エイズに関する普及啓発における非政府組織(NGO)の活用に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200651A
報告書区分
総括
研究課題名
エイズに関する普及啓発における非政府組織(NGO)の活用に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
池上 千寿子(特定非営利活動法人ぷれいす東京)
研究分担者(所属機関)
  • 徐淑子(新潟県立看護大学)
  • 東優子(ノートルダム清心女子大学)
  • 生島嗣(特定非営利活動法人ぷれいす東京)
  • 兵藤智佳(特定非営利活動法人ぷれいす東京)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
青少年は個別施策層のひとつとしてわが国のエイズ予防対策上、高い優先度がおかれている。同時に、近年、HIVをはじめ複数の性感染の青少年への広がり、青少年の性行動の活発化が報告され、青少年の間で性の予防的保健行動が促進されていないことを示唆する。このことは従来のエイズ予防教育及び普及啓発の手法やメッセージの有効性が深刻に問われていると解釈できる。従来のエイズ教育で実践されてきたようなエイズの医学的知識の普及だけでは青少年の保健行動にむすびつかないともいえよう。青少年の性の知識や経験についての調査では男女差は認められなくなってきたが、性の意識や態度についてはジェンダーや文化の影響があることも国際的に指摘されている。そこで本研究では、・わが国の青少年の性の保健行動を阻害する意識・態度要因を男女別に調査し、あわせて異性間、同性間という関係性における阻害要因も調査し、ジェンダー及びセクシュアリティの視点から、保健行動を促進するための有効なメッセージを検討する。・性の意識や態度に影響すると考えられるメディアが発信している性描写を分析し、保健行動に与える影響を検討する。・以上の結果をふまえて、保健行動の促進に有効なメッセージを検討しそれをもとに映像教材パイロット版を作成する。・学校や地域において青少年の保健行動を促進するためのプログラムを開発・実践しフィードバックを得る。以上のような多面的な研究を実施し行政の施策及び青少年の性的健康の向上に貢献することを目的とする。
研究方法
今年度は質問紙による集団調査により一般男子のコンドーム使用態度を因子分析し、コンドーム使用を阻害する背景要因を考察した。同性間性行為をもつ男子については機縁法による質的調査と質問紙調査を実施し、コンドーム使用態度を因子分析し、その結果を一般女子及び男子の調査結果と比較し、共通項目と相違項目について考察した。過去5年間にテレビで放映され「性、恋愛、若者」をテーマとする人気ドラマ14本について性行動と保健行動の描写頻度を調査し、昨年度に実施した11本とあわせて25本のドラマが発信する保健行動情報及びその阻害要因を考察した。既存のビデオ教材を収集し、保健行動促進のためのあらたな映像教材の概念と方向性を検討した。青少年による普及啓発実践グループを結成し、青少年が開発したプログラムを学校や地域イベントで実践しフィードバックを得た。
結果と考察
一般男子では、保健行動を阻害する最大の要因は「コンドーム使用の優先的態度の未形成」であった。この背景要因には「使用への不安感」「リスクについて楽観的認識」「コミュニケーション不安」などがあがった。女子とちがって相手との関係性の要因はコンドーム使用行動に影響していなかった。男子同性間では、コンドームの「使用意志の低さ」が使用行動を阻害し、とくに特定の相手との関係ではゆきずりの相手との関係に比して、意志の低さが非常用のリスクを優位に高めていた。この関係性要因は女子の阻害要因と共通するが、そのほかに男子同性間固有の阻害要因も認められた。一方それぞれの集団に共通するのは、コンドーム使用への自信感の欠如であり、保健行動へのイメージを肯定的に転換すること及びコンドームに慣れることの必要性が認められた。また、関係が継続するうちに保健行動の優先順位がさがることも示唆され、このコンドーム使用動機をいかに継続させるかが重要であることがわかった。テレビドラマ分析では性の保
健行動はほとんど描写されていない。むしろ、恋愛至上主義的展開により女子の関係性依存を助長している。性関係における自己決定を促すようなロールモデルは登場せず、コミュニケーションスキルの向上にも役立っていないことがわかった。以上の結果から、コンドーム使用の動機付け、動機の継続を支援するコンセプトをひきだし、映像で示す教材の開発を試みた。また具体的な保健行動をわかりやすく肯定的に楽しく伝え合う青少年によるプログラム(ゲームや実演等)を開発した。保健行動の実演においては、それが「性交の奨励になる」という拒否反応が年長者にみられ、この拒否反応を克服するテキストの必要性が示唆された。
結論
青少年の保健行動を促進するには、ジェンダーやセクシュアリティによる保健行動の阻害要因の相違をあきらかにし、それぞれのニーズにきめ細かく対応したプログラムが必要である。同時に、保健行動は「病気が怖いからしかたなく」ではなく性の健康管理行動として「かっこいい」のだというイメージの転換を図る必要がある。そのためには当事者である青少年をまきこんでプログラムや教材を開発することが有効である。また、社会がメディアをとおして発信している性情報は性の保健行動を阻害する傾向にあるので、保健行動を促進しやすい環境の整備(手に取りやすい保健行動商品の開発、学校以外での保健行動促進情報の発信など)が必要である。このためには行政、NGO、企業、メディア、青少年による多様な連携と保健行動研究によるエビデンスにもとづいた介入手法が求められよう。

公開日・更新日

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