脊柱靭帯骨化症に関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200723A
報告書区分
総括
研究課題名
脊柱靭帯骨化症に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
中村 耕三(東京大学大学院医学系研究科整形外科)
研究分担者(所属機関)
  • 吉川秀樹(大阪大学大学院医学系研究科器官制御外科学・整形外科)
  • 井ノ上逸朗(東京大学医科学研究所ゲノム情報応用診断部門)
  • 池川志郎(理化学研究所・遺伝子多型研究センター)
  • 岩本幸英(九州大学整形外科)
  • 馬場久敏(福井医科大学医学部整形外科)
  • 木村友厚(富山医科薬科大学医学部整形外科)
  • 小宮節郎(鹿児島大学医学部整形外科)
  • 藤哲(弘前大学医学部整形外科)
  • 鐙邦芳(北海道大学保健管理センター)
  • 四宮謙一(東京医科歯科大学医学部整形外科)
  • 戸山芳昭(慶應義塾大学医学部整形外科・脊椎脊髄外科)
  • 国分正一(東北大学大学院医学系研究科医科学専攻外科病態学講座体性外科学分野整形外科学)
  • 田口敏彦(山口大学医学部生体機能統御学・整形外科)
  • 米延策雄(国立大阪南病院整形外科)
  • 中村孝志(京都大学大学院医学研究科)
  • 守屋秀繁(千葉大学医学部整形外科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
48,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
脊髄麻痺を引き起こす疾患は患者および家族への身体および精神的障害が甚大である。それらの麻痺性疾患のうち慢性発症ではとくに脊柱靱帯骨化症は多発する骨化巣、時間経過にともなう麻痺の進行という特異な病態を有する。さらに一部の患者では麻痺が重篤化し介護・福祉面での社会への負担も大きい。原因については過去の特定疾患研究班において数々の画期的な解明がなされてきたが、原因遺伝子の同定には至っておらず、原因タンパク質の特定もされていない。さらに治療の必要性・有用性を検定する際に必要となる自然経過の研究は未だ散発的であり、また疾患の進行を予測する指標の選定も充分には行われていない。また診断基準は作成されているが、診断確定に至るまでに必要な診察・検査のアルゴリズムは含まれていない。すなわち診断の手順や個々の症例に則したテイラーメイド的治療法を目指した包括的なガイドラインはこれまで策定されていない。本研究は、脊柱靱帯骨化症に対して、これまでの特定疾患研究班の研究成果を踏まえつつ、基礎研究として原因遺伝子のさらなる絞り込みと原因候補のタンパク質等の検討、臨床研究としてはガイドラインの作成という3つを主眼として、疾患の病態解明と診療体系の確立を意図するものである。
研究方法
原因遺伝子の解明は言うまでもなく遺伝子治療などの脊柱靱帯骨化症の根本治療への第一歩であるが、平成12年度厚生省特定疾患研究事業・脊柱靱帯骨化症に関する調査研究班報告書に明らかなように脊柱靱帯骨化症を集中的に診療している大学病院ですら各施設あたりの診療患者数は限られている。したがって各参加施設の協力によりサンプル数を増やすこととする。分子遺伝学・分子生物学的方法により集まったサンプルを解析し、OPLLの疾患遺伝子を同定する。共同研究機関より提供された匿名化されたゲノムDNAを用いて、一塩基多型(SNP: single nucleotide polymorphism)を含むDNA多型を利用した連鎖解析、相関解析などを中心とする遺伝学的解析を行い、疾患関連遺伝子を探索し、その機能解析を行う。ガイドライン作成はガイドライン委員会を設け、委員会主導で行っていく。また関連した脊椎疾患のガイドライン作成を行っている日本整形外科学会ガイドライン委員会、日本脊椎脊髄病学会ガイドライン委員会と連携をとりながら行う。文献検索・取得には国際医学情報センターに一部委託しつつ、リサーチクエスチョンの設定後、文献を査読しガイドラインを策定する。ガイドラインは仮策定後、日本脊椎脊髄病学会・日本整形外科学会での評価あるいは検証を行う。また現時点での診断・治療における問題提起を行い、単施設の研究では困難であった研究課題に対する多施設研究の設定を検討する。同時に将来的には診断基準の見直しも検討する。(倫理面での配慮)血液サンプルに関しては、血液
採取に当たって研究の目的などを説明後、書面による同意を得る。またプライバシーの漏洩に注意し、各サンプルをコード化して収集、管理・保存を行い、氏名など個人情報が血液サンプルと関連付けが不可能なように扱うこととしている。「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針(平成13年3月29日 文部科学省 厚生労働省 経済産業省)」に従う。検体の提供者からは、書面によるインフォームドコンセントを取得し、特に、個人情報の保護に留意する。
