HIVの検査法と検査体制を確立するための研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200645A
報告書区分
総括
研究課題名
HIVの検査法と検査体制を確立するための研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
今井 光信(神奈川県衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 杉浦亙(国立感染症研究所)
  • 加藤真吾(慶応大学)
  • 蜂谷敦子(国立国際医療センター)
  • 白阪琢磨(国立大阪病院)
  • 岩本愛吉(東京大学医科学研究所)
  • 関根大正(東京都立衛生研究所)
  • 大竹徹(大阪府立公衆衛生研究所)
  • 金田次弘(国立名古屋病院)
  • 近藤真規子(神奈川県衛生研究所)
  • 吉原なみ子(国立感染症研究所)
  • 山中烈次(日本赤十字社血液事業部)
  • 河原和夫(東京医科歯科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
46,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HIVのスクリーニング検査とHIV感染者のフォローアップ検査(薬剤耐性検査等)に関して、各検査法の開発・改良・実用化により、検査精度の向上を図ると共に、より効率的で効果的な検査体制を確立するため研究を行った。
研究方法
スクリーニング検査関連の研究:
HIV検査機関におけるHIV検査数・検査陽性数の解析:
全国各地の衛生研究所、民間検査センター、日本赤十字社NATセンター等、HIV検査実施機関の協力により、HIV検査数およびHIV検査陽性検体に関するデータを収集し、その解析を行った。
HIV即日検査の導入:
HIV抗体迅速検査キットを用いたHIV即日検査を10箇所のクリニックと1箇所の保健所(小山市)で試験的に実施し、その効果と問題点を検討した。
ホームページ"HIV検査・相談マップ"の活用:
ホームページ"HIV検査・相談マップ"を用いて、上記即日検査を含む詳細なHIV検査情報を提供すると共に、アクセス状況の解析により、検査希望者のニーズに関する調査を行った。
保健所へのアンケート調査:
全国の594保健所を対象に各保健所に共通な課題や、それぞれの保健所の地域特性とHIV相談事業との関連等、HIV即日検査に対する考え方等について調査した。
フォローアップ検査関連の研究:
フェノタイプ薬剤耐性検査法の比較検討:
9株の臨床分離株を用いて、4ヶ所の研究室でそれぞれ異なる方法を用いてフェノタイプ薬剤耐性検査を行い、結果の比較検討を行った。
ジェノタイプ検査とフェノタイプ検査の比較検討:
遺伝子変異の解析から推測された薬剤耐性(ジェノタイプ検査;バーチャルフェノタイプ検査)と実際に各種薬剤の存在下でHIV培養を行い得られた薬剤耐性の結果(フェノタイプ)との相関を200例以上の臨床検体について比較検討した。
検査法の普及:
国立感染症研究所の技術講習会において、16の地方衛生研究所を対象に薬剤耐性ジェノタイプ検査法、サブタイプ検査法等の技術移管および試薬等の供給を行った。
結果と考察
スクリーニング検査関連の研究:
HIV検査機関におけるHIV検査数・検査陽性数の解析結果:
平成14年における、保健所等無料検査でのHIV検査陽性数は216例と過去最高で、平成12年に比べ93%増と2年間で陽性数が急激に増加した。地域別では東京都118例、大阪府45例、神奈川県・愛知県16例と、これら4都府県で全体の90%を占めている。検査機関別では、昨年同様首都圏の夜間や休日検査を行っている検査・相談機関に検査希望者と検査陽性者が集中する傾向がみられた。一方、献血者でのHIV検査陽性数は82例で平成12年の67例に比べ22%増で、この間のHIV感染者報告数の増加率41%や保健所等無料検査での増加率93%に比べるとかなり低かった。このことは、保健所等無料検査がより有効に機能を果たしつつあることを示唆するデータであり、今後の動向が注目される。
HIV即日検査の導入:
HIV抗体迅速検査キットを用いたHIV即日検査を10箇所のSTDクリニックで実施した結果、平成14年の受検者数は4553で検査陽性数は27であった。この受検者数は、神奈川県や愛知県の無料検査の受検者数に匹敵し、検査陽性者数はそれら2県の16例を上回っており、これらクリニックにおける即日検査が極めて有効であったことが実証された。また小山保健所における即日検査の試験的導入においても検査数が導入前に比べ3倍以上に増加するなどその有効性が確認できた。
ホームページ"HIV検査・相談マップ"の活用:
ホームページ"HIV検査・相談マップ"を用いて、上記即日検査を含む詳細なHIV検査情報を提供しているが、平成13年9月の開設以来、アクセス数は増加傾向にあり、現在は1日あたりおよそ1000件、積算では40万件(平成15年3月末現在)に達した。また、即日検査実施クリニックでのアンケート調査の結果では、受検者の70%がホームページHIV検査相談マップをみて受検しており、このホームページがHIV検査情報の提供手段として極めて有効に機能していることが分かった。
保健所へのアンケート調査:
