特定疾患対策のための免疫学的手法の開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200729A
報告書区分
総括
研究課題名
特定疾患対策のための免疫学的手法の開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
住田 孝之(筑波大学)
研究分担者(所属機関)
  • 山本一彦(東京大学)
  • 小池隆夫(北海道大学)
  • 三森経世(京都大学)
  • 西村泰治(熊本大学)
  • 山村隆(国立精神・神経センター)
  • 上阪等(東京医科歯科大学)
  • 松本功(筑波大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
42,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班のテーマは、『免疫難病発症の分子機構について、分子免疫学的なアプローチにより解明し、サイエンスに基づく特異的治療を開発することである。そのために、病因となっている自己抗原、自己反応性リンパ球の抗原受容体、抗原提示細胞上の拘束分子を検出、解析、制御する基盤技術を開発、推進すること』である。
本研究班は、特定疾患に関する横断的な免疫研究班として、平成8年度に山本一彦教授を主任研究者として発足し、平成13年度までの6年間に研究成果をあげてきた。本年度から、住田が主任研究者として本研究班を継承し、これまでの研究成果をさらに発展させ基盤技術を開発することにより、免疫難病を抗原特異的に制御する実践的な治療戦略を確立する。
抗原特異的な制御方法をめざすため、自己抗原、B細胞およびT細胞の抗原受容体、抗原提示細胞上の主要組織適合抗原(MHC)が主要なターゲット分子となる。本研究班は新しい治療開発に向けた技術・システムの開発が主目的となる横断班であるため、対象疾患は免疫難病であること以外は限定していない。
研究方法
研究方法と結果=1)(住田)免疫難病の代表的疾患であるシェーグレン症候群(SS)および関節リウマチ (RA)において、T細胞が認識する自己抗原のT細胞エピトープを決定し、それぞれのアナログペプチドを明らかにした。SSにおいては、HLA-DR B1*0405陽性SS患者におけるa-アミラーゼのT細胞エピトープ(NPFRPWWERYQPV, AA68-80)をまず決定した。それを基に6種類の変異ペプチドを合成しIFN-gを指標としたMACSサイトカイン産生アッセイを指標をしてアナログペプチドを選定した。その結果、NPFRPWWVRYQPVがアナログペプチドの候補として明らかにされた。RAにおいては、まず、HLA-DR B1*0101陽性RA患者におけるCIIのT細胞エピトープGKPGIAGFKGEQGPKG(AA256-271)を決定した。予想される変異ペプチドを21種類合成し、末梢血T細胞および樹立したT細胞株を用いて、アナログペプチドの選定をおこなった。その結果、10種類の変異ペプチドがT細胞の増殖反応を60%以上抑制する効果を示しアナログペプチドとして機能していることが明かとなった。そのうち、GKPGIAD/AFKGEQGPKGの2種類のペプチドは、予想される2つのHLA結合モデルにおいて抑制効果を示したため、強いアナログペプチドとして期待される。
2)(上阪)特定疾患の一つである多発筋炎において、発症に係わる自己抗原を明らかにすることを目的として、筋内浸潤T細胞が認識する責任自己抗原の解析を二つの方法で行った。第一の方法は、モデル動物において自己免疫性筋炎を誘導することがすでに判明しているC-proteinに着目し、それに対する自己抗体、T細胞増殖反応を検討した。結果として、筋炎患者と健常人において優位な差が認められず、今後の検討が必要と結論ずけられた。第二の方法は、TCR reverse-genetics法である。これは、患者から病因CD8+T 細胞クローンを樹立し、筋cDNAライブラリーを発現する抗原提示細胞を用いて、対応抗原を同定する方法である。本年度は、TCRBV2+ CD8+T細胞クローンの樹立をHerpes virus saimiri(HVS)を用いて成功した。また、患者由来末梢血B細胞をEBVで不死化し、さらにEcotropicレトロウイルス受容体を導入することにより、レトロウイルスによる遺伝子導入が可能なB細胞クローン(抗原提示細胞)の作成にも成功した。
