特定疾患の微生物学的原因究明に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200727A
報告書区分
総括
研究課題名
特定疾患の微生物学的原因究明に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
佐多 徹太郎(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 山西弘一(大阪大学医学部)
  • 岩崎琢也(長崎大学熱帯医学研究所)
  • 生田和良(大阪大学微生物病研究所)
  • 鈴木和男(国立感染症研究所)
  • 結城伸泰(独協医科大学神経内科)
  • 高昌星(信州大学医学部)
  • 江石義信(東京医科歯科大学付属病院)
  • 渡辺邦友(岐阜大学医学部附属嫌気性菌実験施設)
  • 荒川宜親(国立感染症研究所)
  • 永武毅(長崎大学熱帯医学研究所)
  • 山谷睦雄(東北大学医学部付属病院)
  • 村田幸作(京都大学大学院農学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
特定疾患と定義される疾患の大部分は原因が不明で、それ故原因療法ができないでいる。特定疾患の原因としてウイルスや細菌あるいはそれらの産物が引き金となり自己免疫疾患が惹起されたり、微生物の潜伏・持続感染、あるいはそれらの再活性化により、さらには未知の病原体の関与が示唆される。当研究班では特定疾患を引き起こす病原体、その発症機序を臨床研究班と密接に連携をとり、明らかにすることにより原因究明を行ない、その結果として発症の予防あるいは効果的な治療法の開発に結び付けることを目的とする。
研究方法
下記の項目について研究を行った。
1)神経変性疾患における起因ウイルスの解析については、パ?キンソン病患者剖検脳でのボルナ病ウイルスの検出とその普遍性について詳細に検討するとともに、このウイルスのp24蛋白の脳内発現と神経組織への影響について検索する(生田)。
2)ギランバレ?症候群の発症に関わる病原因子や宿主因子の解明については、C. jejuni腸炎後ギランバレー症候群患者のT細胞レパトアを検討する(結城)。またGM1の末梢神経内局在について検討する(高)。
3)特発性心筋症の病因ウイルスの解明については、特発性心筋症特に拡張型心筋症の急性期、亜急性期より採取された心内膜下心筋生検組織のウイルスゲノム(PCR、サブトラクション法による)の有無、宿主の反応の変動解析を行う(岩崎)。
4)サルコイド?シスの病因解明については、P. acnesがサルコイドーシスの類上皮細胞に特異的に局在することから、この疾患の疾病素因を検証する(江石)。また患者、感染症におけるP. acnesの宿主内動態と病原性発現を微生物学的に明らかにする(渡辺)。
5)慢性難治性気道感染症疾患における微生物感染の関与とその除去方法の開発については、慢性肺気腫の呼吸不全における気道ライノウイルス感染と細菌感染の関係を明らかにする(山谷)。ムコイド型緑膿菌による慢性持続性気道感染におけるアポトーシス好中球のクレアランス機構の関与を明らかにし、病態改善に向けた制御法を探る(永武)。多数の病原性細菌がバイオフィルムを形成しこれが重篤な呼吸器系疾患を発症する。緑濃菌のバイオフィルム形成に関与するポリリン酸キナーゼ阻害剤の開発を行う(村田)。
6)難治性血管炎と真菌の関与については、発症機序のひとつとして、カンジダの成分が冠状動脈炎を誘導することを分子的に明らかにし、真菌の菌側因子と生体側の分子の相互関係を解析して血管炎の原因究明を行う(鈴木)。
7)神経疾患および消化器疾患の起因ウイルスの解明については、多発性硬化症(MS)患者の髄液、クローン病患者の腸管リンパ節及び血清中における HHV-6およびHHV-7 DNAの存在をnested PCR法により検索する。(山西)。
8)既知のウイルス、細菌を用いた特定疾患との関連の探索については、マイコプラズマとギランバレー症候群、IgA腎症、特発性間質性肺炎等の難病につき抗体解析、分離等の方法により関連を探索する(荒川)。一方ヒトに潜伏・持続感染するウイルスと特定疾患との関わりを探索する(佐多)。
結果と考察
下記項目の研究結果をえた。
1)神経変性疾患における起因ウイルスの解析については、アルツハイマー病患者の剖検脳組織を2種類のRT-PCR法で調べたところ3/6例でボルナ病ウイルス(BDV)が陽性で、またin situ hybriidzation法では2/7例が陽性となった。スナネズミの脳内にBDVを接種すると、1日齢では全例神経症状が出現し、7日齢では75%、14日齢では25%が死亡した。神経症状のある個体では脳幹下部でのウイルスの発現との関連があった(生田)。
