混合性結合組織病の病態、治療と関連する遺伝的因子、自己抗体の研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200721A
報告書区分
総括
研究課題名
混合性結合組織病の病態、治療と関連する遺伝的因子、自己抗体の研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
近藤 啓文(北里大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 三崎義堅(東京大学医学部附属病院)
  • 三森経世(京都大学大学院医学研究科)
  • 高崎芳成(順天堂大学医学部)
  • 岡田純(北里大学医学部)
  • 原まさ子(東京女子医科大学付属膠原病リウマチ痛風センター)
  • 吉田俊治(藤田保健衛生大学医学部)
  • 大久保光夫(埼玉医科大学総合医療センター)
  • 青塚新一(国立国際医療センター研究所)
  • 吉尾卓(自治医科大学)
  • 堤明人(筑波大学臨床医学系)
  • 諏訪昭(慶応義塾大学医学部)
  • 岡本尚(名古屋市立大学大学院医学研究科)
  • 北里英郎(北里大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
29,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
混合性結合組織病(MCTD)は平成11-13年度までの班研究により、特徴的な臨床所見と抗U1RNP抗体とに密接な関連があること、主な死因としての肺高血圧症(PH)の病態の解明が進展し、治療法の確立が重要であることが明らかになった。本研究班はMCTDの診断基準の根拠を持った改訂、病態に関連する自己免疫と遺伝子の解析、PHの病態の解明と治療ガイドラインの検証を主目的に研究を計画した。1)抗U1RNP抗体陽性患者のプロスペクティブ研究:既に登録した本抗体陽性無治療例の経過観察と今年度新たに患者を登録し臨床経過を明らかにする。MCTDの疾患概念を明確化し、3年後にMCTD診断基準を改訂する。2)抗U1RNP抗体の産生機序の解明:自然免疫系を介する自己免疫誘導、抗原をコードする遺伝子解析などを用いて、その産生機序の解明を試みる。3)MCTD関連遺伝子解析: MCTDの病態、とくにPHの発生と関連する遺伝子を想定して遺伝子変異を検索し、その病因的意義を検討する。4)MCTDにおけるPHの病態と治療:新しく班のプロスペクティブ研究を立ち上げ、PHの頻度、早期診断、治療ガイドラインの検証を行う。さらに、PHの治療法を確立するため、モデル動物を用いて新しい治療法を開発し、予後の改善に貢献する。
研究方法
1)抗U1RNP抗体陽性無治療例のデータベース:(班プロジェクト研究)分担研究者、及び研究協力者3名の合計14施設において、新たに見出した抗U1RNP抗体陽性無治療患者を登録し、その臨床所見、HLA抗原などをデータベース化した。単独陽性例と他の抗核抗体併存例に分けて臨床経過を追跡する。尚、DNAは、新たに同意を得た上で保管し遺伝子研究に供する。2)抗U1RNP抗体の産生機序の研究:①樹状細胞を用いた研究。②ELISAによる抗体のIgGサブクラスの分布の解析。③立体構造を認識する新しい抗U1RNP抗体の検索。④単核細胞における抗U1RNP抗体産生。3)MCTDの自己抗体、病態と関連する遺伝子変異の解析:①RNP-A蛋白をコードする遺伝子。②マンノース結合レクチン(MBL)の遺伝子。③骨形成因子のⅡ型レセプター(BMPR-Ⅱ)の遺伝子。④一酸化窒素の合成酵素(NOS)の遺伝子多型。⑤細胞内シグナル伝達系の意義。4)MCTDの肺高血圧症の病態と治療研究:①班プロスペクティブ研究としてMCTDにおけるPHの頻度と治療調査。②抗BMPR-Ⅱ抗体の検索。③モノクロタリン誘発ラットにおけるBMPR-Ⅱの発現。④PGD合成酵素(PGDS)を発現する線維芽細胞をモノクロタリン誘発ラットに投与しPGの役割を解析。⑤PH肺動脈内皮細胞のPGI2合成酵素の発現。⑥PH症例の臨床像。
倫理面への配慮:患者からインフォームド・コンセントを得て採血を行う。遺伝子解析はヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針に従って行う。
結果と考察
