難治性血管炎に関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200694A
報告書区分
総括
研究課題名
難治性血管炎に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
尾崎 承一(聖マリアンナ医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 中林公正(杏林大学)
  • 吉田雅治(東京医科大学)
  • 小林茂人(順天堂大学)
  • 吉田俊治(藤田保健衛生大学)
  • 松岡康夫(川崎市立川崎病院)
  • 古川福実(和歌山県立医科大学)
  • 津坂憲政(埼玉医科大学)
  • 山田秀裕(聖マリアンナ医科大学)
  • 鈴木和男(国立感染症研究所)
  • 徳永勝士(東京大学)
  • 加藤智啓(聖マリアンナ医科大学)
  • 安田慶秀(北海道大学)
  • 重松宏(東京大学)
  • 高野照夫(日本医科大学)
  • 森下竜一(大阪大学)
  • 小林靖(東京医科歯科大学)
  • 吉木敬(北海道大学)
  • 居石克夫(九州大学)
  • 能勢眞人(愛媛大学)
  • 由谷親夫(国立循環器センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
60,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、厚生科学研究であることに鑑み、難治性血管炎に関する本邦の臨床系・基礎系の専門医師・研究者を一同に集約して研究班を組織する。その上で重点的な臨床研究を展開し、日本人における診断・活動性評価・治療に関するEBMを確立するための前向きの多施設共同臨床試験や、大型血管炎での遺伝子治療の臨床試験などを行なうとともに、実地医家への還元を目的として感染症対策マニュアル、ANCA関連血管炎診療マニュアル、血管炎診断のための病理アトラスを作製する。さらに、従来の診断基準を見直してより実地診療に有用なものに改訂する。一方、基礎研究では、血管炎という稀少疾患患者由来の材料を有効利用したゲノミクス/プロテオミクスを用いた病因・病態の解明と治療反応性や予後予測因子の同定、およびANCA関連血管炎のモデル動物を樹立し解析する。
研究方法
分担研究者を中小型血管炎の臨床グループ(主として内科医:中林、吉田雅治、小林茂人、津坂、松岡、吉田俊治、山田および皮膚科医:古川)、大型血管炎の臨床グループ(外科医:安田、重松、および、内科医:小林靖、森下、高野)、病理グループ(吉木、能勢、由谷、居石)、および、基礎研究グループ(鈴木、徳永、加藤)に分けて、研究の分担と協力体制を構築した。
(A) 中小型血管炎に関する研究
(1) 診断と治療のEBMの構築(中小型血管炎の臨床グループ分担、特定疾患の疫学に関する研究班(稲葉裕班長)および特定疾患のアウトカムに関する研究班(福原俊一班長)と連携):ANCA関連血管炎について本邦における診断・治療に関するEBMの確立に向け、研究班を中心とした全国的な多施設共同前向き臨床試験を行うための体制を確立する。その準備として以下の活動を行なう。・血管炎が疑われる患者を全症例登録するための共通のデータベースの作製、・研究班を中心とした血管炎専門医ネットワークの確立、・その専門医を核とした全国的な患者紹介体制確立のための広報活動の開始、および、・研究班がこれまでに作製した血管炎の治療指針を土台にした標準的治療プロトコールの作製。臨床研究の展開については社会医学的見地からの協力も要請する。
(2) モデル動物の作製/解析(基礎研究グループおよび病理グループの一部、疾病モデルの開発に関する研究班(天谷雅行班長)と連携):分担研究者の解析中のモデル動物におけるANCAの病態関与を解析し、ANCA関連血管炎モデルを選定する。そのマウス/ラット系統の維持・管理を計り、次年度以降の供給体制を作る。
(B) 大型血管炎に関する研究
(1) 診断と治療のEBMの構築(大型血管炎の臨床グループ):大動脈炎症候群の本邦での治療につき、特に内科治療(免疫抑制薬の使用状況)と外科治療(大動脈弁置換術の現状)の調査をする。FDG-PETを用いた大動脈炎の直接評価の妥当性を検討する。また、発症要因としてのウイルス感染に関する研究も行なう。
(2) 遺伝子治療の展開(大型血管炎の臨床グループ、特定疾患の疫学に関する研究班(稲葉裕班長)および特定疾患のアウトカムに関する研究班(福原俊一班長)との連携):Burger病における血管新生因子HGF遺伝子プラスミドを用いた治療法を確立する。研究班で臨床試験プロトコールを作製し、分担研究者の施設を中心に適切な症例に対して施行するとともに、自他覚所見の改善、投与部位での血管増生、副作用などを確認して評価する。臨床研究の展開については社会医学的見地からの協力も要請する。
(C) 血管炎(全般)に関する研究
(1) 血管炎の治療に伴う感染症の対策(両臨床グループ):血管炎の免疫抑制薬による治療に伴う日和見感染症の対策を行う。具体的には実態調査を通して感染予知マーカー、診断と評価法の確立、治療法の標準化を行い、次年度以降に完成予定の感染症対策マニュアルの準備段階とする。
