スモンに関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200726A
報告書区分
総括
研究課題名
スモンに関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
松岡 幸彦(国立療養所東名古屋病院)
研究分担者(所属機関)
  • 小長谷正明(国立療養所鈴鹿病院)
  • 岩下宏(国立療養所筑後病院)
  • 小西哲郎(国立療養所宇多野病院)
  • 祖父江元(名古屋大学大学院)
  • 高瀬貞夫(広南病院)
  • 早原敏之(国立療養所南岡山病院)
  • 松本昭久(市立札幌病院)
  • 水谷智彦(日本大学)
  • 宮田和明(日本福祉大学)
  • 氏平高敏(名古屋市衛生研究所)
  • 阿部康二(岡山大学大学院)
  • 阿部憲男(国立療養所岩手病院)
  • 安藤徳彦(横浜市立大学)
  • 池田修一(信州大学)
  • 一居誠(大阪府健康福祉部)
  • 乾俊夫(国立療養所徳島病院)
  • 上田進彦(大阪市立総合医療センター)
  • 上野聡(奈良県立医科大学)
  • 宇山英一郎(熊本大学)
  • 大井清文(いわてリハビリテーションセンター)
  • 大竹敏之(東京都立神経病院)
  • 岡本幸市(群馬大学)
  • 岡山健次(大宮赤十字病院)
  • 階堂三砂子(市立堺病院)
  • 蔭山博司(国立療養所北海道第一病院)
  • 片桐忠(山形県立河北病院)
  • 吉良潤一(九州大学医学研究院)
  • 栗山勝(福井医科大学)
  • 佐藤正久(新潟大学)
  • 三宮邦裕(大分医科大学)
  • 塩澤全司(山梨大学)
  • 塩屋敬一(国立療養所宮崎東病院)
  • 渋谷統寿(国立療養所川棚病院)
  • 島功二(国立療養所札幌南病院)
  • 下田光太郎(国立療養所西鳥取病院)
  • 庄司進一(筑波大学)
  • 神野進(国立療養所刀根山病院)
  • 杉村公也(名古屋大学)
  • 高橋光雄(近畿大学)
  • 竹内博明(香川医科大学)
  • 田中宏之(北海道保健福祉部)
  • 千田富義(秋田県立リハビリテーション精神医療センター)
  • 千野直一(慶應義塾大学)
  • 津坂和文(釧路労災病院)
  • 椿原彰夫(川崎医科大学)
  • 寺澤捷年(富山医科薬科大学)
  • 中瀬浩史(虎の門病院)
  • 中野今治(自治医科大学)
  • 西郡光昭(宮城教育大学)
  • 長谷川一子(国立相模原病院)
  • 蜂須賀研二(産業医科大学)
  • 服部孝道(千葉大学大学院)
  • 林正男(石川県健康福祉部)
  • 林理之(大津市民病院)
  • 舟川格(国立療養所兵庫中央病院)
  • 松永宗雄(弘前大学)
  • 松本一年(愛知県健康福祉部)
  • 丸山征郎(鹿児島大学)
  • 溝口功一(国立療養所静岡神経医療センター)
  • 森松光紀(山口大学)
  • 森若文雄(国立療養所札幌南病院)
  • 山下元司(高知県立芸陽病院)
  • 山下順章(松山赤十字病院)
  • 山田淳夫(国立病院呉医療センター)
  • 山本悌司(福島県立医科大学)
  • 雪竹基弘(佐賀医科大学)
  • 吉田宗平(関西鍼灸短期大学)
  • 鷲見幸彦(国立療養所中部病院)
  • 渡辺幸夫(大垣市民病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
100,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
薬害スモンに対する国の恒久対策という特性をふまえ、以下のような目的のもとに活動を行った。まず、スモン患者の恒久対策として、全国的な患者検診を実施し、現状を把握するとともに、問題点を明らかにすること。とくに患者の高齢化とともに増加している合併症の実態を把握し、その対策を立てること。加齢に伴うADLの変化を明らかにし、QOLの向上対策を立てること。異常感覚などに対する対症治療を開発すること。介護問題の実情を検討すること。スモンの風化防止、啓蒙のための活動を行うこと。
研究方法
