食品由来のウイルス性感染症の検出・予防に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200623A
報告書区分
総括
研究課題名
食品由来のウイルス性感染症の検出・予防に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
武田 直和(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 田中智之(堺市衛生研究所)
  • 谷口孝喜(藤田保健衛生大学)
  • 榮 賢司(愛知県衛生研究所)
  • 大瀬戸光明(愛媛県立衛生環境研究所)
  • 篠崎邦子(千葉県衛生研究所)
  • 西尾 治(国立感染症研究所)
  • 名取克郎(国立感染症研究所)
  • 片山和彦(国立感染症研究所)
  • 染谷雄一(国立感染症研究所)
  • 白土東子(国立感染症研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
21,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ウイルス性集団食中毒を含む食品を介した非細菌性胃腸炎は、実にその90%以上の事例がノロウイルス(NV)によって引き起こされている。これらのおよそ30%は生ガキによるもので、カキが本疾患の新たな感染源になっている。NVのヒトでの伝播経路を明らかにして、カキに濃縮されるまでの経路と汚染状況を解明してその経路を遮断する方策を示すことが必須である。カキ以外の食品では、含まれるウイルス量が極端に微量であるため原因ウイルス検出の効率が極めて低いレベルにとどまっている。原因食品からウイルスを効率よく濃縮し、RT-PCRを組合わせ高い検出効率が得られる系を開発する。電子顕微鏡に代わる抗原ELISAを完成させ、キット化する。抗体ELISAを確立し、血清側から病原体を確認する。データベースの整備と各研究機関からアクセスできるネットワークを構築する。統一した検査法を堅持するため、RT-PCRのプライマーおよびハイブリダイゼーションのプローブを供給する。検査法、解析法をマニュアル化する。
研究方法
(1)単クローン抗体を用いたNV抗原検出ELISA  固層抗体としてGenogroupI(GI)を認識するNV#3912抗体、またGenogroupⅡ(GII)を認識するNS#14抗体を用いた。検出抗体には、ウサギ高力価免疫血清を用いた。(2)ロタウイルスのヒト型組換え抗体の作製 ヒトロタウイルスKU株の精製ビリオンを抗原として、ファージ抗体ライブラリーからファージディスプレイ法により抗HRV抗体(Fab)を単離した。ヒト型IgG1への変換は、FabのVHおよCLVL 領域をIgG1カセットにクローニングして行った。(3)磁気ビーズを用いた食品からのNV検出 Dynabeads M-450 Sheep Anti-Mouse IgG (ダイナル社)とマウス腹水(NS#14抗NV単クローン抗体)を反応させ、食品の洗浄液と反応後、RNAを抽出した。RT-PCR産物の塩基配列を決定した。(4)NVの遺伝子解析と定量法 構造蛋白領域に設定したGI (C0G1F/G1SKR、G1SKF/G1SKR)、GⅡ(C0G2F/G2SKR、G2SKF/G2SKR) でNV遺伝子を増幅した。ダイレクトシ-クエンスにより塩基配列を決定し、系統解析を行った。NVの定量はCOG1F/COG1R(プローブ:RING1-TP(A), RING1-TP(B)),COG2F/COG2R(プローブ:RING2-TP)を用いたreal time PCRで実施した。(5)NV中空粒子の作製と抗原ELISAおよび抗体ELISA ORF2の約1,650bp、あるいはORF2から3'末端のPoly-Aまでの約2,300bpを増幅してクローニング後、組換えバキュロウイルスを作出し、VLPsを発現した。ELISA法で交叉反応試験を行ない抗原性を検討した。(6)NV全長クローンの解析 5'末端にキャップ構造を付加したRNAと、付加しないRNAを合成し、哺乳類細胞にトランスフェクションした。抗ORF1抗体、抗ORF2抗体、抗ORF3抗体を用いたウエスタンブロッティングで蛋白質の発現を確認した。(7)NVプロテアーゼの構造解析 チバウイルス3C様プロテアーゼをコードする遺伝子を大腸菌で発現した。活性の検出は、反応液をSDS-PAGEで分離することにより行った。結晶化した後、SPring-8にて結晶学的データの収集を行った。(8)NVの組織特異性 PCR-Select cDNA Subtraction でPCRによるサブトラクションを行い空腸特異的なcDNAを単離した。細胞上の表面分子発現量は、Flow cytometryにより検討した。156種類の抗体を用い、136種類のCD分子について検討した。(9)ウイルス性下痢症診断マニュアルの整備 NVのRT-PCRに改良法、NV遺
