難治性の肝疾患に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200715A
報告書区分
総括
研究課題名
難治性の肝疾患に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
戸田 剛太郎(東京慈恵会医科大学内科学講座・消化器肝臓内科)
研究分担者(所属機関)
  • 大西三朗(高知医科大学第一内科)
  • 藤原研二(埼玉医科大学第三内科)
  • 小俣政男(東京大学大学院医学系研究科器官病態内科学(消化器内科学))
  • 川崎誠治(順天堂大学医学部第二外科学)
  • 中沼安二(金沢大学大学院医学研究科形態機能病理学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
36,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
難治性の肝疾患として自己免疫性肝炎(AIH)、原発性胆汁性肝硬変(PBC)、およびこれらの類縁疾患並びに劇症肝炎(FH)を含む急性および亜急性肝不全を対象とする。これら疾患のわが国における実態とその変遷、発症機序、診断法、肝移植を含めた治療方策およびQOLを改善するための方策に関する研究を基にして、より有効で確実な診断・治療法の確立と予後改善を目指し、国民の保険医療向上に寄与することを目的とする。
研究方法
①全国調査を継続し、わが国における実態把握を行うとともに、研究の結果得られた新たな事実を踏まえたより的確な診断・治療指針を明らかにする。②新たな治療法として、AIHに対するウルソデオキシコール酸、PBCに対するベザフィブラート、B型FHに対するラミブジンの効果に関する試験研究を継続し、その有用性、有効性を明らかにする。また、再生医療を勘案した新しい治療方策について検討する。③疾患モデルを含む病態解析を含む基礎的検討を継続する。本年度はPBCについての全国集計のまとめ、劇症肝炎症例登録と従来症例との比較、それぞれの疾患における、診断・治療に関する実験的、臨床的、さらに疫学的検討を行った。また、特に、病態解析においては、DNAチップ、SNPチップ、プロテインチップ等を用いた分子医学的解析を開始し、治療においては再生医学応用を考慮し、自己骨髄細胞を用いた肝臓再生、HGF投与法、スーパー肝細胞を用いたハイブリッド型人工肝の実験的検討と臨床応用に向けての解析を行った。
結果と考察
①AIHの疾患感受性遺伝子としてHLA非関連遺伝子CTLA4の遺伝子多型の意義、DNAチップを用いた網羅的解析、SNP解析による検討が更に進められ、従来のHLA-DR4以外の遺伝因子の存在が示唆されるとともに、PBCとは異なる遺伝子発現病態を示すことが明らかとなった。更に、プロテインチップによる解析も開始されており、分子医学的技法による今後の解析の発展が期待される。小児症例の存在が明らかになり、その診断は従来の成人に対する診断指針では困難な場合が多く、また、治療に当たっても発達成長を勘案する必要があることから、小児症例に対する、診断・治療指針確立が必要であり、次年度から作業をすすめることが確認された。また、急性発症型AIHの診断も小児例と同様に困難であり、より適切な診断指標の確立に向けて更なる検討が必要である。一方、AIHの診断において重要な意義を有す病理組織所見、特にPBCとの異同が問題となる胆管病変については、診断医間での所見の相違が問題となることが明らかにされた。この点の解決策として、全国集計で集積された標本から典型的所見を抽出し、この所見を配布することが計画された。UDCAの臨床効果に関する試験研究については症例登録が継続されている。