(2) 病理診断の充実化と普及(病理グループ、他):血管炎診断のための病理アトラスの作製を目的として、分担研究者の施設および血管炎病理研究の全国組織との協力を計り、具体的立案と資料収集をすすめる。腎・皮膚の血管炎では中小型血管炎の臨床グループの一部も参加する
(3) ゲノミクス/プロテオミクスを用いた血管炎の病因・病態解析(基礎研究グループ、病理グループ、および、臨床グループの一部):血管炎の発症と進展に関わる因子について、トランスクリプトーム、プロテオームの変化を網羅的に探索するとともに、疾患感受性遺伝子の同定をも視野に入れたゲノミクス/プロテオミクスを用いた研究体制を構築する。具体的には、(a) 患者(およびマウスモデル)の血管炎病変局所からマイクロダイセクションにより採取した細胞や、患者由来の末梢血リンパ球、好中球、血清などにおける遺伝子や蛋白質の発現をアレイ等を用いて網羅的に解析し、血管炎
の診断、病態、治療反応性、予後などに関連する遺伝子および蛋白質の発現プロファイルを明らかにする(加藤、吉木、その他)。(b)血管炎の感受性遺伝子の探索を目的として、昨年度までに研究班で収集され連結不可能匿名化された患者検体を用い、HLA領域遺伝子およびHLA領域以外の候補遺伝子との関連を検討する(徳永)。(c) マウスモデルについてゲノムワイドに各系統の遺伝子型を解析し、その系統間分布表を作製した上で個々の系統の血管炎関連形質を解析し、系統間分布表との関連から個々の形質に関わる位置的候補遺伝子を同定する(能勢)。
結果と考察
血管炎のような稀少疾患を対象とする前向き臨床試験を我が国で遂行し、質の高いエビデンスを提供するために、以下の作業に着手した。1)現時点で多くの専門医が合意できる標準的治療法と診療プロトコールの作成、2)標準的治療法を対照として試験的治療法のデザイン、3)患者outcomeを中心とした評価方法とエンドポイントの設定、4)治療反応性や予後を規定する因子を同定するための検体保存と解析手法の確立、5)全国的な診療ネットワークの形成と全患者の登録システムの確立。一方、病理・基礎研究として、ゲノミクス・プロテオミクスを用いた血管炎の病因・病態解析と血管炎モデル動物の確立を目指した。中小型血管炎に関しては、上記の1)に関する様々な研究結果や意見の交換がなされた。我が国の血管炎専門家の代表である分担研究者の間でも、治療法に関して様々な意見があり、標準的治療法を一つに設定することが困難であった。次年度は、この点を解決して2)のランダム化比較試験をデザインする予定である。3)については、世界的に用いられるようになったBirmingham Vasculitis Activity Score(BVAS)、Vasculitis Damage Index(VDI)、SF-36を中心に設定する方針が確認され、その作業グループによる試案が次年度において討議される。4)に関しては、病理・基礎研究グループとの共同で、疾患感受性遺伝子の解析方法や、ゲノミクス/プロテオミクスによる血管炎関連分子の網羅的探索方法が確立し、各施設における倫理委員会の承認が得られつつある。5)に関しては、本研究班のみならず、厚生労働省の進行性腎障害班や膠原病の臓器障害班と共同でランダム化比較試験を立ち上げるべく、話し合いがもたれた。次年度において実現されるべく検討を続ける方針である。大型血管炎に関しては、すでに自己骨髄細胞移植とHGF遺伝子導入のパイロット試験が実施され、その有効性と短期的安全性が確認された。さらに、その効果を適切に判定するための新しい評価法が提案され、上記の1)~3)がほぼ確立され、次年度からのランダム化比較試験が開始される予定である。また、4)に関しては、病理・基礎研究グループの提案する解析法が利用される体制が確立した。5)に関しては、次年度以降の活動が期待されている。臨床試験と関連する研究として、昨年度までに研究班で収集され連結不可能匿名化された患者検体を用いた疾患感受性遺伝子解析を開始した。また、実地医家への還元を目的とした感染症対策マニュアル、ANCA関連血管炎診療マニュアル、血管炎診断のための病理アトラスの作製に着手した。従来の診断基準を見直してより実地診療に有用なものに改訂する作業を行った。一方、基礎研究では、血管炎という稀少疾患患者由来の材料を有効利用するゲノミクス/プロテオミクスの手法を確立し、臨床試験で収集される検体の解析結果を病因・病態の解明、治療反応性や予後予測因子の同定のために利用する体制を確立した。さらに、ANCA関連血管炎のモデル動物、および血管炎の疾患感受性遺伝子座同定のためのリコンビナントインブレッドマウスを樹立した。
結論
難治性血管炎の診断・治療に関する質の高いEBMを確立するために、最先端の基礎研究と前向き臨床試験による臨床研究とを有機的に連携した新しい研究体制が確立された。

公開日・更新日

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