アンケート調査の結果からは、多くの保健所エイズ対策担当者が即日検査の利便性を認識している一方で、導入条件として即日検査の実施マニュアルをあげており、今後いくつかのモデル保健所で即日検査を実施し、その経験に基づく即日検査実施マニュアルの作成が今後の課題である。
フォローアップ検査関連の研究:
4種類の薬剤耐性フェノタイプ検査法の比較検討:
9株の臨床分離株を用いて、4ヶ所の研究室でそれぞれ異なる方法を用いてフェノタイプ検査を行い、結果を比較した結果、全体としては90%以上の結果が一致したが、特定の組み合わせの耐性変異を有する株や、比較的血中ウイルス量が低値の患者から得られたHIVでは、検査法により結果に違いが見られた。多種類の耐性変異を有する株や、サブタイプ非Bの臨床検体での検討は、今後の課題である。
ジェノタイプ検査とフェノタイプ検査の比較検討:
遺伝子変異の解析から推測された薬剤耐性度(ジェノタイプ検査;バーチャルフェノタイプ検査)と実際に各種薬剤の存在下でHIV培養を行い得られた薬剤耐性の結果(フェノタイプ検査)を200例以上の臨床検体について比較検討した結果、全体としてはほぼ90%前後の検体で両者の結果は一致し、通常の薬剤耐性検査はジェノタイプ検査により実施可能なことが実証できた。但し、同一の耐性変異を有する株であっても、フェノタイプ検査では薬剤耐性度が大きく異なる臨床分離株もいくつかあり、その原因等については今後さらに検討が必要である。
検査法の普及に関しては、本年は16の地方衛生研究所を対象に薬剤耐性ジェノタイプ検査法、サブタイプ検査法等の技術移管および試薬等の供給を行い、HIV検査体制の強化を図った。
HIV-DNAの定量法の開発:
定量前増幅PCRを加えることにより、検出感度が5コピー/10^6細胞のHIV-DNAを定量可能な高感度リアルタイムPCR法を開発し、HAART治療患者3名を対象にHIV-1DNAの推移を追跡した結果、HIV-RNAが検出感度以下に抑制された1年後の時点ではHIV-1DNAは450コピーに減少し(治療前は1300コピー)その後の2年間はほとんど変動がなかった。
HIV検査試薬の検討および精度管理に関する研究:
血中HIV定量検査の実施施設を対象に、コントロールサーベイを実施し、定量値に問題の見られた機関への技術支援を行った。
結論
本年はスクリーニング検査に関しては、即日検査のモデル実施とその評価を重点課題として実施した。平成14年における10箇所の即日検査導入クリニックのHIV検査受検者数は4553で、神奈川県や愛知県での保健所検査とほぼ同数であり、検査陽性者数は27と両県での保健所検査陽性者数を上回る等、民間クリニックにおけるHIV即日検査は極めて有効で、HIVスクリーニング検査体制を構築する上で、保健所無料検査を補完する重要な役割を担い得ることが分かった。
また、平成14年の保健所等無料検査でのHIV検査陽性数は合計216例と過去最高で、平成12年比では93%増と、この2年間で急激に増加した。地域別では東京都、大阪府、神奈川県、愛知県で陽性数の90%を占めている。検査機関別では、首都圏の夜間や休日検査を行っている検査・相談機関に検査希望者と検査陽性者が集中する傾向がみられた。一方、献血者でのHIV検査陽性数の増加率は平成12年比22%増と増加傾向が続いてはいるが、その増加率は、新規HIV感染者報告数の同時期の増加率41%や保健所等無料検査での増加率93%に比べかなり低かった。従ってこれらのデータからは、保健所等無料検査がここ1~2年、より有効に機能を果たすようになりつつあることが示唆され、今後の動向が注目される。
ホームページ"HIV検査・相談マップ"を用いたHIV検査情報の提供に関しても、現在(平成15年3月末現在)は1日あたりおよそ1000件、積算では40万件のアクセスがあり、情報提供手段として極めて有効であることが実証された。また、即日検査実施クリニックでの受検者へのアンケート調査の結果では、受検者の70%がホームページ(HIV検査相談マップ)をみて受検しており、このホームページがHIV検査の受検者増に直接役立っていることが実証された。カード等を利用した各個別対象グループへの啓発や日本赤十字社との連携による献血者層への啓発により、ホームページ"HIV検査・相談マップ"へのアクセス数の増加を図り、保健所等HIV検査の有効性をさらに高める努力が必要である。
フォローアップ検査関連の研究としては、確立された方法の比較検討による評価と普及を本年度の重点課題として研究を行った。4種類の薬剤耐性フェノタイプ検査法のデータ比較およびジェノタイプ検査とフェノタイプ検査の比較から、全体としては90%以上の結果が一致し、これら薬剤耐性検査の結果の信頼性がほぼ実証された。但し、特定の組み合わせの耐性変異を有する株や、多種類の耐性変異を有するHIV株では、検査法により結果に違いが見られ、これらHIV株や、非BサブタイプHIVの薬剤耐性検査に関する研究は今後の課題として残った。
検査法の普及に関しては、16の地方衛生研究所を対象に薬剤耐性ジェノタイプ検査法、サブタイプ検査法等の技術移管および試薬等の供給を行い、HIV検査体制の強化を図った。今後、各地域の衛生研究所と各地域の拠点病院等の検査研究機関との連携により、薬剤耐性フェノタイプ検査等比較的高度なHIV検査を実施できるよう、HIV検査機関ネットワークを構築することが今後の課題である。

公開日・更新日

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