節足動物媒介性ウイルスに対する診断法の確立、疫学およびワクチン開発に関する研究

文献情報

文献番号
200200629A
報告書区分
総括
研究課題名
節足動物媒介性ウイルスに対する診断法の確立、疫学およびワクチン開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
倉根 一郎(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 江下優樹(大分医科大学)
  • 小西英二(神戸大学医学部)
  • 小林睦生(国立感染症研究所)
  • 高崎智彦(国立感染症研究所)
  • 只野昌之(琉球大学医学部)
  • 棚林清(国立感染症研究所)
  • 名和優(埼玉医科大学)
  • 森川茂(国立感染症研究所)
  • 森田公一(長崎大学熱帯医学研究所)
  • 山岡正興(兵庫県立衛生研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
25,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は以下の3つの目的を有する。(a)日本に侵入する可能性のある節足動物媒介性ウイルスに対して、血清、病原体、遺伝子診断法を確立する、(b)媒介節足動物とウイルスの侵淫状況を把握するための技術開発を行い現状を把握する、(c)節足動物媒介性ウイルスに対する新型ワクチンの開発に向けて、動物実験を含めた基礎的研究を行う。
研究方法
1)ウエストナイルウイルスの検査とサーベイランス:サーベイランスについては、熱等の症状の有る米国からの帰国者に対して
血清・病原体・遺伝子診断を実施した。2)ブタにおける日本脳炎ウイルスサーベイランス:日本脳炎ウイルスIgM抗体が陽性となった時点より、1週ないし2週前のブタ血清をウイルス分離材料として用いた。Vero細胞およびC6/36細胞を用いた。3)デングIgM捕捉ELISA法へのベータプロピオラクトン不活化ウイルス抗原の応用:ベ?タプロピオラクトンを直接、最終濃度0.2%に添加し、37℃、10分から1時間保温した。4)チクングニヤウイルスの塩基配列の決定と遺伝子診断法の開発:cDNAからLongPCR技術を用いてチクングニヤウイルスの遺伝子断片を増幅してジーンウォーキング法で直接遺伝子断片の塩基配列を読んだ。5'と3'末端についてはそれぞれ5'RACE法、3'RACE法にて塩基配列を読んだ。5)組換え核蛋白を抗原としたIgM-capture ELISAによるクリミア・コンゴ出血熱の診断:2001年と2002年に新疆ウイグル自治区西部のCCHF流行地で発生した12名の急性期CCHF患者から採取された血清18検体を用いた。6)ウエストナイルウイルスに対する日本産蚊類、特にアカイエカの感受性:ウガンダ産ウエストナイルウイルスを用いた。胸部接種感染および経口感染によって感染させた。7)米国で近年市販されたVecTestとフラビウイルス検出で一般的に用いられるRT-PCRとの検出感度の比較を行った。8)カニクイザルにおける日本脳炎DNAワクチンの有効性に関する研究:JEV中山株のprM及びE遺伝子をpNGVL4aベクターに挿入して得られたpNJEMEのDNAを精製し、ワクチンとして使用した。最終免疫から2から3週間後に北京株またはJaTH株を攻撃ウイルスとして経鼻接種し、観察した。9)日本脳炎及びデングDNAワクチン針無し注射器接種法:作製法の詳細は平成9年度及び平成10年度の研究班分担研究報告書「日本脳炎DNAワクチンの作製」及び「デングDNAワクチンの開発:マウスにおける中和抗体の誘導」に詳述した。バネ式の針無し圧力注射器シマジェットを使用した。10)日本脳炎DNAワクチンにより誘導される防御免疫における、中和抗体の役割:中和抗体誘導型DNAワクチン(pcJEME)については6週齢時の1回または6と8週齢時の2回、またCTL誘導型DNAワクチン(pUJEE1、pUJENS3、pUJENS5)については6、8及び10週齢時の3回で免疫した。12週齢時にJEV北京3株を腹腔内接種し21日間観察した。11)粘膜免疫型日本脳炎ワクチンに関する研究:コレラトキシンB蛋白(CTB)と日本脳炎ウイルスE蛋白ドメインIII(ウイルスJE-E3)の融合遺伝子を用いた。(倫理面への配慮)動物実験は各研究施設の動物実験委員会による審査を受け承認を得た後行なわれた。ヒト検体を用いた研究は各研究機関の審査を受け倫理委員会の承認を得た後行われた。
結果と考察
