プリオン病及び遅発性ウイルス感染に関する調査研究

文献情報

文献番号
200200703A
報告書区分
総括
研究課題名
プリオン病及び遅発性ウイルス感染に関する調査研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
水澤 英洋(東京医科歯科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 毛利資郎(九州大学)
  • 三好一郎(東北大学)
  • 松田治男(広島大学)
  • 村本環(東北大学)
  • 金子清俊(国立精神神経センター)
  • 堀内基広(帯広畜産大学)
  • 堂浦克美(九州大学)
  • 古川ひさ子(長崎大学)
  • 坂口末廣(長崎大学)
  • 佐伯圭一(東京大学)
  • 中村好一(自治医科大学)
  • 山田正仁(金沢大学)
  • 二瓶健次(国立成育医療センター)
  • 堀田博(神戸大学)
  • 網康至(国立感染症研究所)
  • 市山高志(山口大学)
  • 長嶋和郎(北海道大学)
  • 保井孝太郎(東京都神経科学総合研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
94,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
臨床疫学調査によりプリオン病、亜急性硬化性全脳炎(SSPE)の二つの疾患について日本における患者の発症状況、病状、特徴、治療効果を正確に把握することが最初の目的である。次にプリオン病、SSPE、進行性多巣性白質脳症(PML)の三疾患に関して発症機序や病態の解明、治療法の開発を行う。具体的には、プリオン病については全国サーベイランスを進めるとともに、正常プリオン蛋白の機能、代謝過程を明らかにし、次いでそれが異常化し“感染性"を有するに至るメカニズムを明らかにする。また、その結果を早期診断法や感染性プリオンの不活化法、治療と発病予防遅延の開発に発展させる。SSPEについては発症__機序の研究とともにサーベイランスによりSSPE症例の臨床症状、検査所見、リバビリン等の治療への反応について検討する。PMLに関してはJCウイルスの神経系への感染メカニズムなど発症機序の解明のための研究を推進し、抜本的な治療の開発を目指す。
研究方法
プリオン病:サーベイランスは各県にプリオン病専門医を設置し実際の調査をを施行し、それをブロック担当者が統括し最終的にサーベイランス委員会で判定する形で行われた。サーベイランス委員会は平成14年12月26日と平成15年3月17日の2回開催され、プリオン病の判定や硬膜移植例、変異型クロイツフェルトヤコブ病疑い例について検討が行われ、その結果について統計学的検索を行った。剖検例があった施設ではその病理学的検索が行われた。画像については特にMRI拡散強調画像の有用性を中心に検討した。遺伝子検索も多くの患者について施行されている。治療に関しては福岡大学や長崎大学を中心にキナクリンの臨床治験が施行され、その効果や副作用について検討された。臨床検査に関しては患者の尿中のプリオン蛋白の有用性・特異度を検討した。基礎的研究では実験動物にてペントサンの脳室内投与の効果やプリオンに対する感受性を制御している因子を検討し、培養細胞系でプリオン蛋白の異常化の検出効率をあげる方法の開発を試みた。また、ニワトリを免疫動物として作製したファージ抗体に塩基置換を導入することにより抗原認識能を向上させられるかを検討し、異常プリオン蛋白を検出するためにOFR-ELISAを開発した。プリオン蛋白欠損マウスにおける小脳プルキンエ細胞の変性の機序、正常プリオン蛋白とSOD活性の関連等が検討された。正常プリオン蛋白をunfoldする新規分子unfoldinの同定、濾胞樹状細胞における異常プリオン蛋白検出と接種する異常プリオン蛋白の由来の関連が検討された。
亜急性硬化性全脳炎(SSPE):全国サーベイランスにて日本での患者の発症状況、病状、特徴、治療状況について調査し、リバビリンとインターフェロンの併用療法、リバビリンの治療効果と血中濃度の関係などを検討した。SSPEの多発地域であるパプアニューギニアにおいて、血清中サイトカインを調査し多発の背景を検討した。本邦の患者では髄液中の炎症性サイトカインも測定し検討した。基礎研究では、ヒト単球由来樹状細胞を用いて野外流行株とワクチン株の感染ウイルス粒子産生・放出段階における相違を調べるとともに、麻疹ウイルスをカニクイザルに接種して末梢血、脳・リンパ組織のウイルスの有無を検討した。
