HB-EGFにかかわる新規拡張型心筋症モデルハウスの作成とその治療薬開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200728A
報告書区分
総括
研究課題名
HB-EGFにかかわる新規拡張型心筋症モデルハウスの作成とその治療薬開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
北風 政史(国立循環器病センター)
研究分担者(所属機関)
  • 友池仁暢(国立循環器病センター)
  • 宮武邦夫(国立循環器病センター)
  • 駒村和雄(国立循環器病センター)
  • 村松正明(東京医科歯科大学)
  • 堀正二(大阪大学医学系研究科)
  • 目加田英輔(大阪大学微生物研究所)
  • 東山繁樹(愛媛大学医学部第二医科)
  • 豊福利彦(大阪大学医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
36,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
特発性拡張型(うっ血型)心筋症による慢性心不全の病態解明を介して新規心不全治療薬の開発を行い、慢性心不全患者の予後および生活の質を向上させる。
研究方法
1)HB-EGFの心肥大シグナルにおける役割の解明
ラット培養心筋細胞を利用し、カテコラミン、アンジオテンシン、エンドセリン、LIF, などの生理活性物質を投与し、EGF受容体がリン酸化されるかどうかを検討する。このシグナル伝達にHB-EGFの膜からの遊離が関与するかをメタロプロテアーゼ阻害剤やHB-EGFの中和抗体を使用して検討する。さらにこれらの肥大刺激がHB-EGFのどの受容体によりもたらされるかを各受容体のリン酸化阻害剤等により検討した。
2)HB-EGF遺伝子改変モデルマウスを使用した心不全治療薬・心不全治療法の確立と臨床応用
現在我々が継代しているHB-EGF遺伝子改変拡張型心筋症モデルマウスは遺伝的背景を数種の系統に均一化したものを実験に使用する。このマウスは進行性の心不全をきたし約20週で死亡する。この生存曲線を均一にすることが薬剤及び遺伝子導入、細胞移植などの心不全治療のスクリーニングをおこなううえで最も重要である。現在心不全治療薬として認知されている治療薬の中でも効果の違い等が指摘されているものがあり、投与薬剤の使用による予後の変化を詳細に検討し、最も心不全に効果の高い投与時期、投与薬剤、及び薬剤の組み合わせを選択する。また近年急速に進みつつある遺伝子治療・細胞移植においても均一な心不全モデルを使用することにより正確な効果判定を行なう。さらにHB-EGF遺伝子変異心不全マウスにおいて、HB-EGFを介するシグナルのどの部分が心筋代謝に重要であるかが問題となった。HB-EGFは4週類のEGF受容体のすべてをリン酸化することが可能であるためどの受容体を介するかは不明であった。臨床ではEGF受容体のひとつであるHER2の中和抗体により心不全が発症することHER2の心筋特異的欠損マウスが心不全を呈することが知られており、HB-EGFの作用がHER2を介する可能性が高い。実際HB-EGFを全身で欠損するマウスは心臓におけるHER2と他のEGF受容体の一つであるHER4の自己リン酸化が抑制されることが判明した。しかし、さらにHB-EGFの心臓シグナルに重要な受容体を明確にする必要がある。我々はこのHB-EGF膜プロセシング障害心不全モデルマウスをHB-EGFの外部からの投与及び心筋に特異に発現したマウスとのかけあわせで救済できるかを検討する。また各種EGFリガンドの投与及びその心臓特異的発現マウスとの掛け合わせを行なうべくマウス作成を行なった。
3)心筋症モデルマウスの心不全発症のメカニズムの解明
他のトランスゲニックマウスとの交配による心不全の救済
現在HER1,2,3を活性化させるがHER4を活性化させないTGF-alphaさらにHER2,3,4を活性化させるが1を活性化させないneuregulin1の心臓特異的発現マウスを作成、各数系統のマウスが確立させた。今後心不全マウスと掛け合わすことによりHB-EGFの作用がどの受容体を介するかを明らかにしていく予定である。
4)ヒト拡張型心筋症における遺伝子多型解析
心不全患者の血液よりインフォームドコンセントを得たうえでDNAを採取し、心不全関連遺伝子の遺伝子多型の解析をおこなった。そのなかでHB-EGF関連の遺伝子を抽出し心不全発症との相関を検討した。
結果と考察
1)HB-EGFの心肥大シグナルにおける役割の解明
ラット培養心筋細胞においてカテコラミン、アンジオテンシン、エンドセリン、LIF等で刺激するとEGF受容体1がリン酸化されこのtransactivationはHB-EGFの中和抗体及びメタロプロテアーゼ阻害剤KBR-7785により抑制された。またHB-EGFは心筋細胞においてEGF受容体1のみでなく2及び4もリン酸化することが明らかになった。
2)HB-EGF遺伝子改変モデルマウスを使用した心不全治療薬・心不全治療法の確立と臨床応用
この項目に関しての実施状況は前述したように遺伝的背景が均一で予後の安定した大量のマウスの確保という時点までしか及ばず、薬剤等のスクリーニン等にはいたっていない。現在本目的のために確立しつつあるマウスは増殖因子HB-EGFの遺伝子を欠損させそこにHB-EGFの膜からプロセシングされない変異HB-EGF遺伝子をゲノム上の同部位に導入したものである。本年はさらにHB-EGFが心筋特異的に欠損するマウス、全身で欠損するマウス〈以上はCre-loxシステムを利用〉、膜結合型は発現せず遊離型のHB-EGFのみ発現するマウス(上記と同じknock-out, knock inのシステムを利用)等も作成中である。そのうちHB-EGFを全身で欠損するマウスはすでに作成が終了し、HB-EGFのプロセシングを受けないマウスより重症の心不全をきたす事が判明した。これらのマウスより得られた心筋細胞を利用して現在HB-EGFと心筋細胞代謝との関連を検討して、これら心不全マウスの救済手段を明らかにする予定である。
3)心筋症モデルマウスの心不全発症のメカニズムの解明
他のトランスゲニックマウスとの交配による心不全の救済
現在HER1,2,3を活性化させるがHER4を活性化させないTGF-alphaさらにHER2,3,4を活性化させるが1を活性化させないneuregulin1の心臓特異的発現マウスを作成、各数系統のマウスが確立させた。今後心不全マウスと掛け合わすことによりHB-EGFの作用がどの受容体を介するかを明らかにしていく予定である。
4)ヒト拡張型心筋症における遺伝子多型解析
ヒト遺伝子多型解析に関しては倫理委員会の申請がほぼ完了したことから、インフォームドコンセントの取得のもと、血液サンプルの収集を開始している。
結論
HB-EGFの心肥大のシグナルに重要な因子であるのみならず心筋代謝にも必須の因子でありその欠乏は心筋細胞の不全をもたらす。HB-EGF遺伝子欠損マウスはヒト拡張型心筋症のモデルマウスとして使用できる可能性が示唆された。今回はHB-EGF遺伝子改変マウスの遺伝子背景を均一化することにより、予後の安定した心不全モデルマウスを繁殖できた。またこのマウスを救済するための掛け合わせ用のマウス3種の系統を確立した。さらにヒトでの関与を明らかにするために心不全患者の遺伝子解析を始めるべく血液サンプリングを開始した。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-