②PBC症例の全国調査が継続して行われた。2001年12月末に実施した第11回PBC全国調査により、既登録症例1793例と新規登録769例の報告が得られ、総登録症例は5129例となった。5年生存率はa-PBC 97%、s1-PBC 89%、s2-PBC 54%10年生存率は各々90%、72%、35%であった。年代別予後解析の結果、a-PBC、s1-PBCおよび軽度(T-Bil値2-5mg/dl、組織学的病期ⅠまたはⅡ)のs2-PBCでは、1990年以降に診断された群は以前の群と比較して予後が有意に改善していた。多変量解析の結果、軽度s2-PBCの群の予後にUDCAの影響が示唆され、当班研究で明らかにしたUDCA投与の臨床的有用性が確認された。しかし、内科的治療により生存期間の延長が十分期待できないT-Bil 5mg/dl以上または組織学的病期Ⅲ・Ⅳ期群では、肝移植適応の検討が必要である。また家系調査が進められ、PBCの家族歴を有することはPBC発症の危険因子になることが示された。抗ミトコンドリア抗体のプロフィールが多くの家系内発症例で同一であることに関しては、何らかの遺伝的要因あるいは環境因子の存在を想定させ、今後、全国集計を基に多数例での検討を行う予定である。病態解析に関する免疫学的、モデル動物を用いた解析が進められた。現在進行症例では唯一の治療法である肝移植はわが国では生体肝移植によりなされている。適応の参考となる日本肝移植適応研究会モデルによる移植対象症例の6か月死亡率とMayoモデル (update)による6か月死亡率との間には相関がなく,ともに対象症例のほとんどが100%死亡の判定となるため,手術適応を考慮する指標にはならなかったが、62%の症例ではMayoモデルrisk score (conventional) は平均値8.2(5.3-11.6)と、手術リスクの高いとされる7.8を越えていた。3年累積生存率は85%と、その成績は良好であるが、今後は生体肝移植を踏まえた適応基準の確立が必要である。ベザフィブラートの試験研究の症例登録が継続されている。
③FHの全国集計が継続され、新たに101症例が登録され、前年に比し自己免疫性症例が低率であったが,基礎疾患や薬剤歴を有する症例は高頻度であり,成因ではB型が最も多いなどは従来と同じ傾向を示した。また、新たにE型肝炎ウイルスが成因として認知された。肝移植の実施率は前年より更に高率となっており,また,昏睡出現から肝移植までの日数も短縮していることが明らかになった。この結果,肝移植実施例も含めた救命率は,急性型が50%以上,亜急性型とLOHFは40%以上に達していた。しかし,肝移植適応ガイドラインは正診率が急性型で特に低率であり,また,亜急性型もspecificityが低いなど,病型ごとに改変する必要があることが判明した。新たな治療法として自己骨髄細胞を用いた肝再生の誘導、HGFを用いた治療、スーパー肝細胞を用いたハイブリッド型人工肝などの臨床応用へ向けての検討が加えられた。骨髄細胞からの肝細胞への分化・増殖のGFP (Green fluorescent protein) transgenic miceを用いた in vivo評価モデルでは、血清アルブミン値が有意に改善し、また生存率も有意に改善したことより『自己骨髄細胞を用いた肝臓再生療法(細胞療法)』は臨床応用可能な次世代の移植療法となりえる可能性が示された。HNF-4遺伝子を導入した肝細胞は高度の肝細胞特異機能を発現し、スーパー肝細胞として人工肝に応用可能である可能性が示された。
結論
症例の集積により、診断・治療に関わる有用な情報が確実に集積されつつある。一方、AIHにおいては急性発症症例や小児例など、現時点での診断指針、治療指針では対応困難な症例が存在することも明らかとなり、これらに対する明確な診断・治療指針の確立が今後の課題である。病態解析に不可欠な適切な動物モデルが確立されつつあり、また、分子医学を駆使したDNAチップ、SNPチップ、プロテインチップなどの解析は今後の診断・治療法の発展に寄与することが期待される。PBC、FHともに進行症例の治療は現在肝移植が唯一の方法である。移植後の予後は良好であるが、わが国の移植は殆どが生体肝移植であり、現状を踏まえた移植適応基準の再検討も必要である。移植を遅延あるいは回避できる、肝機能補助、肝再生促進に関する研究として、骨髄細胞の利用、HGFの利用さらにはスーパー肝細胞の応用に関しての研究が進められている。新たな治療薬に関する3つの試験研究は現在継続中である。

公開日・更新日

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