肝内結石症調査に関する調査研究(総括研究報告)

文献情報

文献番号
200200717A
報告書区分
総括
研究課題名
肝内結石症調査に関する調査研究(総括研究報告)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
跡見 裕(杏林大学第一外科)
研究分担者(所属機関)
  • 田中 直見(筑波大学臨床医学系消化器内科)
  • 中沼 安二(金沢大学大学院形態機能病理学)
  • 永井 秀雄(自治医科大学消化器一般外科)
  • 二村 雄次(名古屋大学器官調節外科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
厚生労働省による肝内結石症に関する研究班を中心とした研究の成果により、肝内結石症の診断や治療成績は向上しつつあるが、その成因や主な合併症である胆管癌の発生要因については依然として不明の点が少なくない。特に肝内コレステロール結石と生活習慣との関連は生活習慣病としての肝内結石症の存在を疑わせるが、この点に関する検討はきわめて乏しいのが現状である。また、本疾患の診断において近年著しく進歩した画像診断は大きな役割を果たしているが、各々の診断的位置づけが曖昧なままに検査が漠然と行なわれている側面も指摘されている。そこで本疾患の診断本研究班における研究の目的は、(1) 低侵襲的で費用効果の良い診断法を検討する。(2) 肝内結石症の全国調査および全国登録を行い、現状を把握する。(3) 肝内結石症および肝内胆管癌の発生機序を解明する。(4) 肝内結石症の成因を生活習慣の関連から解明するする。(5)以上の結果を基に、肝内結石症の診断基準を作成し、治療指針を見直すこととした。
研究方法
上記研究目的を達成するため、以下のごとく計画した。
(1)画像診断法の評価
班員を中心に、新たに開発された低侵襲的な画像診断法であるMRCPやマルチスライスCT(MDCT)による肝内結石症の診断成績を評価し、その結果に基づき画像診断に関する全国調査を行う。
(2)疫学研究
肝内結石症全国調査を行い、肝内結石症の遠隔成績を検討し、各種治療法の再評価を行う。また肝内結石症に伴う胆管癌の発生頻度、治療成績を検討する。症例対象研究に分子生物学的手法を導入し、肝内結石症の発生機序を解明する。また五島列島を中心に他地域を対比により生活習慣からみた肝内結石症の成因についても検討する。
(3)成因や病態に関する研究
動物実験モデルによる検討、病態生理学的・形態学的・分子生物学的・遺伝子学的研究から肝内結石症の発生機序を解明し、さらに肝内胆管癌の発症機転を明らかにする。同時に治療法、予防法の検討を行う。
(4)診断基準の作成と治療指針の見直し。
(1)-(3)の研究結果を基に診断基準の作成と治療指針の見直しを行う。
そして以上の研究計画を達成するために、ワーキンググループを組織する。
1)画像診断ワーキンググループ
○永井秀雄、海野倫明、黒木祥司、露口利夫、跡見裕
班員を中心に、新たに開発された低侵襲的な画像診断法であるMRCPやMDCTによる肝内結石の診断成績を評価する。その結果に基づきMRCPやMDCTの所見が診断基準に組み込めるかを検討する。
2)病型分類ワーキンググループ
○二村雄次、永井秀雄、本田和男、露口利夫、海野倫明、千々岩一男、跡見裕
現在使用されている病型分類規約は、谷村班報告書および二村班による分類規約の改正案である。これら病型分類を見直し、改定案を作成する。
3)成因解明ワーキンググループ
○田中直見、中沼安二、佐々木睦男、跡見裕
肝内結石症の成因をビリルビン、胆汁酸代謝、粘液形質などから多面的に検討する。また本班会議で連絡網を構築し、手術予定を他施設の研究者にも知らせ、手術標本を共同研究に供する体制を作る。
4)疫学調査ワーキンググループ
○古川正人、田中直見、馬場園明、安藤久實、跡見裕
コホート研究をさらに推進するとともに、本研究班員、胆道学会評議員の所属施設を中心に調査票を送付し、全国調査を行う。調査票には、生活習慣病としての肝内結石症という視点からの項目を含め、五島列島・他地域の対比により生活習慣からみた肝内結石症の成因についても検討する。またこの調査により遠隔成績を検討し、各種治療法の再評価を行う。また肝内結石症に伴う胆管癌の発生頻度、治療成績を検討する。症例対象研究に分子疫学的手法を導入し、肝内結石症の発生機序を解明する。
