HIV感染症の動向と予防介入に関する社会疫学的研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200647A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV感染症の動向と予防介入に関する社会疫学的研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
木原 正博(京都大学)
研究分担者(所属機関)
  • 橋本修二(藤田保健衛生大学)
  • 市川誠一(神奈川県立衛生短期大学)
  • 和田 清(国立精神・神経センター)
  • 熊本悦明(札幌医科大学)
  • 清水 勝(杏林大学)
  • 木原雅子(京都大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
100,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国の、①HIV感染症流行の現状・将来動向、②個別施策層に対する有効な予防介入についてのエビデンスを示し、有効かつ効率的な行政施策の発展に資する。
研究方法
(1)HIV/AIDSの動向とそのインパクト等に関する研究:2001年末までのエイズ発生動向調査のデータを用いて、より確度の高い推計と2006年時点の近未来予測を感染経路別に実施した。また、わが国のHIV/AIDS流行の特徴を明らかにするために、HIV/AIDSサーベイランス情報の国際比較を行った。全国拠点病院質問票調査により、感染者の受療動態を把握するとともにレセプト調査で用いた医療費データを用いて年間総医療費を推計した。HIV検査動向を把握するために、131保健所の受検者を対象に質問票調査を実施した。(2)HIV感染率等に関する研究:面接・質問票調査などによって各種集団(薬物乱用者、男性同性愛者、妊婦、献血者、STD患者)のHIV抗体陽性率や行動を調査し、経年変化を検討した。(3)個別施策層の予防介入に関する研究:個別施策層(男性同性愛者、若者、滞日外国人、セックスワーカー)に対して、準実験的研究デザインによるマルチレベル(コミュニティ、集団、個人)で多媒体を用いたコミュニティベース(+学校ベース)の予防介入研究を実施した。その他、HIV感染者の予防介入の基礎として、HIV感染者の社会関係の困難とその背景要因や性行動に関する面接調査を実施した。また、個人レベルの介入の方法論として予防的ケースマネージメントの理念と方法の咀嚼・導入するための準備を行った。
結果と考察
(1)HIV/AIDSの動向とそのインパクト等に関する研究:①HIV/AIDS数の推計:捕捉率が、異性間男17%、異性間女44%、同性間27%と感染経路により異なることを示し、異性間男の過小評価が大きいことを示した。また、推定累積AIDS患者数を実AIDS報告数と比較し、1996年以降HAART療法による発病の抑制効果の表れを確認した。②近未来予測:2006年時点での有病数について、日本国籍者のHIV感染者数22000人、累積AIDS患者数5000人という予測を得た。③国際比較:中高年の割合が大きい、異性間感染が大きい、男女が大きい、流行の立ち上がりが緩やかであるというわが国の特徴を示した。④HIV感染者の受療動向:全国拠点病院の受療者数は、2002年には2001年の1.34倍に急増し、かつ一部医療機関への偏在化がさらに進んだことを示した。⑤医療費推計: 74名のレセプト調査から、HAART療法以降は、病期によらず20万円前後/月であることを示した。また拠点病院における年間総HIV/AIDS医療費を、約110億円と推計した。⑥エイズ発生動向調査への提言:エイズ発生動向調査の改善につき、提言をまとめた。⑦保健所の検査受験者調査:5079例のデータにより、複数回受検者は初回者に比べ、男では同性間性行為、女では不特定多数との性行為が主な感染不安理由であることを示した。(2)各種集団のHIV感染率等に関する研究:①薬物乱用者:全国6医療施設481名の新規入院患者を調査し、HIV陽性者2名を確認。HCV感染率は40.5%。回し打ちは減少も、30%以上が過去1年間に経験。一方あぶりが上昇し60%前後で定着。自助グループ参加者(66名)ではHIV 0%、HCV 31%。風俗利用は入院患者、自助グループともに30%前後と高率。②男性同性愛者:東京都の某検査施設のデータから、2002年のMSM受験者の推定陽性率は4.4%(68/1545)で、急増した(前年までは3%前後)。③妊婦:拠点病院と日本産婦人科医会の定点モニター病院の質問票調査から日本人妊婦感染率(10万対)を、各々16.1、3.6と算定した。④献血者:HIV