進行性多巣性白質脳症(PML)=JCウイルスのカプシド蛋白が核内封入体を形成する機序を培養細胞系を使って検討し、またJCウイルスの増殖時に遺伝子発現調節配列に作用する分子の同定を培養細胞系で試みた。
結果と考察
結果、考察およびプリオン病:中村班員らは1997-1999年のサーベイランス調査による94例の臨床像について詳細に報告し、硬膜移植歴のある患者が18%おり、移植から発症までは平均10.8年であった。また、1999年から2002年までのプリオン病患者は358名でありそのうち硬膜移植による患者が94名おりその詳細が明らかになった。佐藤研究協力者らは1985年から2001年の間の全プリオン病患者937名について検討し、13か月以上の長い経過を有するものが42例あり変異型クロイツフェルトヤコブ病との十分な鑑別が重要と考えられた。湯浅研究協力者らは早期診断に脳MRI拡散強調画像が有用であることを報告した。水澤班員らはプリオン蛋白遺伝子129番がLys/Lysである患者を世界で初めて報告し、プリオン蛋白遺伝子129番Lysがプリオン病の発症と病理像に与える影響を検討した。黒岩研究協力者らはプリオン蛋白遺伝子200番の変異による遺伝性プリオン病の臨床症状と脳MRI所見についてまとめた。山田正仁班員らは変異型CJDと鑑別を要した問題例の検討結果を報告した。3例が緊急サーベイランス調査の対象となったが、いずれも否定された。治療については、山田達夫研究協力者らはマラリア治療薬のキナクリンによる6例のプリオン病患者の臨床治療試験を行い肝機能障害等の副作用も多いが一時的ながら症状を改善する可能性を示した。調研究協力者らもキナクリンの臨床応用を試みるとともに、薬物の脳移行性を高めるためベラパミルの併用が有用であることを見出した。堂浦班員らはペントサンが異常プリオン蛋白の沈着を減少させ生命予後を改善することを報告した。古川班員らは尿中プロテアーゼ抵抗性プリオン蛋白が高い陽性率を示しプリオン病診断に有用であることを示した。村山研究協力者は脳MRIと神経病理所見を対応させ拡散強調像での高信号域の組織病理所見を明らかにした。天野研究協力者はプリオン病の各病型ごとの基本的神経病理所見を報告した。三好班員らはヒトグルコシルセラミド合成酵素を高発現するトランスジェニックマウスを作製し、プリオンに対する感受性を制御している因子を検討した。村本班員らは培養細胞系でプリオン蛋白の異常化の検出効率をあげるためC末エピトープタグの開発を行い、それをspiecies barrierの研究に応用した。松田班員らはファージ抗体に塩基置換を導入することにより抗原認識能を向上させられることを報告し、堀内班員は従来の10倍の感受性を持つ異常プリオン蛋白検出用のOFR-ELISAを開発した。坂口班員らは小脳プルキンエ細胞の変性には正常プリオン蛋白の機能消失とプリオン類似蛋白の過剰発現が必要であることを報告した。佐伯班員は正常プリオン蛋白がSOD活性を制御してアポトーシスを抑制する可能性を示し、金子班員らは正常にfoldされた蛋白をunfoldする新規分子unfoldinを同定しその解析を行った。毛利班員らはマウスにて濾胞樹状細胞における異常プリオン蛋白検出と脳内接種後の感染性とが高度に相関することを示した。
亜急性硬化性全脳炎(SSPE)=二瓶班員と研究協力者らはSSPEにおけるリバビリンとインターフェロンの併用療法に関する全国調査を行い10例中7例で改善を認めた。細矢研究協力者らはリバビリンの治療効果は血中濃度と関連があることを明らかにした。パプアニューギニアにおける研究によって高須研究協力者は多発の原因に麻疹ワクチン接種に関連しない因子が関与していることを報告し、市山班員はパプアニューギニア人では麻疹ウイルスに対する免疫応答が弱い可能性を指摘した。病態に関して二瓶班員らは患者髄液中の炎症性サイトカインが上昇と下降を繰り返していることを示し、また抗CD9抗体の増加を示唆した。堀田班員らはヒト単球由来樹状細胞を用いて野外流行株とワクチン株の感染ウイルス粒子産生・放出段階における相違を報告した。網班員らはカニクイザルを用いて麻疹ウイルスの脳内への侵入と感染の経路を検討した。
進行性多巣性白質脳症(PML)=保井班員らはJCウイルスのカプシド蛋白の核内へ移行・集積、粒子形成の機構を明らかにした。長島班員らはJCウイルスの増殖時に作用する分子であるcleavage stimulating factorの同定に成功した。また、今後PMLについても全国レベルの実態調査とそれにもとづく診断・治療研究の必要性が検討された。

結論

公開日・更新日

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