ホルモン受容機構異常に関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200697A
報告書区分
総括
研究課題名
ホルモン受容機構異常に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
清野 佳紀(岡山大学大学院医歯学総合研究科小児医科学)
研究分担者(所属機関)
  • 赤水尚史(京都大学医学部附属病院・探索医療センター)
  • 網野信行(大阪大学大学院医学系研究科)
  • 大薗惠一(大阪大学大学院医学系研究科)
  • 加藤茂明(東京大学分子細胞生物学研究所)
  • 妹尾久雄(名古屋大学環境医学研究所)
  • 田中弘之(岡山大学大学院医歯学総合研究科)
  • 中村浩淑(浜松医科大学医学部)
  • 福本誠二(東京大学医学部附属病院)
  • 松本俊夫(徳島大学大学院医学系研究科)
  • 森昌朋(群馬大学医学部)
  • 安田敏行(国立千葉病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、比較的稀な病態であるホルモン受容機構異常症のなかで、早期の適切な診断治療によって良好な予後が期待され、また病態の解明が頻度の高い疾患の病態解明、治療開発に貢献しうる甲状腺、副甲状腺領域の疾患について、臨床および基礎研究から実態を明らかにせんとするものである。偽性副甲状腺機能低下症、特発性副甲状腺機能低下症、ビタミンD抵抗性のくる病(低リン血症性くる病、ビタミンD依存性くる病)、TSH受容体異常症、甲状腺ホルモン不応症、バセドウ病を対象疾患として、そのわが国における実態病態の更なる解明、病態に基づく新規の予防治療法の開発を行った。
研究方法
本研究の対象疾患の治療薬として重要なビタミンDについて、その作用と作用機構の基礎的研究をリガンドの結合、受容体の核内移行、転写制御(特に抑制性の制御)、骨に対する作用について行った。偽性副甲状腺機能低下症においてはIb型の病因解析、診断において重要な意味を持つ副甲状腺ホルモンの新規測定法について検討を行った。さらに、副甲状腺ホルモン分泌制御機能に重要であるカルシウム受容体についてもその以上に基づく疾患を材料に、治療指針の策定を行った。リン代謝の新しいホルモンであるFGF23の測定を行い、腫瘍性骨軟化症以外の病態にもFGF23が関与していることを示した。一方、甲状腺疾患については、異常TSH受容体と症状連関、甲状腺ホルモン不応メカニズムの詳細を分子生物学的手法を用い検討する他、最も頻度の高い自己免疫性の甲状腺機能異常(バセドウ病)では眼症の発症機構の解析と治療法の開発、全国調査による実態調査、遺伝素因の解明を試みた。
結果と考察
副甲状腺に関する研究においては以下の結果を得た。PHP1bではGNAS1遺伝子転写調節領域(NESP55・Xlα・1A)のメチル化の異常があり、疾患の発症と関連が考えられるが、腎臓近位尿細管でのGsαの転写低下・母系アリル発現低下と結びつかなかった。Xlαは多様なメチル化パターンを示し、正常と同様の父性アリルメチル化を示す例では、精神発達の遅れとTSHの基礎値高値を認めた。また新しい測定法PTH(1-84) whole molecule (Bio-PTH)値と従来のintact PTH assay系による測定値の比較から、PHP患者では、血中Bio-PTH値が増加していること、PTH(7-84)/Bio-PTH比は、正常者に比べ増加していることが明かになり、PTHの合成分泌と分解のいずれもが亢進していると考えられた。VDRのリガンド結合ポケットの各種変異体を作成し、ビタミンD受容体(VDR)の新規生理的リガンドとして同定されたリトコール酸のVDR活性化機構を検討した。両リガンド選択的VDR変異体を見出し、VDRリガンド結合ポケットへの結合様式が両者の間で異なることが明らかになった。ビタミンD受容体の核局在を担う分子の探索の結果、2つの蛋白、importin-? familyに属する新規分子と核膜孔複合体nucleoporinの構成分子を見出した。1α,25(OH)2D3による負の転写制御メカニズムを明らかにする目的に、1α,25(OH)2D3により負に制御される遺伝子である活性型ビタミンD産生酵素遺伝子、副甲状腺ホルモン及び副甲状腺ホルモン関連ペプチド遺伝子を用いて検討し、VDIRがこれら遺伝子の1α, 25(OH)2D3依存的な転写抑制において鍵分子
