副腎ホルモン産生異常に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200699A
報告書区分
総括
研究課題名
副腎ホルモン産生異常に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
宮地 幸隆(東邦大学医学部),名和田新(九州大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 名和田新(九州大学医学部)
  • 岡本光弘(大阪大学医学部)
  • 猿田享男(慶應義塾大学医学部)
  • 諸橋憲一郎(岡崎国立共同研究機構基礎生物学研究所)
  • 加藤茂明(東京大学分子細胞生物研究所)
  • 藤枝憲二(旭川医科大学)
  • 田中廣壽(東京大学医科学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
25,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
副腎ホルモンの産生及び作用に異常を示す(1)副腎腫瘍、(2)先天性副腎低形成症、(3)副腎性血圧異常症、(4)ステロイドホルモン不応症の4疾患の病態解明と新しい診断法と治療法の開発を研究目的とする。(1)副腎腫瘍の自律的ホルモン産生機構の獲得に関して、COUP-TF1、DAX-1などの核内オーファンレセプター、コレステロールを副腎に取り込むHDL受容体遺伝子CLA-1およびステロイドホルモン合成酵素の異常について研究する。癌化のメカニズムについては癌抑制遺伝子、細胞増殖抑制遺伝子、アポトーシス関連遺伝子などについて研究する。副腎偶発腫の疫学的長期予後調査をさらに継続して行い、診療指針作成のためのデーターベースを得ることを目的とする。(2)先天性副腎低形成症家系のDAX-1の遺伝子異常を明らかにし、DAX-1異常症による先天性副腎低形成にしばしば合併する性腺障害の解明および病因不明の先天性副腎低形成症などについて病因を解明し治療法の確立を目指す。(3)副腎性血圧異常症の中で隠れた原発性アルドステロン症を発見するための新しい診断法を検討し確立する。副腎性血圧異常症におけるミネラルコルチコイドレセプターや11β-hydroxysteroid dehydrogenase type 2(11β-HSD2)遺伝子変異などを明らかにする。ミネラルコルチコイドレセプターの活性化とリガンド選択的作用機構、ミネラルコルチコイド食塩誘発性の高血圧発症の機序を検討する。(4)ステロイドホルモン不応症の病態解明のため、グルココルチコイド抵抗性の機序、グルココルチコイドによる炎症性遺伝子発現制御機構などを検討し、新しい観点からのグルココルチコイド療法を開発する。
研究方法
(1)副腎腫瘍の核内オーファンレセプターCOUP-TF、DAX-1、SF-1の発現、COUP-TF1とCOUP-TF1-interacting protein-1との特異的な蛋白―蛋白相互作用について、副腎腫瘍で検討する。HDL受容体遺伝子CLA-1の副腎腫瘍での発現調節を検討する。癌化のメカニズムについて、ヒト副腎皮質癌組織におけるTGFβⅡ型受容体の発現を検討する。副腎偶発腫の疫学的長期予後調査をさらに継続して行い、頻度、病因、腫瘍の大きさやホルモン分泌能の変動についてprospectiveな調査を継続する。(2)先天性副腎低形成症におけるDAX-1変異を解析し、DAX-1のAd4BP/SF-1調節機構、変異DAX-1の機能について検討する。(3)副腎性血圧異常症の中で原発性アルドステロン症は、最も頻度が多いが、アルドステロン産生腺腫と特発性アルドステロン症の鑑別法として、rapid ACTH負荷験とデキサメサゾン投与下アンジオテンシンⅡ負荷試験という低侵襲かつ簡便な方法を検討する。ミネラルコルチコイドレセプターの転写制御メカニズムの解明を目指し、生化学的手法による核内受容体の転写共役因子複合体同定法により検討する。11β-hydroxysteroid dehydrogenase type 2(11β-HSD2)第1イントロン内のCAリピート多型と高血圧や2型糖尿病との関連分析を行う。鉱質コルチコイドの非古典的標識であるラット大動脈由来培養平滑筋細胞で、Serum and Glucocorticoid-regulated Kinase(SGK)とアルドステロンの関連を検討する。ヒトの腎メサンギウム初代培養細胞を用いてアルドステロンの局所産生能について、検討を行う。グルココルチコイドのアンジオテンシンⅡタイプ1受容体発現機序を明らかにするため、培養ヒト大動脈平滑筋細胞を用いて検討する。(4)ステロイドホルモン不応症の病態解明のため、グ
ルココルチコイド抵抗性の機序を検討する。グルココルチコイドレセプターのきわめて特異的なリガンドである合成グルココルチコイドのコルチバゾールの結合様式を検討する。血管内皮細胞における炎症性遺伝子VCAM-1とIL-6をターゲットとして、グルココルチコイドによる炎症性遺伝子発現制御機構を検討する。
