文献情報
文献番号
200200705A
報告書区分
総括
研究課題名
神経変性疾患に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
葛原 茂樹(三重大学)
研究分担者(所属機関)
- 水野美邦(順天堂大学)
- 森松光紀(山口大学)
- 中野今治(自治医科大学)
- 祖父江 元(名古屋大学)
- 川井 充(国立精神・神経センター)
- 森若文雄(国立療養所札幌南病院)
- 戸田達史(大阪大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
46,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究班は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病(PD)、ハンチントン舞踏病(HD)、球脊髄性筋萎縮症(SBMA;Kennedy-Alter-Sung病)、脊髄空洞症、進行性核上性麻痺(PSP)、線条体黒質変性症(SND)、ライソゾーム病の8疾患に代表される神経変性疾患に関して、基礎的ならびに臨床的研究を発展させ、特定疾患に係る科学的根拠を集積・分析し、医療に役立てることを目的とする。
研究方法
研究方法と研究組織=神経変性疾患の多くは、病因・病態が不明で診断法や治療法が確立されていない。原因解明には、全国多施設協力による患者の実態調査と疫学的解析、および分子生物学的手法による研究が必要である。本班は主任研究者1名、分担研究者7名を軸に、研究協力者26名、他の研究班との連絡班員2名からなる研究体制で、主任研究者は研究を総括し、分担研究者をリーダとするPD関連疾患(水野、森松)、ALS関連疾患(中野、祖父江)、重症度・QOLの評価法検討(森若、川井)、遺伝素因と遺伝子多型検討(戸田)の分科会に研究協力者が参加する組織とした。連絡班員は、QOL評価と特定疾患見直しを調整する。今期の重点項目は以下の3つとして、研究班の全体研究と個別研究に取り組んだ。
1.原因と病態の研究:研究対象疾患を中心に、分子遺伝学、神経病理、神経薬理、神経化学、神経生理、神経疫学、神経治療など多角的に個別研究を推進する。
2.研究班の全体研究(疫学的研究、診断基準と治療指針、予防法):全国規模で取り組み、診断法と診断基準の確立、重症度に対応した治療指針の確立、治療法と予防法の開発を目指す。
3.特定疾患治療研究対策事業:ALS、PD、HDが特定疾患に指定されてから約30年が経過し、原発性側索硬化症(PLS)、SBMA、脊髄性進行性筋萎縮症(SPMA)などの運動ニューロン疾患、PSP、SND、皮質基底核変性症(CBD)などのパーキンソニズムが新しい疾患概念として確立された。これらの特定疾患指定を目指し実態調査と診断基準作成を行う。
1.原因と病態の研究:研究対象疾患を中心に、分子遺伝学、神経病理、神経薬理、神経化学、神経生理、神経疫学、神経治療など多角的に個別研究を推進する。
2.研究班の全体研究(疫学的研究、診断基準と治療指針、予防法):全国規模で取り組み、診断法と診断基準の確立、重症度に対応した治療指針の確立、治療法と予防法の開発を目指す。
3.特定疾患治療研究対策事業:ALS、PD、HDが特定疾患に指定されてから約30年が経過し、原発性側索硬化症(PLS)、SBMA、脊髄性進行性筋萎縮症(SPMA)などの運動ニューロン疾患、PSP、SND、皮質基底核変性症(CBD)などのパーキンソニズムが新しい疾患概念として確立された。これらの特定疾患指定を目指し実態調査と診断基準作成を行う。
結果と考察
研究成果と考察=
A. 全体研究
1)全国規模の神経難病データ集積と、ADL・QOL調査:研究班研究期間の3年間に全班員の協力で、ALSのデータバンクづくりとPDのQOL評価の実施法を検討した。今年度は、特定疾患アウトカム研究班主任研究者・福原教授によるQOL評価セミナーを開催した。
2)特定疾患治療対策事業への取り組み:厚生省からの要請を受けて、指定3疾患(ALS、PD、HD)に新たな関連疾患を含めるという基本方針で見直し案を厚生労働省に提出した。年度末にSND、PSP、CBDの新指定が発表され、PD関連疾患については目標が達成できた。
