文献情報
文献番号
200200701A
報告書区分
総括
研究課題名
原発性高脂血症に関する調査研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
齋藤 康(千葉大学)
研究分担者(所属機関)
- 北 徹(京都大学)
- 松澤佑次(大阪大学)
- 馬渕 宏(金沢大学)
- 横山信治(名古屋市立大学)
- 太田孝男(琉球大学)
- 佐々木淳(国際医療福祉大学)
- 及川眞一(日本医科大学)
- 山田信博(筑波大学)
- 林登志雄(名古屋大学)
- 白井厚治(東邦大学付属佐倉病院)
- 佐久間一郎(北海道大学医学部付属病院)
- 衛藤雅昭(川崎医大)
- 松崎益徳(山口大学)
- 小堀祥三(国立熊本病院)
- 武城英明(千葉大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
近年、欧米に加え我が国における大規模臨床試験の結果から、動脈硬化予防における高脂血症の治療の意義が確立された。今後、これらの蓄積された我が国における高脂血症に関わるエビデンスを個々の症例の診療に直結させるために、最新技術を用いた診断指針の確立と普及が必要である。昭和58年より発足した本研究班は、垂井班、山本班、中村班により、主に原発性高脂血症の疾患別頻度の同定、診断基準の整備、治療法及び予後、とくに動脈硬化における意義の確立が行なわれた。引き続いて北班により今年度までに以下の成果を得た。(1)2000年の日本人における高脂血症の発症頻度に関する調査研究(10年毎に行なわれてきた実態調査の一環)。(2)複合型高脂血症の診断法の確立。(3)小児高脂血症の現状と病態の解析。(4)脂質代謝異常に関連する遺伝子異常の検出。以上の研究成果を踏まえて、これらのなかで継続が必要な事項を引き継ぐとともに、本研究班は以下の5課題を主要調査研究対象とする。
1)高脂血症の診断指針と病態解析におけるゲノム解析の有用性の検討
2)ハイリスク高脂血症の診断と病態および発症要因に関する研究
3)小児高脂血症におけるFCHLおよびFHの診断法の確立
4)動脈硬化発症におけるHDLに関する研究
5)高脂血症に関する各種検査法の実態調査
1)高脂血症の診断指針と病態解析におけるゲノム解析の有用性の検討
2)ハイリスク高脂血症の診断と病態および発症要因に関する研究
3)小児高脂血症におけるFCHLおよびFHの診断法の確立
4)動脈硬化発症におけるHDLに関する研究
5)高脂血症に関する各種検査法の実態調査
研究方法
研究方法と結果=
1)高脂血症の診断指針と病態解析におけるゲノム解析の有用性の検討
高脂血症を有する一般住民368名における105種類のSNPsが解析された。危険因子および測定値とSNPsの相関を検討したところ、血清TG値、またHDL-Cと有意な相関を示す10種類のSNPsが同定された。これらの結果は、一般住民において遺伝子多型が高脂血症を起因する可能性を明らかにしゲノムワイドなSNPs解析の必要性を示した。西暦2000年における約1万2千人の血清脂質調査の結果が解析された。この10年間に日本人の総コレステロール、HDLコレステロールレベルに変化はなかった。ただ、30歳代と40歳代の男性における中性脂肪の増加が認められ、マルチプルリスク症候群の増加が懸念された。家族性複合型高脂血症および原発性高脂血症症例から,既に報告したPPAR-αG395EおよびD140N変異,PPAR-γ2 P12A変異以外に,RXR-γ G14S変異とFXR -1 G to C多型が同定された.核内受容体群遺伝子変異は一般人血清脂質値へ影響を及ぼし,とくにRXR-γは家族性複合型高脂血症発症との関連が示唆される。
2)ハイリスク高脂血症の診断と病態および発症要因に関する研究
原発性高脂血症の心筋梗塞発症に対する関与を検討した結果、男女とも、冠動脈危険因子の中では低HDLコレステロール血症、高血圧症、耐糖能異常の相対危険度が高く、いわゆるmetabolic syndromeが心筋梗塞発症に重要であることが明らかになった。一方、リスク集積と動脈硬化惹起性の関連性を検討するモデルとして、マルチプルリスクファクターモデルマウスの作製が試みられ、脂質合成転写調節や過食が高脂血症を中心とするリスク集積や増大、動脈硬化症進展に深く関与する結果が得られ、エネルギー代謝を制御することがリスク管理ならびに動脈硬化巣抑制両面において治療の手段になることが明らかになった。LDLアフェレーシスと脂質低下薬剤との併用による強力なコレステロール低下療法により1年間の前向きコントロール研究を行った成績では、LDLアフェレーシスが、薬剤抵抗性かつ冠動脈疾患を有するヘテロFHに対し1年間治療を行うことで冠動脈プラークを退縮させうることがIVUSによる評価を行うことで明らかになった。
