劇症型レンサ球菌感染症の病態解明及び治療法の確立に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200624A
報告書区分
総括
研究課題名
劇症型レンサ球菌感染症の病態解明及び治療法の確立に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
浜田 茂幸(大阪大学大学院歯学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 大国寿士(株式会社メデカジャパン総合研究所)
  • 内山竹彦(東京女子医科大学)
  • 渡辺治雄(国立感染症研究所)
  • 太田美智男(名古屋大学大学院医学研究科)
  • 赤池孝章(熊本大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
18,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
A群レンサ球菌(GAS)は、近年劇症型 GAS 感染症の起因菌として注目を集めている。 毒素ショック様症候群(TSLS)は GAS による重度の敗血症、播種性血管内血液凝固症候群(DIC)様の病態を特徴とし、病態の進行が急激で死亡率も高いため、有効な治療法や予防法の確立が求められている。これまでの研究によってGAS には数多くの病原因子が存在することが示唆されているが、劇症型 GAS 感染症発症の機序は不明な点が多い。その理由としては、(1)未知の病原因子が未だ数多く存在していること、(2)既知の病原因子も環境などの要因によって発現量・機能が変化すること、等が挙げられる。
本研究は、劇症型 GAS 感染症患者分離株及び対照分離株 (咽頭炎患者分離株や実験室株) を用いて、GAS ゲノムデータベースの情報や分子疫学的・分子遺伝学的な手法による病原遺伝子の検索を行い、さらに産生タンパク質のプロテオーム解析による未知の病原因子の同定、及び菌体成分の病態成立における作用機序を明らかにし、劇症型 GAS 感染症 の発症メカニズムに基づいた適切な治療法・予防法の開発を目的とする。
研究方法
BALB/c マウスに非致死量のA型インフルエンザウイルス(IAV)を、その 2 日後にGASをそれぞれ経鼻感染し、感染後のマウスの生死を観察した。また、IAV 感染の 40 日前および 12 日前にマウスの皮下にインフルエンザワクチンを接種し、連続感染後のマウス致死率の変化を比較検討した。組換えSPEB/SCP のT 細胞に対するマイトジェン活性を3H-TdR の取り込みを指標として検討した。また、ヒト大腸がん培養細胞株SW480細胞を一晩培養後、SPEB処理したproMMP-9を培養液中に添加・培養し、ウエスタンブロット法により上清中の可溶型 FAS リガンドの有無を検討した。1990 年代の M3 型の菌株に存在する 41,796 bp からなるファージ様断片中の sla 遺伝子の相同性を解析するとともに同遺伝子からシグナルペプチドを除いた領域をコードする DNA 領域を大腸菌に形質移入することのより組み換えSla蛋白質を分離・精製し、当タンパクのC2C12細胞に対する細胞傷害活性を検討した。1×108~1×104 CFU のGASをマウスに腹腔内より感染させた後、経時的にリン酸緩衝生理食塩水(PBS)にて腹腔内洗浄を行うことで腹腔滲出細胞(PEC)を回収し、同細胞数を算定した。また PECのアポトーシスおよびネクローシス誘導の有無についてAnnexin Vとプロピオジウムヨーダイドを用いたフローサイトメトリー法により検討した。劇症型 GAS 感染症発症に関する全国規模のアンケートを全国約2000の救急指定あるいは特定疾患指定病院を対象に往復はがきを用いて行い、そのデータについて統計学的検討を行った。
結果と考察
