呼吸不全に関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200714A
報告書区分
総括
研究課題名
呼吸不全に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
久保 惠嗣(信州大学医学部内科学第一教室)
研究分担者(所属機関)
  • 西村正治(北海道大学大学院医学研究科分子病態制御学(呼吸器病体内科学))
  • 栗山喬之(千葉大学大学院医学研究院加齢呼吸器病態制御学)
  • 堀江孝至(日本大学医学部第一内科)
  • 三嶋理晃(京都大学大学院医学研究科臨床器官病態学(呼吸器病態学))
  • 福地義之助(順天堂大学医学部呼吸器内科)
  • 山口佳寿博(慶応義塾大学医学部内科学教室)
  • 永井厚志(東京女子医科大学第一内科学講座)
  • 友池仁暢(国立循環器病センター)
  • 坂谷光則(国立療養所近畿中央病院)
  • 白土邦男(東北大学大学院医学系研究科内科病態学(循環器病態学)
  • 木村 弘(奈良県立医科大学内科学第二講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
31,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
呼吸不全関連疾患(若年性肺気腫(慢性閉塞性肺疾患, COPD)・肥満低換気症候群(OHS)・肺胞低換気症候群・原発性肺高血圧症(PPH)・慢性血栓塞栓性高血圧症(CTEPH)を対象として、その病因および病態を探求、究明し、病態に合った治療法の再構築をおこなうと同時に遺伝子治療を含めた新たな治療法の模索・開発を目指す。また、病因・病態の追求および治療法の確立・開発につながる臨床研究課題および原因的治療法を確立するための基礎研究課題をとりあげ、研究を推進することにある。
研究方法
対象疾患に対する、臨床的・疫学的・病理学的・分子生物学的および遺伝子学的解析を施行し、発症機序および病態の解明、これに基づきEBMに沿った治療法の確立に関して多方面からのアプローチをおこなった。(倫理面への配慮)疫学調査においては、文部科学省および厚生労働省からの疫学研究に関する倫理指針に従い、研究対象者に対する人権擁護上の配慮、研究方法による研究対象者に対する不利益や危険性の無いように配慮し、研究対象者に十分な説明と理解(インフォームドコンセント)を得た。また患者情報に関して、決して個別に公開しないことを明確に述べた。なお、ヒトゲノム・遺伝子解析研究については、ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針(平成13年3月29日文部科学省・厚生労働省・経済産業省告示第1号)を遵守しておこなった。動物実験に関しては、それぞれの研究の実施前に、各施設の動物実験に関する倫理委員会の承諾を得ることを原則とした。
結果と考察
本年度の研究課題に対する考案を以下の3項目に大別して報告する。
1. COPDの成立機序・病態・治療に関する研究: COPDの病態の多様性を評価・分類し、各々の病態に応じた治療法の再構築を試みる必要がある。高分解能胸部CTによる画像分析の疫学的調査研究により、COPDには肺気腫型、気道病変優位型、肺気腫・気道病変混合型、肺線維化を伴う肺気腫型と種々の形態的phenotypeが存在し、原因、性差、若年発症、呼吸機能、気道炎症で相違がみられた。男女差に関しては、女性では男性と比較して喫煙感受性が高いこと、間接喫煙や喫煙以外の要因の存在が示唆されたこと、気腫病変が軽度であり、特に若年発症例では気道病変型が多く認められたことである。また傍中隔気腫や気腫に肺線維症を合併した線維症合併型は男性COPDで特徴的にみられることが示唆された。肺気腫成立に関して、上皮細胞の老化や細気管支気道上皮レベルでのIL-8や好中球を介する炎症の関与が示唆された。喫煙感受性に関してはMMP-1, 9, TIMP-2の遺伝子多型の中では、MMP-9(-1562C/T)遺伝子多型が日本人喫煙者の肺気腫進展に最も関与していると考えられた。COPD患者の労作時息切れの原因として労作時の動的肺過膨張の重要性が示唆され、今後さらに運動耐容能、肺循環に与える影響との関連および薬物に対する反応につき検討し治療に応用したい。COPDの急性増悪は死亡率や予後に大きな影響を与える。しかし急性増悪の原因やメカニズムに関しては十分に検討されていない。今回の検討において、ウイルス、細菌の単独気道感染のみならず、ウイルス・細菌混合感染も高率に認められ、気道のムチン産生を亢進させることが示され、急性増悪機序の一端が解明された。今後の治療に生かしてゆきたい。在宅呼吸ケアの現状を調査した結果では、在宅非侵襲的人工換気(NPPV)に関して、在宅酸素療法に比べるとかなり限られた施設でのみ行われている現状が明らかになり、今後のNPPVに対する知識・技術の普及と啓蒙が必要と思われた。
