びまん性肺疾患に関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200713A
報告書区分
総括
研究課題名
びまん性肺疾患に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
貫和 敏博(東北大学加齢医学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 近藤丘(東北大学加齢医学研究所)
  • 杉山幸比古(自治医科大学)
  • 江石義信(東京医科歯科大学)
  • 吉澤靖之(東京医科歯科大学)
  • 松島綱治(東京大学医学部)
  • 滝澤始(東京大学医学部)
  • 吾妻安良太(日本医科大学)
  • 福田悠(日本医科大学)
  • 慶長直人(国立国際医療センター研究所)
  • 井上義一(国立療養所近畿中央病院臨床研究センター)
  • 上甲剛(大阪大学医学部)
  • 河野修興(広島大学医学部)
  • 曽根三郎(徳島大学医学部)
  • 菅守隆(熊本大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
31,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
びまん性肺疾患調査研究班においては特発性間質性肺炎、サルコイドーシス、びまん性汎細気管支炎の3疾患を対象疾患とし、過去25年以上に渡り全国の研究者を班員として研究が推進されてきた。かかる研究成果をもとに、本研究では最新技術による基礎的資料の整備と、それに基づいた研究展開を戦略とした。すなわち、HRCTによる肺病態の疫学的検討、肺画像診断と肺病理組織像の理解のためのゲノム研究やマイクロアレイ技術による研究展開、さらに、共同研究の一典型としての多施設臨床試験である。
研究方法
特発性間質性肺炎、サルコイドーシス、びまん性汎細気管支炎の3疾患について、臨床的研究課題に関しては、主に臨床検査成績の解析や臨床検体を用いた病理学的手法を、基礎的な病因・病態解明には細胞分子生物学的手法を用いた。結果と考察においてそれぞれの手法について略記した
結果と考察
疫学調査等の共同研究としては、特発性間質性肺炎(IIPs)の疫学調査準備が臨床病理検体収集の為の書類の完成にとして勧められ、CT検診を用いた疫学調査のためには、ボリュームヒストグラムを用いた特徴量解析による自動診断の可能性が示された。また、現在治療困難で問題となっている閉塞性細気管支炎の全国調査研究のための調査表の検討を行い実施の準備を整えた。特発性間質性肺炎に関しては、第4次診断基準改定作業が終了し、診断と治療の為のガイドライン作成も最終段階となった。特発性肺線維症(IPF)の分子細胞病態としては、気管支肺砲洗浄液のプロテオーム解析法、ST2遺伝子発現とのかかわり、長寿遺伝子と酸化シグナルとの関連、そして修復における骨髄由来幹細胞の重要性が示された。早期IPF症例の診断方法としては血清マーカーの有用性が、急性増悪の発症機序の臨床的検討としては、術後の急性増悪から、および慢性過敏性肺炎との関連から諸因子の解析を行った。疾患重症度の再評価としては患者のQOLとの比較からその妥当性を示した。さらに、分子標的治療薬の有効性が動物実験上示され、また呼気凝縮液中NO代謝物測定による治療薬効果を検討した。組織傷害後の修復における骨髄由来幹細胞の関与に関しては、疾患モデルを用いて検討を行った。サルコイドーシスに対しては、疾患発症の原因抗原としてのP.acnesが末梢肺と縦隔リンパ節に常在し、臓器ごとに異なる遺伝子型を保持することを保持することを示したことから、サルコイドーシス発症患者における自己免疫異常の可能性が示唆された。この可能性は、正常肺所属リンパ節で成立しているP.acnesに対する免疫応答と肺外増殖したP.acnes感作リンパ球が循環血流由来を経て肺肉芽腫を誘導し得ることからも示された。臨床的には、サルコイドーシスの診断の確実性を様々な臓器障害の程度や新しい疾患活動性のマーカーの検討を行った。びまん性汎細気管支炎(DPB)に対しては、びまん性汎細気管支炎の疾患感受性遺伝子研究として、HLA関連疾患感受性遺伝子候補領域 200 kb 内に100個以上のSNPが同定され、その連鎖不平衡に関わるブロック構造が明らかのした。また、エリスロマイシンの処理により発現が増強する遺伝子と減弱する遺伝子の存在を示した。
結論
特発性間質性肺炎に関しては、新しい診断基準および診断と治療の為
のガイドラインによるから難解な疾患群に対する理解が期待される。また、なかでも治療に抵抗性の特発性肺線維症(IPF)に関しては、疫学的調査に基づく検診制度を確立する必要が求められていることから、画像診断を自動化する試みや、患者血清マーカーを指標としたスクリーニングをする試みは、治療反応が期待される早期段階の患者診断を可能にすることが期待される。現在治療が困難なこれらの疾患群に関しては、その病態の遺伝子発現等の基礎的解明は理念的に分子標的治療の開発に不可欠である。病理検体を共同で集積する準備は実現に向けて確実にすすんでおり、今後遺伝子産物やプロテオーム解析を進めることによって、基礎的情報と臨床情報との比較検討をおこない、その病態解析を促進することが予想される。サルコイドーシスにおいては、すでに治療指針策定が終了し、さらに診断のためのガイドライン策定を進める。本研究班によるPropionibacterium属の病因的追求は、常在菌に対する自己免疫異常の可能性が示され、その病態機序解明によって治療・予防に多大な貢献を果たすことが期待される。びまん性汎細気管支炎患者の疾患感受性遺伝子の解析からは、多くの遺伝子群が同定され、その中からは疾患関連の肺内生理物質の遺伝子も同定され、ひろく疾患病態が可能になった。また、マクロライド治療抵抗性症例の実態解明がすすみ、その結果に基づいた新しい治療法開発も本研究から確立されることが期待される。これらを基本戦略とし、対象3疾患ともに今後新たな研究展開を推進していく必要がある。第一点は線維化肺に関しても、一部に家族性が明らかになっている遺伝子異常(HSP1~4遺伝子、SP-C遺伝子など)を中心に、動物モデルも加味した研究展開が必要である。第二点はサルコイドーシスにおける免疫要因としてのプロピオニバクテリウムの証明と、単なる除菌に加えた免疫病態改善に向けた治療法開発の展開である。第三点は、東アジア民族における病態としてのびまん性汎細気管支炎病態に関係する気道上皮細胞遺伝子異常の解析である。

公開日・更新日

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