全国を北海道、東北、関東甲越、中部、近畿、中国四国、九州の7ブロックに分け、各都道府県には原則1名以上の医療システム委員を配置して、統一の個人調査票を用いた患者検診を行った。個人調査票は各ブロックごとに集計し、さらに医療システム委員長が全国集計を行った。また、介護調査票を用いた介護に関する調査も同様に実施した。そのほか、各分担研究者が班の研究目的に沿って、独自の方法で調査・研究を行った。
結果と考察
全国で1,035例のスモン患者の検診を行った。男性276例、女性759例で、男女比は1:2.75。年齢構成は、65-74歳が38.7%、75-84歳が32.4%、85歳以上が11.0%となっており、ますます高齢化が顕著となっていた。新規受診患者は33例であった。身体状況としては、「新聞の大見出しは読める」以上の視力障害は39.7%に、「1本杖歩行」以上の歩行障害は47.7%にみられた。中等度以上の下肢筋力低下は41.6%に、中等度以上の下肢痙縮は26.1%
に、中等度以上の振動覚障害は67.4%に、中等度以上の異常感覚は78.9%にみられた。何らかの合併症を92.8%の患者で認め、高頻度であったのは、白内障56.2%、高血圧40.2%、脊椎疾患35.5%、四肢関節疾患31.5%などであった。診察時の障害度は、極めて重度4.5%、重度19.7%、中等度43.0%であった。障害要因はスモン36.3%、スモン+合併症52.7%、合併症1.0%、スモン+加齢7.2%であった。患者の障害度に影響を及ぼす合併症の推移についての検討では、総件数は平成3年の75件から、6年は136件と増加し、9年には150件と倍増し、12年には207件と3倍近くになっていた。循環器疾患、白内障、四肢関節疾患、脊椎疾患などの増加が目立った。痴呆の有病率について予報的な検討がされたが、この点については、近年キノホルムがアルツハイマー病の治療薬となる可能性が欧米で示唆されていることもあり、今後さらなる検討が必要と考えられた。スモンでは患者のADLが年々低下していることが報告された。同一患者で10m距離最大歩行速度などを測定すると、骨折などの合併症がなくとも、5~6年の間にかなり低下していることが明らかとなり、これは主に加齢によるものと考えられた。そのほか、歩行能力が悪化した患者においては、膝関節症などの合併症による疼痛・転倒不安が大きな要因となっているとの報告もなされ、結局のところスモン患者のADLには、スモンによる元々の神経系障害に、加齢、合併症が加わって複雑な様相を呈しているものと考えられた。これらに対処するには、スモンをよく知るスタッフによる指導体制の確立が必要と考えられた。スモン患者では精神症状を示すものが少なくないことや、ストレスコーピングに関する検査では、積極的かつ誠実に問題解決に取り組もうとする一方、情動中心の対処戦略を示すものが多かったとの報告がなされた。このような精神医学的評価やQOL評価については、多数例について一定の尺度で評価するなど、今後さらに検討を進めることが必要であると考えられた。介護状況については、今年度も全国調査を行った。その結果、介護の必要度では、毎日介護してもらっているが21.1%、必要なときに介護してもらっているが35.0%、介護は必要ないが41.8%であり、従来よりも介護を必要とする状況が進んでいた。介護保険の申請率も34.4%と、次第に増加していた。認定結果については、おおむね妥当が51.3%、自分の状態と比べて低いと思うが27.3%であった。スモンの風化防止・啓蒙の目的で、「平成14年度スモンの集い」を名古屋市で開催した。プログラムは、特別講演「スモン調査研究をめぐる話題と教訓」(名古屋大学名誉教授・祖父江逸郎)、講演「スモンの最近の症候とその経過」(国立療養所東名古屋病院長・松岡幸彦)、「スモンの合併症について」(国立療養所鈴鹿病院長・小長谷正明)、「スモンの運動障害とその対策」(名古屋大学教授・杉村公也)、「スモン患者の介護問題と福祉」(日本福祉大学教授・宮田和明)であった。医師、コメディカル、行政関係者、患者、家族など約130名の出席を得て、盛会であった。
結論
スモン患者について、全国で統一の個人票を用いて、1,035例を検診した。高齢化が進み、各種合併症の頻度も高くなっていた。ADLも加齢、合併症の影響もあって、年々低下していた。介護を必要とする状況も進んでいた。啓蒙活動の目的で、「スモンの集い」を開催した。

公開日・更新日

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