エイズ対策研究事業の企画と評価に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200634A
報告書区分
総括
研究課題名
エイズ対策研究事業の企画と評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
山本 直樹(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
-
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
エイズ対策研究事業の実施にあって必要なことは、ふさわしい研究課題の企画・立案、そのための研究費の適正な配分、研究成果の厳正かつ公平な評価である。企画・立案に当たってはエイズ研究をグローバルな立場より、広く自然科学的基礎研究、臨床研究、疫学的社会医学的立場までふまえて検討する必要がある。そのために、本研究ではエイズ対策研究事業の検討会とともに、研究成果発表会を組織することにより、各主任研究者からの研究成果報告を聴取し、必要な助言と支援を行う。評価に当たっては、対象として独創性、新規性、達成度、行政的意義を中心にすえ、必要な要素の把握とその限界、評価の視点の相対性、手法の限界、評価結果についての解釈の問題、透明性の確保や積極的な公表の問題、アカウンタビリティーの確保などに留意することが重要である。これらの活動を通じて、わが国で必要とされるエイズ対策研究事業の企画・立案から、事前、中間・事後評価委員会までに至る一貫した評価システムを確立することが可能となり、厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業の適正かつ円滑な実施を図ることを目的とする。
研究方法
研究目的を達成するために以下の会を開催した。1)エイズ対策研究事業のための検討会:平成14年11月11日、国立感染症研究所にて、エイズ対策研究評価委員である協力研究者の先生方に提言をお願いした。先生方にはあらかじめ平成13年度の各研究班の報告書を分担してご覧頂き、問題点などについても忌憚のないご意見を頂いた。2)研究成果発表会:平成15年1月29日―1月30日、国立感染症研究所にて、各主任研究者から直接報告を受け、各課題についてとくに「独創性・新規性」、「達成度」、「行政的意義」の3点に留意した。さらに全課題を総括的に論ずるための総合討論を行った。さらにプロジェクト改善のための調査分析を目的として、本事業に参加している研究者との日常的情報交換、個別の班の班会議への出席、学会活動、各種のメディア、国際的研究動向を専門誌を通して調査した。
結果と考察
1)新しい研究班として3課題(秋山班、樽井班、市川班)を平成14年度発足、新規課題として採択した。このうち、秋山班、樽井班については平成11-13年度に別の研究課題名で研究が行われているものを発展させたものである。2)本年は平成12年度発足の17にものぼる多数の課題が最終年度(3年目)を迎えるということで大きな節目の年となった。これらのうち、基礎研究はワクチン開発の理論と戦略を中心とした感染予防、感染病態の解明と新しい発症防止法にフォーカスをおいた発病阻止に重点を置いたものであるが、多くの課題で期待どおりの進展が見られた。3) 研究成果発表会(平成15年1月29日―1月30日)では、研究班の大小に応じて35分、20分の発表・討論時間を保障し、研究の出発点、到達段階と問題点を徹底的に明らかにすることができた。このような取り組みは中間・事後評価委員会を厳正に、深く行うための必須の前提であることが、評価委員のコンセンサスとなった。継続中と本年終了予定の課題にあっては、相対的に昨年よりさらに進歩した発表が多く見られ、昨年指摘のあった問題点の克服や疑問点の解明に努力した跡が見られた。臨床医学研究分野では、今後の研究を可能にする疾病データベースの構築とその活用、新薬開発と病態の評価系開発、ARV血中濃度測定法開発とその有効性の証明、HIV感染者のQOL向上、HIV脳症とHAMという2つの独立した神経障害機構の比較評価、日和見感染症に関する診断・治療研究、血友病の遺伝子治療で一定の前進が見られた。基礎医学研究では、ウイルス複製の分子素過程の研究が立体構造研究の導入などにより、昨年指摘のあった点の克服など、着実な歩み
を見せている。ワクチンの研究ではいくつかの候補ワクチンでその有効性、安全性に対する検討が進んだこと、免疫防御機能、中和抗体産生のメカニズムに関し成果が得られ、さらに一歩フェーズ1トライアルへ近づいた。さらに発症予防ワクチンについてもその可能性を示唆する興味深い結果の報告もあった。社会医学分野では、いつも言われていることであるが、疫学的研究からNGOの活用まで幅広い取り組みがあり、これをいかに具体的な施策に反映させるかが重要である。わが国のみならずアジア、世界の実情を見据えた上で、研究からそのような提言が得られることが期待された。個別施策層に対する予防介入研究としてはいまだ初期の段階にあり、今後の改善と発展が望まれる。ただ研究の中にはそのアプローチに具体性がないとの指摘を受けるものもあり、改善を期待したい。4)検討会(平成14年11月11日)では、これまでの研究で得られた結果と平成15年度からの研究にどのような課題が求められるかという点を中心にして、エイズ対策研究評価委員である協力研究者の先生方に提言をお願いした。先生方にはあらかじめ平成13年度の各研究班の報告書を分担してご覧頂いた上でご出席頂き、問題点などについても忌憚のないご意見をいただいた。5)多くの課題の終了とともに、次の戦略の構築が問題となったが、基本的には現在の課題のほとんどは発展的に継続すべき価値があるとの評価を受けたと理解している。その他、以前から指摘のあった研究者の重複については、大幅な改善があった。以前指摘のあった若手研究者の登用と中堅研究者の主任研究者への登用についてはかなりの改善を見ているので、これをさらに促進するよう図っていく必要がある。6)HIVの感染・増殖、そして病原性発現にかかわるウイルス構成成分と宿主側因子の相互作用、とくにそのような因子となる細胞側タンパクの同定に主眼を置いた“新しい芽を探索する研究"については、佐藤班、岩本班、竹森班などの研究の中に今後が期待されるものが見られた。7)2003年に神戸で開催予定のICAAPは、諸外国との国際連携を推進し、国内外のHIV/エイズ対策にとって貴重な機会となろう。
結論
研究成果発表会と検討会を開催し、平成15年度公募研究課題案と組織の設定、研究者の選考及び研究費の配分額の決定、及び研究成果の評価などの項目について検討し、提言を行った。研究報告集会では、主任研究者からの研究報告を受けるとともに、各研究者間の意見交換を促進し、各研究課題の相補性を高め、エイズ対策研究事業の総合的発展をめざした。さらに平成13年度までの研究成果を分析し、今後の推進の方向性を検討した。これらは、事前、中間・事後評価委員会の2委員会からなる専門委員会との密接な連携の下に行われ、すべての課題について、独創性、新規性、達成度、行政的意義という観点を中心に、入念なチェックアンドレビューの施行による厳正、中立な評価システムを導入することに成功した。とくに本年は平成12年度発足の17にものぼる多数の課題が最終年度(3年目)を迎えたことから、その評価と今後のあり方を考える上で大きな節目の年となった。以上に加え、日常的な情報交換、学会活動、各種のメディア、多くの専門誌などを通して、国内外のエイズ対策研究の動向把握に努めた。個別の班の班会議への出席と意見交換も積極的に行い、将来大きく発展する可能性のある骨太の研究や問題点の洗い出しなどを通じて、今後のエイズ対策研究事業のさらなる発展に努めた。以上の研究成果は、限られたリソースとしての研究費が今後、エイズ対策研究事業に適正に使用、配分される上で、有用であると考えられる。

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