3)小児高脂血症におけるFCHLおよびFHの診断法の確立
家族性複合型高脂血症(FCHL)の小児期における診断法を確立するため、190名の非肥満小児を対象にLDL粒子サイズの検討を行った。成人FCHLの診断基準に含まれているアポB/LDL-C比は少なくとも女児ではLDL粒子サイズの予測因子としては使えないことが明らかになった。今後、対象児を増やし高脂血症児及び肥満児について更なる検討が必要である。
動脈硬化発症におけるHDLに関する研究
高HDL血症症例624人におけるCETP活性・CETP遺伝子異常を検討した結果から、我が国における高HDL血症の成因としてCETP欠損症が多いことが明らかとなった。一方で、CETP遺伝子異常の表現型も必ずしも一様ではなく他の因子や変異の関与が示唆された。HDLは細胞膜表面のABCA1の存在により、アポリポ蛋白質と細胞膜の脂質から生じる。ABCA1の機能不全を起こすTangier 病の変異には、ABCA1の糖鎖による翻訳後修飾の異常を起こすものがあり、その細胞内輸送が障害されているものが含まれることが明らかになった。
高脂血症に関する各種検査法の実態調査
高レムナント血症の臨床的特徴を検討した結果、3型高脂血症の発症に糖尿病や肥満が強く関与し、高頻度に冠動脈硬化を合併していた。そのレムナントはよりatherogenicであった。また、動脈硬化の危険因子といわれているレムナントの出現率と中性脂肪値との関係から、中性脂肪値の正常値設定を検討した結果、中性脂肪は非糖尿病者150mg/dl以下、糖尿病では100mg/dl以下が正常と推測された。高カイロミクロン血症者に75gOGTTを行いIRI反応、HOMA-Rを検討した結果から、原発性高カイロミクロン血症はインスリン分泌を亢進させインスリン抵抗性に関連しDM発症の危険因子であると考えられた。2型糖尿病における動脈硬化硬化危険因子及び動脈硬化性疾患の頻度を検討したところ、糖尿病では、LDL-Cやレムナントなどの動脈硬化惹起性高脂血症が多くみられた。これらの危険因子の中で虚血性心疾患に対してはHDL-Cが統計学的に有意に関連し、脳梗塞および頸動脈肥厚については有意の危険因子はなかったが、fibrinogen、高感度CRPおよびHDL-Cが相対的に関与している可能性が示唆された。九州脂質治療研究(KLIS)の結果を用い、冠動脈疾患(CAD)危険因子の解析を行った結果では、TC、LDL-CおよびHDL-Cの影響はCADと脳梗塞では異なっている可能性が示唆された。糖尿病はCADのみならず脳梗塞に関しても重要な危険因子であり、高コレステロール血症患者の管理上重要な合併症であると考えられた。
1)高脂血症の診断指針と病態解析におけるゲノム解析の有用性の検討
高脂血症を有する一般住民368名における105種類のSNPsが解析された。危険因子および測定値とSNPsの相関を検討したところ、血清TG値、またHDL-Cと有意な相関を示す10種類のSNPsが同定された。これらの結果は、一般住民において遺伝子多型が高脂血症を起因する可能性を明らかにしゲノムワイドなSNPs解析の必要性を示した。西暦2000年における約1万2千人の血清脂質調査の結果が解析された。この10年間に日本人の総コレステロール、HDLコレステロールレベルに変化はなかった。ただ、30歳代と40歳代の男性における中性脂肪の増加が認められ、マルチプルリスク症候群の増加が懸念された。家族性複合型高脂血症および原発性高脂血症症例から,既に報告したPPAR-αG395EおよびD140N変異,PPAR-γ2 P12A変異以外に,RXR-γ G14S変異とFXR -1 G to C多型が同定された.核内受容体群遺伝子変異は一般人血清脂質値へ影響を及ぼし,とくにRXR-γは家族性複合型高脂血症発症との関連が示唆される。
2)ハイリスク高脂血症の診断と病態および発症要因に関する研究
