免疫性神経疾患に関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200706A
報告書区分
総括
研究課題名
免疫性神経疾患に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
吉良 潤一(九州大学大学院医学研究院神経内科学)
研究分担者(所属機関)
  • 糸山泰人(東北大学大学院医学研究科神経科学講座神経内科学分野)
  • 納光弘(鹿児島大学医学部第三内科)
  • 斎田孝彦(国立療養所宇多野病院)
  • 田平武(国立療養所中部病院長寿医療研究センター)
  • 荒賀茂(鳥取大学医学部脳神経内科)
  • 池田修一(信州大学医学部第三内科)
  • 出雲周二(鹿児島大学医学部附属難治性ウイルス疾患研究センター)
  • 大原義朗(金沢医科大学微生物学)
  • 梶龍兒(徳島大学医学部附属病院神経内科)
  • 神田隆(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科脳神経機能病態学)
  • 菊地誠志(北海道大学大学院医学研究科脳科学専攻神経病態学講座神経内科学分野)
  • 楠進(東京大学医学部附属病院神経内科)
  • 桑原聡(千葉大学医学部附属病院神経内科)
  • 高昌星(信州大学医学部保健学科)
  • 郡山達男(広島大学医学部附属病院第三内科)
  • 斎藤豊和(北里大学医療衛生学部)
  • 酒井宏一郎(金沢医科大学神経内科)
  • 錫村明生(名古屋大学環境医学研究所高次神経統合部門)
  • 祖父江元(名古屋大学大学院医学研究科脳神経病態制御学)
  • 田中恵子(新潟大学脳研究所神経内科学)
  • 中村龍文(長崎大学大学院医学研究科感染分子病態学)
  • 原寿郎(九州大学大学院医学研究院成長発達医学分野小児科学)
  • 原英夫(国立長寿医療研究センター)
  • 久永欣哉(国立療養所宮城病院臨床研究部)
  • 藤井義敬(名古屋市立大学医学部外科学第二)
  • 松井真(国立療養所宇多野病院神経内科)
  • 村井弘之(九州大学医学部附属病院神経内科)
  • 山村隆(国立精神・神経センター神経研究所免疫研究部)
  • 結城伸泰(獨協医科大学神経内科)
  • 吉川弘明(金沢大学保健管理センター)
  • 米田誠(福井医科大学内科学第二)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
60,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
免疫性神経疾患の発症は、①宿主側要因(免疫遺伝学的背景)、②トリガーとなる感染症(病原微生物)、③自己免疫の標的神経抗原分子の3者によって規定される。本研究では比較的稀な免疫性神経疾患について全国調査研究組織を結成して症例を集積し、これら3者の同定を行い、独創的な治療法を開発することを目標としている。神経免疫疾患は、全国的にみても患者数が限られているので、全国規模での調査研究が必要とされる。そこで本研究班では、全国的な調査研究班を組織することにより、指定対象疾患並びに関連する免疫性神経疾患(HAM、アトピー性脊髄炎、傍腫瘍性神経症候群等)について1)全国調査に基づいて疫学的特徴、臨床像、免疫遺伝学的背景、現状の治療成績を明らかにすること、2)全国調査の分析結果からみた発症機序の解明をすること、3)発症機序に立脚した新しい画期的な治療法を開発すること、及び4)発症予防法を発見することを目的とする。この達成により、1)患者さんの機能予後・生命予後の改善、2)患者さん・ご家族のQOLの改善、3)社会の受益が期待できる。
研究方法
指定対象疾患のうち多発性硬化症(MS)については、通常型MSとは異なる独自の特徴を有する視神経脊髄型MSが独立した一疾患単位であることが示されてきている。本研究成果は国際的にも大きな注目を浴びており、現在中国、韓国、ブラジルどの国際共同研究が進められつつある。国外では、通常型MSで軸索障害がMSの障害に大きく寄与する因子として注目されるようになっている。我々はMSの新規自己抗原として軸索に存在する分子を発見しており、今後MSの軸索障害機序に迫る独創的な研究を展開させる。各種末梢神経炎で固有の抗ガングリオシド抗体が出現することが明らかにされ、自己抗体を介する神経障害機序が重要視されるようになった。またHAM発症の促進因子・抑制因子の解明も国際的にきわめて高く評価されている。また、重症筋無力症(MG)では抗体陰性MGが世界的に注目を集めている。当班では今後これらの研究も進めていく予定である。特定疾患に指定され