3)(西村)樹状細胞がT細胞に対する主要な抗原提示細胞であり免疫応答を正・負両方向に制御していることに注目した。本研究では、樹状細胞に遺伝子導入してT細胞の免疫応答を制御し、自己免疫疾患を抗原特異的に治療することを目的とした。すでに、マウスES細胞からin vitroで樹状細胞へ分化誘導する方法を確立している。本年度は、アクチンプロモータ-+IRES-Puro-Rを含む発現ベクターを用いることにより、遺伝子導入したES細胞を樹状細胞に分化する方法を確立した。また、Cre-Loxシステムを用いた遺伝子置換法による遺伝子導入も成功した。さらに、OVAに対する抗原特異的なT細胞ハイブリドーマを用いた実験から、遺伝子導入樹状細胞が、実際にin vitro, in vivoにおいて細胞傷害性T細胞を活性化することを明らかにした。
4)(山本)臓器に集積したT細胞を人工的に再構築し、新たに抑制機能を付加することにより、免疫難病を抗原特異的に制御することを目的とした。方法は、浸潤T細胞の抗原受容体(TCR)遺伝子(TCRVa, Vb)を単細胞レベルで単離し、感染性レトロウイルスベクターに組み込みトランスフェクタントを作成し、その抗原特異性を検定することである。本年度は、マウスのHIV免疫応答モデルを用いて、抗原P18IIIB(HIVのT細胞エピトープの一つ)に対するCTLT細胞クローン(TCRVa2, Vb7)をターゲットとしてsingle cell sorting法とsingle cell PCR法を用いてTCR遺伝子をクローニングした。レトロベクターを用いて脾細胞に遺伝子導入後、HIVに対する細胞傷害機能を確認した。
5)(山村)多発性硬化症(MS)におけるNKT細胞の機能を明らかにし、NKT細胞を介した自己免疫応答の調節をすることを目的として、DNNKT細胞とCD4+NKT細胞の定量、サイトカイン産生を検討した。方法として、患者末梢血中NKT細胞数をTCRVa24, Vb11に対する抗体およびCD1dテトラマーを用いて定量した。その結果、MSの寛解期にはDNNKT細胞は減少するが、寛解期にはCD4+NKT細胞数は変化しなかった。また、CD4+NKT細胞はIL-4産生を多量に産生していた。以上の結果から、MS寛解期にはCD4+NKT細胞がTh2細胞へシフトして寛解維持に働いていると考えられた。
6)(三森)特定疾患の代表的疾患である全身性エリテマトーデス(SLE)において、自己反応性T細胞をワクチネーションすることにより自己抗体産生を制御することを目的とした。SLEのモデル動物であるMRL/Mp-Faslprマウスに、ヒストンとdsDNAに反応し抗dsDNA抗体を産生するCD4+abTh1細胞(dna51)を放射線照射後に移入した場合、抗dsDNA抗体価の減少、糸球体腎炎の活動性の低下がみられた。さらに、抗dsDNA抗体産生をヘルプするCD4+Vb8.3T細胞が減少し、dna51に対する抗体も認められた。これらの事実から、dna51T細胞のワクチネーションによりT細胞に対する抗体を介して自己抗体の産生が制御できることが明らかにされた。
7)(松本)関節炎を誘導する自己抗体の一つである抗GPI抗体に関して、関節炎の発症機構の解明および抗体産生の制御を目的として、関節リウマチ(RA)患者末梢血中の抗GPI抗体価を測定した。さらに、関節炎の制御システムを構築するために、NOD-SCIDマウスやカニクイザルを用いた関節炎モデルの作成を試みた。本年度は、RAにおける抗GPI抗体が約5%に検出されること、GPI反応性T細胞が末梢血に存在すること、NOD-SCIDマウスの脾臓にヒトリンパ球を移入することによりマウスにヒトの免疫系を構築することができること、を報告した。
8)(小池)抗リン脂質抗体における主要対応抗原である、b2-グリコプロテインI (b2GPI)をプラスミンで処理したニックb2GPIの生物学的意義を明らかにし、抗原サイドから、自己抗体産生の制御方法を確立することを目的とした。ニックb2GPIは第VドメインのLys317/Thr318がプラスミンで切断されるため、リン脂質に対する結合能を失うことが判明している。本年度は、ニックb2GPIが第IVクリングルドメインのリジン結合部位によりglu-plasminogenに結合し、プラスミンの生成を抑制することを明らかにした。すなわち、ニックb2GPIは外因系線溶のnegative feedback を担っていると考えられる。今後、ニックb2GPIを介した抗リン脂質抗体の産生調節に関する研究が進められよう。

結果と考察
結論
考察と結論=本研究班は、免疫難病における自己免疫応答を抗原特異的に制御することを目的として、広範に応用されうる基盤技術の開発を目指している。本年度は、T細胞の対応抗原の分子レベルでの解析と変異ペプチドによる制御、抗原提示細胞の遺伝子操作によるT細胞機能の調節、T細胞受容体の再構築と抑制機能を持つ新たなT細胞の作成、調節性T細胞やヘルバーT細胞を用いた自己免疫応答の制御、新しい免疫病モデルの作成に関する基盤技術の開発は、国際的にもユニークかつエポックメイキングな発展性のある研究と評価できよう。

公開日・更新日

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