2. OHSの診断・治療に関する研究:OHSを含む閉塞型睡眠時無呼吸低呼吸症候群(OSAHS)は動脈硬化の発症・進展に関与し得ること、また夜間の無呼吸低呼吸が直接肝機能障害を引き起こすことが示された。さらにOHSにおいては、脂肪細胞由来の肥満関連因子で呼吸中枢刺激作用のあるレプチンは高値を示すにもかかわらず、逆に低換気を示したことから中枢神経系におけるレプチン感受性の低下が低換気の病態に関与していると考えられた。治療に関しては、上気道抵抗症候群患者に対する鼻マスク持続陽圧呼吸療法(nCPAP)の有用性が示され、今後nCPAP療法適応拡大ついて検討する必要がある。QOLに関して、SF-36を用いたHRQoLの評価とEpworth sleepiness score(ESS)や各種睡眠生理学的指標との関連を検討した結果では、SF-36とESSとの間に有意な相関を示し、Lowest SpO2は身体機能、全体的健康感と正の相関を認めた。また、中枢型無呼吸が身体機能、社会生活機能および日常役割機能(精神)と負の相関を示し、HRQoLに影響する可能性が示唆された。以上より睡眠時無呼吸症候群患者のHRQoLの評価にSF-36は有効であるが、詳細な検討や縦断的検討には疾患特異的質問表が必要と考えられた。
3.肺高血圧症の成因・病態・治療に関する共同研究:PPHに対する持続的経静脈PGI2投与に対して約35%の患者で治療抵抗性を示し、反応性は均一でないことが判明した。また、動物実験にて高脂血症治療薬であるスタチン系薬剤が肺高血圧症に有効である可能性が示され、臨床での有効性の検証が必要となってきた。CTEPH患者に対する血栓分布パターンをcentral disease score(CD-sore)およびcentral score(C-score)を用いて解析した結果、我国におけるCTEPHに対する手術例は欧米の報告と比較して、より末梢例や片側有意例が多く、肺動脈の血栓分布が欧米と異なる可能性が示唆された。また血栓分布が末梢型の方が術後肺高血圧の改善が乏しく、両スコアーは肺動脈血栓内膜摘除術適応指針の作成に有用と考えられた。
結論
若年性肺気腫を含むCOPDの病態は均一ではなく多様性に富むことが示された。病態学的phenotype分類と特徴をさらに検討し、各々の病態に応じた治療法の再構築を試みる必要がある。肺気腫・気道病変形成には肺胞壁・細気管支での気道炎症による組織の破壊と修復、細胞のアポトーシスと増殖、老化と再生が複雑に絡み合って生じると考えられる。今後成立機序のさらなる解明とともに、生命予後と重要に関わる急性増悪の原因および病態の解明、喫煙感受性の高い群や急速悪化群の特徴の解明を分子生物学・遺伝子学的手法を用い推し進め、予後の改善を目指した治療法の開発を目指す必要がある。OHSを含むOSAHSは脳心血管障害・耐糖能異常・高脂血症など生活習慣病の重要な危険因子であり、その機序のさらなる解明と合併症に対するn-CPAP、外科的治療および口腔内装置による治療効果について検討する必要がある。また、重症度・治療効果判定にPSGのみならず、HRQoLによる評価が重要であり、疾患特異的な質問表の作成が必要である。上気道抵抗症候群および保険適応がない軽症OSAHSで睡眠障害・日中傾眠を示す患者に対するn-CPAPおよび口腔内装置治療効果について検討する必要がある。 PPH患者の約35%において持続的経静脈PGI2投与に対して抵抗性を示し、反応性は均一でないことが判明した。このPGI2に対する反応性が異なる機序およびPGI2抵抗性PPHに対するPGI2以外の血管拡張薬やスタチン系薬剤などの効果について、また膠原病を含む二次性肺高血圧症に対するPGI2の効果についても検討する必要がある。さらにPPH発生機序に関して、遺伝子レベルでの病態の解明を推進し、遺伝子治療を含む新たな治療法の確立を目指す必要がある。

公開日・更新日

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更新日
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