B.個別研究
平成15年2月14日~15日に平成14年度研究班の班会議・研究報告会を開催し、35題の個別研究が報告された。
1.筋萎縮性側索硬化症(ALS)
1) 病態生理・病理と治療に関する臨床的研究
運動ニューロン障害の客観的評価法の確立へ向けて、MRI核酸テンソル画像と磁気刺激による中枢運動伝導時間測定の組み合わせによる錐体路変性評価(郭班員)、spike-triggered averaging法による下位運動ニューロンの運動単位数と臨床経過との相関(内藤班員)、本検査法を評価法に取り入れたCOX-2阻害薬治験計画(荒崎班員)、ALS患者に対する大量メチルコバラミン療法の長期効果(梶班員)が報告された。病態・病理研究では、脂溶性抗酸化物質である血漿中CoQ-10の酸化還元状態測定によるALS患者の全身酸化ストレス評価(岡本班員)、神経細胞内ユビキチン封入体の構成成分の解析(田中班員)、脳の上衣細胞に出現するユビキチン陽性封入体には疾患特異性はないこと(水谷班員)が報告された。
2) 非定型運動ニューロン疾患、紀伊半島ALS・パーキンソン痴呆複合の病態と病因の研究
沖縄型と滋賀型の運動感覚ニューロパチーの原因遺伝子座が共に第3染色体長腕セントロメア近傍に局在する(中川班員)、SOD1遺伝子変異を認めない新しい家族性ALS例(吉良班員)、原発性側索硬化症の剖検例報告と疾患概念についての問題提起(高橋班員)、紀伊半島ALS/パーキンソン痴呆複合の離村後発症例の研究(葛原班員)や、孤発性ALS発症感受性遺伝子同定のための全ゲノム領域対象関連解析による存在候補領域の発見(中野亮一班員)が報告された。
2) 萎縮性側索硬化症の神経細胞死と変性に関する研究
ALS患者脊髄でアポトーシスカスケードの最終産物であるcaspase-3の発現増強を認めなかったことから、ALSの神経細胞死は古典的アポトーシス経路ではない可能性の指摘(中野今治班員)、ミトコンドリアから放出されるcaspase活性物質であるSmac/DIABLOがALSのspheroidへの蓄積の免疫組織化学的証明と運動ニューロン死への関与の示唆(林班員)、孤発性ALS脊髄で発現が増加している遺伝子からクローニングされたdorfinのレビー小体やグリア細胞封入体への存在(祖父江班員)が報告された。
4)トランスジェニックマウスや培養細胞を用いた実験的研究
臨床型が異なるヒト家族性ALS原因遺伝子導入トランスジェニックマウスが、ヒトの病型をよく再現している(青木班員)、低酸素刺激によるG93A変異型SOD1トランスジェニックマウスにおけるVEGF誘導阻害機能の発見(阿部班員)、SOD1ベクターと、変異SOD1遺伝子の発現を特異的に抑制するsiRNAを培養細胞に共発現させることにより、変異SOD1 messenger RNA切断に有効である(水澤班員)、低分子化合物T-588が顔面神経引き抜き損傷後運動ニューロン変性に対して保護作用をもつ(岩崎班員)ことが報告された。
2.パーキンソン病と関連疾患
1) パーキンソン病の機能評価と薬物治療に関する臨床的研究
PDの非運動症状に対する研究として、淡蒼球破壊術時の微小電極による視索からのVEP記録で、VEP潜時と重症度や罹病期間は相関しない知見(橋本班員)、PD患者の未知の顔の認識障害の存在と、その責任病巣を検討した脳磁図による研究(加知班員)、PD患者の深部脳刺激療法実施中に神経心理学的症状が悪化する事例の報告(川井班員)、PD患者のすくみ足の評価尺度としてGiladiらが開発した質問票の日本語訳(JFOGQ)の評価結果(近藤班員)、カベルゴリン血中濃度のマクロライド系抗生物質併用による上昇(野元班員)が報告された。
2) パーキンソン病の実験動物モデルを用いた研究
MTPT処理カニクイザルPDモデルでは心筋シンチグラムの取り込み低下は認められない(久野班員)、caspase 11ノックアウトマウスにMPTPを投与して作製したPDモデルにおいて、細胞死、マイクログリア活性化、IL-beta、iNOSの抑制を確認(水野班員)、日本脳炎ウィルス感染により作製したPDモデルラットでは内因性MAO粗大物質イサチンが線条体ドパミン濃度上昇と運動機能改善効果がある(森若班員)という報告がなされた。
