血液凝固異常症に関する調査研究

文献情報

文献番号
200200692A
報告書区分
総括
研究課題名
血液凝固異常症に関する調査研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
池田 康夫(慶應義塾大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 藤村欣吾(広島大学大学院病態薬物治療学)
  • 倉田義之(大阪大学医学部附属病院輸血部)
  • 桑名正隆(慶應義塾大学医学部先端医科学研究所)
  • 宮田敏行(国立循環器病センター研究所)
  • 村田満(慶應義塾大学医学部内科)
  • 辻肇(京都府立医科大学附属病院輸血部)
  • 坂田洋一(自治医科大学分子病態研究部)
  • 和田英夫(三重大学医学部臨床検査医学)
  • 小嶋哲人(名古屋大学医学部保健学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
31,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本調査研究班では、特定疾患治療研究事業対象疾患である特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の他、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、特発性血栓症についてその分子病態に基づいた診断・治療指針の確立を目指す。
研究方法
本調査研究班の目的を達成する為、分担研究者はそれぞれの各個研究を行う事の他、分担研究者をITP、TTP、特発性血栓症のサブグループに編成し、それぞれの疾患について効率的に病態の分子レベルでの解析、診断基準、治療ガイドラインの作成が行えるようにした。
ITPサブグループではまずH.Pylori感染ITP症例の全国調査を行い、H.Pylori感染陽性率、除菌療法によるITP治療の効果、除菌療法の副作用についての情報をまとめた。ついで診断基準の改定に向けて作業を開始した。これまで我が国、欧米ともに除外診断に頼っているITPの診断基準を変更し、除外診断に頼らない診断法が可能かどうかを検討する事とした。まず単一施設において69症例の血小板減少症例を対象にし、最近日常臨床でも可能になった検査法である抗GPIIb/IIIa抗体産生B細胞数、血小板結合抗GPIIb/IIIa抗体、網状血小板数、血漿TPO濃度の組み合わせでどの程度ITPが正確に診断し得るか否か検討した。
TTPに関しては、班員の共同研究として先天性TTPについてvWF-CPの遺伝子解析を行い、vWF-CPの機能に影響を及ぼす4種類のアミノ酸変異を同定した。次いで、後天性TTPの診断・治療ガイドラインの策定、病態に応じた病型分類の試案作成を目標にまずTTP症例の全国調査を行い、各種治療への反応性と、患者血漿のvWF-CP活性、vWF-CPインヒビターなどを解析し、病型分類、治療ガイドライン作成の参考とした。
特発性血栓症のサブグループでは、先天性血栓傾向として良く知られているATIII、プロテインC、S、プラスミノゲン(PLG)欠乏症の我が国での頻度について行った調査結果をこれまでに報告して来たが、これらの患者が実際に血栓症を発症する頻度はどの程度であるのか?またどのような事がtriggerになって発症してくるのか、などについては不明であり、その解析に向けてcohort studyを計画した。また、原因不明の深部静脈血栓症の患者データベースの作成を開始すると共に、それらの患者DNA400検体を目標に収集し、これらの疾患の遺伝子背景を明らかにする目的で、候補遺伝子アプローチ、ゲノム網羅的アプローチを計画した。
(倫理面での配慮)各研究機関において、それぞれの倫理委員会の審査を経て、遺伝子研究については、「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」を遵守すること。また、研究対象となる患者個人の人権擁護に務め、プライバシーの保護は勿論の事、適切なインフォームドコンセントを取得し、患者情報に関わるデータベース作成・管理など徹底する事を必須とした。
結果と考察
ITPの病因との関連が注目されているヘリコバクター・ピロリ菌(H. Pylori)感染に関する調査では、ITP383症例のうち、260症例(67%)がH.pylori陽性であった。陽性率は加齢と共に増加した。除菌により139症例中89症例(64%)に血小板数の増加がみられた。除菌効果は羅病期間とは関係なかったが、除菌前の血小板数が1万/?l以下では効果は低かった。1?5万/?lの症例では70%以上が血小板数5万/?l以上に達し、約50%は10万/?l以上に増加した。除菌療法の副作用は消化器系に関するものが多く、16.2%に認められたが、重篤なものは無かった。次に除外診断に頼らない診断法の確立を目指し、最近開発された各種検査法がITP診断にどの程度有用か前向き調査によりそれぞれの検査法のITP診断における感度、特異性を検討することとした。まず単一施設における69症例の血小板減少症例解析のpreliminaryな報告では、抗GPIIb/IIIa抗体産生B細胞数の増加、血小板結合抗GPIIb/IIIa抗体陽性、網状血小板数の増加、血漿TPO濃度の上昇はITP診断に有用である事が示唆された。これらのうち2項目以上を満たした症例をITPとすると診断の感度は100%、特異性は82%であった。
TTPに関してはTTP発症の鍵を握ると考えられているフォン・ビルブランド因子(vWF)切断酵素(vWF-CP)活性、さらにそのインヒビター測定に関するデータの蓄積がなされた。また稀な遺伝性疾患である先天性TTP症例2家系のvWF-CPの遺伝子解析が行われ、vWF-CP機能に影響を及ぼす4カ所のアミノ酸変異を同定した。このうちP475S変異のアレル頻度は5.1%でありこの遺伝子多型と血栓性疾患との関連が今後注目される。後天性TTPにおいては、多くの症例でvWF-CPに対するIgG型インヒビターが出現しており、その結果vWF-CPの酵素活性が低下する事が明らかとなった事を受けて、従来欧米で用いられてきたTTPの診断基準を改定し、病態に応じた病型分類を行うと共に診断の為の新たな基準作りを始める。
同時に血漿交換療法の有効性の評価等の検討も含め、病型分類に応じた新たな治療ガイドライン作成に着手する。
特発性血栓症に関しては日本人におけるアンチトロンビンIII(ATIII)、プロテインC、S、プラスミノゲン(PLG)欠乏症の頻度などの調査を行ってきた。一般住民でのPC、ATIII、PLG欠乏症の頻度はそれぞれ0.20、0.18、4.3%であり、PS欠乏症は0.48%であった。それらcohortにおける血栓症発症の頻度、発症原因などの調査も計画した。また本年度から原因不明の深部静脈血栓症患者からDNA400検体を目標に収集すると共に、患者データベースの作成を開始し、それらの疾患の遺伝子背景を明らかにする目的で、候補遺伝子アプローチやゲノム網羅的アプローチを計画した。
結論
ITPにおいてはH.pylori感染率は高く、その除菌により血小板数の増加がみられる症例が多く、ITP治療の選択肢を考えられた。抗GPIIb/IIIa産生B細胞の算定など新規の血液検査法の導入により除外診断に頼らない診断基準が出来る可能性が示唆された。TTPについては、先天性TTPに関してvWF-CPの遺伝子異常が明らかにされた他、後天性TTPでvWF-CPのインヒビターの測定が行われ、その重要性が確認され、診断基準、治療ガイドライン策定の一歩を踏み出した。
特発性血栓症については、原因不明の深部静脈血栓症の患者データベースの作成、DNAサンプルの収集を開始した。

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