文献情報
文献番号
200200696A
報告書区分
総括
研究課題名
ベーチェット病に関する調査研究(総括分担研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
金子 史男(福島県立医科大学医学部皮膚科学講座)
研究分担者(所属機関)
- 大野重昭(北海道大学大学院医学研究科病態制御学専攻視覚器病学分野)
- 小野江和則(北海道大学遺伝子病制御研究所病態研究部門免疫応答分野)
- 磯貝恵美子(北海道医療大学歯学部口腔衛生学講座)
- 猪子英俊(東海大学医学部分子生命科学系遺伝情報部門)
- 桑名正隆(慶應義塾大学医学部先端医科学研究所細胞情報研究部門)
- 小林和人(福島県立医科大学生体情報伝達研究所生体機能研究部門)
- 鈴木登(聖マリアンナ医科大学免疫学病害動物学教室)
- 石ヶ坪良明(横浜市立大学医学部第一内科学教室)
- 川島秀俊(東京大学大学院医学系研究科感覚運動機能医学)
- 水木信久(横浜市立大学医学部眼科学教室)
- 小熊惠二(岡山大学大学院医歯学総合研究科国際環境科学病原細菌学)
- 岩月啓氏(岡山大学大学院医歯学総合研究科皮膚粘膜結合織学)
- 中村晃一郎(福島県立医科大学医学部皮膚科学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
29,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
今年度は、平成13年度の研究方法を踏襲するとともに、その成果を検証し、さらに、新しい観点からベーチェット病(BD)の病因・病態の解明、および治療法の確立を推進させたい。また、疫学調査と患者の予後とQOLの調査は1987年に改訂された診断基準の見直しを行って、新しく作成した調査票をもとに本研究を行うことにする。
研究方法
1.発症内因子としての疾患責任遺伝子の検索:BD患者の多くはHLA-B51を有する。その発症の遺伝的背景である内因子としてHLA-B51近傍領域が疾患感受性候補遺伝子として推定されている。この対立遺伝子(アリル)としてHLA-B*5101とB*5109が同定されているため、さらにマイクロサテライト法により、ヒトゲノムの全染色体30億塩基対に対して100kbに1個、計3万個について詳細な解析を行う。2.HLA遺伝子領域におけるマイクロサテライト解析によるMICA(MHC class I chain-related gene A)、MICB、HLA-B51の導入トランスジェニックマウス(Tgm)の作製と疾患動物モデルとしての解析を行う。3.発症外因子の検索と内因子との関係:外因子の可能性として、ヘルペス・ウィルス(単純ヘルペス:HSV-1、HSV-2、Epstein-Baarウィルス、サイトメガロウィルス、human herpes virus:HHV-6、HHV-7)の関与を検討し、また指摘されている口腔内レンサ球菌Streptococus(S.)sanguisの関連について検討した。4.BD患者にみられる異常免疫反応の解析1)内因子としての遺伝子異常に基づく免疫反応の解析:疾患感受性責任遺伝子としてのMICA分子の細胞膜貫通領域のペプチドA6(MICA-A6)を認識するT細胞とHLA-B51分子との相関の有無に関する解析は、本症の免疫異常性を説明する重要な鍵である。2)発症時のTh1型細胞の偏倚についての解析:T細胞の活性とIL-12レセプターβ2(IL-12Rβ2)の変異、NK/T細胞の機能とその調節因子および樹状細胞について検討した。3)S.sanguisとヒト熱ショック蛋白(HSP)-60:抗原としてのS.sanguisに関しては、そのDNAペプチド(Bes-1)としてクローニングされ、ヒト網膜蛋白ペプチド(Brn3b)と相同性があることが確認された。これを用い、BD患者の病変部にPCRおよびPCR-in situ hybridization(PCR-ISH)を行った。さらに、S.sanguisの感染時に血流中および局所に出現するHSP-60は病変の出現に重要な役割を演ずることから、S.sanguisに由来するHSP-60との関係について詳細な解析を行った。5.治療面からの検討1)従来の治療法による効果の評価と副作用:シクロスポリンA(CsA)の副作用については、神経症状の誘発した例もあり、薬剤感受性遺伝子の検討とその効果の検証は重要である。疫学的予後調査と治療患者のQOLの面からも、その臨床効果の検討が必要である。2)新しい治療法の開発について:BD患者の発作時にtumor necrosis factor(TNF)αの上昇することからヒト型抗TNFα抗体の使用による治療への応