原発性高脂血症の心筋梗塞発症に対する関与を検討した結果、男女とも、冠動脈危険因子の中では低HDLコレステロール血症、高血圧症、耐糖能異常の相対危険度が高く、いわゆるmetabolic syndromeが心筋梗塞発症に重要であることが明らかになった。一方、リスク集積と動脈硬化惹起性の関連性を検討するモデルとして、マルチプルリスクファクターモデルマウスの作製が試みられ、脂質合成転写調節や過食が高脂血症を中心とするリスク集積や増大、動脈硬化症進展に深く関与する結果が得られ、エネルギー代謝を制御することがリスク管理ならびに動脈硬化巣抑制両面において治療の手段になることが明らかになった。LDLアフェレーシスと脂質低下薬剤との併用による強力なコレステロール低下療法により1年間の前向きコントロール研究を行った成績では、LDLアフェレーシスが、薬剤抵抗性かつ冠動脈疾患を有するヘテロFHに対し1年間治療を行うことで冠動脈プラークを退縮させうることがIVUSによる評価を行うことで明らかになった。
3)小児高脂血症におけるFCHLおよびFHの診断法の確立
家族性複合型高脂血症(FCHL)の小児期における診断法を確立するため、190名の非肥満小児を対象にLDL粒子サイズの検討を行った。成人FCHLの診断基準に含まれているアポB/LDL-C比は少なくとも女児ではLDL粒子サイズの予測因子としては使えないことが明らかになった。今後、対象児を増やし高脂血症児及び肥満児について更なる検討が必要である。
動脈硬化発症におけるHDLに関する研究
高HDL血症症例624人におけるCETP活性・CETP遺伝子異常を検討した結果から、我が国における高HDL血症の成因としてCETP欠損症が多いことが明らかとなった。一方で、CETP遺伝子異常の表現型も必ずしも一様ではなく他の因子や変異の関与が示唆された。HDLは細胞膜表面のABCA1の存在により、アポリポ蛋白質と細胞膜の脂質から生じる。ABCA1の機能不全を起こすTangier 病の変異には、ABCA1の糖鎖による翻訳後修飾の異常を起こすものがあり、その細胞内輸送が障害されているものが含まれることが明らかになった。
高脂血症に関する各種検査法の実態調査
高レムナント血症の臨床的特徴を検討した結果、3型高脂血症の発症に糖尿病や肥満が強く関与し、高頻度に冠動脈硬化を合併していた。そのレムナントはよりatherogenicであった。また、動脈硬化の危険因子といわれているレムナントの出現率と中性脂肪値との関係から、中性脂肪値の正常値設定を検討した結果、中性脂肪は非糖尿病者150mg/dl以下、糖尿病では100mg/dl以下が正常と推測された。高カイロミクロン血症者に75gOGTTを行いIRI反応、HOMA-Rを検討した結果から、原発性高カイロミクロン血症はインスリン分泌を亢進させインスリン抵抗性に関連しDM発症の危険因子であると考えられた。2型糖尿病における動脈硬化硬化危険因子及び動脈硬化性疾患の頻度を検討したところ、糖尿病では、LDL-Cやレムナントなどの動脈硬化惹起性高脂血症が多くみられた。これらの危険因子の中で虚血性心疾患に対してはHDL-Cが統計学的に有意に関連し、脳梗塞および頸動脈肥厚については有意の危険因子はなかったが、fibrinogen、高感度CRPおよびHDL-Cが相対的に関与している可能性が示唆された。九州脂質治療研究(KLIS)の結果を用い、冠動脈疾患(CAD)危険因子の解析を行った結果では、TC、LDL-CおよびHDL-Cの影響はCADと脳梗塞では異なっている可能性が示唆された。糖尿病はCADのみならず脳梗塞に関しても重要な危険因子であり、高コレステロール血症患者の管理上重要な合併症であると考えられた。
結果と考察
考察=今年度、上記5項目に関する研究成果を基盤に、これらの主要項目を実施するための症例登録システム、ゲノム解析システムの整備に着手した。実際のワーキング体制として、包括班による統合システムのもと5研究グループによる研究調査体制を設け、各項目に適した研究班を作成した結果、ゲノム解析、ハイリスク高脂血症、小児高脂血症、HDL研究、検査法評価に5区分(<ゲノム>、<ハイリスク>、<小児>、<HDL>、<検査>)した推進システムとした。これらのシステムの整備を基礎に今後各研究グループ単位に以下の主要研究を発展させる。
1)全国におけるゲノム解析の有用性の調査<ゲノム>:近年新たに開発された動脈硬化症を考慮した高脂血症に関連する診断法とゲノム解析法の現状について実態を疫学調査する。
