原発性免疫不全症候群に関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200693A
報告書区分
総括
研究課題名
原発性免疫不全症候群に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
宮脇 利男(富山医科薬科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 小林邦彦(北海道大学)
  • 土屋 滋(東北大学)
  • 野々山恵章(防衛医科大学)
  • 小宮山淳(信州大学)
  • 近藤直実(岐阜大学)
  • 布井裕幸(宮崎大学)
  • 小林陽之助(関西医科大学)
  • 原 寿郎(九州大学)
  • 岩田 力(東京大学)
  • 小安重夫(慶應義塾大学)
  • 斉藤 隆(千葉大学)
  • 烏山 一(東京医科歯科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
29,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本調査研究班は、昭和49年に発足以来、一貫して原発性免疫不全症候群の疫学調査、病因や病態の解明、診断法や治療法の開発、患者のQOLの改善に努めてきた。平成14年度、新たに班研究を始動するにあたり、本症候群に含まれる多種の疾患を総合的かつ包括的に調査・研究すべく、基礎からの応援も得て研究班を編成した。一部の疾患では責任遺伝子が同定され確定診断が可能となっているが、まだ責任遺伝子が不明のものも多い。根治的治療としての遺伝子治療に対する期待が大きいが、まだ、基礎的、臨床的研究の余地がある。そのような背景のもとに、重点目標として、1)疫学調査研究、2)簡易診断法の開発と遺伝子解析、3)責任遺伝子,発症機構,病態の解明、4)治療法の改良と遺伝子治療研究、5)ホームページの充実と患者QOLの改善を掲げ、調査研究を着手した。
研究方法
原発性免疫不全症候群に含まれる各種の疾患を対象に、臨床調査個人表を活用した新規登録および疫学調査、簡易診断と遺伝子解析を併用した遺伝子診断、臨床的観察や基礎的研究に基づいた病態解析、責任遺伝子の同定のための新たな手法の開発、患者のQOLの向上につながる治療法の改良、遺伝子治療の臨床的基礎的研究の推進などを分担して施行し、これらを総合的に解析・評価することにより、原発性免疫不全症候群の新たな概念、病態、診断や治療法の開発を目指した。
結果と考察
目標に掲げたそれぞれの項目に関して下記のような結果が得られた。1. 疫学調査研究:全国登録の推進に努め、新規に男6例、女2例が登録された。平成15年1月20日現在の登録総数は1,207名となり、内訳は男870名(72.1%)、女337名(27.9%)となった。特定疾患臨床調査個人票との対比では、臨床調査個人票620名中211名(34%)のみが登録されているにすぎないことが判明した。2. 簡易診断法の開発と遺伝子解析:X連鎖無γグロブリン血症(XLA)、X連鎖重症複合免疫不全症(X-SCID)、X連鎖慢性肉芽腫症、Wiskott-Aldrich症候群、X連鎖リンパ増殖症候群については、開発済みのフローサイトメトリーを用いた簡易診断法による臨床診断に寄与するとともに、確定診断としての遺伝子解析を進め、新たに58家系で遺伝子診断を行なった。特筆すべき点として、重症免疫不全症を来す責任遺伝子として新たに同定されたArtemisの変異、IPEX症候群におけるFoxp3遺伝子変異、Omenn症候群におけるRAG2遺伝子変異が日本の症例で確認された。3. 責任遺伝子,発症機構,病態の解明:病態の解明つながる症例 (XLA、IgA欠損症、慢性肉芽腫症、C9欠損症、Chediak-Higashi症候群) の臨床的・基礎的解析を行い、新規責任遺伝子の同定の手だてとしてのプロテオーム解析を立ち上げた。マウスの解析から、B細胞欠損免疫不全症の要因として、XLA責任遺伝子BTKを介さず、PIP3下流で機能するAkt/NF-kB経路の免疫学的意義が明らかとなった。4. 治療法の改良と遺伝子治療研究:期待が寄せられているX-SCIDの遺伝子治療については、フランスにおいて白血病発症例が確認され、現在、暗礁に乗り上げている。日本でも厚生労働省で承認済みで遺伝子治療が予定されていたが、臨床症状の悪化から、HLAハプロ一致CD34陽性末梢血幹細胞移植を余儀なくされた。幸い、順調に正着を得た。Myelokathexis症例で骨髄非破壊的同種骨髄移植を成功裏に実施され、今後、他の疾患において有力な治療選択の一つとして期待がもたれる。5. ホームページの
充実と患者QOLの改善:患者の声、問題点を研究の遂行に反映するべく、班会議には患者会からの出席を要請した。加えて、患者会が進めている、一般の人の理解を広めるための小冊子の作成について、全面的に執筆協力、助言などを積極的に行なった。
結論
原発性免疫不全症候群に含まれる疾患の診断や治療に結びつく臨床的基礎的調査研を実施した。これらの新しい成果を生かした次年度への活用が考えられる。従来からの登録事業と特定疾患治療事業の解離を改善するために、遺伝子診断項目の採用などの診断基準の見直しを精力的に行なう。確定診断としての遺伝子解析の役割分担を明確にしてホームページに公開し、臨床調査個人票に参考項目として記載を推奨する。原因不明の症例についてプロテオーム解析を適用すると共に、B細胞欠損免疫不全症の中に、世界に先駆けPIP3及びAkt/NF-kB異常が存在するか否かを検討する。再開が期待される世界的動向を察知しつつ、遺伝子治療の再開の準備を行なうこと、さらに骨髄非破壊的同種骨髄移植の対象者を探索する。患者会の小冊子の作成の暁にはホームページに掲載するなど、遺伝子診断システムの公開とともに、ホームページの充実を図る。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-