HIV感染症の疫学に関する研究-世界のAIDSの流行格差の要因の分析(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200646A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV感染症の疫学に関する研究-世界のAIDSの流行格差の要因の分析(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
島尾 忠男((財)エイズ予防財団)
研究分担者(所属機関)
  • 石川信克((財)結核予防会 結核研究所)
  • 丸井英二(順天堂大学医学部公衆衛生学教室)
  • 鎌倉光宏(慶応大看護医療学部)
  • 沢崎康((財)エイズ予防財団)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
50,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
世界のエイズの蔓延状況にみられる格差に関与する要因の解明を主な目的としているが、本年度は蔓延状況に対する女性の割合の意義を明らかにする研究を行った。
研究方法
まずUNAIDS,WHOが公表している地域別の蔓延状況に中から、成人のHIV陽性率と女性の割合の相関を分析し、次いで同じくUNAIDS,WHOが示している国別の値から成人のHIV陽性率と女性の割合の相関を分析した。タイ国北部のチェンライ県のエイズ登録の成績について、エイズ発症者の登録状況と女性割合の関連を分析し、最後に日本のエイズ発生動向調査の成績について分析した。
結果と考察
2001年末と2002年末の地域別成人HIV陽性率と女性の割合について相関を検討し、成人HIV陽性率の対数と女性の割合の間に強い正の相関が求められた。エイズ流行は第1相として先ず高危険行動群で起こり、次いで性的なネットワークが形成されていると、第2相として一般国民の間に流行すると言われている。そこで主な感染経路が異性間接触の他にMSM and/or IDUのある地域の国について、成人HIV陽性率の対数と女性の相関を見ると、HIV陽性率が0.5%前後までの国では女性の割合は低く、その後HIV陽性率が高くなるにつれて女性の割合も上昇する傾向がみられる。全世界の国について同様な分析を行うと、HIV陽性率が5%を超える国では、女性の割合はほぼ60%前後となっている。タイ国の北部にあるチェンライ県でのエイズ登録報告をみると、エイズ発症者の届出率は1989年以降上昇を続けてきたが、最近頭打ちの状態となっており、女性の割合は初期に一旦低下したがその後は上昇を続けている。これらのデータから、流行の第1相では、HIV陽性率の上昇とともに、女性の割合は低下するが、流行の第2相に入ると女性の割合は上昇する。しかし、その限度はほぼ60%程度になると推定される。日本の発生動向調査の報告では、毎年の発生率は上昇しているが、女性の割合は低下しつづけており、最近までは流行の第1相にあったと推定される。しかし、女性の割合の低下の速度が鈍化し、2001年にはわずかながら上昇に転じていることから、流行に第2相に入り始めたことが疑われる。日本のように主な感染経路が同性間、および異性間の性的な接触である国においては、エイズの流行がどの時期にあるかを知ることは、対策を適切に実施する上で極めて重要である。今回の研究成績から、新たな感染の起こる率の推移の他に、女性の割合が重要な意義を持つことが明らかにされ、日本のエイズ流行が第2相に入り始めている恐れのあることが示唆された。この時期に対策を抜本的に強化することを怠るなら、タイ国の流行初期にみられた苦い経験を繰り返すことになるであろう。
また分担研究者の、鎌倉班員はMAP(Monitoring AIDS Pandemic)の日本から唯一の正メンバーとして、先進諸国の疫学者とともに、世界の正確なデータの分析に貢献している。本年度は、MAPの分析をもとに、最近の世界におけるHIV/AIDSの流行の現状と動向を、資料の信頼性の地域格差を考慮しながら収集し、流行格差の要因について検討、疫学資料の信頼性を考慮しつつ、患者報告数の性比の年次変化を幾つかの国についてまとめ、国・地域の特徴ならびに流行の成熟度について検討した。
石川班員はエイズと結核との関連についてタイとカンボジアでのデータを中心に研究を進めており、今年度カンボジアで行った結核実態調査の成績が近く明らかにされる予定であり、この成績をエイズ登録と照合することにより、結核とエイズの関連に関するより正確な成績が得られるであろう。また、同班員の共同研究者である野内がタイ国のチェンライ県で現地の協力を得て組織したエイズ登録は、女性の割合を分析する際の基礎データとなった。
沢崎班員は、特にエイズの流行の最大要因としての性行為とその背景にある性規範に関連する法律・文化・宗教・性志向などに着目し、昨年度に引き続きアジア各国の宗教と法的状況として、世界各国の高危険行動群として同性愛に関する法律や規範、またさらに宗教とHIV感染率を分析した。感染率の高い国々は仏教国、ヒンズー教国に多く、マレーシアを除いてイスラム教国は少ないといえるが、その背景に宗教的厳密さ、寛容さ、国民の社会規範などさまざまな要因が推察された。
結論
エイズ流行のフェイズと女性の割合との間には明瞭な関連があり、新たな感染の起こる率とともに、女性の割合もエイズ流行をモニターする際の良い指標となることが示された。世界のエイズの流行に関連する要因については、多岐にわたり、これを3年間に解明することは不可能である。しかし、島尾と丸井班員は、本年度の研究において、エイズ流行の程度と女性の割合については、かなり明瞭な関連を示すことができた。また今後の展望について、アフリカ諸国の流行蔓延の推移を見てみると、高危険群の存在が疑わしいので、恐らく今回の考え方だけでは説明しきれないと思われる。アフリカ諸国でエイズが爆発的な流行を起こした要因については、さらに検討が必要である。また、個々の国について、蔓延状況と女性の割合の推移の実態を観察し、対策の影響をみることも必要であろう。蔓延が低い状態に留まっていると推定されている韓国、フィリピンなどの国については、個々にその要因の解明が必要であろう。結核とエイズの関連は、これを詳しく分析できる体制がようやく整備され、一部データが出始めた段階であり、今後の継続、発展が重要である。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-