結果と考察
(1)副腎腫瘍:副腎腫瘍において、核内受容体COUP-TFがステロイド合成酵素の遺伝子転写調節において重要な役割を果たしていることを明らかにし、副腎腫瘍cDNAライブラリーよりCOUP-TFI結合蛋白としてUbc9を同定した。ヒトHDL受容体CLA-1に変異を導入したDecoy CLA-1を作成し、副腎細胞におけるステロイドホルモン合成抑制および細胞増殖の抑制、アポトーシス促進作用を明らかにした。癌化のメカニズムについて、ヒト副腎皮質癌組織におけるTGFβⅡ型受容体の発現低下がTGFβⅠ抵抗性に基づく副腎皮質癌発生に深く関与していることを示した。副腎偶発腫についての長期疫学調査の集計では、第3年度までに2864例の報告があり、ホルモン非産生腺腫が51%で、副腎癌は1.4%であった。副腎癌の大きさのカットオフ値4.8cmを明らかにした。副腎腫瘍の悪性化や自律的ホルモン産生獲得機序の一部を解明し、副腎腫瘍の新たなる治療法の可能性を発見でき、副腎偶発腫の長期疫学調査により診療指針作成のためのデーターベースを得ることが出来た。
(2)先天性副腎低形成症:DAX-1は副腎の発生・分化に関与するAd4BP/SF-1を抑制していることを示し、生殖腺の性分化に深く関与する因子であるポリコーム遺伝子M33は、このAd4B/SF-1遺伝子の遺伝子発現を制御していることを明らかにした。細胞の分化や増殖に関与すると考えられているforkhead型転写因子Foxo1のステロイド産生組織における検討で、副腎・性腺における発現を確認し、さらに発現部位として、副腎髄質及び副腎皮質球状層を確認した。先天性副腎低形成について、副腎の発生や分化と関連する遺伝子の異常とそのメカニズムを明らかにすることができた。
(3)副腎性血圧異常症:アルドステロン産生腺腫と特発性アルドステロン症の鑑別に、rapid ACTH負荷験での120分値の血漿アルドステロン濃度(PAC)、デキサメサゾン投与下アンジオテンシンⅡ(AⅡ)負荷試験でのAⅡ1ng/kg/min投与時のPACが有用であることを明らかにした。核内蛋白NGFIB(nerve growth factor-induced clone B)とNurr1(Nur-related factor 1)は、ヒト副腎皮質ホルモン産生を制御している可能性が高く、特にNurr1は鉱質コルチコイド産生を制御する初めての核内受容体である可能性が示唆された。ミネラルコルチコイドレセプターの転写制御メカニズムとして、RHA/CBP複合体がリガンド選択的にミネラルコルチコイドレセプターのN端側AB領域に結合し転写を制御することを明らかにした。遺伝的な11β-HSD2活性の低下による血中或いは一部組織内でのglucocorticoid availability の変化が2型糖尿病の発症に影響する可能性が示唆された。また、高血圧との関連は認められなかった。鉱質コルチコイドの非古典的標識であるラット大動脈由来培養平滑筋細胞では、Serum and Glucocorticoid-regulated Kinase(SGK)はアルドステロンにより発現誘導され、アンジオテンシンⅡによりPI3-K依存性セリン422燐酸化を介して活性化されうることを明らかにした。ヒトのメサンギウム細胞はアルドステロン産生臓器であり尚且つ、LDLが主要な産生調節因子であることを明らかにした。グルココルチコイドは血管平滑筋細胞において、グルココルチコイド受容体を介してアンジオテンシンⅡタイプ1・タイプ2受容体の発現を調節していることが考えられ、グルココルチコイドinduced hypertensionはアンジオテンシンⅡタイプ1受容体のupregulateによるものと推定された。副腎性血圧異常症は高血圧症の病因として常に考慮する必要があり、治療を考える上でも重要であることが示された。
(4)ステロイドホルモン不応症:グルココルチコイドによるT細胞アポトーシスにおけるMAPキナーゼとのクロストークを検討したところ、グルココルチコイド抵抗性の機序の1つとしてERKの過剰な活性化が関与することが示された。グルココルチコイドレセプターにきわめて特異的リガンドであるコルチバゾールは、他のアゴニストとは異なった様式でかかる領域に結合することが推定された。グルココルチコイドレセプター高発現血管内皮細胞ではデキサメサゾンによる炎症性遺伝子VCAM-1の転写抑制が確認され、グルココルチコイドレセプターとPPARαの間に認められた標的遺伝子の転写抑制の特異性は受容体の発現量に依存的であることを明らかにした。グルココルチコイドの未知の分子生物学的作用機序が解明されつつあり、新しい観点からのグルココルチコイド療法も検討されだした。
結論
以上のように本研究で対象とした副腎腫瘍、先天性副腎低形成症、副腎性血圧異常症、ステロイドホルモン不応症の病態の解明、診断法や治療法の発展及び副腎ホルモンの合成・作用について分子生物学的研究の多くの成果があげられた。

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