文献情報
文献番号
200200636A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV及びその関連ウイルスの増殖機構及び増殖制御に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
佐藤 裕徳(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
- 原田信志(熊本大学)
- 庄司省三(熊本大学)
- 服部俊夫(東北大学)
- 小島朝人(国立感染症研究所)
- 間陽子(理化学研究所)
- 増田貴夫(東京医科歯科大学)
- 岡本尚(名古屋市立大学)
- 増田道明(獨協医科大学)
- 足立昭夫(徳島大学)
- 櫻木 淳一(大阪大)
- 高橋秀宗(国立感染症研究所)
- 仲宗根正(国立感染症研究所)
- 生田和良(大阪大学)
- 田代啓(京都大学)
- 巽正志(国立感染症研究所)
- 松田善衛(国立感染症研究所)
- 横幕 能行(国立感染症研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
75,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
HIVの複製・変異研究を活性化し、ウイルス増殖機構の理解向上を目指す。得られた成果を抗HIV薬剤とワクチンの開発と改良に役立てる。
研究方法
国内の主なHIV複製・変異研究者を結集し、以下の計画により複製機構と易変異性の理解向上を計る。・研究の柱の設定:HIV増殖の理解と制御に最も本質的と考えられる2つの基本課題(複製と易変異性発現の分子素過程研究)を設定する。・研究組織:18人の研究者で分担する。抗HIV薬開発に直接重要な役割を果たす複製研究に最も多くの分担研究者(16名)を配置する。治療の最適化に必須と考えられる変異研究については、国内研究基盤が薄いため少人数(2名)で開始し、3年内に強化に努める。年1回、班の編成内容を見直す。・立体構造研究の推進:増殖研究と阻害剤開発に重要な役割を果たす立体構造研究を予備的に開始する。・萌芽的研究の推進:適宜、主に若手の基礎研究者を協力研究者として募り、研究の機会均等に努める。・最新成果の情報収集と班員間の交流推進:シンポジウム、テ-マ別ワ-クショップを開く。・研究期間:以上を3年計画で遂行する。13-14年度は準備検討期間、14~当該年度(最終年度)は成果の収穫期と位置付ける。・平成15年度終了時までに、学術・臨床研究面での進展が見込まれる分担・協力研究を絞り込む。研究が十分進展したものに関しては、構造解析専門家との共同研究を開始する。
結果と考察
[結果](1)全体:・研究計画の公開、班会議開催などによる研究目的・必要性・目標・計画の明確化、・MOEの導入と関連レジデントの採用・育成による立体構造研究の基盤強化、・米国HIV複製研究者の招聘とシンポジウム開催による増殖研究の最新成果収集と方向性の議論、・研究協力者5名の新規加入による萌芽研究の導入、などを行った。(2)細胞因子:・ゲノムRNAが粒子中で断片化しやすいこと、topoisomerase IがゲノムRNA結合活性と断片化修復活性をもつことを示した(高橋)。逆転写反応や組み換え効率の制御に関与する重要な相互作用かもしれない。・Vprは核内輸送制御因子Rch-1との相互作用を介し核移行活性を発現すること(間)、Rch-1はインテグラ-ゼ結合活性をもち、HIV感受性細胞で優位に発現していること(増田貴)を示した。マクロファ-ジにおけるプロウイルス核内移行に関与する重要な相互作用かもしれない。・VprによるG2/M arrest誘導にWEE1と14-3-3_が関与することを見い出した(増田道)。Vprによる細胞周期異常誘導の理解と制御に重要な知見と考えられる。・Env前駆体と小胞体分子シャペロンcalnexin、calreticulinとの結合を示し、相互作用がEnvの任意の糖鎖を介して結合と遊離を繰り返す動的相互作用に基づく可能性が高いことを示した(佐藤)。高変異性Gp120が蛋白質レベルで立体構造を維持するしくみを明らかにする手がかりとなる。(3)ウイルス因子:・Vifの安定的発現とウイルス増殖に必須のアミノ酸残基(E88とW38)を見い出した(足立)。・ゲノムRNA2量体化効率を測定する系をつくり、異種HIV-1サブタイプ間で2量体化効率に差があることを見い出した(櫻木)。(4)複製抑制因子:・NF-kBとSp1の制御因子RAIを同定し、これにプロウイルス転写阻止能があることを見い出した(岡本)。Tat合成前の基本転写の制
