アミロイドーシスに関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200702A
報告書区分
総括
研究課題名
アミロイドーシスに関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
池田 修一(信州大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 今井浩三(札幌医大医学部)
  • 東海林幹夫(岡山大医学部)
  • 下条文武(新潟大医学部)
  • 樋口京一(信州大医学部加齢適応研究センター)
  • 前田秀一郎(山梨医大医学部)
  • 石原得博(山口大医学部)
  • 中里雅光(宮崎医大医学部)
  • 安東由喜雄(熊本大医学部附属病院)
  • 山田正仁(金沢大医学部)
  • 葛原茂樹(三重大学医学部)
  • 満屋裕明(熊本大学医学部)
  • 徳田隆彦(信州大学医学部)
  • 馬場 聡(浜松医大医学部)
  • 玉岡 晃(筑波大臨床医学系)
  • 原 茂子(虎ノ門病院)
  • 麻奥英毅(広島赤十字原爆病院)
  • 河野道生(山口大医学部)
  • 吉崎和幸(大阪大健康体育部)
  • 内木宏延(福井医大医学部)
  • 高杉 潔(道後温泉病院リウマチセンター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
40,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
種々なアミロイドーシスの発生機序を分子レベルから解明し、有効な治療法を確立することを目的とする。具体的には、1)ALアミロイドーシス:Auto-PBSCTを併用したメルファラン大量静注療法は従来の化学療法に比してその有効性が際だっており、この化学療法を標準化して広める。2)AAアミロイドーシス:副腎皮質ステロイドホルモン・免疫抑制剤などによる薬物療法を行い、本アミロイドーシスの病態を緩解に導く。3)FAP:本邦では熊本県と長野県に世界で三番目の規模の患者集積地があり、またこれらとは血縁のない40数FAP家系が国内に存在する。FAPの根治療法としての肝移植が定着して来たが、患者全員が移植を受けられるわけではなく薬物療法の開発は不可欠である。4)透析アミロイドーシス:本邦では腎移植の件数が少なく、本アミロイドーシスを併発する患者は年々増加している。この数年間、透析膜の改良、薬物療法等が導入されているが、こうした治療法の有効性は判定されていない。5)脳アミロイドーシス: Alzheimer病に代表される脳アミロイドーシス患者は増加している。In vitroまたはin vivoの系を用いて本アミロイドの産生を抑える薬物療法の開発が急務である。6)マウス老化アミロイドーシス:アミロイドーシス発症に関与する後天的因子を検索するのに有用である。
研究方法
1)ALアミロイドーシス:アミロイド惹起性の免疫グロブリンを産生する骨髄腫細胞の細胞生物学特性知るために、悪性度別に三群に分けた細胞の表面抗原をフローサイトメトリーを用いて検索した(河野)。本疾患の確定診断には生検組織の免疫組織化学的検討が不可欠である。免疫グロブリンの可変領域に対する抗体を作成し、ALアミロイドをどの程度認識するかを検討した(石原)。欧米で行われているAuto-PBSCTを併用した強力な化学療法をわが国の患者に施行するためのプロトコールを作成した(池田、麻奥、下条、今井、満屋)。2)AAアミロイドーシス:AAアミロイドーシスを発症しやすいマウス系列に種々な蛋白から成るアミロイド線維を静脈投与して発症の有無、重症度を検索した(樋口)。RA患者を対象にSAA1遺伝子のgenotypingと腹壁脂肪の吸引生検を定期的に行い、早期の本症患者を見出す検討を行った(池田)。肝細胞を用いてSAA1遺伝子多型がSAA1産生に及ぼす影響を検討した(馬場)。RA患者のmajor surgeryに際して血清中のCRP、SAA値を経時的に測定した(高杉)。肝芽腫由来のHepG2細胞を用いて、種々なサイトカイン刺激とSAA1産生との関連を検索した(吉崎)分科会を組織して、AAアミロイドーシスに対する薬物療法の標準化の検討を開始した(吉崎、池田、今井、下条、高杉)。3)家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP): 変異TTR産生を抑える目的でRNA/DNAキメラオリゴヌクレオチド、single-stranded oligonucleotidesを作成してHepG2細胞における変異TTR遺伝子の発現様式を検討した(安東)。非定型的な家族性アミロイドーシス患者のTTR遺伝子の解析を実施した(中里)。FAP患者の腎病変を生検と剖検組織を用いて検索した(池田)。4)透析アミロイドー