結果と考察
平成14年8月に開催された班会議においてゲノム研究の概要ならびに血液サンプルの収集に関する事務的申し送りが行われ、その後各施設において倫理委員会への研究申請が行われた。現在6施設にて認可後血液収集が計600例行われた。また現在倫理委員会認可待ちが8施設、申請準備中が5施設ある。また同班会議においてガイドライン委員長に米延策雄副院長が選ばれた。委員長は4施設(鹿児島大学、山口大学、国立岡山医療センター、大阪労災病院)にガイドライン委員1名ずつ選定し、ガイドライン策定のタイムスケジュールを他のガイドライン委員会と調整しつつ設定した。現在文献の査読への採否の基準を含むリサーチクエスチョンの設定を行い、エビデンステーブルを作成後に文献の査読に取り掛かる予定となっている。吉川はMAPKシグナル伝達系が脊柱靱帯骨化症の成因の一つである可能性を示した。井ノ上・小宮らはSNPsを用いた関連解析を行い、7遺伝子、14SNPsでOPLLへの関与が示唆する結果を得た。池川・池田は脊柱靱帯骨化症の疾患感受性遺伝子の候補として、MSX2、COL18A1、COL6A1の3遺伝子について相関解析を行ったが有意な相関を認めなかった。内田は非増殖型アデノウイルスベクターにより損傷脊髄内の細胞への神経栄養因子発現ベクターを導入、蛋白発現を確認した。藤・岩崎はOPLL患者の脊柱靱帯細胞は骨形成系細胞へある程度分化していること、メカニカルストレスによってさらにそれが助長されうる可能性を示した。四ノ宮・加藤のDNAアレイを用いた研究では骨形成関連因子の顕著な発現は認めず、骨形成関連因子は認めなかった。中村(孝)・秋山はSox9が脊椎骨形成においても必須であることを示した。守屋・橋本はmRNAとタンパクが脊髄損傷後3日において増加することを示した。守屋・腰塚は骨髄由来の造血幹細胞分画の移植により、マウス脊髄損傷モデルにおいて後肢機能の改善が得られたことを示した。今給黎・木村はMAPキナーゼを介した細胞増殖作用が、椎間板の変性、膨隆に促進的に作用した可能性を示した。今給黎・渡辺はBMP-2投与にて異所性骨化を確認することを報告した。永田は後縦靭帯骨化症、黄色靱帯骨化症の靱帯骨化組織に糖鎖が付いたタンパク質と糖タンパク質を見ることができたと報告した。川島はMsx2の発現低下を来たすメカニズムがOPLL発症機序と深くかかわる可能性を明らかにした。岩本はC2まで椎弓割断を要した症例は、術後頚椎前弯及び、可動域の減少が有意に大きいことを示した。木村・川口は頚椎en bloc laminoplasty施行後10年以上を経過した頚椎後縦靭帯骨化症(OPLL)患者では良好な臨床成績が得られ、術後頚椎後彎変形、頚部可動域制限が問題としてあげられることを示した。小宮・松永は脊髄症状発現には動的因子の関与が重要であることを明らかにした。小宮・林は神経合併症として、片開き式椎弓形成術では血腫による麻痺が、棘突起縦割式椎弓形成術ではC5麻痺が特徴的であったことを示した。鐙は急峻な後方突出形態を呈した胸椎後縦靱帯骨化症ではを摘出したほうが、確実な除圧効果が得られる可能性を示す手術成績を示した。戸山・佐々木は必要ならC2椎弓の除圧もためらうべきではないと報告した。国分・田中の疫学調査では脊柱靱帯骨化症は598例で、全脊椎手術の4.5%を占めており、1年間あたりの手術数はおおよそ50?60人/年で増加傾向にあったこと、男女比は2.6:1で、さらに頚部脊髄症を呈した手術例のうち、後縦靱帯骨化(OPLL)が主因と考えられた症例は18.6%であることを示した。田口・豊田はMDCT矢状断像は断層像に匹敵し、断層撮影は省略可能であると報告した。守屋・
山崎は後方除圧術では原則的にInstrumentation固定を併用すべきと考えられることを報告した。山本・谷は機能障害の改善は前方群が有意にすぐれ、神経合併症は後方法では33%に認められ、前方法ではなかったことを示した。中原は胸腰椎移行部圧迫骨折の患者で両下肢麻痺を呈した場合は、黄色靭帯骨化症の合併に留意するべきである、とした。石黒は骨化形態に関係なく広範囲後方除圧矯正固定術は良好な結果であったことを報告した。富田・川原は後縦靱帯骨化症に対する前方・後方アプローチよる脊髄全周除圧術の良好な手術成績を報告した。
結論
ゲノム研究は現在、各施設での倫理委員会への申請ならびに血液サンプルの収集が始まったところであり今後解析を行っていく。ガイドライン策定は文献査読までの前段階であり、査読・策定の後には学会での検証ならびに今後の他施設研究の設定と診断基準の見直しを図っていく。井ノ上・小宮は7遺伝子、14SNPsでOPLLへの関与が示唆された。今後はこれらの変異を中心に、さらにまだスクリーニングを行っていない遺伝子に関しても遺伝解析をすすめていく。

公開日・更新日

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