門脈血行異常症に関する調査研究

文献情報

文献番号
200200716A
報告書区分
総括
研究課題名
門脈血行異常症に関する調査研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
橋爪 誠(九州大学大学院医学研究院災害救急医学)
研究分担者(所属機関)
  • 杉町 圭蔵(九州中央病院)
  • 加藤 紘之(北海道大学大学院腫瘍外科)
  • 兼松 隆之(長崎大学大学院移植・消化器外科)
  • 北野 正剛(大分医科大学第一外科)
  • 川崎 誠治(順天堂大学医学部第二外科)
  • 塩見 進(大阪市立大学大学院核医学)
  • 齋藤 英彦(国立名古屋病院)
  • 末松  誠(慶応大学医学部医化学教室)
  • 廣田 良夫(大阪市立大学大学院医学研究科公衆衛生学)
  • 中沼 安二(金沢大学大学院医学系研究科形態機能病理学)
  • 鹿毛 政義(久留米大学医学部病理学教室)
  • 松谷 正一(千葉大学大学院医学研究院腫瘍内科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
24,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班の研究目的は、原因不明で門脈血行動態の異常を来す特発性門脈圧亢進症(IPH)、肝外門脈閉塞症(EHO)、バッドキアリ症候群(BCS)を対象疾患として、これらの疾患の病因および病態の追求とともに治療上の問題点を明らかし、予後の向上を目指すところにある。
研究方法
門脈血行異常症(IPH,EHO,BCS)について以下の項目に関して分担研究者と共同研究を行った。
a)病因・病態・遺伝子異常の解析
門脈血行異常症のモデルを用いて、分子生物学的にその病因・病態を検討した。また、病因として考えられる遺伝子異常の解明を行った。
b)病理学的検討
門脈血行異常症3疾患の病因・病態を解明するため、病理学的側面から検討した。
c)国際間での比較
BCSの原因として血液凝固遺伝子異常が報告され、その形態とともに国際間の差異があると言われている。海外に協力施設を設けて、BCSの国際間比較を行った。
d)疫学的検討
臨床疫学的特性を明らかにするために、当研究班と特定疾患疫学研究班との共同による全国疫学調査を企画し、行った。
e)全国症例登録制度及び検体保存センター
平成9年度に設置した全国症例登録制度および検体保存センターにおける症例登録を継続し、症例の確保を行った。
(倫理面への配慮)
平成13年3月に公表された3省ガイドライン(文部科学省、厚生労働省、経済産業省)「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」に従い、遺伝子解析を行う際は、研究対象者の氏名やプライバシーに関わることは一切公表しないことなどのインフォームドコンセントを研究対象者からとることとした。
結果と考察
研究結果及び考察
a)病因・病態・遺伝子異常の解析
プロテインチップを用いてIPHに特異的に発現するタンパク質の解析を行った結果、IPHに特異的に発現していたのは7770Daのタンパク質であり、発現量はIPH5例中、4例で上昇していた。
血液凝固因子に関連して、Factor V R2 haplotypeに含まれる変異のうち、Asp2194 to Gly変異の存在がリコンビナントFV R2分子の粗面小胞体からGolgi体への細胞内輸送を障害し、細胞培養上清中への最終的な発現量を低下させることが判明した。
HO-1の発現に伴いマクロファージではMCP-1の低下など炎症反応の低下に関与するものばかりでなく、PAI-1の低下やCTGFの低下など組織の再生や線維化抑制に関与する可能性を示唆する反応が認められた。この解析法によりHO-1誘導に伴う細胞機能リモデリングのメカニズムが明らかになった。
ラット門脈亢進症性胃症(Portal Hypertensive Gatropathy)のET receptor antagonistによる微小循環の変化をin vivo microscopyにて検討した。門亢症胃粘膜下においてET-1はET-A receptorを介して微小循環のregulationを行っていると考えられた。
循環作動性物質の食道静脈瘤血行動態への影響を明らかにする目的で、門脈血流増加作用が知られているグルカゴンを負荷した際の、食道静脈瘤血行路血流の反応性を検討した。負荷前後の血流速度は、門脈本幹では24%に有意な増加があったのに対し、左胃静脈では58%に有意な増加がみられた。血流速度の変化率は門脈本幹より左胃静脈で有意に高値であり、静脈瘤が高度になるほど、また、左胃静脈径が大きいほど、血流速度の変化率は低値であった。
B)病理学的検討
IPHでは、病期の進行していない症例では、perihilar regionの門脈枝に変化は乏しいが、進行した症例では肝末梢域の門脈枝と同様の変化を認めた。
Imcomplete septal cirrhosis(ISC)の剖検例2例を検討した。症例1は組織所見では、肝実質には、細かい線維性隔壁が多発し、肝細胞の過形成からなる結節形成がみられた。グリソン鞘は全般に低形成で、門脈枝の潰れが所々にみられ、肝実質にヘルニア状に突出した異常血行路もみられた。症例2は組織所見では、肝実質に不完全な線維性隔壁の多発、および肝細胞の過形成からなる結節形成を認めた。
c)国際間比較
Factor V Leiden mutation及びProthrombin mutationともに本邦ではBCSの原因として認められず、欧米諸国とは違ったBCSの原因が考えられた。
カトマンズのBudd-Chiari症候群(BCS)症例に対して施行された肝生検症例81例を対象にし、臨床経過から3型、すなわち急性例、亜急性例、慢性例に分類し、臨床病理学的検討を行った。急性型の症例には肝うっ血が目立つ症例は少なかった。亜急性型では、病変は多様であり、急性のうっ血肝からうっ血性肝硬変に至るうっ血性肝病変のスペクトラムの広がりが見られ、かつアルコール性肝障害やNSRHなどの病変を呈する症例が混在した。慢性型では、うっ血性肝線維症とうっ血性肝硬変を呈する症例が主体をなし、アルコール性肝障害像を呈する症例は認められなかった。
d)疫学的検討
2002年8月現在、全国検体保存センターに登録されているIPH症例の中から疫学・臨床情報の収集ができた40例を集計対象として、1998年全国疫学調査の集計結果と比較検討した。さらに、IPHの病態との関連が指摘されているCTGFの血清レベルが測定されている20例についてその関連を予備的に検討した。US、CT、MRI所見では脾腫大が79%ともっとも多く、以下、肝萎縮・変形(46%)、肝腫大(13%)、と続いた。血管造影では、海綿状血管増生3%、しだれ柳状所見11%、肝静脈相互間吻合11%であり、全国調査と同様であった。肝組織所見では、門脈枝の潰れが37%、肝線維化が41%と比較的高頻度にみられた。血清CTGF値の中央値21ng/mlにて低値群と高値群の2群に分けて、調査票の各項目との間の関連を検討した。
e)全国症例登録制度及び検体保存センター
本年度も登録症例を増やすため再度症例登録の案内を全国の主要病院に対して行った。その結果、平成15年3月現在IPH 98例、EHO 49例、バッドキアリ症候群38例の計185例の登録と検体の保存を行った。
結論
本班研究において、全国の258協力施設と連携し、3疾患の症例登録と検体保存(計185例:IPH 98例, BCS 49例, EHO 38例)を行った。これにより各分担研究者が病理学的、生化学的、疫学的検討を体系的に行うことが可能となり、3疾患の病因、病態の解明および予後の向上に大きく貢献することができた。

公開日・更新日

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