稀少難治性皮膚疾患に関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200719A
報告書区分
総括
研究課題名
稀少難治性皮膚疾患に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
北島 康雄(岐阜大学)
研究分担者(所属機関)
  • 天谷雅行(慶應義塾大学)
  • 橋本 隆(久留米大学)
  • 岩月啓氏(岡山大学)
  • 清水 宏(北海道大学)
  • 橋本公二(愛媛大学)
  • 金田安史(大阪大学)
  • 池田志斈(順天堂大学)
  • 山本明美(旭川医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
45,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
①天疱瘡=現在は基礎研究成果を踏まえ特に難治性群に対する治療法指針を開発する時期にある。本年度は天疱瘡抗原ELISA法及び天疱瘡抗原ノックアウトマウス、天疱瘡モデルマウスを用いた天疱瘡水疱形成機序及び病的抗体産生の免疫学的機序の解明及び症例解析から治療法に迫ることを目的とした。
②膿疱性乾癬=過去の特定疾患班研究によって疫学と臨床経験的な治療法を列挙し一応の治療指針を作成したが、病因、発症機序が不明であるため、不完全である。そこで、疫学的観点からさらに診断・治療指針の見直しと、あわせて基礎的に原因遺伝子の解明及び膿疱の形成機序を炎症制御機構(サイトカイン、ケモカイン)以上の観点から明らかにすることを目的とした。
③表皮水疱症=現在病因遺伝子の変異点は明らかになったので、病因遺伝子変異による臨床分類と遺伝子治療法と再生医学に基づく治療法の開発を行う。本年度は症例研究に基づく遺伝子解析と出生前診断法の確立、表皮再生法と臨床適応、及び基礎的には変異遺伝子の修復、補填のための遺伝子導入法とその発現様態を細胞、動物レベルでの解析を目標とした。
④水疱型先天性魚鱗癬紅皮症=病因はケラチン遺伝子変異によるが、診断基準、疫学、治療法は不明であるので、これらの解明及び③と同様な研究が必須である。上記①、②、③と同様に厚生労働省稀少難治性皮膚疾患調査研究班研究によってしか成し得ないので、この疾患を研究対象疾患として追加し、まず、3年間で診断基準を確立し、疫学的に本邦における実体を明らかにすることと合わせてケラチン遺伝子異常と臨床症状の関係を明らかにすることを目的とした。
研究方法
(当該年度)
①天疱瘡1)天疱瘡モデルマウスを作製するためにナイーブ細胞移植を用いた。2) 病的活性モノクローナル抗体を作成した。3)天疱瘡抗体結合後活性化されるデスモソーム分子群の動態変化を解析した。4)リコンビナント天疱瘡抗原ELISA法による病因抗体価をモニターし、特に血漿交換療法と大量免疫グロブリン療法を検討した。5)デスモコリンの天疱瘡抗原としての役割を検討した。6)デスモヨーキンノックアウトマウスを作成した。
②膿疱性乾癬1)汎発性膿疱性乾癬治療ガイドライン中の重症度分類診断基準に準じた場合、過去の膿疱性乾癬患者がどのような頻度分布をとるのか検討した。2)膿疱性乾癬患者の生検標本を収集し、病変内における炎症性サイトカイン(IL-8, IL-6など)とエイコサノイド関連酵素(COX-1,2, LOX-1,2)の発現分析によって行った。3)尋常性乾癬についてマイクロアレイを用いた乾癬関連遺伝子の発現プロファイリング、及びマイクロサテライトマーカーを用いたゲノムワイドな遺伝的相関解析を行った。
③表皮水疱症1)COL7A1遺伝子の変異検索を施行した。2) 栄養障害型表皮水疱症患者潰瘍について自己三次元培養皮膚を作製・移植し、自己三次元培養皮膚移植及び同種培養真皮移植の有用性の検討を行った。3)魚類のtransposon/transposaseの共導入系を用い、ルシフェラーゼ遺伝子を骨格筋にHVJ-liposomeで導入実験、またSemliki forest virusのレプリケースを利用してRNAを増幅させる系を用い培養細胞や骨格筋でLacZ遺伝子発現の増強実験を行った。4)マウス胎児皮膚に遺伝子導入することにより遺伝子産物に対する免疫寛容の誘導実験を行った。
④水疱型先天性魚鱗癬様紅皮症1)患者数について、特定疾患の疫学に関する研究班と共同で「全国疫学調査マニュアル」に基づいて実施した。2)新症例の集積と既知あるいは文献発表症例におけるケラチン遺伝子変異と臨床像の関係解析を行った。
結果と考察
