日和見感染症の治療に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200639A
報告書区分
総括
研究課題名
日和見感染症の治療に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
木村 哲(東京大学医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 味澤篤(都立駒込病院)
  • 小池和彦(東京大学医学部附属病院)
  • 河野茂(長崎大学医学部)
  • 斎藤厚(琉球大学医学部)
  • 竹内勤(慶應義塾大学医学部)
  • 中村哲也(東京大学医科学研究所)
  • 野崎智義(国立感染研究所)
  • 森亨(結核研究所)
  • 安岡彰(国立国際医療センター)
  • 余郷嘉明(東京大学医科学研究所)
  • 吉崎和幸(大阪大学健康体育部)
  • 米山彰子(東京大学医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
63,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目標はHIV感染症における各種日和見合併症実態を把握し、その発症予知と早期診断に向けた方法・技術の確立、新しい治療法の研究・開発、およびHIVと共に感染したHCVによる慢性肝炎、肝硬変の治療法・進行阻止法の研究・開発にある。
研究方法
以下のa)からf)までの項目を平行して実施する。今年度は
a)日和見合併症の実態及び動向の調査と解析(主として木村哲、森亨、安岡彰、吉崎和幸が担当):全国の拠点病院を対象にエイズ指標疾患の発症状況、診断時のCD4数、抗HIV療法の状況などを調査し、日和見合併症の頻度・推移を解析し、その対策についての提言をまとめる。
b)日和見合併症予知マーカーの開発と効率的予防法並びに早期診断法の構築(主として木村哲、中村哲也、味澤篤、安岡彰、余郷嘉明、吉崎和幸が担当):血中EBVとHHV-8のreal-time PCRによる定量法を用いリンパ腫及びカポジ肉腫の診断、病勢モニターの可能性を探る。進行性多巣性白質脳症(PML)の診断を可能にする。
c)日和見感染症の診断法、治療法の改良と開発(主として竹内勤、野崎智義、米山彰子が担当):トキソプラズマ、赤痢アメーバの新規化学療法薬開発に向けた検討を行う。日本の臨床分離非定型抗酸菌の薬剤感受性を検討し、適切な併用療法を創出する。
d)薬剤耐性の迅速診断法の開発と耐性菌感染症の克服(主として河野茂、斎藤厚、中村哲也、米山彰子が担当):真菌や原虫の耐性化の機序およびその検出法について検討する。また耐性菌による感染症の治療に向け、サイトカインなどを利用した新しい治療法の開発をする。
e)B型肝炎、C型肝炎の治療法の開発(主として木村哲、小池和彦、中村哲也、安岡彰が担当):HIV感染症における肝炎のインターフェロンとリバビリンあるいはPEGインターフェロンとリバビリン併用療法の妥当性について検討する。更に肝硬変症、肝細胞癌合併例の生体部分肝移植の適応について検討し、条件が整った場合はこれを実施する。(倫理面への配慮)本研究は患者のプライバシー保護に十分配慮すると共に患者の不利益となるような事態が生じないよう配慮し、慎重に実施する。全国調査においても患者名、病院名など解析に必要のない個人情報は入力しない。動物を用いる研究においても動物に苦痛を与えないよう配慮しヘルシンキ宣言にのっとって実施する。
結果と考察
a)日和見合併症の実態および動向の調査と解析:1995年1月から2000年12月31日の6年間におけるエイズ指標疾患としての日和見合併症(AIDS-OI)の実態調査をの結果を解析した。調査対象は全国366のエイズ診療拠点病院で、回収率は50%から70%程度で総計1,685件のAIDS-OIの発症例が報告された。この件数は3年連続の増加であり、HAARTが普及しているにもかかわらず減少せず、むしろ増加している。解析の結果、抗HIV療法を受けていない人での発症が著増していることが判明した。カリニ肺炎でも予防投与を受けていない人からの発症が著増している。リスクのある人が早期に検査を受け、感染の有無を確認するよう啓発が必要である。結核も増加傾向がある。