伝子の定量法、サポウイルスのRT-PCR、について改定した。
結果と考察
(1)単クローン抗体を用いたNV抗原検出ELISAの確立と評価 NV中空粒子に対する特異的単クローン抗体を固相抗体とし、免疫ウサギ標識抗体を検出抗体としたNV抗原検出ELISA法の評価と特異性の向上を検討した。RT-PCR法との比較検討から非特異反応は5%と推定された。この非特異性の解消には、正常マウス血清、正常ウサギ血清を加えたpH8.0のバッファー使用が有効であると考えられた。(2)ヒト型組換え抗体によるロタウイルスの中和に関する研究 ロタウイルス感染の予防・治療を目的として、ヒト由来のファージ抗体ライブラリーから、ヒトロタウイルスを中和するヒト型単クローン抗体を分離した。これらのヒト型抗体は、多様な血清型を示すほとんどのヒトロタウイルスを中和することから、その有用性が示された。(3)磁気ビーズを用いた食品からのNV検出法の開発 磁気ビーズを用いて食品からNVを回収する方法は簡便であるが、抗原的に多様性のあるNVを回収するためには、複数の抗体を準備する必要があると考えられた。果、調理従事者から患者由来株の塩基配列と一致したNVを検出した。しかし、食品は全てRT-PCR陰性であった。(4)NVの遺伝子解析と定量法 急性期の患者のふん便1gのNV量は1億個以上に存在するものが多くに認められ、特に乳幼児では排泄されるウイルス量が多い。吐物においても1g中にNV量は1,000個~100万個以下の範囲で汚染されており、ふん便と同様に吐物も感染源として対応することが感染防止に重要である。(5)NV中空粒子の作製と抗原ELISAおよび抗体ELISAへの応用 遺伝子系統樹解析からそれらを選別してVLPsの発現を試み、3株についてVLPsが作製できた。抗原性の検討結果は3株はそれぞれ新しい血清型であることを示した。(6)NV全長クローンの解析と疫学への応用 哺乳類細胞に完全長のゲノムRNAを導入しても、5'末端に修飾を施さないRNAは翻訳されないことが確認された。また、細胞内で5'末端にキャップが施されたRNA大量に供給した場合、NVゲノムRNAのORF1にコードされるウイルス蛋白質が翻訳されるが、それ以降のORF2及びORF3は翻訳されないことが明らかになった。ORF2及びORF3をコードする約2.3 KbのNV-RNAを細胞内に供給すると、ORF2に加えORF3も翻訳されることも明らかになった。NVの宿主特異性は、宿主細胞内におけるゲノムの転写翻訳機構が因子の一つである可能性が示された。(7)NVプロテアーゼの構造解析と創薬への応用 3C様プロテアーゼによる切断活性の至適pHは9.0から9.5とアルカリ側で、至適温度は26 ? 37 ℃であった。また、NaClの存在、非存在はほとんど活性に影響しなかった。SH試薬のひとつ、PCMBはプロテアーゼと1:1で結合し、活性を完全に阻害することが分かった。3C様プロテアーゼの立体構造解明に向け、X線結晶構造解析を行った。現時点で、4.5Å程度の解像度の結晶学的データが得られ、電子密度図の作成を行うことができた。(8)NVの組織特異性に関する研究 レセプター分子の同定を目的とし、サブトラクションによる空腸特異的なcDNAクローンの単離を試み、25種類のcDNAクローンを得た。NVが吸着しない細胞を用いて空腸特異的なcDNAの発現、スクリーニングを行うため、ウイルスが吸着しない細胞の同定を試みたところ、浮遊性の培養細胞株にはほとんど吸着しないことが明らかになった。また、NVの吸着する細胞株と吸着しない細胞株上の表面分子発現パターンを比較したところ、両細胞株間で分子の発現パターンが大きく異なっていた。(9)ウイルス性下痢症診断マニュアルの整備 NVのRT-PCRを改定し、NV遺伝子の定量法とサポウイルスのRT-PCRを追加した改訂版を作成した。
結論
NV抗原検出ELISA法は感染症事例でのスクリーニング検査として有効である。ヒト由来のファージ抗体ライブラリーから、ヒトロタウイルスを中和するヒト型単クローン抗体を分離した。磁気ビーズを用いたNV検出法は操作が簡便で、原因食品や環境由来検体からのウイルス検出に有用な方法である。リアルタイムPCRを用いた解析から、急性期糞便中には1g当たり105から1010個程度のウイ
ルスが含まれている。吐物にも大量のウイルスが含まれている。Alphatron virusは日本でも存在することが認められたが、新しいgenogroupとは言いがたくGIIに属すと考えられた。初めてNV3C 様プロテアーゼの性状が明らかになった。X線結晶構造により、活性中心の原子レベルでの理解が可能になる。サブトラクションの結果空腸特異的なクローンが得られた。

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