抗体献血者の陽性率は、首都圏で減少、近畿では逆に急増した。2002年の献血初回者と複数回者の陽性率(10万対)を、各々1.2、2.8と推定した。⑤STD患者:関東圏の12医療施設を受診した患者の陽性率は男性患者0.14%(1/696)で、1997年以来、0-1.0%の範囲。本年度初めて調べた女性患者の陽性率は0.4%(2/479)。(3)個別施策層の予防介入に関する研究:①男性同性愛者:コミュニティレベルでは、梅毒予防キャンペーンを推進し、また対象地域の65%のゲイバー(130/200)にコンドーム什器を設置し、無料コンドーム約5万個を配布。個人レベルでは臨時検査イベントを実施し、予防的カウンセリングを提供した。3年間の検査イベントの結果コミュニティの受検者割合を34%にまで高めた(前年24%)。また、高リスク層に配布コンドームが浸透し始めたことを確認した。しかし、コンドーム使用率については、特定の相手とでは45%と増加傾向にとどまり(前年35%)、不特定の相手とでは効果は見られなかった。インターネット予防介入の基礎研究として、ネット上でコンドーム使用と心理・社会的要因に関する本調査を実施し、約1500名から回答を得た。②若者:某県全域を対象とした予防介入研究を実施した。コミュニティベース介入では県下全保健所、学校ベース介入では48%の学校(44/91)の協力を得た。前年度の質的・量的形成調査の結果に基づき、簡潔、地域的で、かつクラミジア、中絶を内容とする名刺大パンフや大小ポスターを開発し、コンビニ、カラオケ等地域の隅々にまで配置した。学校ベースでは、2校で研究班によるモデル授業(スライド+ビデオ+コンドーム実演+パンフ配布)を行い、研修を受けた養護教諭による準モデル授業を8校で実施した。介入効果は高校2年生(7000-8000人)を対象とした、3ヶ月の予防介入期間の前後の質問票調査で評価した。モデル授業校と準モデル授業校では、知識、コンドーム使用意図、コンドーム使用行動の上昇が認められたが、性行動の活発化は生じなかった。また、地域キャンペーン密度(ポスター・パンフ配布数/単位人口)別に高校生の知識、意図、行動を比較したところ、密度に応じた知識の向上を認めた。③滞日ブラジル人:コミュニティベースでは、ブラジル保健省と共同開発したポスター、名刺大パンフ、テレビ・ラジオスポット、新聞広告等による全国予防キャンペーンを実施した。また、文化的に適切なコンドームを開発し、全国のブラジル雑貨店に配置を依頼(40%同意)するとともに、全国宣伝を実施した。2002年10月に事前調査を実施し、効果評価は6ヶ月後。学校ベースでは、予備調査として、2つのブラジル人学校で、ワークショップ形式と講演形式の予防介入を実施した。④セックスワーカー:店舗配布用の啓発用パンフの作成、ネットによる予防介入のための情報提供・収集プログラムを作成した。ワーカーへのフォーカスグループインタビューの結果、職種による顧客層の違いが示唆された。行政やNGO向け教材パンフレットを試作した。⑤HIV感染者:HIV感染者132名を調査した結果、プライバシー漏洩経験23%、差別経験30%、ネガティブサポート経験25%、性行動は一般住民より抑制されていること、性生活に伴う社会的困難が多いことなどを示した。⑥予防的ケースマネージメントに関する研究:個人レベルの介入の方法論として予防的ケースマネージメントの理念と方法の咀嚼・導入を行った。以上の結果から、HIV流行が依然拡大期にあり、今後さらに速度を増し、医療へのインパクトを増大させ続ける可能性が高いことが示唆されたが、一方、男性同性愛者、若者、滞日外国人では、大規模なコミュニティベースの介入研究の蓄積がさらに進み、特に若者では地域、学校ベースでの有効な予防介入に関するわが国で初めてのエビデンスを示した。
結論
わが国のHIV感染流行は、依然加速局面にあり、予防介入に関する早急なエビデンスの蓄積と、その具体的施策化が求められる。

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