2)ギラン・バレ?症候群の発症に関わる病原因子、宿主因子の解明
ギランバレー症候群患者のT細胞の性状について末梢血T細胞のレパトアを解析した。疾患に共通して利用される特定の遺伝子はないと考えられた(結城)。末梢神経ではGM1は髄鞘にあり軸索にはみられなかったので、ギランバレー症候群における軸索障害にはほかの機序も検討する必要があると考えられた(高)。
3)特発性心筋症の病因ウイルスの解明
コクサッキーウイルスB群のウイルス構成蛋白抗体の作製、乳のみマウス感染実験、そして人体剖検例の検索をおこなった。乳のみマウスでは中枢神経組織と横紋筋にウイルス抗原が検出された。心筋組織では陽性が疑われた程度であったが、ヒト剖検例では心筋組織の炎症性細胞浸潤がある部分にウイルス抗原が検出できた(岩崎)。
4)サルコイド?シスの病因解明
外科的切除された組織から直接細菌培養を行ったところ、末梢肺や肺所属リンパ節の多くにP. acnesが単独で分離されたが、胃、大腸所属リンパ節では他の腸内細菌も伴っていた。RAPD法による分離菌の検討では、臓器ごとに異なる遺伝子型を持っていることが分かった(江石)。Propionibacteriumの分離を容易にするための新規培地を作製し、糞便中の分離を行い、そのデータから、罹患年数1-2年のサルコイドーシス患者糞便から有意に高率にPropionibacteriumが分離されるという結果をえた(渡邊)。
5)慢性難治性気道感染症疾患における微生物感染の関与とその除去方法の開発
培養ヒト気道上皮および粘膜下腺細胞培養系でライノウイルス感染とムチン産生との関連を調べた。感染早期にムチンのmRNA産生が増加し、培養液中のムチン量も増加した。これらはエリスロマイシン投与で抑制された(山谷)。びまん性肺疾患などの慢性気道感染症におけるマクロライド系抗菌薬の効果について検討した。活性化好中球のIL-8 mRNA発現抑制、肺胞マクロファージのアポトーシス好中球貪食の促進、炎症誘導の抑制が明らかとなった(永武)。緑膿菌バイオフィルム感染症におけるバイオフィルムの合成と分解に関わるポリリン酸キナーゼとアルギン酸リアーゼの大量発現・精製系の確立と酵素学的性質の決定ならびに部位特異的変異による活性アミノ酸残基の同定を行った(村田)。
6)難治性血管炎と真菌の関与
C. albicans由来物質をマウスに投与することにより冠状動脈炎を誘導した。in vivoイメージングで血流状態を観察したところ、腎血流障害がわかった。CAWS投与後の脾臓のサイトカインレベルはIFNγ、IL-6、IL-10が血管炎と連動して発現した。さらに血管内皮細胞障害に関わるMAPKのカスケードを検討したところ、Caspase 8と連動するp38MAPKの関与があることがわかった(鈴木)。
7)神経疾患および消化器疾患の起因ウイルスの解明
クローン病患者の直腸生検組織からnested PCR法でHHV-6 DNAは50%、HHV-7 DNAは40%に検出された(山西)。
8)既知のウイルス、細菌を用いて特定疾患との関連の探索
ギランバレー症候群患者血清中の抗マイコプラズマ抗体を測定した。M. pneumoniae抗体とM. fermentans抗体はともにギランバレー症候群患者117例中2例(1.7%)であった。1例は寒冷凝集反応が高値を示した。またELISA法改良を目的としてリコンビナント蛋白を作製し特異性について検討した(荒川)。特発性造血器障害患者の58検体についてHHV-8のPCRによる検出とHHV-8抗体測定を行った。Nested PCR法でも陰性で、血清抗体も陰性であり、HHV-8の関与は低いと考えられた(佐多)。
結論
アルツハイマー病脳組織にもBDVが高率に存在していた。ギランバレー症候群におけるT細胞レパトアには特定の遺伝子の利用はないことが判明した。特発性心筋症の原因を探る目的で免疫組織化学的検索が可能となった。種々の臓器組織から分離したアクネ菌はそれぞれ異なる遺伝子型を持つことが明らかとなった。ヒト気道培養細胞系にライノウイルスを感染させるとムチンのmRNA合成が亢進した。またびまん性肺疾患患者由来の好中球はIL-8 mRNAを発現しアポトーシスが進行した。これらはエリスロマイシンで抑制された。アルギン酸リアーゼの大量発現を行い酵素学的性質と活性アミノ酸残基を同定した。C. albicans由来物質でマウスに血管炎を誘導した。クローン病患者の直腸粘膜生検組織でHHV-6 DNAが検出された。マイコプラズマ抗体測定系を作出した。特発性造血器障害患者検体にHHV-8は検出されなかった。

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