個別施策層に対する固有の対策に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200633A
報告書区分
総括
研究課題名
個別施策層に対する固有の対策に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
樽井 正義(慶應義塾大学文学部)
研究分担者(所属機関)
  • 柏崎正雄(特定非営利活動法人動くゲイとレズビアンの会)
  • 沢田貴志(特定非営利活動法SHARE国際保健協力市民の会)
  • 水島希(京都大学大学院)
  • 山野尚美(皇學館大学社会福祉学部)
  • 長谷川博史(Japanese Network of People Living with HIV/AIDS)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
18,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HIV感染症対策の柱は予防と治療だが、この疾患の影響を受けやすいにもかかわらず、保健医療等の社会的サービスを受けにくいグループがあり、これに対しては、グループの特性と現状に適った施策、つまり予防と治療へのアクセスの確保及びQOLの向上が、偏見・差別の除去及び人権の擁護とともに必要な対策とされている。そうした対策の一環として、a)青少年を主体とするHIV/AIDS啓発プログラムの開発、b)外国人に対する予防・治療向上のために社会資源の利用促進をはかるプログラムの開発、c)男性同性愛者の検査・受診を促進するプログラムの開発、d)性風俗産業従事者の予防啓発のための組織化と他セクターとの連携をはかるプログラムの開発、e)薬物使用者に医療の場で適切に対応するためのプログラムの開発、f)感染者が啓発に参加するためのスキルズ・ビルディング・プログラムの開発を行う。
研究方法
1)個別施策層の当事者等がもつニーズの研究、2)海外における対策の研究、3)行政が実施している対策の研究及び以上を踏まえた対策プログラムの策定を各年度の課題とし、本年度は第一の研究を実施した。a) 青少年が主体的に企画・実施しているHIV予防啓発プログラム(学校を活動の場としているものを含む)に関する情報をエイズ関連NGOより収集し、その内7件について当事者に面接調査を行った。b)外国人感染者の医療環境を、とくにインフォームド・コンセントに焦点を当てて調査した。医療機関とNGOの紹介とsnowball-sumplingにより南米系感染者20名(ブラジル人16名、ペルー人4名、内日系18人、超過滞在者を含む)への母国語でのインタヴューをethnographにより整理し、systemic network等により分析した。c)男性同性愛者に関する先行研究のレヴューにより、予防・治療に不可欠な医療機関利用に関わる研究の不足を指摘し、NGOによるSTD電話相談603件の記録を定量分析したうえで、医療機関利用に関わる相談84件を定性分析した。また保健医療従事者45名に対して同性愛者への対応における困難と改善策についてアンケート調査を行い、その結果をKJ法を用いて分析した。d)性風俗産業従事者のSTD/HIV感染予防対策の現状を明らかにするために、当事者7名と保健所4カ所各1名に対してインタヴュー調査を行った。e)薬物使用事例へのHIV治療現場における対応の現状と課題を明らかにするために、3都市の拠点病院の医療者4名、HIVに関わるNGOや患者会の4団体9名を対象とした質問紙による調査とインタヴュー調査を実施した。f)感染者の啓発活動への参加意欲について、治療と生活の向上を目的に5都市で開催された集会参加者35名にアンケート調査を行った。またスピーカースキルを形成するために、行政・医療・教育機関等の要請により講師5名の派遣を延29件実施し、その評価の分析を行った。
結果と考察
a)青少年主体のプログラム成功の要因として、1)上の世代の企画によるのではなく、同世代として受容しやすい工夫をしていること、2)当事者には不足している知識や資材の提供を保健所、医療専門家、報道機関等から受けていることを指摘した。この予備調査をもとに、次年度に実施する調査の拡大に向けて、調査項目の整理を行った。b)外国人の医療については、医療費や通訳といった医療環境のみならず、外国人の側にもよそ者意識や感染による解雇への恐怖等、検査・受診を躊躇させる要因があることを明らかにし、予防・治療を促進する社会資源に関する情報提供の必要
性を指摘した。c)男性同性愛者のSTD/HIV検査・診療の現状について、同性愛者の側ではホモフォビアとプライバシー遺漏への恐れが受診を躊躇させていること、医療者の側では、言葉遣いや接し方に困惑があること、同性愛に関する知識や性を語る手法を得たいという要求があることを明らかにした。d)性風俗産業従事者については、1)予防策としてのコンドーム使用は、80年代以降に店舗経営者の主導による場合は「パニック」の収束とともに行われなくなった(禁止される)が、当事者がSTD予防のために店舗経営者に認めさせた場合は定着していること、2)保健所が当事者の予防啓発を実施するには、現在の健康診断のあり方に工夫が加えられる必要があることが明らかになり、これにより3)当事者の予防と健康の推進には当事者の組織化と店舗経営者、保健所、NGOの協力が求められることを示した。e)薬物使用については、1)感染者が使用を自己申告している事例がどの医療機関でも数例あること、2)それ以上の数の合法・非合法薬物の使用が感染前から、あるいは感染後に行われていると推察されること、3)これらの機関・団体における薬物使用への理解が不足していること等を明らかにし、HIV及び薬物使用それぞれに関わる機関・団体の相互理解と連携促進の必要性を確認した。f)調査対象の感染者の約4割に啓発活動への参加の意欲があることを確認した。また講師派遣の評価を分析し、スピーカーの立場・役割、話す際の留意点等を整理した。この成果をもとにスピーカー養成研修を実施し、専門知識の取得とスキルの形成をはかるとともに、その記録を整理して本年度版のスピーカー用マニュアルとした。
結論
6つの個別施策層の予防と治療の向上をはかるプログラム策定の第一段階として、当事者の観点から対策の現状を分析した。これまで研究の乏しい領域において、1)予防と治療への当事者の主体的参加が不可欠であること、2)行政、医療機関、教育機関、NGOによる支援がより効果のある対策を可能にすることの二点が、各個別施策層対策に共通する要点であることを明らかにした。

公開日・更新日

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