御に重要な手がかりを与える。・複製阻止能を有する低分子化合物ONO-4007Aを同定し、吸着・侵入過程を阻害する可能性を示した(田代)。・ワクチン候補cDDR5-MAPがサルにおいてR5ウイルス中和抗体を誘導することを示した(庄司)。・CD38-CD4+ T細胞においてX4ウイルスの複製が転写以降の段階で抑制されることを見い出し、抑制因子の探索に着手した(生田)。(5)立体構造解析:・逆転写酵素の高度精製系を確立し、基質特異性に関する構造機能関連の解析に着手した(佐藤)。・MOEの各種プログラムを用いて種々のHIV分子変異体(糖鎖付加Gp120、RT p66/p51ヘテロダイマ-、プロテア-ゼホモダイマ-等の分子モデルを作製した。低分子基質のドッキングシュミレ-ションを行い、計算化学的手法の精度の高さを確認した(佐藤)・タンパク質立体構造の差異に基づく進化系統樹解析プログラムを作製した(仲宗根)。(6)他の複製・易変異性研究:・抗原提示過程を再現するCTL assay系をつくり、Gagエピト-プ変異がCTL認識効率の低下をもたらすことを示した。免疫逃避機構およびMHC-I/ペプチド複合体形成機構の理解に重要な手がかりを与える(横幕)。・HIV-1の主要流行亜株の感染性分子クロ-ンのセット(A、AG、B、C、E)がそろい、複製・易変異性研究への適用段階に入った(巽、生田、佐藤)。・吸着・侵入の分子過程の理解と制御に重要な多重結合仮説を支持する結果が蓄積された(原田)。・吸着・侵入過程における細胞膜ラフト構造の関与を示唆する結果を得た(服部)。・Gp41膜貫通部位ヘリックス構造の意義をGXXXGモチ-フに着目して検討中(松田)・細胞膜依存的にGag p24を遊離するin vitroウイルス侵入系を樹立し、細胞侵入・逆転写反応への影響因子を解析中(小島)。(7)研究協力者:・細胞膜裏打ち構造の制御因子Ankyrin(久保)、・アクチン新生鎖合成の制御因子Arp2/3(駒野)、・Gag-Gp41細胞質領域の相互作用(村上)が、ウイルスの膜融合・侵入・細胞質内輸送に果たす役割を解析中。・VifのGag前駆体開裂阻止活性(明里)、ウイルス粒子中のGag p24ホルミル化と3種のCyclophilinA isoform(三隅)を見い出し、集合・侵入・脱殻・逆転写等の制御に果たす役割を解析中。
[考察](1)進捗状況:・複製の分子素過程の研究=◎:一部に目標(複製に必須の細胞分子装置や分子間相互作用の同定)に近付く成果が得られた。ただし、複製に必須であるかの確認が十分では無い。・易変異性研究=○:未開拓領域が多く、今だ特筆すべき成果を得るに至っていない。新たな実験系の確立、逆転写反応・組み換え研究の開始などにより、準備検討段階は予定通り着実に進行した。・立体構造研究=○:計算化学的手法の導入と検討により、複製・易変異性研究の成果に速やかに対応するための基盤強化は着実に進行した。・全体=◎:計画を順次実行することにより、焦点を絞った基礎研究への転換、萌芽的研究の推進が着実に進行した。(2)研究成果の学術的・国際的・社会的意義について:・学術的・国際的意義=◎:研究成果は、国際的に評価の高い基礎ウイルス学欧文雑誌(J. Virol.11報, Virology 2報、他多数)に公表された。他に国内外の学術会議における口答発表、総説著作が多数あり、ウイルス学の進展に対する貢献度は大といえる。・社会的意義=○:特許の出願3件。間接的貢献(予防治療・啓蒙・教育に資する基礎知見の提供)を主とする。地味ではあるがエイズ対策立案の最も基礎となる部分を構築する研究であり、一連のエイズ対策研究への直接・間接的な波及効果は大といえる。(3)今後の展望について:・全体:重点・支援課題に関するテ-マ別ワ-クショップを開催予定。一部の分担研究について計算科学的手法の適用を試みる。15年度終了時までに、X線結晶構造解析の専門家との共同研究開始を予定。・複製研究:RNAi、変異体等を用いた解析により、同定された細胞分子の一部について複製における役割が明確になる予定。・易変異性研究:逆転写酵素の基質特異性、忠実度、組み換え反応など易変異性に関わる生化学的特性と制御因子について新知見が得られる予定。