1)抗U1RNP抗体陽性無治療例の経過:抗U1RNP抗体の臨床的意義とMCTDとの関連をプロスペクティブに明らかにするために、平成11年度より班研究として抗体陽性無治療例114症例を登録した。本年度は経過観察と共に新たに30例を登録した。臨床症状、検査所見、自己抗体、HLAのDNAタイピングを含むデータベースを作成した。登録時では抗U1RNP抗体単独群と比べ他抗体併存群に関節炎、リンパ節腫脹、タンパク尿などSLEコンポーネントの頻度が有意に高く、MCTD診断基準合致例がむしろ多かった。今後、症例の経過を見ることにより、MCTDの疾患概念の確立と診断基準の見直しにエヴィデンスが得られると期待される。
2)抗U1RNP抗体の産生機序:本抗体の産生機序とその制御の解明はMCTDの根本的な治療法の開発につながる。U1RNA/U1-A複合体が樹状細胞内に導入するとU1RNA単独、U1-Aとは異なり細胞が活性化されることが明らかになり、抗体産生機序に関連する可能性が示された(三崎)。膠原病患者の抗U1RNP/Sm抗体のIgGサブクラスが解析され、サブクラスの出現パターンには規則性があり、Th1反応が主であることを示した(三森)。高崎はU1RNP70K蛋白とU1RNAの結合により生じる立体構造を認識する抗U1RNP抗体をMCTD186例中13例に見出した。この抗体はSLE様病態と相関した。患者単核細胞における抗U1RNP抗体産生を検討したところ、抗体陽性患者からの細胞は有意に抗体を産生した(青塚)。岡本は細胞内シグナル伝達系の異常とリンパ節腫脹、自己抗体産生との密接な関連を示した。
3)MCTDと関連する遺伝子変異の解析:堤はMBLの遺伝子多型を抗U1RNP抗体陽性者で検索し、MBL遺伝子多型と血中MBL濃度には関連が見られた。しかし、病態との関連は明らかではなかった。このような遺伝子多型の検討では日本人健常人との比較が必要で、RNP-A遺伝子のSNPを解析している大久保からその検討があった。PHに関連しては、近年、原発性PH(PPH)患者ではBMPR-Ⅱの遺伝子変異との相関が報告されているが、MCTDを含む膠原病合併PHについて解析が行なわれた(岡田)。抗U1RNP抗体陽性例を、PH合併例と非合併例に分けてBMPR-Ⅱの遺伝子変異を比較したが、変異は認められなかった。一方、BMPR-Ⅱに対する抗体がMCTD患者で高頻度に検出された。吉田はモノクロタリン誘発ラットではその発現が肺動脈で低下していることを認めた。以上、BMPR-Ⅱの機能障害とPHの発症に関連が示唆された。原は膠原病合併PH例におけるNOSの遺伝子多型を解析し、PH合併例では遺伝子多型の頻度が高いことを示し、NO濃度の低下に関わる可能性を示唆した。
4)MCTDの肺高血圧症の臨床病態と治療研究:MCTDで頻度が高く予後を決定する病態であるPHのプロジェクト研究が新たに発足した(吉田)。MCTDにおけるPHの頻度を診断の手引きを用いて明らかにし、早期診断や前年度班で提唱した治療ガイドラインの検証を目的とした研究である。成果が期待される。吉尾は膠原病合併PHの剖検例で肺動脈内皮細胞上のPGI2合成酵素の発現をPH非合併例と比較したが、有意な差は見られなかった。北里はPHにおけるプロスタグランジン(PG)の治療効果をみるためcell therapyを試みた。すなわち、PGDSを発現する線維芽細胞をモノクロタリン誘発PHラットに投与し、PGDSの発現とPHの抑制を明らかにした。その機序としてエンドセリン受容体Aの抑制の関与を示唆した。PH合併MCTDの臨床像の解析では、MCTDのPH合併率は18%で、その臨床像の特徴は皮膚硬化範囲が広いなど強皮症病変と蛋白尿、低補体血症などSLEの所見を併せ持つ点であった(諏訪)。MCTDを含む膠原病合併PHの治療に持続静注プロスタサイクリン製剤の治験が行われた。班としてこれに協力した。エンドセリン・レセプター拮抗薬の治験も行われている。
結論
1)抗U1RNP抗体陽性患者のデータベースを充実させた。経過を追跡することによりMCTDの疾患概念の確立と診断基準の改定に結実させる。2)抗U1RNP抗体の多様性を立体構造を認識する新しい抗体から明らかにした。3)抗U1RNP抗体やPHに関連する遺伝子変異の研究に進展があった。4)MCTD合併PHの病態の解明と治療に関して動物モデルと臨床で進展がみられた。

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