究の基礎が出来たと考えられる。

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