3) αシヌクレイン
ラットC6グリオーマ細胞にヒトαシヌクレインを過剰発現させた系でαシヌクレインは神経保護的機能を示す(下濱班員)、ユビキチン結合能を持つ酸化ストレス関連蛋白p62について、免疫沈降法によるレビー小体構成蛋白である確認と、封入体形成に関与し細胞死抑制的に働いている可能性(中島班員)が報告された。
4) 疫学研究とパーキンソン病原因遺伝子検索
京都府下の同じ地域で1978年と2001年に同じ方法で実施したPDの有病率調査比較で、年齢補正有病率は1.8倍に増加していた(久野班員)、相模原地区のパーキンソニズム家系原因遺伝子(park 8)遺伝子座領域(12p11.23-q13.11)のエクソンの点検状況(長谷川班員)、疾患感受性遺伝子同定を目指したPD患者のゲノムワイド関連解析により数百の有意なマーカー部位を見出した研究状況(戸田班員)が報告された。
5) 進行性核上性麻痺(PSP)と皮質基底核変性症(CBD)
全国多施設からのPSP確定例の臨床症状解析に基づいた新しい診断基準の作成(湯浅班員)、感覚刺激下で機能的MRI撮像によるCBDの皮質性感覚障害の客観的検出法の知見(森松班員)が報告された。
6) ハンチントン病(HD)
HDの原因遺伝子産物ハンチンチンプロモーター制御下で150グルタミン(Q)を含むエクソン1-EGFP融合タンパク質を発現するトランスジェニックマウスで、視床下部と線条体の機能障害を示唆する知見が得られた(貫名班員)。
A. 全体研究
1)全国規模の神経難病データ集積と、ADL・QOL調査:研究班研究期間の3年間に全班員の協力で、ALSのデータバンクづくりとPDのQOL評価の実施法を検討した。今年度は、特定疾患アウトカム研究班主任研究者・福原教授によるQOL評価セミナーを開催した。
2)特定疾患治療対策事業への取り組み:厚生省からの要請を受けて、指定3疾患(ALS、PD、HD)に新たな関連疾患を含めるという基本方針で見直し案を厚生労働省に提出した。年度末にSND、PSP、CBDの新指定が発表され、PD関連疾患については目標が達成できた。
B.個別研究
平成15年2月14日~15日に平成14年度研究班の班会議・研究報告会を開催し、35題の個別研究が報告された。
1.筋萎縮性側索硬化症(ALS)
1) 病態生理・病理と治療に関する臨床的研究
運動ニューロン障害の客観的評価法の確立へ向けて、MRI核酸テンソル画像と磁気刺激による中枢運動伝導時間測定の組み合わせによる錐体路変性評価(郭班員)、spike-triggered averaging法による下位運動ニューロンの運動単位数と臨床経過との相関(内藤班員)、本検査法を評価法に取り入れたCOX-2阻害薬治験計画(荒崎班員)、ALS患者に対する大量メチルコバラミン療法の長期効果(梶班員)が報告された。病態・病理研究では、脂溶性抗酸化物質である血漿中CoQ-10の酸化還元状態測定によるALS患者の全身酸化ストレス評価(岡本班員)、神経細胞内ユビキチン封入体の構成成分の解析(田中班員)、脳の上衣細胞に出現するユビキチン陽性封入体には疾患特異性はないこと(水谷班員)が報告された。
2) 非定型運動ニューロン疾患、紀伊半島ALS・パーキンソン痴呆複合の病態と病因の研究
沖縄型と滋賀型の運動感覚ニューロパチーの原因遺伝子座が共に第3染色体長腕セントロメア近傍に局在する(中川班員)、SOD1遺伝子変異を認めない新しい家族性ALS例(吉良班員)、原発性側索硬化症の剖検例報告と疾患概念についての問題提起(高橋班員)、紀伊半島ALS/パーキンソン痴呆複合の離村後発症例の研究(葛原班員)や、孤発性ALS発症感受性遺伝子同定のための全ゲノム領域対象関連解析による存在候補領域の発見(中野亮一班員)が報告された。
2) 萎縮性側索硬化症の神経細胞死と変性に関する研究
ALS患者脊髄でアポトーシスカスケードの最終産物であるcaspase-3の発現増強を認めなかったことから、ALSの神経細胞死は古典的アポトーシス経路ではない可能性の指摘(中野今治班員)、ミトコンドリアから放出されるcaspase活性物質であるSmac/DIABLOがALSのspheroidへの蓄積の免疫組織化学的証明と運動ニューロン死への関与の示唆(林班員)、孤発性ALS脊髄で発現が増加している遺伝子からクローニングされたdorfinのレビー小体やグリア細胞封入体への存在(祖父江班員)が報告された。