用が試みられた。その結果、使用時にはブドウ膜炎の改善がみられたが、治療終了後に症状の再燃がみられ、今後の検討課題を残した。一方、我国ではまだ使用経験のないinterferon(IFN)α、およびその他のサイトカイン療法などの効果の評価と適応を検討する必要がある。6.BD診断基準の改訂と疫学・予後、QOL調査の検討について:1987年診断基準が改訂されて以来、本症の診断はこれに基づいて行われている。しかし、これまでの研究成果から新しい知見が見出され、それらの検査所見を加えたより正確な診断を得られる基準の見直しが必要である。登録個人票に関しては、疫学的調査、疾患の予後および包括的QOL尺度SF-36とNEI-VFQ25(National Eye Institute Visual Functioning Questionnaire 25)について検討できるように改訂する必要がある。
用が試みられた。その結果、使用時にはブドウ膜炎の改善がみられたが、治療終了後に症状の再燃がみられ、今後の検討課題を残した。一方、我国ではまだ使用経験のないinterferon(IFN)α、およびその他のサイトカイン療法などの効果の評価と適応を検討する必要がある。6.BD診断基準の改訂と疫学・予後、QOL調査の検討について:1987年診断基準が改訂されて以来、本症の診断はこれに基づいて行われている。しかし、これまでの研究成果から新しい知見が見出され、それらの検査所見を加えたより正確な診断を得られる基準の見直しが必要である。登録個人票に関しては、疫学的調査、疾患の予後および包括的QOL尺度SF-36とNEI-VFQ25(National Eye Institute Visual Functioning Questionnaire 25)について検討できるように改訂する必要がある。
結果と考察
研究結果=1.HLA-B51の近傍の疾患感受性候補遺伝子について:30,000万個のマイクロサテライトを用いてそのSNPsの解析をpooled DNA法で行い、データ処理が行われている。一方、MICA分子は、発症時には皮膚・粘膜上皮・血管上皮細胞にも表現され、MICA*009膜貫通領域部分のMICA-A6と反応するT細胞の存在が検出され、特にT細胞からのIFN-γが刺激によって産生されるが、抗HLA class Ι抗体によって抑制された。2.免疫異常性に関する検討:Th 1型のリンパ球はTh 2型タイプと異なり、IL-12p40のSNPs解析からIL-12Rβ2の変異は認められず、BD患者の病変ではTh 1型反応による炎症であることが示唆された。他方、病変のヒトHSP-60がTh 1細胞の転写因子Txk蛋白を発現させ、Th 1型反応と樹状細胞の機能亢進にも重要な影響を与えている。皮膚ではランゲルハンス細胞(LC)が存在するが、T細胞からのIFN-γによりIL-12の産生を増強したが、GM-CSFによってIL-12の分泌は抑制されることから、LCはTh 1を活性するDC1、一方ではTh 2細胞を誘導するDC2の両機能を示すDCであることが示唆された。BD患者の病変組織からPCR、PCR-ISHでBes-1 DNAが検出された。一方、HSP-60については、S.sanguis由来のHSP-60とBD患者由来HSP-60とには高率に相同性があった。3.実験的自己免疫性ブドウ膜炎(EAU)はMCP-1導入TgmがLPS投与によって眼房内DCの消失が誘導され、TNF-αが高値になり、EAU発症でMCP-1の発現とTNF-αの関連が明らかであった。4.治療に関する研究1)ヒト型抗TNF-α抗体の治療:16週まで観察したが、眼発作を繰り返す3名のBD患者の血中にTNF-αの産生は減少し、IL-12Rを有するTh 1型細胞は増加し、治療効果と相関した。その副作用については、抗核抗体の出現と血小板減少が見られた。2)CsAの治療:BD患者間に薬物応答性に個人差が見られ、薬物感受性に関与する遺伝子多型性が示唆され、その薬物代謝酵素と薬物排出に関与するABCトランスポータースーパーファミリーのMDR1、MRP1、MRP2/cMOAT遺伝子特型に個体による異なりがあることが明らかにされた。3)眼前房中への植え込み徐放性副腎皮質ステロイド製剤(SurodexR):実験動物における成績から臨床的有効性の結果が推定され、臨床応用への道が開かれた。4)顆粒球吸着カラムの応用:眼症状には顆粒球の浸潤により病変が形成されるところから、発作時の顆粒球吸着カラムによる治療の可能性が考察された。5)感染防御システム因子の治療的応用:好中球粘膜上皮細胞に低分子殺菌ペプチドとして存在するCathelicidin familyのCap 18はS.sanguisの導入で誘導したブドウ膜炎の炎症を抑制した。また、ストレスにより出現するhome oxygenaseは炎症性細胞から誘導される。このものは、LPS刺激によるTNF-αを抑制し、IL-10を誘導した。