①天疱瘡:1)ナイーブなDsg3-/-マウスの脾細胞を自己抗原で免疫することなしに移植することで天疱瘡モデルマウスを作成し、新しい自己免疫モデルマウスの作成法を示した。2)病原性のあるモノクローナル抗体AK23を作成し、これがDsg3分子の接着面を認識すること、病原性を示さないmAbは接着面以外の部位を認識することを示した。3) 培養表皮細胞を用いてデスモソームからDsg3がスクイーズド・アウトされたことを示し、Dsg3欠損デスモソームの形成過程の初期の変化を示した。4) ELISA法による抗体価を指標として、免疫グロブリン大量療法が血漿交換療法後の抗体価上昇を抑制することを示した。5)免疫電顕法でIgA天疱瘡SPD型では主にデスモゾーム領域に、IEN型では主にデスモゾーム領域以外の細胞間に金粒子沈着を認めた。6)デスモヨ-キンノックアウトマウスでは表皮、真皮、付属器に異常なく、表皮細胞間接着構造の異常も認められなかった。
②膿疱性乾癬: 1) 重症度分類診断基準にあてはめた方法でスコア化する方法によると、登録された330症例のうち抽出できた症例は118例であった。最高スコアを21点とした場合、(0-6点);34例(28.8%)、(7-14点);67例(56.8%)、(15-21点);17例(14.4%)のような得点分布が得られた。一方、重症度分類基準にあてはめた場合、軽症(0-2点);21例(7.8%)、中等症(3-6点);79例(66.9%)、重症(7-10点);18例(15.3%)の得点分布を得た。汎発性膿疱性乾癬治療ガイドラインの内容を反映した改訂調査票で全国調査の必要があると思われた。2) 膿疱性乾癬と尋常性乾癬のIL-8 mRNAの発現パターンを解析したところ、その病態が異なることが示唆された。3) 乾癬患者由来角化細胞のEGFR過剰発現の原因として、転写因子AP-2の恒常性発現とEGFR遺伝子の低メチル化の関与を示した。4) マイクロアレイを用いた発現遺伝子プロファイリングを行ったところ、約1,000の既知・未知遺伝子に病変部特異的な発現量の差異を認めた。また、マイクロサテライトマーカーを用いてゲノムワイドに遺伝的相関解析を行ったところ、17番染色体については403個のマーカーのうち約60個に、19番染色体については274個のマーカーのうち約40個に相関が認められた。それらの中には、疾患感受性候補遺伝子領域に位置するマーカーも含まれていた。
③表皮水疱症: 1)爪甲萎縮が主体のDDEBの家系(4世代)についてCOL7A1遺伝子検索を行ったところ、ミスセンス変異G2028Rを見出した。全く無関係な2家系の臨床症状は、主症状が痒疹様結節と全く異なっていた。最重症型であるHallopeau-Siemens型栄養障害性表皮水疱症のCOL7A1遺伝子検索で、本症例が初めての新規4塩基挿入変異434insGCATならびに新規ナンセンス点変異R2261Xを見出した。臨床症状の相違は遺伝子多型もしくは遺伝子発現レベルにあると考えられた。2)患者2例について自己三次元培養皮膚を作製・移植、1名について同種培養真皮移植を行ったところ、著明な改善を認め、これらが新たな有用治療法と思われた。3)長期遺伝子発現のために魚類のtransposon/transposaseの共導入系を用い、ルシフェラーゼ遺伝子を骨格筋にHVJ-liposomeで導入し、6ヶ月以上にわたって発現させることに成功した。またSemliki forest virusのレプリケースを利用してRNAを増幅させる系を用い培養細胞や骨格筋でLacZ遺伝子を通常のプラスミドと比較して10倍以上の発現増強を起こすことができた。4) 免疫反応回避方法の開発:マウス胎児皮膚にGFP発現プラスミドを導入することにより、GFPに対する免疫寛容を誘導し得た。
④水疱型先天性魚鱗癬様紅皮症: 1) 2003年1月に患者数推計のための一次調査を実施した。調査対象科は皮膚科とし、全国の病院から病床規模別に層化無作為抽出した計807科を対象とした。これにより2次調査を来年度行う。2) BCIEのgenotype/phenotype相関解析結果、a)ケラチン1の変異が見られる例では掌蹠角化や手指拘扼を生じる例があること、b)ケラチン10の変異例ではそれらが見られないこと、c)両ケラチンの2Bドメインに変異が見られる例の一部は環状皮疹を生じること、d)家系内においても臨床症状に差異があること、などを示した。3)正常人及びBCIE患者の電子顕微鏡観察で患者角層においてcorneodesmosomeの細胞外領域の形態的異常が観察された。4) corneodesmosomeの細胞外部分に結合する蛋白、corneodesmosinの特異抗体を作成した。
結論
①天疱瘡、②膿疱性乾癬、③表皮水疱症、④水疱型先天性魚鱗癬様紅皮症の4疾患についての診断基準の見直し、それに基づく疫学的研究による患者数と治療状態の実体の把握、発症分子病態の解明、原因遺伝子の解析と臨床系の相関、原因遺伝子から発症までの機序、これらによるEBMに基づく治療法の開発という大きな目的に対して、上述した結果から本研究の3年計画の第一年度の目標はほぼ達せられたと考える。

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