ているMS、MGについてはワーキンググループを結成し、臨床像、遺伝的背景、治療法、予後などに着目して全国的な疫学研究を展開する。
結果と考察
1)視神経脊髄型MS(OS-MS)の重症化因子として血管透過性を亢進させるplatelet-activating factor acetylhydrolaseを不活化する遺伝子変異(G994T)が同定された。2)OS-MSは二次性慢性進行型へ移行する率が通常型MS(C-MS)より有意に低く、かつ罹病期間と総合障害度の間に有意な相関がないことが明らかとなり、OS-MSの障害度は重症の再発によって規定されることが明らかとなった。上記変異はOS-MSの再発を重症化させ、組織障害を高度にすることに寄与していると考えられた。3)髄液細胞の細胞内サイトカイン産生能をフローサイトメトリー法で測定する方法と、少量の髄液を用いて多数のサイトカインを同時に測定する方法の開発がなされた。この方法により、C-MSは末梢血より髄液でTh1優位であるのに対して、OS-MSは髄液では末梢血のような著明なTh1シフトはみられないことが示された。4)また、MSの寛解期にはCD95陽性NK細胞が高発現したくすぶり型の寛解と低発現した完全な寛解の2種があることが示された。5)抗MuSK抗体陽性MG患者IgGのマウスへのpassive transferによる神経筋伝達阻害が証明され、その作用機序として抗AchR抗体陽性MG患者IgGとは異なる機構が考えられた。5)Campylobacter jejuni由来Dps蛋白が精製・クローニングされ、本Dps蛋白に対する抗体が消化器感染後GBS患者で特異的にみられ、このDps蛋白が運動ニューロンに結合することが示された。軸索障害型GBSの新たな障害機序を示唆する成果である。6)HAMの遺伝的背景として、MMP-9 promoter d(CA)n repeatの延長、Aggrecan VNTR 1630bpアリルおよびTNFα-863A多型が新たに同定された。7)Th1/Th2特異的転写因子であるT-bet/GATA-3の発現を解析することにより、HAMではTh1/Th2シグナリングのバランスがくずれており、このためTh1優位になることが明らかとなった。8)MGワーキンググループ、MSワーキンググループが相次いで結成された。MGでは,縦隔鏡下拡大胸腺摘出術の中期治療予後が初めて報告され、胸骨正中切開と比較してもQMGスコア、抗AchR抗体の低下は同程度であった。今後、小児MGの現状、手術法による予後の違い、抗体陰性MGの治療法などについて調査を行う予定である。MSでは、OS-MSでは二次性慢性進行型の比率が少ないこと、早期に重症化する率が高いこと、C-MSでは罹病期間が10年以上の群で二次性慢性進行型の比率が高いことが報告された。今後はHLAなど免疫遺伝学的背景と臨床との関連、新たに開発された髄液検査法を用いた免疫学的パラメータの評価を行ってゆく予定である。
結論
本年度は、第一にOS-MSにおけるPAF-AHや、HAMにおけるMMP-9 promoter d(CA)n repeat、TNFα-863A多型など神経免疫疾患の宿主側遺伝的要因として重要なものが発見されたことが大きな成果といえる。これにより、病態の解明が進むとともに、PAF inhibitorや MMP-9阻害薬などを用いた免疫性神経疾患の新しい治療法の開発が進むことが期待される。第二に、神経免疫疾患の病態解明にきわめて重要な髄液を用いた新しい検査法が開発されたことが重要である。これにより、炎症性中枢神経疾患や炎症性末梢神経疾患の末梢血と髄液の免疫動態の差異の解析や、疾患間の髄腔内でのTh1/Th2バランスの違いなどの解明がいっそう進み病態解明に寄与することが期待できる。第三に、GBSにおけるDps蛋白への免疫応答の発見や平山病における免疫・アレルギー因子の関与など、予報的ではあるが、世界的にみても全く新しい発想の研究成果が相次いで報告されたことがあげられる。今後、神経免疫疾患に関するわが国独自の研究成果があげられ、世界に向けて新しい情報を発信できるものと期待される。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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