新型の薬剤耐性菌のレファレンス並びに耐性機構の解析及び迅速・簡便検出法に関する研究

文献情報

文献番号
200200616A
報告書区分
総括
研究課題名
新型の薬剤耐性菌のレファレンス並びに耐性機構の解析及び迅速・簡便検出法に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
池 康嘉(群馬大学医学部 微生物学教室、同 薬剤耐性菌実験施設)
研究分担者(所属機関)
  • 荒川宜親(国立感染症研究所 細菌・血液製剤部)
  • 井上松久(北里大学医学部 微生物学)
  • 生方公子((財)微生物化学研究所)
  • 山本友子(千葉大学大学院薬学研究院(微生物薬品化学研究室))
  • 後藤直正(京都薬科大学薬学部 微生物学(微生物学教室))
  • 中江大治(東海大学医学部 分子生命科学(分子生命科学教室))
  • 堀田國元(国立感染症研究所 分析科学(生活活性物質部))
  • 山口恵三(東邦大学医学部 感染症学(微生物学教室))
  • 渡邊邦友(岐阜大学医学部 嫌気性細菌学(付属嫌気性菌実験施設))
  • 和田昭仁(国立感染症研究所 細菌学(細菌部))
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
24,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高度先進医療の発展に伴い、病院の入院患者はより重度の基礎疾患を持つ易感染者が増加し、院内感染の危険性が高まる。院内感染原因菌の多くは各種の薬剤に耐性を獲得した多剤薬剤耐性菌である。各種の抗菌剤の使用により常に新たな薬剤耐性菌が出現し、その種類も多様化している。そしてその感染症に対して現存する抗菌剤では治療不可能な耐性菌が出現している。薬剤耐性菌の防御対策は国家及び世界的規模で取り組まなければならないとされている。その対策には1)薬剤耐性菌感染症の調査、2)薬剤耐性菌の研究、3)新薬の開発、が不可欠な対策として含まれる。我が国において厚生労働省の事業として「薬剤耐性菌感染症サーベイランス事業」が平成12年度から開始された。そして「薬剤耐性菌の研究」に対応するものとして本研究課題が平成12年度より新規に開始された。 本研究では常に変異し、出現してくる新型の薬剤耐性菌の耐性機構及び拡散機構を研究し、それらの迅速検出方法を研究開発することを目的とする。
臨床分離される薬剤耐性菌は多種多様であり、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)や拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生菌、メタロ-β-ラクタマーゼなど、多くの薬剤耐性菌において、検査室における日常の試験・検査業務の中での判定が困難な事例が多数存在するため、そのような菌株について、分子・遺伝子レベルで詳しい試験や判定を行い、薬剤耐性菌の防御対策及びサーベイランス事業の精度を保証することを目的とする。さらに、新たに出現する耐性菌についての分子・遺伝子レベルでの解析を実施することで、それらを検出したり識別する新しい検査・検出法の開発を目的とする。
研究方法
1.薬剤耐性検査、NCCLS法に基づく寒天平板希釈方法及び微量液体方法を用いた。
2.PCR法を用いた各種薬剤耐性遺伝子の解析と、新たな薬剤体制遺伝子の検出。
3.遺伝子塩基配列の決定。
4.薬剤耐性遺伝子のクローニングと遺伝子構造解析。
5.遺伝学的変異株の分離と遺伝子発現機構の解析。
6.免疫化学的方法を用いて、耐性発現蛋白の機能を解析。
結果と考察
本研究対象とした細菌はグラム陽性菌では、黄色ブドウ球菌、腸球菌、肺炎レンサ球菌、グラム陰性菌では、大腸菌を含む各種グラム陰性腸内細菌、及び緑膿菌等の各種ブドウ糖非発酵グラム陰性菌等である。薬剤耐性機構としては(1)不活化機構として、β-ラクタム剤加水分解酵素(β-ラクタマーゼ)、アミノ糖系抗生物質修飾不活化酵素、(2)排出機構として、緑膿菌の薬剤排出機構、(3)薬剤作用点(作用物質)の変異または変換として、キノロン耐性、MRSA、β-ラクタム剤耐性肺炎レンサ球菌及びインフルエンザ菌、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)等で現在問題となっている菌種、耐性機構はすべてその研究対象とした。