シス: In vitroでβ2 microglobulin由来のアミロイド線維にヘパリンなどのプロテオグリカンを投与して線維の伸長性を検討した(内木)。メガリン発現細胞をマウスに移植して投与したβ2 microglobulin濃度の推移を検討した(下条)。透析アミロイドーシスの病勢の指標として血中のマトリックスメタプロテアーゼ(MMP)値が有用性を検討した(原)。5)脳アミロイドーシス:多数の剖検所見を基に、脳アミロイドと臨床症状との関連をretrospective analysisを行った(山田)。またin vitroでニコチンがAβ分子種の線維形成に対する影響を検索した。慢性脳虚血を持つラット脳内のAβ分子種をELISA法で測定した。Pravastatinを高脂血症の治療薬として服用しているヒトを対象にして血漿中のAβ分子種濃度を測定した(玉岡)。脳アミロイドーシスを発生する複数のマウスモデルを作成して、メラトニン投与によるアミロイド沈着抑制効果を検討した(東海林)。紀伊半島出身のALS/PDC患者の脳実質および髄液中のAβ分子種濃度を測定した(葛原)。6)その他のアミロイドーシス:アミロイドP成分欠損マウスの血中の抗核抗体の測定、腎糸球体病変を検討した(前田)。非定型的な皮膚アミロイドーシスを検索した(安東)。
結果と考察
1)ALアミロイドーシス:河野はアミロイドーシスを合併したヒト骨髄腫細胞の中でCD45+細胞がIL-6刺激に対して最も増殖反応を示した。原はALアミロイドーシス患者の腎病変が糸球体を主に障害する型とその他に分類できることを明らかにした。徳田は微量生検組織からアミロイド線維を抽出し、そのアミノ酸配列を解析することでL鎖可変領域が主成分のALアミロイドーシス患者の存在を明らかにした。石原はL鎖可変領域に対する抗体を作成して、ALアミロイドの免疫組織化学的反応性を検討した。今井はアミロイド惹起性のL鎖を産生する骨髄腫細胞を標的としたアンチセンスDNA療法を引き続き検討している。満屋は本疾患の治療法として血管新生抑制療法、小胞体ストレス誘導療法の有用性を示した。麻奥は心障害が目立つALアミロイドーシス患者を大量の化学療法で治療し、その問題点を示した。池田は本症患者に対するAuto-PBSCTを併用したメルファラン大量静注療法の適応基準、化学療法の実施要項を作成した。2)AAアミロイドーシス:樋口は種々な蛋白から成るアミロイド線維自体にAEF活性作用があることを明らかにした。馬場はSAA1遺伝子多型がSAA1産生に及ぼす影響がないと示した。高杉はRA患者のmajor surgeryにおいてCRP、SAAが術直後に相当な高値を示し、このSAAの変動がアミロイド促進因子となる可能性を指摘した。吉崎は種々なサイトカイン刺激とSAA1産生との関連の中で、IL-6の抑制がSAA1産生抑制に最も有効であること、NFκBとNFIL-6に共同活性作用があることを確認した。また吉崎は分科会を組織して、本アミロイドーシスに対する薬物療法の標準化の検討を開始した。池田はRA患者に合併する本アミロイドーシスの早期診断法として、腹壁脂肪吸引生検とSAA genotypingを組み合わせることの有用性を報告した。3)家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP):安東は三価クロムイオンが本疾患のアミロイド形成を抑制する可能性を指摘した。中里はAsp18Gly変異を持ち中枢神経症状を主体とする一家系を報告した。池田はFAP患者の腎病変の程度と生体肝移植後の予後がよく相関することを報告した。4)透析アミロイドーシス:内木は透析治療にも用いられるヘパリンなどのプロテオグリカンが本アミロイド線維の安定性に寄与していることを報告した。下条はメガリン発現細胞をマウスに移植することでβ2 microglobulinの代謝が促進されることを見出した。原は昨年度に引き続いて患者数を増やして、透析アミロイドーシスの指標として血中のMMP値が有用であることを報告した。5)脳アミロイドーシス:山田は脳血管アミロイドが高度な例では軽度の頭部外傷が大出血を誘発する、微小出血・梗塞を高頻度に伴っていることを報告した。またニコチンはAβアミロイドの沈着阻止作用がある可能性を示した。玉岡は慢性脳虚血が脳内のAβ分子種を有意に増加させること、pravastatinの通常量の服薬では
ヒト血漿中のAβ分子種濃度に影響を与えないことを明らかにした。東海林はメラトニンによるアミロイド沈着抑制効果を検討し、本剤の有効性を見出した。葛原は紀伊半島特有のALS/PDC患者の脳実質および髄液中のAβ分子種濃度は対照者と変わらないことを報告した。6)その他のアミロイドーシス:前田はアミロイドP成分欠損マウスでは自己免疫疾患を引き起さないこと、安東はSAAがアミロイド苔癬形成に関与したと考えられる一例を報告した。
結論
1)アミロイドーシスの発生機序についてはAL,AAアミロイドーシスを中心に進歩が見られた。2)AL-アミロイドーシスではAuto-PBSCTを併用した大量の化学療法の標準的プロトコールが作成された。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-