4)トランスジェニックマウスや培養細胞を用いた実験的研究
臨床型が異なるヒト家族性ALS原因遺伝子導入トランスジェニックマウスが、ヒトの病型をよく再現している(青木班員)、低酸素刺激によるG93A変異型SOD1トランスジェニックマウスにおけるVEGF誘導阻害機能の発見(阿部班員)、SOD1ベクターと、変異SOD1遺伝子の発現を特異的に抑制するsiRNAを培養細胞に共発現させることにより、変異SOD1 messenger RNA切断に有効である(水澤班員)、低分子化合物T-588が顔面神経引き抜き損傷後運動ニューロン変性に対して保護作用をもつ(岩崎班員)ことが報告された。
2.パーキンソン病と関連疾患
1) パーキンソン病の機能評価と薬物治療に関する臨床的研究
PDの非運動症状に対する研究として、淡蒼球破壊術時の微小電極による視索からのVEP記録で、VEP潜時と重症度や罹病期間は相関しない知見(橋本班員)、PD患者の未知の顔の認識障害の存在と、その責任病巣を検討した脳磁図による研究(加知班員)、PD患者の深部脳刺激療法実施中に神経心理学的症状が悪化する事例の報告(川井班員)、PD患者のすくみ足の評価尺度としてGiladiらが開発した質問票の日本語訳(JFOGQ)の評価結果(近藤班員)、カベルゴリン血中濃度のマクロライド系抗生物質併用による上昇(野元班員)が報告された。
2) パーキンソン病の実験動物モデルを用いた研究
MTPT処理カニクイザルPDモデルでは心筋シンチグラムの取り込み低下は認められない(久野班員)、caspase 11ノックアウトマウスにMPTPを投与して作製したPDモデルにおいて、細胞死、マイクログリア活性化、IL-beta、iNOSの抑制を確認(水野班員)、日本脳炎ウィルス感染により作製したPDモデルラットでは内因性MAO粗大物質イサチンが線条体ドパミン濃度上昇と運動機能改善効果がある(森若班員)という報告がなされた。
3) αシヌクレイン
ラットC6グリオーマ細胞にヒトαシヌクレインを過剰発現させた系でαシヌクレインは神経保護的機能を示す(下濱班員)、ユビキチン結合能を持つ酸化ストレス関連蛋白p62について、免疫沈降法によるレビー小体構成蛋白である確認と、封入体形成に関与し細胞死抑制的に働いている可能性(中島班員)が報告された。
4) 疫学研究とパーキンソン病原因遺伝子検索
京都府下の同じ地域で1978年と2001年に同じ方法で実施したPDの有病率調査比較で、年齢補正有病率は1.8倍に増加していた(久野班員)、相模原地区のパーキンソニズム家系原因遺伝子(park 8)遺伝子座領域(12p11.23-q13.11)のエクソンの点検状況(長谷川班員)、疾患感受性遺伝子同定を目指したPD患者のゲノムワイド関連解析により数百の有意なマーカー部位を見出した研究状況(戸田班員)が報告された。
5) 進行性核上性麻痺(PSP)と皮質基底核変性症(CBD)
全国多施設からのPSP確定例の臨床症状解析に基づいた新しい診断基準の作成(湯浅班員)、感覚刺激下で機能的MRI撮像によるCBDの皮質性感覚障害の客観的検出法の知見(森松班員)が報告された。
6) ハンチントン病(HD)
HDの原因遺伝子産物ハンチンチンプロモーター制御下で150グルタミン(Q)を含むエクソン1-EGFP融合タンパク質を発現するトランスジェニックマウスで、視床下部と線条体の機能障害を示唆する知見が得られた(貫名班員)。
結論
まとめ=本研究班の対象疾患について、全体研究と個別研究について本年度の成果と今後の課題を総括した。全体研究は初年度は立案の段階であったが、次年度から計画の具体化と実施を予定している。新指定特定疾患の診断基準と個人調査票は早急に完成させる。個別研究にも注目すべき成果が上がってきているが、それらを研究班として支援し確実な成果を出せるように、症例収集や共同研究への協力を積極的に推進する。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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