御に重要な手がかりを与える。・複製阻止能を有する低分子化合物ONO-4007Aを同定し、吸着・侵入過程を阻害する可能性を示した(田代)。・ワクチン候補cDDR5-MAPがサルにおいてR5ウイルス中和抗体を誘導することを示した(庄司)。・CD38-CD4+ T細胞においてX4ウイルスの複製が転写以降の段階で抑制されることを見い出し、抑制因子の探索に着手した(生田)。(5)立体構造解析:・逆転写酵素の高度精製系を確立し、基質特異性に関する構造機能関連の解析に着手した(佐藤)。・MOEの各種プログラムを用いて種々のHIV分子変異体(糖鎖付加Gp120、RT p66/p51ヘテロダイマ-、プロテア-ゼホモダイマ-等の分子モデルを作製した。低分子基質のドッキングシュミレ-ションを行い、計算化学的手法の精度の高さを確認した(佐藤)・タンパク質立体構造の差異に基づく進化系統樹解析プログラムを作製した(仲宗根)。(6)他の複製・易変異性研究:・抗原提示過程を再現するCTL assay系をつくり、Gagエピト-プ変異がCTL認識効率の低下をもたらすことを示した。免疫逃避機構およびMHC-I/ペプチド複合体形成機構の理解に重要な手がかりを与える(横幕)。・HIV-1の主要流行亜株の感染性分子クロ-ンのセット(A、AG、B、C、E)がそろい、複製・易変異性研究への適用段階に入った(巽、生田、佐藤)。・吸着・侵入の分子過程の理解と制御に重要な多重結合仮説を支持する結果が蓄積された(原田)。・吸着・侵入過程における細胞膜ラフト構造の関与を示唆する結果を得た(服部)。・Gp41膜貫通部位ヘリックス構造の意義をGXXXGモチ-フに着目して検討中(松田)・細胞膜依存的にGag p24を遊離するin vitroウイルス侵入系を樹立し、細胞侵入・逆転写反応への影響因子を解析中(小島)。(7)研究協力者:・細胞膜裏打ち構造の制御因子Ankyrin(久保)、・アクチン新生鎖合成の制御因子Arp2/3(駒野)、・Gag-Gp41細胞質領域の相互作用(村上)が、ウイルスの膜融合・侵入・細胞質内輸送に果たす役割を解析中。・VifのGag前駆体開裂阻止活性(明里)、ウイルス粒子中のGag p24ホルミル化と3種のCyclophilinA isoform(三隅)を見い出し、集合・侵入・脱殻・逆転写等の制御に果たす役割を解析中。
[考察](1)進捗状況:・複製の分子素過程の研究=◎:一部に目標(複製に必須の細胞分子装置や分子間相互作用の同定)に近付く成果が得られた。ただし、複製に必須であるかの確認が十分では無い。・易変異性研究=○:未開拓領域が多く、今だ特筆すべき成果を得るに至っていない。新たな実験系の確立、逆転写反応・組み換え研究の開始などにより、準備検討段階は予定通り着実に進行した。・立体構造研究=○:計算化学的手法の導入と検討により、複製・易変異性研究の成果に速やかに対応するための基盤強化は着実に進行した。・全体=◎:計画を順次実行することにより、焦点を絞った基礎研究への転換、萌芽的研究の推進が着実に進行した。(2)研究成果の学術的・国際的・社会的意義について:・学術的・国際的意義=◎:研究成果は、国際的に評価の高い基礎ウイルス学欧文雑誌(J. Virol.11報, Virology 2報、他多数)に公表された。他に国内外の学術会議における口答発表、総説著作が多数あり、ウイルス学の進展に対する貢献度は大といえる。・社会的意義=○:特許の出願3件。間接的貢献(予防治療・啓蒙・教育に資する基礎知見の提供)を主とする。地味ではあるがエイズ対策立案の最も基礎となる部分を構築する研究であり、一連のエイズ対策研究への直接・間接的な波及効果は大といえる。(3)今後の展望について:・全体:重点・支援課題に関するテ-マ別ワ-クショップを開催予定。一部の分担研究について計算科学的手法の適用を試みる。15年度終了時までに、X線結晶構造解析の専門家との共同研究開始を予定。・複製研究:RNAi、変異体等を用いた解析により、同定された細胞分子の一部について複製における役割が明確になる予定。・易変異性研究:逆転写酵素の基質特異性、忠実度、組み換え反応など易変異性に関わる生化学的特性と制御因子について新知見が得られる予定。
結論
分担研究者・研究協力者の理解と協力により、本研究の計画は順調に進行している。短中期目標として、2つの研究の柱の中から立体構造解析に到達する分担課題を一つでも多く育てることが挙げられる。これにより、中長期的には増殖機構や易変異性の分子レベルでの理解が進み、複製阻害剤や変異発生制御法の論理的な開発が具体化する。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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