非致死量のIAVと 非致死量のGASとの連続感染によって壊死性筋膜炎を含む劇症型GAS感染症を発症した。さらに連続感染による同感染症発症の予防法として、インフルエンザワクチンの投与が効果的であることを明らかにした。以上の結果はIAVとGASの連続感染による実験的劇症型GAS感染症発症マウスモデルの確立を示すものである。同モデルは、劇症型GAS感染症の発症メカニズムを解明するだけでなく、IAVの感染によっておこる細菌性肺炎の発症メカニズムを解明する上でもきわめて有用であると考えられる。また、インフルエンザワクチンが寒冷期における劇症型 GAS 感染症の発症に対する有効な予防法のひとつに成り得ることも示唆された。
一方、GASのいくつかの病原因子における劇症型GAS感染症発症のメカニズムの解析を行い、新たな知見を得た。まず、(SPEB/SCP)は毛細血管の透過亢進およびマスト細胞並び好塩基球からのヒスタミンを遊離する作用のあることを報告したが、今回この物質には単核球に対して増殖活性を誘導しないことを見出した。またSPEBによる組織細胞のアポトーシスの誘導のメカニズムについて解析を行ったところ、SPEB は pro-MMP-9 をゼラチナーゼ活性の有する活性型 MMP-9に限定分解させ活性型 MMP-9 によって細胞表面から可溶型Fas リガンドを放出させることによって細胞のアポトーシスを誘導することが明らかにされた。また、MMP 阻害剤をIAV-GAS 連続感染マウスに投与することで劇症型 GAS 感染症の発症抑制がみられた。この結果は、GASプロテアーゼによるMMPの活性化、さらにアポトーシス誘導が本劇症感染症の病態に強く関与することを示唆すると同時に、同剤の治療薬としての可能性を示唆するものである。
ついで、ファージ様断片に認められる sla 遺伝子は、ホスホリパーゼ A2 と相同性を有することを明らかにするとともに、この遺伝子によって産生される新規タンパク Sla が細胞毒性を示すことが実証された。しかし、GAS株でのsla遺伝子の分布について、劇症型GAS感染症患者からM3型とともによく分離されるM1型には同遺伝子が認められていないことから、軟部組織壊死を引き起こすためにSla蛋白質は必須ではないことが示唆された。
また、免疫学的研究では、GAS の腹腔内感染によって本来細菌が腹腔内へ感染するときに腹腔内で増殖し初期感染防御に重要な役割を果たす好中球のアポトーシスの誘導が認められ、この現象がストレプトリジンS (SLS) の存在下でみられることを示唆した。劇症型GAS感染症患者において末梢血白血球数の減少が観察されており、GASによる好中球殺傷はヒトの感染症、特に劇症型 GAS 感染症の発症に重要な役割を果たしている可能性が考えられる。
一方、疫学的研究では、劇症型 A 群レンサ球菌感染症の全国アンケートを行い、高齢者および基礎疾患をもつ人々に高頻度に同症を発症することを明らかにした。また、死亡症例では生存症例に比べて体温が低く白血球数の増加が顕著に認められないことから、好中球を中心とする生体防御機構の誘導の有無が予後に重要な役割を果たしていることが示唆された。
結論
非致死量のIAVとGASとの連続感染によって壊死性筋膜炎を含む劇症型 GAS 感染症の発症マウスモデルを作出した。連続感染による劇症型 GAS 感染症発症の予防法として、インフルエンザワクチンの投与が効果的である。SPEB/SCPには単核球に対して増殖活性を誘導しない。SPEB は pro-MMP-9 を活性型 MMP-9に限定分解させ、活性型 MMP-9 によって細胞表面から可溶型Fasリガンドを放出させることで細胞のアポトーシスを誘導する。MMP 阻害剤をIAV-GAS連続感染マウスに投与することで劇症型GAS感染症の発症抑制がみられた。1990 年代の M3 型の菌株のファージ様断片中の新規の遺伝子より産生される新規タンパク Sla が細胞毒性を有する。GASの腹腔感染によって好中球のアポトーシスの誘導し、PEC 細胞の増殖抑制が認められた。劇症型A群レンサ球菌感染症の全国アンケート結果から、高齢者および基礎疾患をもつ人々に高頻度に同感染症を発症することを明らかにした。劇症型GAS感染症の予後に好中球を中心とする生体防御機構の誘導の有無が重要な役割を果たしていることが示唆された。

公開日・更新日

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