考察=1)BDの発症に関与する内因子としての遺伝学的疾患感受性候補遺伝子は、HLA-B51を中心とする近傍遺伝子に存在する。この遺伝子を多型マイクロサテライトによるSNPsの解析を行った。これとともにMICA-A6とT細胞刺激との関係も明らかになりつつあり、遺伝子解析はHLA-B遺伝子間の40kbまで絞り込まれてきた。また、動物モデルのTgmからの解析も進み、その特徴が明らかになり、治療薬の反応性を検討するにも重要な研究となってきた。一方、発症外因子としての感染因子では、ウィルスは検出できないが、S.sanguisとの関連がそのDNAクローニングによるBes-1ペプチドを用いてのPCRおよびPCR-ISHによる解析によって、ブドウ膜炎、皮膚・粘膜病変部への関与が明らかにされつつある。BD患者の異常免疫に関与するDC,NK/T細胞、Th1細胞も、それらの転写因子であるTxk蛋白の発現とHSP-60との関連が見られ、その異常免疫反応に関与していることが明らかにされてきた。2)治療の面からはCsAの臨床効果の再評価と薬剤感受性の個人差が、その遺伝子多型の相違として求められた。一方、新しい治療法としての抗TNFα抗体の臨床評価と炎症抑制システムのOH-1、Cap18の応用などが検討された。抗TNFα抗体の治療では、TNFαの産生細胞の減少とIFN-γ産生細胞とIL-12Rの発現が増加し、TNFα産生抑制効果とそのTNFαによる病変惹起との関係が明らかになってきている。3)副腎皮質ステロイド製剤の動物を用いた眼房内挿入による試みとその効果が示された。また、眼発作時の病変部への顆粒球の浸潤を抑制する顆粒球吸着カラムによる治療の開発などが示された。4)疫学および予後とQOL調査では、1987年に改訂されたBD診断基準を見直し、その予後およびQOLの調査の実施から早急に新しい観点からの個人調査票の作製が急がれるところである。包括的QOL尺度SF-36と機能特異的尺度NEI-VFQ25を応用した調査が提案された。
考察=1)BDの発症に関与する内因子としての遺伝学的疾患感受性候補遺伝子は、HLA-B51を中心とする近傍遺伝子に存在する。この遺伝子を多型マイクロサテライトによるSNPsの解析を行った。これとともにMICA-A6とT細胞刺激との関係も明らかになりつつあり、遺伝子解析はHLA-B遺伝子間の40kbまで絞り込まれてきた。また、動物モデルのTgmからの解析も進み、その特徴が明らかになり、治療薬の反応性を検討するにも重要な研究となってきた。一方、発症外因子としての感染因子では、ウィルスは検出できないが、S.sanguisとの関連がそのDNAクローニングによるBes-1ペプチドを用いてのPCRおよびPCR-ISHによる解析によって、ブドウ膜炎、皮膚・粘膜病変部への関与が明らかにされつつある。BD患者の異常免疫に関与するDC,NK/T細胞、Th1細胞も、それらの転写因子であるTxk蛋白の発現とHSP-60との関連が見られ、その異常免疫反応に関与していることが明らかにされてきた。2)治療の面からはCsAの臨床効果の再評価と薬剤感受性の個人差が、その遺伝子多型の相違として求められた。一方、新しい治療法としての抗TNFα抗体の臨床評価と炎症抑制システムのOH-1、Cap18の応用などが検討された。抗TNFα抗体の治療では、TNFαの産生細胞の減少とIFN-γ産生細胞とIL-12Rの発現が増加し、TNFα産生抑制効果とそのTNFαによる病変惹起との関係が明らかになってきている。3)副腎皮質ステロイド製剤の動物を用いた眼房内挿入による試みとその効果が示された。また、眼発作時の病変部への顆粒球の浸潤を抑制する顆粒球吸着カラムによる治療の開発などが示された。4)疫学および予後とQOL調査では、1987年に改訂されたBD診断基準を見直し、その予後およびQOLの調査の実施から早急に新しい観点からの個人調査票の作製が急がれるところである。包括的QOL尺度SF-36と機能特異的尺度NEI-VFQ25を応用した調査が提案された。
結論
BDの発症内因子として疾患感受性候補遺伝子の同定と、口腔内S.sanguisの関与する発症外因子としての病因・病態に関与する可能性を検討した。さらに、免疫異常症の面から、発症と免疫反応について詳細な解析を行う必要を痛感した。治療では、安全で効果的な治療法の開発を行う必要があり、疫学調査の面からは、より正確な診断を得ることの必要から1987年改訂の診断基準の見直しと、患者の予後とQOL調査に関して個人調査票の改訂も併せて行う必要がある。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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