脊髄小脳変性症の画期的診断・治療に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200738A
報告書区分
総括
研究課題名
脊髄小脳変性症の画期的診断・治療に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
辻 貞俊(産業医科大学医学部神経内科)
研究分担者(所属機関)
  • 志賀裕正(東北大学医学部附属病院神経内科)
  • 廣田伸之(大津市民病院神経内科神経難病治療センター)
  • 眞野行生(北海道大学大学院医学研究科リハビリテーション医学分野)
  • 湯浅龍彦(国立精神神経センター国府台病院神経内科)
  • 宇川義一(東京大学医学部附属病院神経内)
  • 荒川健次(国立療養所筑後病院神経内科)
  • 榎本博之(国立療養所道北病院神経内科)
  • 岡本幸市(群馬大学医学部神経内科)
  • 荻野 裕(北里大学東病院神経内科)
  • 加知輝彦(国立中部病院神経内科)
  • 久野貞子(国立療養所宇多野病院臨床研究部)
  • 小森哲夫(東京都立神経病院神経内科)
  • 峠 哲男(香川医科大学第三内科)
  • 飛松省三(九州大学大学院医学研究院脳研臨床神経生理)
  • 中島健二(鳥取大学医学部脳神経内科臨床神経学)
  • 中村範行(順天堂大学医学部附属順天堂浦安病院脳神経内科)
  • 中村雄作(近畿大学医学部堺病院神経内科)
  • 橋本隆男(信州大学第三内科)
  • 林 明人(順天堂大学医学部臨床病理学教室脳神経内科)
  • 早原敏之(国立療養所南岡山病院臨床研究部神経内科)
  • 福留隆泰(国立療養所川棚病院神経内科)
  • 藤木 稔(大分医科大学脳神経外科学講座)
  • 藤本健一(自治医科大学神経内科)
  • 堀内正浩(聖マリアンナ医科大学神経内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、未だ決定的な治療法が限られている神経難病に脳磁気刺激による治療が有用なのか、どの様な刺激方法が最も有効性を持ちうるかを検討することである。前年度までに行ったパーキンソン病を対象とした磁気刺激治療研究を踏まえ、本年度は脊髄小脳変性症を対象として検討を開始した。
研究方法
患者さんへの治療効果に関する研究におけるsham刺激(コントロール刺激)実施の重要性を考慮し、パーキンソン病への治療応用の研究結果を踏まえ、平成14年度からは脊髄小脳変性症を対象とし、患者を小脳刺激・運動野刺激・sham刺激(Control刺激)の3種類の刺激方法で個別に刺激し、各患者さんの失調症状(ICARS:International Cooperative Ataxia Rating Scale)・うつ症状(HRSD:Hamilton Rating Scale of Depression)・自覚症状について評価を行った.sham刺激はパーキンソン病での治療研究の際に採用した、磁気刺激の際に発生するclick音、頭皮上に電流を誘発する方法で行った。また0.2Hzという低頻度の連続磁気刺激を行った。刺激強度は運動野刺激閾値の1.3倍の刺激強度を用いた。さらに上記評価に際して、効果判定の公平さを保つため、磁気刺激を行う医師と効果判定を行う医師は別の医師とし、刺激方法は判定医師にブラインドとした。以上の対象患者エントリー・刺激方法に関しては、各施設の倫理委員会ないし当該委員会・会議などで承認を得て行い、一方対象患者に対しては個別に文書による充分な説明と完全な理解・同意を得た。具体的には患者に対し、症状の改善がみられるかどうか不明だが試みとして行う旨よく説明し、インフォームドコンセントを得た。また、プライバシーの保護を考え、データの解析・発表に当たっては,患者が同定されるような氏名・イニシャルなどは一切使用せず、更に得られたデータベースの保管に際しても外部への漏洩が完全にない状況に留意した。
結果と考察
現時点では各施設に於ける症例のエントリーが完全には終了しておらず、総数71名の患者さんのキーオープンされていない治療結果のみの報告が各施設より寄せられている状態である。このため、運動野(M)刺激・後頭部(O)刺激・Sham(S)刺激の3刺激方法に無作為に割り振られた71名のSCD患者(被検者は男性32名,女性39名.被検者の平均年齢は58±13.8歳(平均±標準偏差)、発症年齢は47.6±15.2歳(平均±標準偏差)、罹病期間は10.5±7.9年(平均±標準偏差))を対象とした刺激方法毎に分類しない全数解析を行
った。解析には反復分散分析を用いた。まず最初に、ICARSの変動についてはわずかながら統計学的に有意な症状の改善を得ることが出来、刺激4週目に最大の改善を得た。改善度は最大でも -2/100程度であった。次に、HRSDに関してはscore上ほとんど変動を認めなかった。最後に自覚症状についても変動を検討したが、全ての被検者で統計学的に有意な改善を認めなかった。治療経過のみが臨床症状の推移に影響しており、特に磁気刺激治療最中の症状の改善を認めた一方で、うつ症状及び自覚症状の改善は皆無であった事が判明した。しかしながら、現段階では最終的なキーオープンを行っていない段階であり、従って刺激方法毎の有効性について優劣を論ずることは困難である。今後、現時点で各施設において試験実施中の症例を含め、さらに症例の蓄積を行い、キーオープンにより各刺激方法間の比較検討を行う予定である。
結論
現段階の研究結果から、ICARSが磁気刺激により改善しうる可能性があることを確認し得、脊髄小脳変性症に対して、有用である可能性は示唆された。しかし、検討症例数が絶対的に不足しており、この結果を持って、本治療方法の効果を論ずることは不可能である。実刺激がコントロール刺激としてのsham刺激を上回る効果を有するのかどうか、脊髄小脳変性症の中でもどの臨床タイプの疾患に対して有用であり得るのかは不明であり、今回の結果が刺激方法の分別を行わない全数解析であったことからも今後の症例蓄積およびキーオープン後の解析を行わなければならない。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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