5)発癌研究ワーキンググループ
○中沼安二、二村雄次、味岡洋一、黒木祥司、跡見裕
肝内結石症における肝内胆管癌の発症機転を明らかにする。肝内結石症の切除標本の共同利用をはかる。
6)治療指針作成ワーキンググループ
○跡見裕、二村雄次、永井秀雄、千々岩一男、露口利夫、海野倫明、黒木祥司
以上の共同研究の成果を盛り込み、肝内結石症の治療指針を改訂する。
結果と考察
1.画像診断法の評価
本年度は予備的検討として核磁気共鳴法(MRI,MRCP)とMDCTによる診断能を検討した。MRCPはERCで描出されない上流胆管を明らかにし、またMDCTは診断能にも優れ、医療費を考慮すると有用な検査と考えられた。この結果をもとに、班員を中心に新たに開発された低侵襲的な画像診断法であるMRCPやマルチスライスCT(MDCT)による肝内結石症の診断成績を評価するための調査票を検討した。
2.疫学研究
本研究班による五島列島を中心とした検討により、肝内結石症との関連が強く疑われる因子(ATL,回虫、脂質代謝など)が明らかとなった。他地域を対比により生活習慣からみた肝内結石症の成因についても検討するための調査票を作成した。対象は肝内結石症で平成15年度に通院中の患者とし、コントロールは対象症例と同じ施設に通院しており、性、年齢、居住地域が一致し、インフォームドコンセントがえられた患者とした。今回は特にbiological markerを中心に検討行うこととした。
3.成因や病態に関する研究
動物実験モデルおよび臨床例を用い病態生理学的・形態学的・分子生物学的・遺伝子学的に肝内結石症の発生機序を検討した。胆管上皮のムチンコア蛋白であるMUC2,MUC5の発現亢進が結石生成に重要であることが示された。さらにprotein kinase C(PKC)の検討から、lipopolysaccharide刺激による胆管上皮のMUC2,MUC5ACの発現亢進過程における細胞内シグナルではPKCの活性化が関与していることが明らかとなり、経胆管的な細菌感染と結石形成の関連がより明確にされた。さらに、胆汁中の高分子酸性ムチンが結石生成に関与しており、ブタ胃ムチンを用いた検討からも酸性ムチンの役割が示された。肝内コレステロール結石モデルを用いた検討から、選択的COX2阻害剤を投与すると肝内コレステロール結石生成が有意に抑制されることが明らかとなった。1999年に行なわれた第4期調査の対象である肝内結石症473例の解析で、死亡症例は26例でその内胆管癌は11例であり、胆管癌発生が予後にきわめて大きく作用する因子であることが示された。慢性増殖性胆管炎に着目した検討からは、COX2発現はプロスタグランジン2(PGE2)産生の増加をきたし、それによりPGE2はEP4受容体を介すると考えられる胆管上皮・付属線の細胞増殖およびムチン分泌能を促進することにより、本症の進展と肝内胆管癌の発生に深く関与している可能性が示唆された。胆管上皮にアデノウイルスベクターを用いてp53遺伝子を発現させ、胆管上皮の増殖性変化を検討すると、ラット胆管炎モデルではp53遺伝子発現により胆管壁の肥厚や胆管上皮の増殖抑制が示された。さらに、胆管癌ではTNFαが浸潤転移に促進的な作用する可能性が示唆された。臨床例でさまざまな検討を可能とするため、本班会議で連絡網を構築し手術予定を他施設の研究者にも知らせ、手術標本を共同研究に供する体制を構築した。
4.診断基準の作成と治療指針の見直し。
画像診断を中心とした診断基準は前述のごとく検討を行った。治療指針について、低侵襲的治療法と手術療法および再発例と小児での胆道再建術後の肝内結石例を検討し、胆道再建と結石再発の関連が示された。
考案
近年肝内結石症に関するさまざまな検討により、結石形成や胆管癌の発生機序に関する知見も徐々に増加しつつあるが、未だ多くの点で未解決な分野が少なくない。また急速に進歩した画像診断が、本疾患の診療体系に効率的に組み込まれているといえない現状である。そこで本研究班は1.低侵襲的で費用効果の良い診断法を検討する。2. 肝内結石症の全国調査および全国登録を行い、現状を把握する。3. 肝内結石症および肝内胆管癌の発生機序を解明する。4.肝内結石症の成因を生活習慣の関連から解明するする。5.以上の結果を基に、肝内結石症の診断基準を作成し、治療指針を見直すことを目的とした。この目的を達成するため、1)画像診断 2)病型分類 3)成因解明 4)疫学調査 5)発癌研究 6)治療指針作成 のワーキンググループを組織した。