b)日和見合併症の予知マーカーの検索と早期診断:前年度血液中のCMVをreal-time PCR法を用いて定量する方法を開発し、CMV-DNAのreal-time PCR定量法はCMV感染症の予知や早期診断、治療効果の判定に極めて有効であることを示したが、引き続き、HHV8、EBVについても同様の検討を進め、これらのreal-time PCR定量が、カポジ肉腫やリンパ腫の診断や病勢の判定にも有用であることが示された。PMLの原因であるJCVの髄液PCRは診断に有効であった。
c)日和見合併症の診断法と治療法の改良・開発:抗アメーバ薬を検討する過程において、アメーバのエネルギー代謝に関与するフェレドキシン合成に腸内細菌が関わっていることを発見した。アメーバのファルネシル転移酵素はヒトのそれと大きく異なること、トキソプラズマのヘキソキナーゼについても同様のことを見い出した。新しい治療薬の標的になると思われる。クリプトスポリジウムに対しては本年度もSCIDマウスを用い治療薬候補
のスクリーニングを行い、エリスロマイシン、ホスホマイシンがやや有効であった。
d)薬剤耐性の迅速検査法の開発と耐性菌感染症の克服:昨年度カリニ原虫の薬剤耐性の原因を探る手段としてサルファ剤の標的酵素であるdihydropteronate synthaseのアミノ酸変異の有無を検討し、Thr55Ala、Pro57Ser変異がST合剤耐性の原因であることをつきとめたが、今回はトリメトプリムの標的酵素であるdihidrofolate reductaseの変異について検討した。2つの変異を見出したが、耐性と関係しているか否かは判定できなかった。マウス肺クリプトコッカス症モデルにおいてCpG ODSがTh1を賦活化し、治療上有効であることを立証した。またオステオポンチンがHIV感染症の進行阻止、あるいは日和見感染症の発症予防・治療に有効であることを示唆する成績を得た。
e)慢性肝炎、肝硬変の治療:HIV感染症とC型肝硬変を有する血友病患者が家族をドナーとした生体部分肝移植を希望したため、東大医学部付属病院人工臓器移植外科の協力を得、これまでに3例につき実施した。2例において肝移植が成功し、血友病は治癒、C型肝炎はインターフェロン+リバビリン治療で完全寛解し、肝機能も正常化している。HIV感染症の方もHAARTは不要の状態を維持している。他の1例は拒絶反応とそれによる合併症で亡くなった。C型慢性肝炎については、インターフェロン単独療法、インターフェロン+リバビリン療法を試み、後者の方が有効と思われた。PEGインターフェロン+リバビリンの臨床試験も行っているが、更に良好であることが示唆された。
f)日和見合併症診療に関する普及・啓発:原虫感染症診断技術を向上させるため、エイズ診療拠点病院検査部の医師・検査技師を対象に講義と実習による講習会を行った。HIV感染症に合併する結核の診断・治療に関するガイドライン、HIV合併B型肝炎、C型肝炎治療のガイドラインを作成した。
結論
1)日本ではHAART導入後も日和見合併症の発症は減少していない。これはHIV感染症に罹患していることを知らぬまま発症に至った症例が増えているためと思われる。2)血中のEBV-DNAあるいはHHV-8-DNAをreal-time PCRで定量することにより、リンパ腫あるいはカポジ肉腫の診断および病勢モニターに役立つことがあることが示された。3)赤痢アメーバ症およびトキソプラズマ症の新規治療薬の候補品を見い出した。クリプトスポリジウム症の予防についてはマクロライド系抗菌薬が有望であることが示された。4)臨床分離Pneumocytis cariniiに薬剤耐性と関連する遺伝子変異があることを明らかにした。5)オステオポンチンがHIV感染症の進行阻止および合併する日和見感染症の治療に役立つ可能性が示された。6) CpG ODNが真菌症の治療に有効であることを見い出した。7)血友病に合併したHIV陽性、C型肝硬変3例に対し、生体部分肝移植を行い2例で成功した(通算)。8)PEGインターフェロン+リバビリンの臨床試験を開始し、良好な結果を得た。9)HIV陽性結核症治療およびHIV陽性B型肝炎、C型肝炎治療のガイドラインを作成した。10)日和見感染症病原体検出法の講習会を行った。

公開日・更新日

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更新日
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