日本はカルバペネムの使用量が世界で最も多い国である(世界の使用量の約50%)。そのため、すべての抗生物質に効かないカルバペネム耐性緑膿菌、中でもメタロ-β-ラクタマーゼ生産緑膿菌(多剤耐性緑膿菌)は臨床上最も重要な耐性菌で、日本ではその分離頻度が世界中で最も多く、増加傾向にある。多剤耐性緑膿菌感染症治療及び院内感染対策上、メタロ-β-ラクタマーゼによるカルバペネム耐性の簡便な迅速検出方法の開発が早急に望まれていた。メタロ-β-ラクタマーゼ検出のために、昨年度までの研究で、新規に開発されたメルカプト酢酸ナトリウム(キレート剤)を利用したディスク拡散法[荒川]は、臨床検査室で簡便に迅速にメタロ-β-ラクタマーゼを検出可能とした点で、非常に画期的で有用な方法であった。臨床分離株を用いたこの方法による検査室及び臨床検査レベルでの検査において、実用可能な状況であることが証明された。緑膿菌の高度アミノ糖(アルベカシン)耐性菌から発見された新型のアミノ糖不活化酵素は、これまで発見されていない機構のもので、今後これによる耐性菌が広がる可能性があり、研究を継続する必要がある。メタロ-β-ラクタマーゼ生産菌によるカルバペネム耐性の他に、通常のβ-ラクタマーゼ(AmpC型)の生産量の増加によるものと思われるカルバペネム耐性菌が発見され[山口]、今後この型の耐性の疫学調査等も必要と考えられる。
β-ラクタム剤耐性肺炎レンサ球菌及び、インフルエンザ菌の耐性機構の基礎的研究に基づき開発された、PCR法を用いたこれらの耐性菌の検出方法[生方]は、さらに臨床実用化にむけて研究が進められ、迅速検出方法として有用であることが証明された。
MRSA感染症治療には他薬剤との併用薬剤として、アミノ糖系抗生物質が使用されることがある。MRSAのアミノ糖系抗生物質耐性菌検出のために開発された各種アミノ糖不活化酵素のPCRによる検出方法は[堀田]、黄色ブドウ球菌のコロニーからこれらの各種不活化酵素(耐性)を検出することが可能であり、臨床分離MRSAを用いた研究においてこの方法が有用であることが実証された。
耐性菌を検出する方法開発のための基礎的耐性機構の研究として、グラム陰性菌の高度β-ラクタム剤耐性の一つである染色体性AmpC耐性遺伝子の調節遺伝子の研究が行われた[井上]。緑膿菌は多くの薬剤に自然耐性である。各種薬剤に対する自然耐性機構の薬剤排出機構は、まだ充分解明されていない。薬剤排出機構発現のための調節機構、及び薬剤排出機構の蛋白の機能を解明した。さらに、排出蛋白の排出物質相互の特異性についての研究が進められ、排出機構による耐性発現の研究に進展があった[後藤、中江]。MRSAのin vitroのグリコペプチド(テイコプラニン)低感受性菌の耐性機構を解明するための遺伝学的研究がなされた[和田]。
臨床分離各種細菌のキノロン耐性の分離頻度と高度耐性機構の研究は、キノロン高度耐性の機構解明につながる[山本]。臨床分離Fusobacterium nucleatumの各種抗菌剤に対する感受性[渡邉]の研究は、耐性菌の疫学データーとして有用である。
薬剤耐性を拡散させる因子として、高頻度接合伝達性プラスミドは重要な働きをしている。腸球菌E. faeciumはVREの主な菌であるが、これまで高頻度接合伝達性プラスミドは知られていなかった。先に日本の臨床分離ゲンタマイシン耐性E. faeciumから、液体培地での高頻度接合伝達性プラスミドを分離し、報告した。今回これと同じプラスミドが、米国のVREの約50%を保持していることを発見し、このプラスミドはE. faeciumに一般的に存在する重要なプラスミドであることを証明した[池]。
結論
緑膿菌におけるアミノグリコシド高度耐性機構の新たな発見は、これまでに報告のない全く新しい機構によるもので、今後疫学調査等の研究が必要となる。昨年度までの研究で、臨床上問題となる耐性菌であるメタロ-β-ラクタマーゼ生産菌、カルバペネム耐性菌、肺炎レンサ球菌及びインフルエンザ菌等の、β-ラクタム剤耐性菌のPCR法による各種β-ラクタム剤耐性菌検出方法の開発、及びMRSAの各種アミノ糖耐性のPCR法による検出方法の開発等が行われてきた。本年度はこれらの検出方法の実用化に向けた研究が、臨床分離株を用いて行われた。その他の耐性機構については、その検出方法の開発に向けた基礎的臨床的研究で、今後の検査方法の開発に必須の研究である。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-