画像診断法ではMRCPの有用性が明らかとなり、今後の診療指針に組み込む必要性が示された。疫学的調査に関しては、五島列島での検討も基礎的資料として、全国的な対照検討をするための調査票を作成し、次年度に全国調査を行うこととした。この調査票ではbiological markerを中心とした検討がなされることになり、従来の報告に比しより病態に肉薄するものと期待される。肝内結石症の成因や病態に関する研究として、動物実験モデルおよび臨床例を用い病態生理学的・形態学的・分子生物学的・遺伝子学的に肝内結石症の発生機序を検討した。結石形成における胆管上皮のムチンコア蛋白であるMUC2,MUC5の発現亢進や、さらにprotein kinase C(PKC)の検討から、lipopolysaccharide刺激による胆管上皮のMUC2,MUC5ACの発現亢進過程における細胞内シグナルではPKCの活性化が関与していることが明らかとなり、経胆管的な細菌感染と結石形成の関連がより明確にされた。肝内コレステロール結石モデルを用いた検討から、選択的COX2阻害剤を投与すると肝内コレステロール結石生成が有意に抑制されることが明らかとなり、これは肝内コレステロール結石の治療や再発予防への道を拓くものと考えられた。慢性増殖性胆管炎に着目した検討からは、COX2発現はプロスタグランジン2(PGE2)産生の増加をきたし、それによりPGE2はEP4受容体を介すると考えられる胆管上皮・付属線の細胞増殖およびムチン分泌能を促進することにより、本症の進展と肝内胆管癌の発生に深く関与している可能性が示唆された。胆管上皮にアデノウイルスベクターを用いてp53遺伝子を発現させ、胆管上皮の増殖性変化を検討すると、ラット胆管炎モデルではp53遺伝子発現により胆管壁の肥厚や胆管上皮の増殖抑制が示された。さらに、胆管癌ではTNFαが浸潤転移に促進的な作用する可能性が示唆された。これらの分子生物学的検討は肝内胆管癌の発生と肝内結石の関連を示すものとして注目されるが、臨床応用には今後の更なる検討が必要となろう。各施設での臨床例は限られており、施設毎での臨床研究は困難なことが少なくない。そこでさまざまな検討を可能とするため、本班会議で連絡網を構築し手術予定を他施設の研究者にも知らせ、手術標本を共同研究に供する体制とした。これにより貴重な症例がきわめて有効に研究する体制が整い、多くの臨床的検討が可能となると思われる。
結論
1).画像診断 2)病型分類 3)成因解明 4)疫学調査 5)発癌研究 6)治療指針作成 のワーキンググループを構築し検討を行った。その結果、MRCPの意義が示され、本法を診断体系に組み込む必要性が明らかとなった。疫学研究では本研究班による五島列島を中心とした検討により、肝内結石症との関連が強く疑われる因子(ATL,回虫、脂質代謝など)が示され、他地域を対比により生活習慣からみた肝内結石症の成因についても検討するための調査票を作成した。成因や病態に関する研究では、動物実験モデルおよび臨床例を用い病態生理学的・形態学的・分子生物学的・遺伝子学的に肝内結石症の発生機序を検討した。 lipopolysaccharide刺激による胆管上皮のMUC2,MUC5ACの発現亢進過程における細胞内シグナルではPKCの活性化が関与していることが明らかとなり、経胆管的な細菌感染と結石形成の関連がより明確に
された。肝内コレステロール結石モデルを用いた検討から、選択的COX2阻害剤を投与すると肝内コレステロール結石生成が有意に抑制されることが明らかとなり、治療への道を拓くものと考えられた。慢性増殖性胆管炎に着目した検討からは、COX2発現はプロスタグランジン2(PGE2)産生の増加をきたし、それによりPGE2はEP4受容体を介すると考えられる胆管上皮・付属線の細胞増殖およびムチン分泌能を促進することにより、本症の進展と肝内胆管癌の発生に深く関与している可能性が示唆された。胆管上皮にアデノウイルスベクターを用いてp53遺伝子を発現させ、胆管上皮の増殖性変化を検討すると、ラット胆管炎モデルではp53遺伝子発現により胆管壁の肥厚や胆管上皮の増殖抑制が示された。さらに、胆管癌ではTNFαが浸潤転移に促進的な作用する可能性が示唆されたが、これらについては更なる検討が必要となると考えられた。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-