2)高脂血症におけるSNPs解析を基盤とした動脈硬化発症リスクの疫学調査<ゲノム>:高脂血症患者を対象としたSNPs解析を進展させ、動脈硬化発症リスクと合わせてデータベースの作成を行う。3)メタボリックシンドロームの症例登録<ハイリスク>:マルチプルリスクファクター症候群(メタボリックシンドローム)の我が国における診断基準を作成のための頻度、病態調査を行う。4)小児高脂血症の実態調査<小児>:全国主要機関における小児FHとFCHL症例の診断法と病態の実態調査を行なう。5)新診断基準(北班)によるFCHLの頻度、病態、動脈硬化性疾患の合併状況に関する実態調査<ハイリスク>北班により作成された診断基準に基づいたFCHL症例を診断し、頻度、病態、動脈硬化性疾患の合併状況について疫学調査を行う。6)清HDL-C値と動脈硬化発症の疫学調査<HDL>我が国における血清HDL-C値の冠動脈疾患発症リスクを疫学調査する。7)HDL代謝異常に関わる遺伝子解析<HDL>HDL代謝異常に関わる遺伝子解析の研究調査を行い、HDL代謝異常にともなう合併症の実態調査を行う。8)血清TG値と動脈硬化発症の疫学調査<検査>我が国における血清TG値の冠動脈疾患発症リスクを疫学調査する。我が国で実施された疫学調査におけるTGレベルのメタアナリシスを行う。9)高脂血症に関する各種検査法の実態調査<検査>アポ蛋白、pre_-HDL、レムナント、small dense LDL、酸化LDL、CETP活性、Lp(a)、apoB48等の検査法の有用性を検討する。FH、III型高脂血症等のハイリスク高脂血症における臨床的関連性を明らかにする。
これらの一連の検体および資料収集による高脂血症、脂質異常の分布および冠動脈疾患との関連を解析するために、解析検体数と収集地域の検証と解析法の統一化と評価を行なう<統括班>。
1)全国におけるゲノム解析の有用性の調査<ゲノム>:近年新たに開発された動脈硬化症を考慮した高脂血症に関連する診断法とゲノム解析法の現状について実態を疫学調査する。
2)高脂血症におけるSNPs解析を基盤とした動脈硬化発症リスクの疫学調査<ゲノム>:高脂血症患者を対象としたSNPs解析を進展させ、動脈硬化発症リスクと合わせてデータベースの作成を行う。3)メタボリックシンドロームの症例登録<ハイリスク>:マルチプルリスクファクター症候群(メタボリックシンドローム)の我が国における診断基準を作成のための頻度、病態調査を行う。4)小児高脂血症の実態調査<小児>:全国主要機関における小児FHとFCHL症例の診断法と病態の実態調査を行なう。5)新診断基準(北班)によるFCHLの頻度、病態、動脈硬化性疾患の合併状況に関する実態調査<ハイリスク>北班により作成された診断基準に基づいたFCHL症例を診断し、頻度、病態、動脈硬化性疾患の合併状況について疫学調査を行う。6)清HDL-C値と動脈硬化発症の疫学調査<HDL>我が国における血清HDL-C値の冠動脈疾患発症リスクを疫学調査する。7)HDL代謝異常に関わる遺伝子解析<HDL>HDL代謝異常に関わる遺伝子解析の研究調査を行い、HDL代謝異常にともなう合併症の実態調査を行う。8)血清TG値と動脈硬化発症の疫学調査<検査>我が国における血清TG値の冠動脈疾患発症リスクを疫学調査する。我が国で実施された疫学調査におけるTGレベルのメタアナリシスを行う。9)高脂血症に関する各種検査法の実態調査<検査>アポ蛋白、pre_-HDL、レムナント、small dense LDL、酸化LDL、CETP活性、Lp(a)、apoB48等の検査法の有用性を検討する。FH、III型高脂血症等のハイリスク高脂血症における臨床的関連性を明らかにする。
これらの一連の検体および資料収集による高脂血症、脂質異常の分布および冠動脈疾患との関連を解析するために、解析検体数と収集地域の検証と解析法の統一化と評価を行なう<統括班>。
結論
今年度の研究成果を基盤に整備した5つの研究グループよりなる研究調査体制により、本研究の主要5課題を進展させる。各年度に総括班がこれらの分担課題を統合し、最終年度に我が国の最新の疫学計に基づいた新規の高脂血症診療の指針と実施法、症例の長期観察体制を確立する。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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