1)ヒトウエストナイルウイルスIgM捕捉EKISA法の評価とサーベイランス:現在陽性の基準としているP/N比2.0以上を陽性とする基準にすべて該当した。米国からの帰国者に関しては、18名の検体に関しウイルス分離、PCR法による遺伝子診断およびIgM抗体による血清診断を実施したが、いずれも陰性であった。2)輸入デング感染症の状況:熱帯地域から成田空港に帰国した時に不明熱があり、デング感染症の検査依頼があったうち22症例が陽性であった。国内各地の医療機関等から検査依頼のあった不明熱患者46症例中31症例がデングウイルス感染者であった。3)ブタにおける日本脳炎ウイルスサーベイランス:国内8県のブタ血清から分離を試みたが、5県の検体からウイルスが分離された。いずれも遺伝子型は1型であった。4)ベータプロピオラクトン不活化ウイルス抗原を用いたデングIgM捕捉ELISA法を完成させた。5)チクングニヤウイルスのプロトタイプウイルスであるS27株(タンザニア株)の全塩基配列を決定した。ウイルス全塩基配列のデータをもとに診断用プライマーを設計・合成してデングウイルスと鑑別診断可能な迅速遺伝子検出法を確立した。6)クリミア・コンゴ出血熱の診断:12名の患者から発症から11日以内に採取された血清のうち、8名の血清から特異的IgM抗体が検出された。残りの4名の血清からはCCHFウイルスに対する抗体は検出されず、ウイルスゲノムのみ検出された。7)ウエストナイルウイルスに対するアカイ
エカの感受性:アカイエカ成虫胸部接種及び経口接種後体内でのウイルス増殖が確認された。チカイエカ、ヒトスジシマカでも経口感染後体内でのウイルス増殖が確認された。8)感染蚊を用いた実験では、RT-PCR、VecTestのいずれでも、それぞれの種の感染蚊を50匹中に1匹の割合で混ぜたウイルス濃度で検出可能であった。9)日本脳炎ウイルスprMとE遺伝子を含むDNAワクチン(pNJEME)の筋肉内免疫により3頭中2頭で中和抗体価が認められた。実験2においては免疫5頭中4頭で中和抗体の誘導が認められた。10)針無し注射器接種群では、マウスにおいてそれぞれ1:40及び1:80の中和抗体価が誘導された。ELISA抗体の結果も中和抗体の結果と一致しており、針無し注射器接種群に高い抗体値が示された。11)日本脳炎DNAワクチンにより誘導される防御免疫における、中和抗体の役割:中和抗体誘導型DNAワクチンは、CTL誘導型DNAワクチンより効力が高いことを示す。中和抗体の作用機序に関しては、脾臓や肝臓などの攻撃ウイルスによって感染した組織から血液中に供給されるウイルスが、中和抗体によって中和または排除されたことを示された。12)粘膜免疫型日本脳炎ワクチンに関する研究:精製CTB/JE-E3/6Hを用いたマウス免疫実験で、単独で腹腔内接種した方が最も高い免疫応答を示したが、単独で鼻腔内接種免疫したマウスでも粘膜アジュバントと共に鼻腔内接種した場合と同等のELISA-JE抗体が産生された。これらの研究結果は以下の点で厚生労働行政に貢献する。1)デング熱、ウエストナイル熱、チクングニア、クリミア・コンゴ出血熱等の実験室診断法は旅行者による輸入感染症の実体把握に貢献する。また、検疫所、地方衛生研究所等への技術移転によりウイルスの日本への侵入阻止に貢献し得る。2)ベクターの分布を把握し、感染蚊の検出法を整備し、ガイドラインを作成することにより、節足動物媒介ウイルスの日本侵入時における、早期の感染症対策を可能にする。3)現在ワクチンが存在しない節足動物媒介性ウイルスに対する新ワクチン開発を推進する。
結論
節足動物媒介性ウイルスに対する実験室診断法として、ウエストナイルウイルス、デングウイルスに対する血清・病原体・遺伝子診断法を確立し、海外旅行からの帰国者について検査を行った。ウエストナイルウイルス感染者はいなかったが、多くのデングウイルス感染者の存在を明らかにした。クリミア・コンゴ出血熱ウイルスに対する血清、病原体、遺伝子診断法も確立し有用性を確認した。媒介節足動物とウイルスの侵淫状況を把握するための技術開発として、ウエストナイルウイルス媒介蚊からのウイルスゲノム検出法を確立し、アカエイカ、チカイエカ、ヒトスジシマカがウエストナイルウイルスに感受性を有することを明らかにした。また、RT-PCRと市販ウエストナイル抗原検出キットいずれも蚊においてウエストナイルを十分検出することを示した。さらに、ウエストナイルウイルスの侵入が確認された場合を想定したウエストナイルウイルス媒介蚊対策に関するガイドラインを作成した。節足動物媒介性ウイルスに対する防御免疫の解明と新型ワクチンに必要な基礎技術の開発として、日本脳炎ウイルスprM・E遺伝子を含むDNAワクチンがカニクイザルにおいて中和抗体を誘導することを示した。また、針無し注射器接種法が日本脳炎及びデングDNAワクチンの中和抗体誘導能を増強することを示した。さらに、粘膜免疫型日本脳炎ワクチンによって日本脳炎ウイルス中和抗体を誘導することを示した。

公開日・更新日

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