であることを見出した。VDIRとVDRが1α,25(OH)2D3依存的に形成する巨大複合体を形成し、複合体の中にHDAC2およびNcoRが含まれていることを示した。著明な副甲状腺腫大を示した家族性低Ca尿性高Ca血症(FHH)例より、CaRの機能低下は細胞増殖亢進に関与し、ヘテロな不活性型変異により副甲状腺組織はlipohyperplaseaをきたすこと、CaRの機能低下はVDR 発現に影響しないことを示した。しかし、原発性副甲状腺機能亢進症とFHHの鑑別については、副甲状腺腫大の有無は有用ではなかった。また、カルシウム(Ca)感知受容体異常を伴う常染色体優性低Ca血症の患者における検討からCa値を6.0mg/dl?7.0mg/dlに維持するのが適当であると考えられた。腫瘍性くる病・骨軟化症の惹起因子として同定されたFGF-23の測定系を開発し、各種疾患患者における血中FGF-23濃度を検討した。この結果、FGF-23は、複数の低リン血症性疾患の発症に関与することが示唆された。PTHの骨形成促進機序について、PTHがERK依存性に骨芽細胞のアポトーシスを抑制すること、またその作用には骨形成サイトカインであるinterleukin-11が関与している可能性があることを明らかにした。また、VDRKOマウスの新生仔骨の比較、骨器官培養による骨形成過程の解析を行い、骨に対する直接作用は骨幹部の皮質骨形成の抑制であり、その効果はcbfa1の抑制を介していることが明らかにした。甲状腺に関する研究では次のような結果を得た。家族内に同病者を持つ家族性バセドウ病を対象に全国疫学調査を実施し、その頻度分布と臨床疫学像を把握した。全国の家族性バセドウ病患者数は2850名、バセドウ病患者全体の約2.1-3.1%で家族罹患の相対危険率は、約19-42倍であった。全ゲノムスクリーニングによって見出された染色体5q23-33領域の多型のうち少なくとも2つのマーカーにおいて疾患感受性と有意な関連を認めた。バセドウ眼症の発症・治療の解明のため、脂肪細胞でのTSHR遺伝子プロモーター活性の調節機構を検討し、脂肪細胞の分化がTSHRの発現に関与していることを明らかにした。さらに、CTLA-4遺伝子多型とバセドウ病眼症との関連性を検討したが、眼症との関連性は認められなかった。一方バセドウ病の増悪因子を明らかにするため、健常対象者、バセドウ病、無痛性甲状腺炎患者、橋本病患者を対象に、スギ花粉症を有しているかどうかを調べた。この結果、バセドウ病におけるスギ花粉症合併率は40%を超え、本症の明らかな増悪因子になっているものと考えられた。クレチン症および高TSH血症を同胞あるいは家族内に持つ16家系を対象にTSH受容体遺伝子解析をおこない日本人に特有の共通の変異(R450H)を認めた.甲状腺ホルモン不応症患者の変異甲状腺ホルモン受容体(E457AとF455S)を用いて、転写制御について検討し、正負の制御における転写共役因子との関連が重要であることを明らかにした。一方TSH遺伝子の転写の負の制御機序に関する研究から、TRはpit1/GATA2という活性化因子を標的とし、その作用を阻害することによりTSHβ遺伝子の転写を抑制する可能性を示した。甲状腺ホルモン応答性遺伝子ZAKI-4の研究から、ZAKI-4は甲状腺ホルモンにより増加し、この発現増加は内因性カルシニューリン活性の低下を介し、種々の生体機能調節に関わっていると考えられる。
結論
分子生物学の進歩に伴い、副甲状腺、甲状腺の両分野で核内受容体の転写制御機構に関する研究は大きく進んでいるが、反面転写制御機構のうち負の制御機構については、未だに不明な点が多い。一方、副甲状腺の分野では、カルシウム、リンの制御機構についての研究の進歩は目覚しく、新規の生理活性物質が同定され、臨床分野に新たな情報を提供しようとしている。中でもFGF23の測定は今後リン代謝の病態解明には不可欠なものとなっていくものと考える。甲状腺の分野では、最も頻度の高いバセドウ病について遺伝的素因や増悪因子が明らかになりつつあり、治療管理予防に与える影響は多大であると考える。

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